チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「ロストジェネレーション」第1章 二十世紀の終焉 その39

2009-08-30 21:08:41 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
突然の発熱・・・
夕方、大慌てで近所のかかりつけの内科に行き、
診てもらったところ、

「風邪でしょう。」
という事。
精神科のクリニックを紹介してもらったので、
その事について聞かれるかと思ったけど、それに関してはノータッチ。
最後に、ごくごく普通の風邪薬を処方されて終わった。

翌朝。なるほど、熱は一晩で下がった。
でも、油断は禁物。ヒカルは、温かいリビングに
布団を引いてもらって、そこで横になっていた。

せめて、求人のチラシだけでも読めたら・・
でも、体を起こすのはまだしんどい様な気がするし。
何もできないこんな状況に、焦りもするけれど、どこか
ホッとするような気持ちもあった。

「ヒカル、体調はどう?」
心配そうにヒカルに近づくお母さん。
「うん、熱も下がったし、気分も悪くないよ。」

体温を測ると、もう、平熱に戻っている。
「ちょっと早いけど、お昼ごはんにしましょうか。」

ヒカルが寝ている傍の、低いテーブルに、
野菜たっぷりの煮込みうどんが二つ置かれた。

「いただきます。」
七味唐辛子を少しふりかけて、箸をとる。
良く煮込まれたうどんの、柔らかい喉越しが、
何とも言い表しようのないぐらいに優しい。

「まあ、早く熱も下がって、良かったわ。」
「ありがとう。でも、びっくりしちゃった。」
「どうして?」
「どうしてって、ほら、珍しく熱なんか出るから・・。」

ヒカルの返答に、お母さんは笑顔で答えた。
「そりゃ、どんな人でもね、一年に一回や二回は風邪をひいたりするわよ。
しばらく緊張も続いていたし、ヒカルも疲れたんじゃない?」

口頭試問にしても、就職活動にしても、当り前の事だと思っていたし。
疲れていると自覚していなかっただけで、
なるほど、お母さんの言う通りかもしれない。

お母さんは続けて言った。
「お母さんね、ずいぶんキツイ事を言っていると思うけど、
あなたって偉いなって、思うのよ。」

「どうして?」
ヒカルは、母の言葉がちょっぴり信じられず、思わず
聞き返した。

「何でも一生懸命するし、ノイローゼになっても、ちゃんと自分で
病院を探して、就職活動までしているじゃない。前向きに生きてるし、
素晴らしいと思うのよ。」

お母さん、何だかんだ言って私を評価してくれているんだ。
ヒカルは嬉しい気持ちに、照れくささを交えて
「ありがとう。」
と答えた。

「ほら、うつ病だって最近、心の風邪って言うじゃない。
でも、あなたがどうしてノイローゼなんかになっちゃったんでしょうね。」

「・・・・。」
ヒカルは、何とも答えようがなかった。
そう、ここが一番の問題。
その理由は、自分の中で、気付いているようで気付いていない。
どうしてなんだろう?どうしてなんだろう?

重くなった空気を打ち払うようにお母さんが
「まあ、そのうち良い事もあるわよ。
うちは幸い、明日食べるのに困ってるわけじゃないんだから。」

優しい言葉・・・今、何よりも救われる言葉。
ヒカルの心には、お母さんへの感謝の涙があふれた。










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「ロストジェネレーション」第1章 二十世紀の終焉 その38

2009-08-28 20:19:56 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
遅くまで付き合ったけど、有益な情報は一つもなし、か。
夜遅く帰宅して、大急ぎでシャワーを浴びる。

酔いが醒めたのを確認して、精神安定剤を服用すると、
両親が先に寝てしまって、寂しく照明が灯るリビングで、
ヒカルは一人、静寂に浸っていた。

もう、一時を回っちゃってる。
早く横になろう。
自室へ向かおうと立ち上がると、
「!」
体のバランスを崩した自分に驚いた。

あれ?お酒には強いほうなのに?
やっぱり、精神安定剤のせいなのだろうか。

翌朝。また、重苦しい日々の始まり。
もう少し寝ていたかったけど、
クリニックの予約があるし。

ヒカルは、抵抗する体を無理やりに起こして、
出かけて行った。

後、三週間したら卒業式。それまでに、
何としても、四月からの行き先を見つけなければならない。
でも、就職、本当に決まるのだろうか?

「お帰り。」
憂鬱な顔をして帰宅したヒカルを、お母さんが出迎える。
「どうしたの?暗い顔しちゃって。診察で何か嫌なこと言われたの?」

うつ病よりも、四月からちゃんと働くところが見つかるかどうかのほうが、
より深刻で、頭を悩ませる問題であると、何故分からないのだろう?
でも、今、そんな事で口論したって仕方ない。

「ううん。診察はいつも通り。」
と、さらっと流して、ヒカルはテーブルの上に履歴書を広げた。

「あ、また書くの?」
「うん、何時でも応募できるように、準備はしておかないと。」

頭の中はふらふらで、ペンを握るのもしんどい。
そんな状態だけど、シャーペンで下書きだけでも始める。

ヒカルの手元を覗き込みながら、お母さんは言った。
「ずいぶん大きな字で書けるようになったわね。
で、ヒカル、趣味の欄は、相変わらず空白なの?」

ヒカルには、趣味と言えるものがない。
幼稚園時代から、結構いろいろな稽古事をしてきた方だと思うけど、
受験を含め、諸般の事情で中断してしまったのだ。

中学受験から、名門の進学校に通っていた期間は、
自分のやりたい事なんて、探す余裕すらなかったし。

大学に入った時には疲れ果てて、
そんな事より、のんびり暮らしたいというのが本音になった。

仕方なかったと自分に言い訳してみるけど、
やはり、聞かれたら辛い事には違いない。

どうして履歴書に、趣味を書く欄があるのだろう?
憤りを感じながら、お母さんには特に返答せず、シャーペンを走らせていた。

体中がゾクゾクして、筋肉がぴくぴくする。
調子が悪いといっても、今日はいつもとまた違う感じ。
何だろう?

手で額に触れると、ちょっと熱いような気がする。
「お母さん、体温計ある?」

受け取った体温計を腋に挟む。
ピピ!音がして取り出すと、
三十八度五分。

やはり、発熱していた。
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「ロストジェネレーション」 第1章 二十世紀の終焉 その37

2009-08-24 15:31:17 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
『先日提出された卒業論文について、右記の通り口頭試問を実施します。』
ヒカルは、先日届いた葉書を見ながら、
明日の準備をしていた。

後期試験の日から、ほぼ一カ月ぶりの大学か・・・
やっと卒業という思い、もう卒業という思い。
特段、何といった変化のない学生時代だったヒカルにとって、
交差する二つの感情も、大学を去っていく事に対する何の感慨深さに
つながるものではない。

実は、この一週間の間に、もう一つ面接に呼ばれたのだけど、
「通勤時間が、ねぇ。」
と、相手のあまり反応は良くなかった。

まだ返事は来ないけど、きっと不採用なんだろうな。

次の日。大学の授業の一環として行われるものだし、
ヒカルは気楽な格好で出かけるつもりだったけど、
「一応面接なんだから、きちんとした格好で行きなさい。」
と、お母さんに無理やり、パンツスーツを着るよう言われた。

口頭試問、一体何を聞かれるのだろう?
バスに揺られ、大学に向かう。

控室に指定された講義室に入ると、
同じゼミにいた子、入学式以来、ほとんど顔を合わせていない子・・
同じ専攻の学生全員が久しぶりにそろっていた。

みんなの服装を見ると、やっぱり。
ジーパンとか、気楽な格好。スーツなんか着てこなくてよかったのだ。
ヒカルは一瞬、お母さんを恨んだ。

名前を呼ばれ、面接室に入る。
そこにはゼミの先生と、もう一人、他の研究室の先生がいた。
うつ病と闘いながら、必死の思いで仕上げた卒業論文・・・

担当教授の質問に、丁寧に、淡々と答えていく。
「はい、論点もユニークだと思いますし、
面白い論文だったと思います。」
と、高評で口頭試問は締めくくられた。

「ありがとうございました。」
退室するヒカルの心には、これで無事卒業できるという
安ど感でいっぱいだった。

前々からの約束で、口頭試問が終わったら飲み会があり、
ヒカルもゼミの皆と同行した。

「お疲れ様!」
ビールのジョッキを手に、皆と乾杯。
ヒカルも、精神安定剤との兼ね合いを気にしながら
恐る恐るビールを口にした。


もはや、その場にいる事も、盛り上がる事も辛い状態だけど、
このあとこのメンバーで過ごすのは、卒業式の日ぐらいだし。
ヒカルはそんな気持ちでこの飲み会に参加していた。

このゼミの中では、大学院に進学する人はない。
皆の話に耳を傾けていると、
今のところ、行く先がないのは、
私と、もう一人の女の子だけか。

不安なのはこの二人だけかと思いきや、
就職が決まった子たちも、出てくる話題はリストラとか、パワハラとか。
同じように不安みたいだ。

「これから、本当にどうなってしまうのだろう?」

同じ不安を抱えた若者たちの飲み会は、
二次会まで続き、
ヒカルが帰宅した時には、午前零時になっていた。







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「ロストジェネレーション」第1章 二十世紀の終焉 その36

2009-08-18 22:14:30 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
成功、失敗以前に、ただの嫌がらせで終わった面接。

「馬鹿!何やってんの!」
面接のやり取りを、一字一句聞きだしたお母さんから、
ヒカルは叱責を受けていた。

そんなこと言ったって!
だって、仕方ないじゃない。私のせいじゃないもん。
もう、今回の事は忘れて、次どうするかを考えたほうが、
賢明じゃない?

反論したくなるけど、もう、そんな気力すらない。
腹が立つという以前に、疲れたよ。
ヒカルは、ハンガーに掛けたリクルートスーツを見ながら
ため息をついた。

「わたしは正義を衣としてまとい 公平はわたしの上着、また冠となった。」*

見返りを求める事もなく、
真面目に、誠実に、生きてきたのに。
社会という世界への扉では、それは、何一つ評価される事はなく、

部活動をしているか、していないか。
それが人間の評価の基準とされている。
そんな現実を思い知った。

「お前なんか就職できない!」
親を含め、幼い頃から幾度となく吐かれてきたこの言葉。
それが現実になりそうな今、
今まで以上に頭の中に響き渡っている。

今日はクリニックの受診日。
平日の午前中なのに、待合室は混み合っている。
ソファの隙間に無理やり座り込んで、
クリニック備え付けの、無料のコーヒーを口に含んだ。

やっと、診察に呼ばれると、
いつものようにこの一週間の報告。
「そう、残念だったわね。でも、前向きにがんばってるんだし、
きっとそのうちに良い事あるわよ。」

この女性医師から、こんな温かみのある言葉を聞くのは、
始めてだった。あの時、
お母さんから、こんな温かい言葉を聞けたなら・・・。

「昔言われた、お前なんか就職できないって言葉ばっかり、
思い出すんです。
このままだったら、それが、現実になりそうじゃないですか。」

結局、こんな言葉でしか返せない。
傷心の今は、どんな慰めも届かないのである。

続けて、中学時代の忌まわしい記憶が
自然と口から流れ始めた。

「まあ、その事は、これからゆっくり考えていきましょう。
とりあえず、今を気分よく過ごすことだけ考えて、ね。」
半分慰めのような言葉と、薬の処方箋を持って、
今回の診察もおしまいとなった。

刻々と流れていく時間、
これが、ヒカルの焦りを加速させていた。
二月も残すところ後、一週間。
来週には、卒業論文の口頭試問が行われる。


*旧約聖書 ヨブ記 第29章14節
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「ロストジェネレーション」第1章 二十世紀の終焉 その35

2009-08-10 22:48:21 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
翌日。こんな時期になって、
始めて袖を通すリクルートスーツ。
美容室に行く余裕がなくて、不揃いに伸びた髪は、
何とかヘアゴムで一つにまとめ、
馴れない化粧を、何度もお母さんに手直しされて、
ヒカルは、ほとんど乗客のいない電車に揺られていた。

面接に呼んでもらえたのは良かったけれど、
どうしよう。どう言い訳しよう?
ヒカルの頭の中を占めていたのは、
この時期まで就職活動できなかったことについての、
言い訳作りだった。

まさか、病気で活動できませんでしたとは言えないし、
他に、大きな夢があったわけでも、やりたい事が
あったわけでもない。

こんな事になるのなら、大学院を目指すのも手だったかな?
ゼミの先生だって、あんなに声をかけてくださっていたわけだし・・・

現に、ヒカルの周囲でも、就職が厳しいから、大学院を目指す学生が
チラホラいた。だけど・・・
ううん。日常の生活も、ままならない状態だったのに、
試験勉強なんて、出来るわけない。
だから、この選択で正解。と、思い直して、自分を励ました。

電車を降りて、駅を出ると、案内地図に従って、
面接に行く会社を探した。

「あ、ここだ。」
思ったより、こじんまりしたところだな。
人の気配のない狭い階段を、一段ずつ、踏みしめるように上がっていく。

時計を見ると、うん、約束の時間通りだ。
ヒカルは深く深呼吸して、
事務室らしい所の、ドアをノックした。

「はい、あ、面接にこられた方ですね。」
事務員らしき女性は、ヒカルを面接用の別室へと案内し、
「こちらでお待ちください。」
と、ソファにかけるように勧めて、去って行った。

薄暗い部屋で、しばし、一人きりの時間。
今日の職員さん、どうなんだろう?
この間、私を男だと錯覚して電話してきた人よりは感じよさそうだけど・・・。

トントン!
そんな事を考えているところに、ドアをノックする音がして、
ヒカルは大慌てで姿勢を正した。

「あ、どうも、お疲れ様です。」
部屋に入っていたのは、五十歳そこそこと思われる男性だった。
どうやら、この人が面接を担当するらしい。
「よろしくお願いします。」
慌てて立ち上がり、挨拶をするヒカル。

男性職員は再び、ヒカルに着席するよう勧めると、
今度は、履歴書を取り出して、黙読し始めた。
「・・・ずいぶん、良い学校を出られているようだけど・・・
今まで就職活動してこられました?」

やはり、こんな時期まで就職が決まっていない事を、
不審に思われているようだ。
一瞬、寒気が走ったが、これでひるんではいけない。
何とか、考えていた言い訳を口にしようとしたけど、

この男性職員は、ヒカルに口を開く暇を与えず、
「だいたい、あんた、ここに来て何をしたいんですか!」
と、強い口調で言った。

何をしたいって、そりゃ、仕事でしょ?
働いて、お金を稼いで、自立して・・・
ヒカルが答えるのを渋っていると、今度は、
「大学時代は、クラブかサークルには入っていました?」
と、質問してきた。

これについても、どう答えるべきなのか。
でも、嘘はつけないし・・・正直に
「いいえ、特に。」
と、答えると、

「は!部活もしていない?おまえなんか駄目だわ!」
男性職員は、ヒカルに履歴書を投げつけ、退室した。

投げられた履歴書は、ヒカルの額に命中した。
面接って、たったこれだけ?
まるで、馬鹿にされるために呼ばれたみたいじゃない!
額に感じる痛みとともに、ヒカルは、耐えがたい屈辱に耐えていた。


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「ロストジェネレーション」 第1章 二十世紀の終焉 その34

2009-08-06 21:37:33 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
部屋いっぱいに響き渡る、
自分の悲鳴で、ヒカルは目覚めた。

枕もとの目覚まし時計を見ると、
五時五十分。まだ、めちゃくちゃ早いじゃない。
夢、見ていたのかな?

それから、結局眠れないまま、
もう少し日が高くなって、
リビングに降りていく。

「ヒカル、今朝、夢でも見てた?」
と、朝食の準備をしながら、尋ねるお母さん。
「え?どうして?」
ヒカルは、何事もなかったようなふりをして、この場はかわしておいた。

「それでは、行ってくる。」
仕事に出かけるお父さん。
あと、二カ月後。私もこんな風に送り出される朝が来るのだろうか?
ヒカルは何とも言えない気持で、お父さんの背中を見送った。

クリニックにも行かない、
お母さんと二人きりの、長い一日は、こうして始まる。
「家にいるんだから、出来ることぐらいは手伝って。」
という事で、毎朝、出来上がった洗濯物を干すのが、ヒカルの日課になっていた。

本当は、こういう事もしんどいのだけど、
何もしないのも、多分良くないんだろうし、
頭を使う仕事よりも、単純な作業のほうが、
心のリハビリにはよいのかもしれない。

午後、今日はお母さんの用事で、繁華街に出かけた。
うつ病のために、引きこもり勝ちなヒカルを、
気分転換に連れ出そうという意図もあったようだった。

一通り用事も済んで、一息入れようと、親子は喫茶店に入った。
ケーキセットを注文するお母さんの横で、
アイスコーヒーだけを注文するヒカル。
「ヒカル、お茶だけでいいの?」
「うん、まだ、余計なものまでは入らないんだ。」

確かに、睡眠も、食事も、ほぼ正常どおりに戻ってきている。
でも、気分は相変わらずすぐれないし、
胸の中にある、鉛のような重い感覚が、ずっとヒカルを支配していた。

「ふぅ。ヒカルみたいに良い大学でも駄目なんてね。
噂どおり、厳しいご時世なのね・・・面接にも呼んでもらえないなんて。」
ため息交じりに言うお母さん。
「ねえ、あなたの同級生って、どんなところに採用されているの?」
「知らないよ。具体的に聴いた事ないし。」
「聴きもしないの?まあ、あなた、友達ないのはわかってるけど・・・。」

こんなご時世だからこそ、ある程度親しい人でも、
気楽に聴けないという事が、わからないのだろうか?
大体、病気で就職活動もままならない本人に向かって、
こんな話題、ある種の無神経さも感じずにいられなかった。

「あーあ。うちに強力なコネがあれば、頼むんだけどね。」
嘆きながら言うお母さんに、ヒカルは
「もう、そんなこと言うのやめようよ!履歴書も送ってるし、
それなりに、前向きに、がんばっているんだし・・・」

そう、がんばってるんだ。病に見舞われながらも、
卒業はほぼ確実に実現しそうだし、こうやって、毎週履歴書を送ってもいる。
きっと、そのうちに、面接に呼んででもらえる日が来る。

厳しい状況だからこそ、ヒカルはそう信じたかった。

「あれ?ケータイ鳴ってない?」
お母さんにそう言われて、バッグに手を添えると、本当だ!鳴ってる!
ヒカルはケータイをとって、
「もしもし。」
と、電話に出た。

『このたびはご応募ありがとうございました。
一度面接をさせていただきたいと思いますので・・・』
面接!こんな事始めてだ!
今度こそ本物でありますようにという願いと共に、
ヒカルは真剣にメモを取り始めた。







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「ロストジェネレーション」 第1章 二十世紀の終焉 その33

2009-08-03 22:36:02 | 就職氷河期「ロストジェネレーション」
暦では春といいながら、一年で最も寒さが身にしみる頃、
ヒカルの大学では、後期試験の日程を終え、
入学試験が行われていた。

この後、二月末に、卒業論文の口頭試問、
そして、三月末の卒業式。これで、大学の課程が全て修了する。

今日から春休み、人生最後の、長い休暇。
就職が決まった人は、晴れて旅行に行ったりするのだろうけど・・・
就職も決まっていない、その上に病気。そんな私みたいな人間には、
不安と絶望に支配される、暗黒の毎日の始まりだ。

出かけるといっても、週一回のクリニックぐらい。
お父さんは仕事に行くから、平日はお母さんと二人っきり、
家の中に閉じこもって暮らす。

「もうちょっと大きな字で書けないの!書き直し!」
書いた履歴書は、お母さんにチェックしてもらっている。
あーあ。また駄目か。
せっかく書き上げた履歴書を、破り捨てて、
また新しい用紙に書き始めた。

新聞や、折り込み広告を頼りにするのだけど、
そこにあるのは看護師や、薬剤師の募集ばかり。
この時代、やっぱり、資格なんだな。
ヒカルは親子でため息をついていた。

そんな中で、何とかやっていけそうな仕事をピックアップして、
応募に必要な書類を揃えていく。

このような作業をするたびに、
「もう、大丈夫なんでしょ?四月から就職していけるんでしょ?」
と、お母さんから突かれた。

幸い、食事もとれて、睡眠はとりすぎるぐらいとれるようになった。
傍目には、健康な時と変わらなく見えるだろう。
だけど、今の私の状況は、どの程度快復した状況なのだろうか。
あの女性医師も、はっきり言ってくれないし・・・。
ヒカルは、自分でも測りかねていた。

でも、死にかけているような状態でもない限り、
「できません。」とは、間違っても言えない。
今の辛い状況を打破するためには、歯を食いしばって、
就職活動をしていくしかないのだ。

中学時代に、あんな目にさえ遭わなければ・・・。
最近、ヒカルは全てを恨んだあの頃ばかりを思うようになってきた。

そんな古い時代の事が、今、うまくいっていない事、うつ病になった事の
原因なのかどうかはわからないが、
こんな時なのに、いや、こんな時だからこそ、
辛い過去が恨めしく思える。

傷つけられた痛みが、両親に教師に同級生。
中学時代にかかわった人への恨み事が、
ヒカルの心を支配し始めていた。








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