チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「希望の樹」第4章 ここいいて、いい人 その15

2012-07-31 19:05:30 | 福祉の現場から「希望の樹」
 ミキサーも始まったし、そろそろお片づけ。
「続きは午後にしましょうね。」
工作に使った道具をとりあえず、箱に集めて、テーブルを拭き、アルコール消毒。そうだ、重度さんのトイレチェック。
「畳に移動してもらいましょう。」
その時、
「わ!床が濡れてる!」
え?
「とりあえず、拭いてください!・・・タマキさん、洗面所の下に雑巾があるので、お願いします!」
わかりました!
 失敗だ。介助のためにやってきたサカキさん。彼を抱き上げて、
「うわー、ズボンもびしょびしょ。着替えさせないと。車椅子のクッションも濡れてますので・・・」
この大雨、外で干すとかえって湿る。どうしよう?
 これを契機に、一斉にトイレチェックを始めるサカキさん、アライさん、トクダさん。今日は男手が多いからいいけど・・・障害者さんって、何故か男の子が多いんだよね。ここだって、若い重度さんで女の子はミホちゃん、アズサちゃん、アカリちゃんぐらいのものだ。所長さんも言ってた。もっと男性のスタッフを募集したいって。出来たら、三十代までの人で。でも、そのぐらいの年齢の男性は、なかなか来てくれないみたいだ。
「着替えてもらいましたので、その旨、連絡帳にお願いします。」
アコーディオンカーテンの隙間から、鋭い目つきでこちらにを睨んでくるサカキさん。
「ユキ君、マイナスです。」
「ケンタロウ君、プラスです。」
時計を見て、記録票に記入する。そこへ、ヨシナガさんが
「タマキさん。ミホちゃんのトイレ介助、覚えていただけますか?サカタニさんと一緒に入ってもらって。」
お願いします!
「そうですね、始めてですし、抱えてもらう方がわかりやすいかな?」
トイレの中で待機する私。サカキさんはミホちゃんの車椅子をトイレに侵入させ、リクライニングを起こした。
「じゃあ、ベルトをはずして、お願いします!」
よいしょ!わぁ、ミホちゃんって背が高い!
「私より大きいですね!」
こりゃ、小柄な人じゃ彼女を持ち上げるなんて無理だわ。
 大仕事を終えて、ようやくお食事。
「ヒロノさん、ありがとうございます。いただきまーす!」
今日のメニューはすき焼き。
「タカオ君、美味しそうだよ。」
食欲旺盛だから、食べさせていてもやりがいがあるよ。

 

 




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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その14

2012-07-29 21:20:27 | 福祉の現場から「希望の樹」
 お風呂も、その間に・・・そうですね!
「はーい、皆さん!今日は創作活動。てるてる坊主を作りましょう!」
簡単にテーブルの上を整理したら、ヨシナガさんが箱を持ってきて。
「わー、凄いですね!」
中には、無地の端切れが。
「うん、知り合いから要らないものもらってきたのよ。無地とか、柄の少ないのをね。まっ白ばっかりより、色々なのが出来た方が、皆楽しいでしょ。」
さすがヨシナガさん。ヨシナガさん自身も絵を描かれたり、なかなか芸術家肌の人なんだ。
 二つに分かれましょうか?その方がいいですね。車椅子の子も、テーブルの周りに移動させる。
「中に入れるのは、この綿を丸めて。糸も・・・そうですね、一人二つぐらい作れると思いますよ。」
はい、皆さん、好きなのを選んで、作ってください!
 嬉しそうに手を伸ばすナツメさん。ウチダさんは、あまりこういうの嬉しくないかな?そりゃ、うちのお父さんと、年齢的に変わらない人だもんね。聞くところによると、大学院まで修了されていて、長年高校の先生をされていたらしい。ま、こういうのって、指先のリハビリになるし。だけど、こっちの重度の子達は・・・
「じゃ、皆も作りましょか。」
と、言いながらも、結局こちらが完全に作る事になる。
「ミホちゃん、どの布がいい?」
この子は選ぶ力があるから、色々見せて、選んでもらおう。白、ピンク、水色・・・あ、ピンクがいい?
「もう一つ選べるよ、どうする?」
ミホちゃんは薄い黄色の布を指さしてくれた。
 なるべく、彼女の手に近いところで工作をしていく。丸めた綿を、布の真ん中に置いてくるみ、糸で縛ると、
「ほら!てるてる坊主の形が出来たよ!」
ミホちゃんは満面の笑顔。
「目は、どうする?マジックで書こうか?シールを貼ってもっと飾ってみる?」
指さしで、使ってほしい飾りものを教えてくれるミホちゃん。・・・そう、出来る事は、最大限やってもらう。これが、支援学校で教わってきた、私のやり方。
 生活全般にわたって、人の助けを必要とする彼ら。だけど、全て全て、助けなければいけないかというと、それは違うと思う。ミホちゃんもそうだけど、彼らには、出来る事がたくさんある。
「ナツメさん、お風呂行きましょう。」
出来る事は、最大限自分でやってもらわないと。出来る事まで出来なくなってしまうし。
「ほら、一つ出来たよ!」
ミホちゃん、本当に嬉しそうな顔をしている。 
 助ける、それはとても尊く、素晴らしい事。だけど、不必要な手助けは、相手の能力を奪うだけでなく、侮辱している以外の何物でもなくなってしまうのだ。
 

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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その13

2012-07-28 19:36:45 | 福祉の現場から「希望の樹」
 その夜。ふぁぁぁぁ。そろそろ寝よう。ベッドに横になり、体を伸ばす。一緒にコーヒー、一緒におしゃべり。そのまま、右、左、ゴロゴロと寝返りを打つ。
 ・・・職場って世界でこんな事、始めてだ。何処に行っても仲間外れだった私。もう、嬉しくて。この日はほとんど眠れなかった。

 そして、あっという間に木曜日。あーあ、酷い雨。こんな中を出勤ってだけでもかなり気が滅入るけどさ。
「おはようございまーす、今日は木曜日、所長は来ません。えー、この通り大雨ですので、皆さん、より慎重に送迎の方お願いします。」
よろしくお願いしまーす!そうそう、体の不自由な利用者さんにとって、悪天候はもっと危険なもの。車椅子を載せたり降ろしたりするのも、本当に神経を使うよ。
 今日はアライさんと一号車だ。
「へぇ!タマキさん、僕と同い年!」
年は近いと思ってたけど、実際に知るともっとびっくり!
「で、誕生日は?私は三月です。」
「僕は四月です。」
「じゃ、学年違いですね。」
生まれた日は、ほんの二十日ほどしか違わないんだけど。
 ちょうど、就職氷河期に社会に出た私達世代。
「僕は高校出て働きだしたんですけど、ここに来るまでメチャクチャ転職してますよ。」
ツリーハウスに来たのは、ヨウスケ君の訪問ヘルプに行ってて、所長さんに気に入られて、引っ張ってこられたらしい。
「訪問と、施設で働くのって、やっぱり違いますか?」
「んー、そうですね。僕はどっちも好きですけど。」
そうだ、ちょっと聞いてみよう。
「ねえ、アライさん。アカリちゃん、どう思います?」
「え?まあ、僕は・・・サカキさんの方がずっと自閉症に詳しいと思いますし。所長とサカキさんの方針に従いますよ。」
ブロロロロロ・・・

あんた!謝ったらどうなの、月曜日の事!
・・・・・。
謝りなさいよ!
おびえながら、頭を下げる大柄な男性。
「ご、ごめんなさい!」
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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その12

2012-07-27 19:44:15 | 福祉の現場から「希望の樹」
 ムラタさんも帰っちゃったけど、サカタニさんが見てるのか。
「あ、はいはい。」
一分半おきの巻き戻し。
「ナツメさん、お風呂です。」
はい!車椅子の隙間を、少しでも広くして、大柄な子の利用者さんの手を引いて行く。

今日もありがとうございました!

最後の、アカリちゃんまで家族の元に帰して、再び戻る送迎車。
「お疲れさまでした。」
CDオフ!とたんに静かになる車内。
「人手不足だったけど、何とか回りましたね。」
「そうですね・・・あ、これ、タマキさんも目を通してもらえますか?」
サカキさんからメモを手渡されて。トンカツ、肉じゃが、サバの味噌煮、メンチカツ・・・
「えーと、これは?」
「さっき、お母さんから聞いたんです。アカリちゃんが普段食べてるもの。彼女、唐揚げだけじゃなくて、もっともっと食べられるものがあると思ったんです。」
 なるほどね。確かに、色々なものを食べたほうがいいし、その方が、他の利用者さんも楽しみが広がるし。まあ、それはそれとして。
「考えたら、ずっとアカリちゃんに誰かが付きっきりって状況ですよね。私、もっと手を離せるように出来ると思うんですけど。」
「どうやって?」
「ほら、CDラジカセを用意するとか。DVDも、別にパソコンじゃなくて、再生専用のプレイヤーなら結構安く売ってますよ。設定しておけば、自動でリピートしてくれますし。」
お風呂や食事の時まで、一分半おきに巻き戻差なければならない実態。
「これだけでも、随分スタッフが楽じゃありません?」
「なるほど!それも一案ですね!・・・だけど所長、そんな要求飲んでくれるかな?その辺が心配ですけど。」
そうか、お金がかかるもんね。でも、道具を活用するっていうのも、支援を考える上で大事な事だと思うんだ。支援学校でもそう思ったし、実際、ツリーハウスの利用者さんだって、自助具や身近な道具を工夫したものを使って、少しでも快適に、自立した生活を送れるように工夫してるじゃない。
 はい、到着!
「ただいまです!」
「お帰りなさい!お疲れ様でした。コーヒー出来てますよ。」
一日の仕事を終えて、味わう甘いコーヒーは本当においしい。
 
それで・・・うん、わかりました・・・じゃあ、調理の人にも・・・

あちらでサカキさんと所長さんが話をしている。本降りになってきた雨。
「タマキちゃん、傘持ってる?」
「はい。折りたたみがあります。」
「よかった。まあ、駅まで私の車で。」
「ありがとうございます!」
 五時を回り、
「お疲れさまでした、失礼します!」
私はタカモリさんの言葉に甘えて、車に乗せてもらった。
「今日は大変だったね。何とか回れたけど、やっぱり人手がないって一番困るわ。」
「そうですね。」
「あ、そうだタマキちゃん。この間言ってたコーヒー屋さん、一緒に行かない?」
「いいですね!色々しゃべれそうで!」
そうだよ、職場じゃ言えない事もあるもんね。
「じゃ、決まりね!私も予定あるし・・・そうね、空いてる日をメールするわ。」
「よろしくお願いします!」



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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その11

2012-07-26 17:12:46 | 福祉の現場から「希望の樹」
 いつも同じ音楽しか聴かず、あ、そろそろお昼ごはん。
「唐揚げ、ですよね。」
「フフフ、そうね。いつも同じね。」
私の担当は、タカオ君か。アカリちゃんはちょうど斜め向かいで、ムラタさんが食べさせているから、タカオ君に食べさせながらチラチラと見てみる。
 いつも同じ唐揚げ・・・
「ほら、ちゃんとお肉だから。」
唐揚げの下に、上手に野菜を隠して。とにかく、目に見えたものが肉であれば食べてくれる・・・視覚優位なのかな?同じ音楽、同じおかず、これをこだわりと考えるなら、サカキさんの言う通り、アカリちゃんは自閉症なのか?
 タカオ君、食べるの早い!・・・それでは私も。
「いただきます!」
ボリューム満点で、これだけ動いてるのに満腹のラインを超えるよ。
「タマキさん、先に休憩行ってください。所長と一緒に。」
ありがとうございます!ト、ト、ト、ト、ト、ト・・・・

サカタニさん、午後からアカリちゃんは僕が見ます。
いいえ、私が見ます!
そんな・・・だから、僕が!
トクダさん!

ふすまを閉め切って、横になる。ふぅ。
「お疲れ様。」
にこやかに話しかけてくる所長さん。
「タマキさん、綺麗な髪してるわね。」
「あ、ありがとうございます。」
昔からよく言われた。色もちょっと茶色くて、直毛で。
「うらやましいわ。私、こんなにクリクリだから。」
ぷ・・・駄目駄目、笑っちゃ!確かに、パンチパーマみたい。
「サカタニさんが喜んでたわよ。タマキさんのおかげで、肌が綺麗になったって。健康に気を使ってるなんて、若いのにえらいね。」
「いえ、そんな事ないですよ。ほら、私、肌が弱いですから・・・」
 そう、洗剤アレルギー。それも、とんでもない理由で発症したものだった。何の保証も得られず、悔やんでも悔やみきれない。
「実は、ボランティアに参加してそうなっちゃったんです。それまではシャンプーも皆平気だったんですけど・・・」
「そうなんだ。でも、タマキさん、パソコンも早いし。出来る事いっぱいあるじゃない。ここでも助かってるわ。」
「そうですか?」
それならいいけど。
「六月分も、またお願いするわ。また連絡するから。」
わかりました!
 一呼吸置いて、所長さんが、
「ねぇ、うちの正職員にならない?」
「え!そんな、私、入浴介助できませんよ。」
「そんなのいいわよ。ねぇ、本当に考えない?」
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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その10

2012-07-25 11:26:13 | 福祉の現場から「希望の樹」
 細い道に入って、へぇ!ここか。
「おはようございます、ツリーハウスです。」
インターホンで挨拶すると、
『はーい。』
ガチャン!玄関が開いて、
「あ、どうもおはようございます。」
荷物を持ったお母さんと、アカリちゃんが出てきた。
『○▼☆πФ※~』
 この細い階段を、足の不自由な人を降ろすのはなかなか神経を使う。
「特にお変わりありませんか?」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします。」
車の中には、もうしっかりCDがかかっている。ボリューム最大の送迎車で、レッツゴー!
 もう、この時点からアカリちゃん専用って感じだな。タカオ君にミホちゃん。二人にとってはこの状況、どうなんだろう?
「おはようございます!」
カーポートに送迎車が着くと、
「はーい、おはようございます。・・・アカリちゃん。」
ラジカセで童謡をかけながら迎えに来たムラタさん。
「あれ、もうテーマソングですね。」
「フフフ。そうね・・・アカリちゃん、靴を脱いで、入りましょうね。」
いつもの指定席で、今度はDVD。同じ土曜の一曲リピートで過ごす。
 さてさて、朝の行事。検温に、お茶を飲んでもらって・・・
「アカリちゃん、お茶です、お願いします。」
私がコップを口に運んでも・・・ゴクン!うん、違う人の介助でも、すんなりと受け入れてくれるみたいだな。

おはようござます。
家庭からの連絡事項は?
午前中の入浴は?

「ムラタさんと、私がやります。ちょっとでも知ってる人がいいと思いますので。」
と、タカモリさん。
「そういう事情ですので申し訳ないですが、午後はサガワさん、ナツメさんの入浴お願いできますか?Tシャツと短パンも共用のがありますので・・・」

それではみなさん、一日よろしくお願いしまーす!

「タマキさん、ありがとうございます。ここからは私が見ますね。」
と、笑顔のムラタさん。よろしくお願いします!さて、私は!今日はちょっと手薄だから、細かく動かないといけないな。まずは車椅子の大群を縫って、重度さんが休んでいる畳スペースへ向かった。よいしょ!ちょっとした隙間に座らせてもらって、彼らの様子を見守る。今、一番手薄になってるのはここだからね。
 ここ、部屋の全体が良く見渡せる。スタッフと一緒にトランプで盛り上がるナツメさんやウチダさん。一分半おきにDVDを巻き戻すために、ムラタさんはアカリちゃんにつきっきりだ。
「◎◎◎◎◎ー!」
「え!すみません!聞き取れません!もう一度お願いできますか!」
こちらでつけてるテレビ、向こうのCDに話声に、アカリちゃんのDVD。色々な音が大音量でかかっていて、話なんて全然聞き取れない!
 お風呂が沸きました!
「アカリちゃん、お風呂に行きましょう。」
DVDからカセットテープに音楽をかけかえるムラタさん。
「ああーうー!」
アカリちゃんは立ちあがり、不安定な歩行でお風呂場へ誘導されていった。
 
 

 
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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その9

2012-07-24 13:52:17 | 福祉の現場から「希望の樹」
 何回も言ってますけど、スタッフの待遇も良くしないと!皆、逃げていきますよ。よそはもっとくれます。給料安い!給料安い!

 あっという間に週が変わって、月曜日。
「おはようございます。」
中央のテーブルに、ヨシナガさんと、ケータイを覗き込んで頭を抱えている所長さん。
「どうされたんですか?」
「アサクラさんがお休みするってメール来たのよ。」
ムラタさんもお子さんの学校の用事で、午前中いっぱいで帰るんだって。
 ブロロロロロ・・・
「今日もよろしくお願いします。」
今日の送迎は、サカキさんとペアだ。あら?雨だ。ポツポツとフロントガラスに当たり始めてる。
「昨日、梅雨入りしましたよね。」
「そうなんですか?」
「はい、ニュースで言ってましたよ。ほら、紫陽花も綺麗!」
 ブロロロロ・・・
「これからアカリちゃんの家に向かいます。遠いんですけど。」
「どの辺なんですか?」
繁華街を抜けて、まだ向こうの山を目指して・・・
「アサクラさんがお休みで、ムラタさんも午前中だけなんですよね。」
心配そうな顔のサカキさん。
「まずいですか?」
「はい、アカリちゃんの支援が。」
「私、まだ一度しか見てないんですけど、大体、アサクラさんとムラタさんがされてるんですか?」
「そうです。いつも自分の世話をしてくれる人がいないとなると、アカリちゃんはどうなるか・・・」
 サカキさんが言おうとしてる事はわかる。自閉症の人だから変化に弱い、介助者が変わると、パニックに陥る恐れがあるという事だ。
「でも、午前中のお風呂に、ムラタさんがいてくださるわけですし。」
「まあ、そうですけど、彼女も二人掛かりですからね。」
なるほど。
「だけどそういう状況って、今まではなかったんですか?」
「うーん、僕もこの四月以降しか知らないんですけど・・・」
と、なると、やってみないとわからないって事だな。
 これを機に、もう一つ確認しておこう。
「アカリちゃんって、診断はないんでしたよね?」
「はい。でも、彼女の行動は明らかに自閉症です・・・あ、もうそろそろ着きますよ。介助、よろしくお願いします。」
 





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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その8

2012-07-23 20:03:26 | 福祉の現場から「希望の樹」
 下の部屋に戻ると、もう、皆食事を終えていて。モリシタさんも帰ったみたいだな。
「次は、何の曲がいい?」
チサトちゃん達のいるテーブルでは、サガワさんがここのキーボードを使って、楽譜を見ながら演奏している。サガワさんは音楽大学の出身だから、さすがだな!
「ううー!」
お気に入りのCDを聴かせてもらいながら、ずっとご機嫌なアズサちゃん。
「よかったねー、アズサちゃん。」
所長さんも嬉しそう。彼女もなかなか、ご機嫌が替わり易い人らしい。
「ツリーハウスに来て、ゆったり過ごして帰る、そういう風に喜んでもらえたら私は嬉しいのよね。」

お休みのところすみません、所長。今月のお給料の件ですけど・・・
ああ、ごめんなさい。また来月調整します。

ちょっと上がって行ったヒロノさんが降りてきた。二時半過ぎ、
「では、お先に失礼します。」
お疲れさまでしたー。
 利用者さんもあっという間に帰りの時間、慌ただしく乗りこませて、送迎車が走り出す。
「ヨシナガさん、お疲れさまでした。」
「いいえ、タマキさんこそ。お疲れ様でした。土曜日って、なかなか来てくれる人なくって所長も苦労してるのよね。」
まあ、そうだろうな。
「でも、所長さんのポリシーなんですよね。」
土曜日開所って言うのは。
「そうなんだけどね。手料理を食べさせるとか、楽しく過ごさせるとか。」
あと、ゆったり過ごすって。
 ブロロロロロ・・・・
「ただいま戻りました!」
もう、他のスタッフさんも帰ってきている。
「お疲れ!コーヒーでもどうぞ。」
いつものお菓子に加えて、今日はモリシタさんの差し入れが。
「タマキちゃん、良く食べるね。そのお菓子好き?」
「はい!」
ハハハハハハ!
 盛り上がってる向こうで、所長さんとサカキさんが。
「それで、どうって?」
「んー、まあ、本人を見てないから何とも言えないけど、やはり視覚的支援を・・・」
アカリちゃんの話だな。月曜日・・・彼女が来所する日は私も出勤だから、今度会えるな。 
 
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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その7

2012-07-22 19:12:46 | 福祉の現場から「希望の樹」
 講師の時も思ったけど、支援は計画通りには実行できないものだ。良くも悪くも、障害の状況は日々変わっていくものでもあるし・・・逆に、支援計画そのものが、支援する側の願いだったりして。結局は、お互いが折り合える所を探していく事なのか。
 あーあ。疲れた!マットに思いっきり体を伸ばす、しばしの休憩時間。
「チサトちゃんって、凄いですね!」
「ありがとう!・・・本当、親の私でも頭が上がらない時があるわ。」
うーん!体を伸ばすタカモリさん。かなりお疲れの様子、ちょっと話題を変えよう。
「私、よくゲーセンに行くんです。いい年して辞めろって言われるんですけどね。」
「そうなんだ。でも、年齢なんて関係ないじゃない?私もよく行くわよ、殆どチサトと一緒にだけどね。おかげで、部屋の中は景品だらけ。」
「ハハハ。私も結構、戦利品がいっぱいで。」
ほら!ケータイに三つもマスコットが。
「わー。凄い!かわいいね!」
 タカモリさんも、チサトちゃんから時々もらうんだって。
「そうだ、タマキちゃん、モリシタさんって知ってた?」
「はい、名前だけですけど。この間、ヒロノさんから教えてもらいました。だいたい、土曜日に来られる事が多いんですか?」
「ううん、そうとも限らないんだけど。ほら、よその施設の方がメインだからさ。ここはボランティアみたいなもんだし。だからいつも、食事の介助が終わったら帰るとかしてるわ。・・・多分今日は、サカキさんが呼んだのね。自分が出勤するし。」
所長さんじゃなくて、サカキさんが勝手に?
「アズサちゃんの支援とかですか?」
だって、自閉症の研究してる人だもん。
「それは多分口実ね。本当の目的は、アカリちゃんの支援の事よ。」
サカキさん・・・
「会議もその話ばっかりしてましたよね。」
「そうそう。何か気になるみたいよ。ここでの支援のやり方が。」
 会議だけじゃなく、アカリちゃんのことは普段から話題に上がってるんだけど、
「まあ、仕事ですし、皆、きちんとやりたいって気持ちはあるでしょうね。」
そう、プロ意識!
「そりゃそうだけどさ、サカキさんは細かすぎるのよ!」
 色々しゃべってみて、気心が知れてきた。
「タマキちゃん、もっとお話し出来たらいいね。コーヒーなんか飲みながら。」
「それいいですね!お代わり自由な店もありますよ!」
一度、行ってみましょうよ!
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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その6

2012-07-21 19:41:34 | 福祉の現場から「希望の樹」
 ハハハハハ!
「そうなんだ、結構ゲーセンにも行ってるんだ。」
「うん。ボランティアさんと。」
チサトちゃん、なかなか行動派だな。それも、自分でメールして助けてくれる人を探して。横にいるスグル君達も、楽しそうな顔をしている。
 彼らは何もできない人ではない。何もわからない人ではない。誰に教わるわけでもなく、自分なりの立ちふるまい方、生き方を自分で考え、実行する力を持っているんだ。
「エミちゃん、終わりました。」
お風呂場から連れてこられるエミさん。サカキさんとトクダさんは畳スペースに重度さんを入れてアコーディオンカーテンを閉め、
「タカオ君、プラスです。」
「ユキ君、マイナスです。」
排泄があったかどうか、というお話だ。報告を受けたら、表に時間とその旨を記入する事になっている。
 そろそろお昼の準備だ。
「チサトちゃん、机の上片付けて、一緒に拭こうか。」
「うん。」
本とか、いらないものを積み重ねて、持っていくのは私。テーブル拭きは、チサトちゃんに手の届く範囲でしてもらった後、残った部分をスタッフがする。
 ビィィィィィーン!キッチンでは勢いよく回る、ミキサーの音。
「これ、こんなに小さいのに凄い音なのよね。あ、もうちょっと出汁を入れて。」
ヒロノさんのご馳走が、スープ状に加工されていく。その横ではタカモリさんがお粥にお湯を加えて、丁寧にすりつぶしている。粒一つでもあったら喉に引っ掛ける人なんかは、本当に大変だ。
「そろそろ並べます!」
お願いします!お箸にスプーン。普通食の利用者さんの食事を並べていく。えーと、
「あ、こっちがヨウちゃん。これがタカオ君です。」
同じような切り方だけに、わかりにくいんだよな。だけど、絶対に間違えちゃいけない。
「もうちょっと、わかり易く出来たらいいんだけどね。」
そうですね。
 では、ヒロノさんに感謝して、
「いただきまーす!」
今日はヨウちゃんの介助を担当する。
「わわー!」
ヨウちゃんがいただきますの挨拶をしたのを確認して、食事を口に運んだ。

 
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