チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その16

2014-05-31 19:53:31 | ADHDとともに「君の星座」
 三賀日はあっという間に終わり。
「じゃ、帰るわ。」
ナオキも遠方の下宿に帰っていった。ナオキ・・・私の大学時代。あの子が超難関の高校に行ったせいで、本当に酷い四年になった。恨んではいるけど、ナオキのことは悪く思っていない。むしろ、どうしてあそこまで、あの手この手で悪者扱いされなければならなかったの、私。お父さん、お母さん。大学だって、そこへ行くために私を小学校から塾に行かせてたんじゃない。それなのに、入学したら
『退学しなさい。』
・・・・。お母さん、本当は退学してほしかったのかな?大学なんか行ってほしくなかったのかな?矛盾だらけだよ、もう!
 こころのクリニックの待合で、むかむかしながらコーヒーを飲んでいたら、
「ツキシロさん。」
診察室へ。今年初めての診察だ。こんにちは、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします・・・
「えーと、どうでしたか?このお正月は。」
「はい、弟が帰ってきまして、にぎやかなお正月と言えば、そうでした。でも、憂鬱ですよ。ほら、二年連続無職でお正月になったじゃないですか。」
「うん。」
カルテに書き付けているドクター。
「たぶん、二月の始めだと思うんです。障害者手帳が来るのが。そこまで、仕事探しもお休みになります。前もって、今月の後半からハローワークに行くつもりなんですけど。」
「わかりました。」
 本当、今度こそ、ちゃんとした仕事につかないと。そうしないと、私はいつまでも自立できない。悩みに悩んで障害者手帳を申請した意味もなくなる。
『障害者手帳は、就職のためだけに使って!』
やっと認めてくれたけど、未だに親の抵抗は激しい。
 求職活動再開までにしておくこと。そうだ、自己分析。私の説明書ももっとシンプルにしなくっちゃ。ドクターいわく、私は障害特性のために話がかみ合わない。交渉ができない、と。話が苦手なのは自覚している。だから、これから目指す仕事は、なるべく、人に関わらない仕事をって。
 
 
 

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その15

2014-05-30 19:20:23 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十八歳。大学一回生。
 聞いてたとおり、大学って本当、ぜんぜん違う世界だな。決まった教室もないし、時間割も自分で組む。それに、違和感は全然ない。むしろ、私にはとてもやりやすい。私、一人のほうがいいんだ。
「アハハハハ。」
学生食堂にて。あそこではしゃいでいるグループは、サークル仲間なのかな?
 うちの専攻は、一年生からゼミがある。それは、メンバー固定。飲み会もあったけど。
「こんにちは。」
挨拶するぐらいの関係にとどまってる。別に、友達が欲しいわけじゃないけど。何だろうな・・・物凄い差を感じる。私が、中学高校の六年間も、誰とも関われなくて、その間に人付き合いのスキルに差が出来たのかもしれないけど。
「では、ここの訳を。ツキシロさん。」
「はい!」
勉強は、全然苦労していない。
 サークルをしないのは、人付き合いが嫌って言うのもあるけど、中学の時、無理やりやらさせた部活でいじめられたから。あの時はまだ、部活をやめる手を打てたけど、もし、大学でそういうことになったらどうやって辞めるか。下手したら、退学しか手がない。あーあ。それ以前に、何もやる気がしない。
「ただいま。」
「おかえり。どうだった?」
「うん、講義終わって、アルバイトの掲示板見てきて。」
 学校での過ごし方については、お母さんもお父さんもきつく言わない。だけど・・・
「ねえハルカ、バイオリン習わない?」
「どうして?」
「ほら、歌やめたし。」
「だから、音楽は嫌だって何回も言ってるじゃない!」
「どうしたのよ、手のひら返したみたいに。ハルカは才能があるから、音楽をやらなきゃいけない!」
こればっかり!
 親としても・・・ハルカ。どうしてなのかしら?あれだけ音感がいいのに。いい声してるのに。どうして音楽を嫌がるのかしら?得意なことは好きなことのはずなのに。どうしてこの子はそうじゃないの?
 ナオキが帰ってきて、しばし、夕方のティータイム。
「スポーツの人は偉いわよね、立派よね。」
ナオキの高校、スポーツ推薦があるからか、この頃こればっかり聞かされる。私、嫌々音楽やらされてたのに。まだこれからも、させようとされてるのに。
 

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その14

2014-05-29 19:35:26 | ADHDとともに「君の星座」
 お母さん、お煮しめは?大丈夫。あと、栗きんとんを詰めてくれる?夕方からご馳走の受け取り行くから、運転してくれる?オッケー!忙しいそこに、ピンポン!
「ただいま。」
ナオキが下宿から帰省してきた。
 お帰りお帰り!しばらく、家族五人だな。椅子、これ使う?
「あ、明日の夜は高校の友達と飲み会するから。」
「わかったわ。」
こっちに帰ってきても忙しいナオキ。でも、これが普通なんだよね。人生のそれぞれのステージで友達が出来て、帰省したら会いに行くって。
 ナオキ・・・私と三歳違いだから、働いていて普通の年齢だけど、大学院に行ってるからまだ学生。大学の先生を目指すって目標があってのことだけど。
「あいつ、仕事ありそうなのか?」
「修士の時に、就職しなさいって言うべきだったかしら?」
「帰ってる間に、ちゃんと話をしないとな。」
私は、ここまで来たのならがんばるべきだと思う。博士号を取るまで。そうしないと、この人は何でも途中で放り出す人だってなってしまうじゃない?
 今はもう、いい学校に行けばいい仕事の線路に乗れる時代じゃない。がんばったら報われる時代ではないけど、楽してきた人が得するかというと、そうでもない。
「そういう時代なんだよ、今は。」
夜、ナオキは先に寝てしまって。お母さんと洗濯物をたたみながら語り合う。
「お母さんたちには、想像もできない時代になったわね。」
ため息交じりのお母さん。お父さんも言ってたっけ?
『わしらが若い時は、少しランクを落とせば、いくらでも就職はあった。』
職種の価値観も、ずいぶん変わったんだろうな。ほら、私に一般事務ばっかり推して来たけど、今や一番求人数も少ないし。そもそも、私には特性上、出来ない仕事だったんだけど。

どんな時代が来たって、生きていけるたくましさが、必要なんだよね・・・

 周りの友達は殆ど就職してるらしい。それだけでもナオキは辛いと思う。今は、私の発達障害のことは言わないほうがいいだろう。障害者手帳の取得を申請したことも。とにかく私は、悩みに悩んだ末、打つべき手を打てた。そんな今年が終わっていく・・・
「あけまして、おめでとう!」
お節を囲んで、ちょっとお酒も飲んで。初詣どうする?あ、年賀状来たよ。きっと今年こそ、ちゃんと仕事が見つかって、いい年になるよ。


 



 
  

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その13

2014-05-28 20:02:36 | ADHDとともに「君の星座」
 目が覚めたら、枕元に届いていたプレゼント。もうこの歳だから、誰からってわかっているけど。
「わー、ありがとう!」
やっぱり、嬉しい。おじいちゃんも、
「これ、枕元に届いてたんだ。」
よかった。喜んでもらえたみたい。
 今日は、発達障害者支援センターの面談日。あ、イワキさん。こんにちは。
「お世話になります。」
「いえいえ、遅くなってすみません。電話が入って遅れまして。では、向こうの部屋へ。」
カウンセリングルームにて。
「うん、最近、どうして過ごしています?」
「年末ですから、昼間は掃除して、夜はゆっくりって感じですね。昨日は家で、ささやかにクリスマスをしました。これから、お節の用意が忙しくなりますけど。」
「なるほどなるほど。充実して過ごせている、と。」
 始めてここにきたのは今年の二月。そこから今日まで。
「とにかく、障害者手帳の申請にこぎつけられて、本当にほっとしましたよ。」
「そうだね。まず、それが大変だったよね。でも、ツキシロさんはちゃんと決心できた。」
「いえ、イワキさんのおかげですよ。私も一人じゃ決心できなかったですから。」
そうだよ、ジョブサポートセンター、ハローワーク。たくさんの情報をもらって、背中を押してくれる人がいなかったら?いくら私にその気持ちがあっても、実際に、申請には乗り出せなかったと思う。 
「手帳が届く頃には、本格的に動き出せるように準備しておこうと思います。」
「それがいいね。ハローワークにも、そのぐらいからまた行って。年度末だから結構求人がくると思うよ。障害者求人にはね。」
「あ、私もそれ、聞いています。」
法定雇用率のこと、そして、非公開求人のこと。
「昔は、障害者枠って言うと掃除ばっかりだったけど、この頃はそのほうが少ないぐらい。本当に色んな職種が出てるんですよ。ちょっと専門的な仕事とかね。」
「おしゃってましたね!・・・じゃあ、決まっていく人は大体、非公開求人なんですか?」
それはなんとも言えないみたいだけど。あきらめずに探せってことか。
 この添削もお願いしよう。
「あの、ちょっと教えてもらって、私の説明書を作ってみました。」
うん、ここはオッケー。これはちょっと消しておこうか・・・丁寧に添削してくださるイワキさん。
 今年もお世話になりました・・・年の瀬迫って色んなところで。私もジョブサポートセンター、そして、こころのクリニック。
「今年もお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたしします。」
 
 


ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その12

2014-05-27 19:19:46 | ADHDとともに「君の星座」
 そうだな・・・わかってほしいこと、助けてほしいこと。今まで働いていた職場でのこと、学校時代のこと。いろいろと思い出している。
『ギャァァァー!』
小学三年の時、同級生の一言でキレて、一時間授業を止めたこと。
『ガシャン!』
・・・!職場で、ガラスを割ってしまった・・・この二件は、明らかにパニック。どこに行ってもいじめ、パワハラにあったことも。それが、最悪の結果だと思う。絶対に回避しないと!
 まず、どうして私がそうなるか、だな。
『話し言葉が苦手。』
これは絶対にあると思う。お話は苦手なんだ。話すのも聞くのも。
『感覚過敏で、音楽が苦手。スカートがはけない。』
これも重要な問題だろうな。聴覚認知の問題、それが、話し言葉の苦手さにもつながるかもしれない。
『話し言葉が苦手ですので、仕事のお話などは、メモにしていただけるとありがたいです。』
 そんな感じで、思いつく限り書いていく。
『集団で過ごすのが苦手。』
『長時間じっとしていることが苦手。』
読み返してみて・・・わぁ。結構長くなっちゃったな。
 日が変わって、今日はクリスマスイブだ。夕方。
「ケーキ、受け取ってくる!」
近所のケーキ屋さんに予約してあるんだ。
「ありがとう、ハルカ。お父さんがワインも買っておいてくれてるから。今日は、クリスマスのご馳走ね!」
私、クリスマス大好きなんだ。まだ今年はもうちょっとあるけれど、この一年を生きてきたことを、すごく感謝できる。
「カンパーイ!」
おじいちゃん、お父さんお母さんと食卓を囲みながら。
 障害者手帳を取るか取らないか、それで悩んだ一年。私としたら、もっと早くできたかもしれないと思っても見たけど、お互い、時間が必要だったよね。だけど、私、よくわかった。ちゃんと私にとって何が一番いいか、ちゃんと考えてくれてたんだ、お父さんもお母さんも。
 おやすみ・・・寝る前、三つの枕元に、一つ一つ、プレゼントを届けて、私もベッドに入った。
 

 
  

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その11

2014-05-26 19:18:12 | ADHDとともに「君の星座」
 廊下に横一列並んだ男の子。
『ゲラゲラゲラゲラ!』
同じリズムで上下する肩。

 あ!・・・危ない。二階の窓拭き中、転落しそうになった。フラッシュバックだ。小学校六年の時のことなのに、三十二歳になっても忘れられない。とりあえず、窓枠から降りて、床に置いたバケツで雑巾をゆすいで絞り、そのまま腰を下ろした。あーあ。中学受験なんか、辞めたいってもっと言ったらよかった。自分の意志じゃなかったんだからさ。でも、嫌って言ったところで駄目だったか。
『今は、子どものほうが圧倒的に強いからね。』
その逆の二十年前は、大人のほうが圧倒的に強かったから。
 私たちって、生まれてからずっと立場が弱いってことだよね。あ、バケツのお湯、入れ替えてこよう。下の部屋へ降りる。小学校のあの頃、私を笑いものにしたあいつら。学校の中では圧倒的に立場が強い、塾に行かされなくてよかったあの男子連中。当然、卒業してから一回も会ってないけど。
『あんた、絶対に同窓会に行くなよ!』
ドクターからも指示された。言われる以前から、同窓会なんか行く気ないけどね。お風呂場で新しいお湯を汲んでいるところに、お父さんが同じく、窓拭き用のお湯を汲みにきた。
「お疲れさん、どうだ?二階の窓。」
「うん。もう一回仕上げで拭いたらお終い。」
 日が暮れるまでに作業を終えて、夜は、暖かい部屋でのんびりと。テレビを見ているおじいちゃん、年賀状を書きに追われるお父さん、お母さん。そして、パソコンに向かう私。
「ハルカ、何してるの?」
「ん?ま、仕事探しの準備だよ。」
私の説明書・・・この間、保健師マツウラさんから教えてもらった、就職の面接の時に履歴書に添えて持っていく、あれを作ってるんだ。
 A4用紙一枚で、出来るだけ簡潔に。いいタイミングで、テレビでもこのこと紹介してたんだ。そこで、書き方の例も紹介してて、イメージはつかめた。さて、後はその内容だけど、まず、障害名と、お願いしたいこと、理解を得たいこと。とりあえず、書き出してみよう。

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その10

2014-05-25 19:37:05 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十八歳。大学一回生。
 入学して早々から、大学生活にはすっかり馴染めた。次の授業は・・・大きなリュック一つで校内を歩き、合間に、アルバイトの掲示板を見に行ったりして。あまり、いいアルバイトは来てないか。仕方ない、不景気だもんな。学生食堂で一人、昼食を楽しむ。あー、すごく楽。大学って楽だね。一人でいていいんだもん。幼稚園から今日まで、私、どれだけ苦しんできたことか。
 サークルもしてないから、その日の講義を全部受けたらさっさと帰る。家で、電話してくれているお母さん。
「はい、すみません。本当に急で・・・ご挨拶に・・・よろしいですか?・・・はい。本当にお世話になりました。」
チン。高校一年の後半から、あの時の担任の紹介で行っていた声楽のレッスン、辞めたんだ。
「ハルカ、どうして辞めるの?先生と合わなかったの?」
「そうじゃない!」
何が気に入らないの?上手なのに!・・・いい加減にしてくれ!
「私、音楽嫌い!」
爆発した勢いで、二階の自室に駆け上がっていく。
「ハルカ!どうしてよ、ハルカ!」
 頭から布団をかぶる。小さい時から、もっと歌え、もっと歌え。いい加減にしてくれ!歌わされるのが嫌って以前に、私、音楽を聴くとしんどくなる。なのに、もっと聴け、もっとやれって!
『才能があるから。』
才能って何?何のためにあるの?それで、稼いでで食べていけるほどのものなら辛抱できるけど、苦痛なだけの才能なんて!私、神様恨んでる!
 私って、何だったんだろうな?大学に入ってから、もっとそう思うようになっている。そうなった原因は!
「ね、ナオキ。勉強も、人間教育も両方やってくれる最高の高校よね!」
ナオキが高校に入学してから、家はずっとこんな調子。ナオキの高校はすごく偏差値が高くて。校則がすごく厳しくて勉強もスポーツもバリバリって学校。
「ナオキの高校はね、学生は親に食べさせてもらってるんだから、制服を着るのは当たり前って考え方なんですって!」
そんなに制服がいいなら、どうして私を私服校に入れた!
 大学に入って集団生活から開放されて、いじめはなくなったけど。家では、中学の時以上に居場所がなくなっている。
「ハルカは受験していない!この根性なし!」
ナオキの高校が最高!ナオキの高校が最高!
「スポーツ推薦の人は、偉くて立派よね。」
こればっかり!私には、無理やり音楽やらせておいて!この時始めてわかった。うちの親は、私を馬鹿にするために、音楽を無理強いしたんだと。

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その9

2014-05-24 19:20:32 | ADHDとともに「君の星座」
 コンビニにも、バスの広告も、街が開けてくるともっと・・・クリスマス一色。そろそろクリスマスプレゼントも用意しなくちゃいけないんだけど・・・そうだったよな、去年の今頃は、立て続けに解雇されたショックで静養中、発達障害と診断はついたものの、まだ、正式な診断名は聞かされてなかった。そして、今年。
 ジョブサポートセンターに到着。
「はい、時間までお待ちください。」
ここにも、クリスマスツリー。綺麗だな。ケータイで写真をとらせてもらったところに、
「こんにちは。」
保健師マツウラさん。寒くなったね!おじいさんは?はい、おかげさまで元気です。
 いつもの防音室へ。
「どうですか?あれから。」
「はい。おかげさまで明るく過ごしています。年賀状も書きました。」
「わ、早いね!私、まだ何も出来てないのよ。いつも、投函するのもギリギリ。」
アハハハハ。
「私、クリスマスの時期って好きなんです。昔から、色々充実してるんですよね。」
 去年もそうだったな・・・こころのクリニックでドクターに、大したことしてない、掃除と年賀状の準備ぐらいって言ったら、それは大きな用事だって。
「ドクターからしても、ツキシロさんは物凄く応援し甲斐のある人だと思うわよ。きっと、喜んで診断書も書いてくださるわよ。ご両親もずいぶん変わられたじゃない?」
「そうでしょうかね?」
「ううん。はじめは検査を受けることも拒まれてたじゃない?でも、今度は手帳を取ることを認められたじゃない。」
ま、ちょっとずつ、変わってきてるのかな?
 一生懸命がんばることは、当たり前だと思うけど、自分に解決したいという気持ちがないと、いくら支援があっても成功しないことは事実。
「これで、支援体制は整いましたから、あとは、手帳がくるのを待って、活動するのみです。今度こそ、フルタイムで働いて、定着したいです。そればっかり祈りますよ。」
「そうね。でも、焦りは禁物よ。その間に体調も整えて。あ、そうだ。私の説明書って知ってる?発達障害の人は、それを作って、就職の面接に持って行ってるわよ。」
 私の説明書・・・要するに、自分の障害についてどんな特性があってどんな配慮が必要かを書いたもの。
「それ、よさそうですね!」
「うん。ツキシロさんも、時間がある間に作ってみたらどうかな?」
「そうですね!うーん・・・ま、とりあえず書いてみます。」
で、また添削をお願いしたらいい。
 本当にありがたい時代だな。働くために、これだけ教えてもらえて、助けてもらえるんだもん。一度だけお世話になった、家庭問題総合相談所の人の言葉は本当なんだ。
『今はね、少しでも働きたい意志のある人には、何としても働けるようにしましょうって言う時代なんですよ。』


ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その8

2014-05-23 19:51:46 | ADHDとともに「君の星座」
 この頃は家のパソコンでやってしまうから、下準備が早い。作った年賀状にメッセージを添えていると、お母さん、
「リストに出す人と出さない人の印、つけたわ。これで表の宛名だけプリントしてくれる?」
「うん、わかった!」
怒っちゃいないよ。これは、私が毎年お母さんの分まで作ってるからね。さて、パソコン。プリンタに繋いで。
 カカカカカ、キキキー・・・宛名が印刷されて、どんどん出てくる。パソコンは便利だよね。印刷も、情報集めも。お母さん、一緒に覚えたらいいのに。ま、今は忙しいかな?
「お母さん、プリントできたよ。」
「ありがとう。助かるわ。お母さんも自分のパソコン買って早く勉強しなくちゃね。」
フフフ。お母さん、本当に変わったな。物凄くネットアレルギーで、パソコンは駄目!って言い続けてきた人だったのにね。
 変わっていく。そう、人は変わっていくんだ。それは、親と言う立場でも。私は結婚もしてないからわからないけど、親だって変わっていくんだな。
『親はね、子どもと一緒に成長していかなくちゃ行けないものなの。』
いつかの職場で聞かされた言葉。まだ、発達障害について知られ始めてもなかった頃で、あの人は、うちの親を批判するつもりで言っていたのかもしれないけど。でも、これだけは本当だと思う。お互いに、変わっていくためには時間が要ると言うこと。
 私、障害児の施設のボランティアにも行ったし、特別支援学級の先生もしたし、それからちょっとわかるようになった。親にとって、子どもの障害はいかに受け入れがたいものかということが。それでも、私が出会った親御さんはすごく前向きだったけど、そこまでにはきっと、たくさんの葛藤があったと思う。
 障害受容のプロセスって話も、聞いたことあったっけ?まず、ショックを受け、否定し、混乱し、解決しようと努力し、縦横していく。この五つの段階を行きつ戻りつしながら、障害受容に向かっていくのだと。うちの両親は今、どの段階かな?講師の仕事が終わる頃、私から障害について話した時は、絶対に受け入れられない状態だったよね?だけど、今は。障害者手帳を取ることにも賛成してくれて。

ツキシロさんお話を聞いていると、ご両親は確実に前進されているのがわかりますよ・・・

パソコンの周辺機器を入れている棚を整理する。今年、仕事を得るために勉強した教材にソフト。やるだけ無駄だったかな?親が納得するのを待つための、時間つぶしでしかなかったかな?そんなことないよね。
「ハルカ!」
あ、お母さん。
「はい、何?」
「いや、年賀状のことじゃないのよ。これ、あなたのスウェット。袖口がどろどろよ。ちゃんとブラシで洗いなさいって言ってたでしょ?」
「あ、ごめん!」
何回も言われてるのに、すっかり忘れてるよ。ま、今夜は忘れないように、お風呂場の前においておこう。
 

ADHDとともに「君の星座」第13章 今という時代 その7

2014-05-22 19:33:02 | ADHDとともに「君の星座」
 道を歩いていると、北風が身にしみる。今日はジョブサポートセンター。ムライさんと会うのは、障害者手帳の申請を決心してから初めてだ。
「こんにちは。あの、マツウラさんから伝わってるかもしれませんけど。」
「はい、お聞きしています。」
あまり表情を出す人ではないけれど、なんか今日は、ちょっと、ほっとしたみたいな顔のムライさん。そうだろうな、キャリアカウンセラーと言う立場からしたら、私は明らかに、手帳を取ったほうがいいケースだもん。
「本当に、やっと決心できました。親も説得できました・・・」
 この、ムライさんを始め、保健師マツウラさん、発達障害者支援センターのイワキさん、ハローワークのツジムラさん。私の支援を考えてくださっている方々に、
「心から感謝しています。そうでないと私、一人じゃ絶対に決心できなかったですから。」
「いえいえ。ツキシロさんが自分でしっかり考えられたからですよ。」
でも、本当に背中押されたのはあの日、ハローワークでツジムラさんにあれだけ強く言われたからで。
「半分泣きましたよ、私。で、その私を見て、親も、これはきつく言われたなって思って折れてくれたところあるんです。」
アハハハハ。ようやく和みだす。
 何となく、家族の話になっていき。
「うちの母もずいぶんそそっかしいですし、父も几帳面なのか雑なのかわからないですし。」
「ご両親のこともよく理解されて。ツキシロさんはご家族思いですし。」
「どうだか。まあ、おじいちゃんもいますし。」
こんな調子だけど、理解は進んだのかな?
 でも、親のせいで、診断までに一年半、障害者手帳取得を決めるまで半年かかった。
「本当に、私がもっと精神的に自立できていたら、あの時、親を押し切ってでも検査にいけたんです。そう思うと情けなくて。」
ムライさん、首を横に振って。
「ツキシロさんは、お辛かったと思いますけど、こういうことは親御さんの気持ちも待ってからで正解なんですよ。実際、私が担当していた人でいるんです。親御さんに相談もしないで手帳を取ってしまって、その後、親御さんとの人間関係が修復できなかったっていうケース。」
「わー、それも辛いですね。」
そう言われると、時間はかかったけど、これでよかったのかな?って気がする。
 最後に、
「手帳はいつ頃来るんですか?」
「来年の立春の頃かな?と思っています。大体、審査に二、三ヵ月かかるらしいんです。そこまで就職活動できませんけど・・・ま、年末はやることいっぱいですし、家の用事をして過ごします。」