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特別版セイネンキゼロ/ポリシー(10)

2017-06-21 10:48:44 | 特別版セイネンキ・ゼロ/ポリシー
相手は直也が、よろけた瞬間、ロープからのカウンターを狙ってきたが、直也は相手にクリンチで逃げ、クリンチ後だった。
『カーン!』
1ラウンドのゴングで、ギリギリの直也は助かった。
直也は自分のコーナーへ戻らず、何かを考えていたのか分からないが、もうろうとしていた。
相手選手のフックをまともに受けたせいか、自分のコーナーを一時、見失っていた。
「直也! こっちだー!」
コーナーサイドからのコーチの声で、息を荒くしながらコーナーへと戻る直也であった。
「直也、大丈夫か? 左腕が下がってるぞ」
「ああ、すみません・・・」
「左腕は、きついか?痛みはどうだ?」
「腕は下げてみたんです、何かを見つけないと勝てない」
「左腕は、大丈夫なんだな」
「はい、問題ないです、ただ相手のパンチ力は凄いです」
コーチと直也の会話を聞きながら、ヤスシは・・・。
「直也、お前何か、見つけたか?」
「何となくですけど、どうしたらいいのか判らないです」
「なら、当たりにいき、当たった瞬間後ろに下がる事ができるか?」
「え?当たりにいくんですか?」
直也はボディを受けた時の事を考えていた。
相手のパンチが顔面を打ってきた時も、ボディの時と同じように、当たりながら後ろに下がる事ができれば、相手のパンチ力を軽くできると直也は考えていた。
2ラウンド目、直也は実行に移す事を考える。
「フェイントで、隙を作り、当たりにいく、か・・・」
直也は深呼吸をした時だった。
「カーン!」
2ラウンド目のゴングが鳴った。
ゴングが鳴った時、直也はすぐに立ち上がろうとはしなかった。
1ラウンド最終の時の相手のパンチでよろけ、直也の体力は落ち、気力はあっても身体が思うように動かなかった。
直也が立ち上がらない・・・
観客達はざわめきだした時、直也は焦るかのように立ち上がり、リングの中央に向かう。
体力だけでなく、直也の足にも何かしらの影響があったのだ。
この2ラウンド、直也のフットワークは、限界に達していたのか。
相手の選手は直也の動きを見ながら、おそらくノックアウト、KO勝ちを狙っている。
相手も1ラウンドでノックアウト勝ちを狙いパンチの数は多く、体力も落ちていたが、軽いフットワークは1ラウンドと同じように素速いものだった。
直也は相手からの軽いジャブに圧され、ピンチの状態が続く。
「大島!直也!大島!直也!大島!直也!・・・」

観客の声援が直也の応援に変わっていくが、直也の動きは完全に相手のペースによって崩され、相手のパンチは、思い通りに直也の顔面をとらえていた。
「やばい!やばい!やばいぞ!」
「直也!離れろ!直也!離れろ!直也!離れろ!」
リングサイドからの声は、もう直也の耳に入る事なく、直也の左腕は、下がりつつあり、ガードは右腕しかない。
「よーし!行けー!行けー!行けー!」
相手サイドからの声だけが聞こえてくる。
直也はいつまで耐えられるのか?このまま続けられるのか?
「もう無理だ、直也、あきらめろ!・・・」
会長はコーチの肩をたたき、コーチはタオルを握る。
「もう無理だ、立っているだけで、もう直也には無理だ」
ヤスシも首を振り、もう直也には無理だと言っているようだった。
しかし、コーチがタオルを投げようとした時、ユウコはコーチの持つタオルを奪い握り手離す事はなかった。
「なんだお前もう終わりだ!無理だ、直也は限界なんだ」
「直也は何かしようとしてるんだと思う」
「あれを見てみろ!もう無理だ!直也を殺す気か!」
「もう直也は死んでるわ、きっと戻って来るから」
「女のお前に何がわかる?」
「女の私だから、わかるのよ!」
ユウコはコーチからも会長からも、ヤスシからも全てのタオルを強引にとりあげるのだ。
「タオル投げるなら、私が投げるから」
ユウコは直也がどんな思いでリングの上で、打たれ続けているのかを理解していた。
3つのタオルを抱え、ドリームキャッチャーを握りしめ、直也を信じて待っていた。
「お前は、直也を殺す気か!?」
「叔父さん、直也は絶対に倒れないよ、しっかり見て」
打たれ続ける直也、相手選手は思い通りにジャブにフックとボディを打ってくる。
それでも倒れない直也、ノックアウトを狙う相手選手だった。
直也は痛みに耐えながら、リング上に倒れるわけにはいかなかった。
相手の思うがままに、打たれ続ける直也。
しかし、直也は相手選手のパンチ力を最小限にして打たれ続け倒れるような様子ではなかった。
会長やコーチは焦りながらも直也の様子を冷静に見始めた。
「あいつ、まさか・・・最後まで戦うつもりか?」
「でも、会長、直也の眼は相手を見てますよ」
ヤスシはユウコが見ている目線で直也を見つめ、相手のパンチ力が弱いと感じとっていた。

直也は喧嘩をしていた時の事や仲間達への思い、そして、直也の中にある怒りや憎しみの感情を打たれ続けている中で思い出していたのだ。
『打てよ、打てよ、打てよ、打てよ、打てー!』
直也は心の中で打たれる痛みよりも、大切なものを失った苦痛の方が何よりも痛みを感じていたのだ。
そして、直也自ら相手のパンチに頭突きのように、直也は気づかないうちに、打たれ強い自分を相手にも周囲の観客にも、レフリーや「ジャッジ」審判員にも印象付けていたのだ。
直也は何時しか、何も考える事なく、野性的な本能だけで戦っていた。
『もっと打てよ、もっと打てよ、もっと打てよ・・・』
このまま時間が流れ、判定まで持ち込んでも勝利はない。
この2ラウンドは、直也にとってこれまでより苦しい戦いだった。
それでも、よろけながらでも打たれ続ける直也だった。
相手の選手は必死にノックアウトに焦り始め、パンチが当たっているはずが、どんなにパンチを打っても、直也は立ち続けてる事に、どんどん焦り始め、直也への恐怖心を持つようになっていく。
「ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!ダッシュだー!」
相手のコーナーサイドからの声が、冷静さを取り戻し始めた直也には良く聞こえるようになる。
『もっと打て、もっと打て、もっと打て!・・・』
直也の心は研ぎ澄まされていく、もろい刃が鋼鉄の刃になる。
「直也!離れろ!直也!離れろ!直也!離れろ!」
直也のコーナーのコーチ達の声も聞こえるようになると、直也は何かに獲りつかれたように打たれる事に笑みを見せる。
『来いよ!殺してみろよ!来い!来い!来い!』
直也は自分が見えなくなっていく、もうボクシングではないと誰もが思っていたかもしれない。
この2ラウンドは直也を無心にし、直也の持つ素質が育ち始めていた。
「もう無理だって!大島直也を!やめさせろ!」
誰がどんなに叫んでいても、叫び声は直也の耳に入る事はなくなった。
『俺なんか生きていても仕方がないよなクーコ、春樹』
直也の中にある思いが、久美子の命、春樹の命を蘇らせようとしていた。
そんな時だった。
「カーン!」
2ラウンド目の終了のゴングが鳴った。
直也は、よろけながらでも笑みを浮かべながら、何かに獲りつかれたように、真っ直ぐ自分のコーナーの椅子へ足を向ける。
「直也!聞こえるか!」
「へへへ、はい、次です次ですよ、俺が勝つのはね」
2ラウンド終了後、直也は狂ってしまったのだろうか?
会長やコーチは直也の脳へのダメージを考えていたが、ヤスシは直也の前に立ち、直也の瞳を見つめる。
「お前、まだやるつもりか?マジで勝つもりか?」
「俺は勝つ、必ず俺は勝つ、俺は必ず・・・勝つ!」
ヤスシは直也の頬を軽く叩き、声をかけていた。
そして、ヤスシが直也を見る限り、直也の眼つきは死んではいない、むしろ輝いているかのように見えていた。
「直也、思い通りに戦え、戦って優勝を勝ちとれ!」
ヤスシとユウコだけは、直也を信じてみようと思っていた。
そして、直也の本当の姿を見たような気がしていた。
『直也なら、どんな事をしても勝てる、優勝は目の前』
由子は久美子の渡された、ドリームキャッチャーをさらに強く握りしめる。
「カーン!」
ラスト最終の3ラウンド始まりの鐘が鳴った。
疲れきっているのは直也だけではない、相手の選手も同じだ。
ラストチャンスへ向けて、両者リングの中央に走る。
その時、リングの中央で起きた出来事は誰もが予期せぬ事だった。
息を荒くしガードの下がった直也の顔面を、相手の選手は、右ストレートを放ち、直也はまともにパンチを受けてしまう。
「ダウン!ダウン!ダウン!ダウン!ダウン!」
直也の力は抜け、ロープの前で膝をつき、全ての終わりのように、リングの上に倒れ込んでしまう。
カウントダウンの声だけが直也に聞こえてくる。
観客達や関係者等は総立ちとなり、直也の経過を見守っている。
「直也! 見てよ、こっち向いてみてよ!」
ユウコの必死な声は直也の眼を開けさせ、ユウコが直也に、見せていたのは、久美子が仲間達に残したドリームキャッチャーである。
久美子が生前に仲間達に残したお守りでもあった。

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特別版セイネンキゼロ/ポリシー(9)

2017-06-09 18:49:19 | 特別版セイネンキ・ゼロ/ポリシー
優勝決定戦には『ジャッジ』審判員達と協議会委員達の結果、充分ではないが30分の休憩時間を延長した。
これまでにはない試合が行われ、直也を『ドクター』に診てもらう事だった。
『審判員達』と『ドクター』は、このまま直也が試合を続けられるかどうか、気にかけていたのだ。
直也達は控室に行き『ドクター』の診察を受ける事になる。
『君は、なぜ、あそこまで・・・こんなになるまで』と『ドクター』は直也に話しかけた。
『先生、俺は勝たなきゃならないんです』と、直也は答える。
『なぜ無理をするんだ?君の思いを教えてもらえないか?』と『ドクター』は直也の真意を聞いた。
『ただ勝つ為だけに、ボクシングはしてないんです』と、直也は『ドクター』に告げる。
直也は、それ以上の話はする事はなかった。
直也は、『ドクター』と話をしながら診察を受ける。
『ドクター』が言うには、3ラウンドは無理だと、棄権するよう会長に話した。
しかし、会長は・・・。
『ドクター、私は直也の心の問題と考え、試合に出場させたんですよ」と、『会長』は直也の真意を伝える。
『しかし、もしもの事があったら、だれが責任を・・・』と、『ドクター』に言った。
『私が責任をとり、ボクシングジムを閉鎖します』と、『会長』は迷わずに答える。
『会長!』と『コーチ』は会長を呼び振り向かせ、『ドクター』との会話を中断させた。
コーチは、時間を考えての事だった。
『なあ、直也、お前の気持ちは充分感じたぞ、まだやれるのか?」と、『ヤスシ』は直也に聞いていた。
『んー・・・はい、できます』と、直也は少し考えながら答える。

『ドクター』は、しばらく考え直也の左腕に鎮痛剤の痛み止めの注射をしてテーピングを巻いたが『ドクター』からは条件が付けられた。
もしも、左腕が下がり『ガード』もできない状況になった時、タオルを投げるよう、『ドクター』は指示を出したのだ。
鎮痛剤の注射によって痛みは無くなるが、相手は左腕を狙ってくる事で、痛み止めの効果は薄まるとの事だった。
その指示に会長達は従うという事で、試合続行が認められた。
直也は筋肉質の身体だが、誰が見ても、左腕の赤い腫れは見てわかる。
相手の選手は、必ず直也の左腕を見ながら戦うだろう。
優勝決定戦では、どんなに策をこうじても、左腕が動かなくなれば勝利はない。
『俺は、必ず勝ちます、どんな事をしても勝ちたい!』と直也は会長に伝える。
『なぜ、そこまでして勝つ事に拘る?』と、会長直也に問いかける。
『この試合の勝利は、俺自身の勝利なんです』と、直也は答える。
『自分自身に勝ちたいという意味か?』と、会長は直也の眼をみつめ頷きながら言った。
『ドクター』と『会長達』の会話を聞いていた由子は、タオルを投げようとした時、タオルを奪う事を考えていた。
『優勝』を約束した直也と由子だった。
直也の為にも絶対にタオルを投げさせるわけにはいかなかった。
直也の心深くにおいていた友の死と転勤での別れによって、抱いてはならないものがあった。
怒りと憎しみ、憎しみが憎悪となる事が直也は自分の心を分析してたようで少し畏怖していた。
思春期の直也は、自分の心と向き合う事が怖かったのだ。
囚われた感情から、逃れたい、逃れたいといつも思っていた。
仲間がいても直也の抱いた思いは、仲間達には判らない。
ただ漠然と感じるだけの仲間達、それだけに直也は『孤独』だった。
ボクシングを学ぶようになり、直也は知った事があった。
『ヤスシ』との『スパーリング』で『アッパー』一発で倒され、意識を失った時の涙が、直也のありのままの心だった。
涙を流す事で負けを認めると、直也の抱き持つ感情を大きくしてしまう。
しかし直也は、決して負ける事を心の中で認めるわけにはいかなかった。
そして、直也は強い自分を由子に見せたかったのだ。
由子が直也に対する思いは伝わっていたものの、友との別れと久美子の死が由子への思いを打ち消してしまう。
由子は直也の本当の心の内を誰よりも知っていた。
直也と由子の関係は、幼なじみであり由子の片思いである。
由子は久美子に渡された、大切なアクセサリーを直也がリング上で戦っている時『ドリームキャッチャー』を強く握りしめていた。
直也はリング上で戦い、由子はリング下で自分の片思いの気持ちと戦っていたのだ。
由子の直也への思いは、12年もの間、変わってはいなかった。

『時間だ、そろそろ行くぞ、直也』と、ヤスシは直也の声をかける
『絶対に勝つって、約束してよね、直也』と、由子は直也と見つめあいながら言った。
『え?由子・・・』と、直也は頷くだけだった。
由子の思いは、直也を思うだけでなく、勝利への導きでもあった。
由子は直也に目的の為なら『鬼』になってもいいとも思っていた。
由子の思いを受け入れる事のできない直也にとって、この試合だけは由子の思う希望通り『優勝』しかないと思う直也だった。
控室を出て廊下を歩きながら、直也は自分に何ができるか、と考えていた。
『これまでの3回戦で、何を学んできたのか?・・・』
直也には、試合で学んだ事を生かせる事ができれば、必ず勝てる自身があったが、それは後々の直也に襲いかかるものでもあった。
直也は1回戦目からをさかのぼって考えていた。
それは、パンチを繰り出す時のバランスとパンチ後の引き際である。
このタイミングを逃すと、相手の策略にはまる。
決勝戦の相手は、前回プロ並みの選手、そして優勝を勝ちとった相手だ。
直也と相手の選手の身長差や腕のリーチ幅に大差はなく、試合を見る限り『パンチ力』は俺以上だ。
直也は引き際のタイミングだけで、頭の中で考えながら勝負を挑む事を考えていた。
『あのフットワーク、どう引いたらいいのか・・・』
直也が引き際の事を考えていると『ヤスシ』は、直也に何かを察知したのだろう。
『直也、引き際の時、パンチを受けながら弾く事ができるか?』と、ヤスシは直也に聞いた。
『先輩、どういうことですか?』と、直也は問いかける
『相手のパンチを受けている事が相手にとって不安材料にもなるんだ』と、ヤスシは自分が体験した事を直也に伝える。
『不安材料って?何』と、直也には良く解からなかった。
『そうだ、相手はパンチが当たってると思い始めるはず、しかし相手はパンチ力に自信を持っているんだ、それを逆手にとれば勝てるかもしれない』
直也は『ヤスシ』の言葉を信じてみようと思った。
しかし、どうしたらそんな事ができるのか?直也はボクシングを始めて、まだ約4カ月の素人と一緒だ。
『試合の中で、学ぶしかないか?・・・』
直也は、不安と若干のプレッシャーの中、試合会場へと向かった。
直也と前回優勝者の相手が会場へ入ると、観客席から声援と拍手が湧いた。
直也は周囲の観客達を見つめると、なぜか『ファイト』が沸いてきた。
左腕の痛みは、鎮静剤の注射と観客達の声援と拍手によって消え去っていく。
『なんなんだ、これってなんなんだ・・・』
直也は声援によって不安もプレッシャーも消え去る事は初めて体験する事だった。
思春期の直也は、それが何故なのか気づく事も何もわからなかった。
思いもよらぬ感情に囚われていた感情が全て消えていく事が信じられなかった。
試合開始まで、あと5分、椅子に座り何度も深呼吸をする直也。
その直也の肩や首をマッサージする『コーチ』だった。
由子は、強く強く、ドリームキャッチャーを握りしめ、直也の勝利を祈る。
『久美ちゃん、直也に力を与えてね』と祈る由子だった。
直也は軽く体を動かしながら、リングの上の椅子に座った。
そして『ヤスシ』は直也の耳元で同じ事を囁く。
『引き際のタイミング、相手のパンチ力を弱くしろ・・・』と、何度もヤスシは繰り返す事で頭に残る事を過去の自分の体験で知っていた。
直也は、『ヤスシ』の声にうなずきながら、時計を見るとあと1分後、直也の口の中に『マウスピース』がはめられた。
そして、あと15秒後。
『両者、リングの中央に・・・』
『レフリー』からの言葉により、リング中央に歩き出す2人の選手。
直也と相手の選手は、見つめ合い首を縦に振り挨拶を交わす。
4回戦目、決勝戦の始まりだ。
『カーン!』
最終戦、決勝戦の『ゴング』が鳴った。

『ゴング』と同時に、両者ともに軽いフットワークで距離を測りはじめた。
そして、直也の左腕を気にしながら、相手の選手はジャプを打ち始める。
そのジャブは軽いもので、相手の選手は何かしらの策を講じていると、直也は思い、その策略にのってみようとする。
右利き同士の対戦だ、直也のリングコーナー下のトレーナーからは、言葉ではなく手で合図する動けの指示がでた。
直也は、その指示を無視し相手に向かっていく。
『直也って?変わり者か?リスクがありすぎるのに・・・』   
試合会場にいる観客席で誰もが思った事だろう。
それもそのはず『ハンディ』のある直也はフットワークで相手を追い詰めているが、追い詰められる相手は嫌な顔も見せず、左ジャブで距離を測り続ける。
『来いよ!来い、来い!』
優勝経験のある相手は、余裕で直也に腕を振りながら小さな声をかける。
1ラウンド2分を過ぎた時、相手の右ボディ、直也は痛めた左腕で受ける。
相手選手の右ボディの連打、直也は左腕でカバーを続ける。
コーナーサイドでは、
『やばいか、まずいぞ、直也!離れろ!右に動け右だ右だ』
この相手の選手のボディの瞬間、直也は左腕で受けながら右に動いた。
『軽い、軽いぞ、パンチが軽い、このタイミングか?』
直也は一瞬の瞬発力で、相手のパンチ力を弱める事を知った。
相手の選手は、この1ラウンドで『ダウンを』を奪おうと考えていたようだった。
しかし『ダウン』を奪う事ができない事で相手の選手の胸の内に直也は何かを植え付けていた。
『次は、顔面か?それとも、ジャブ、フック、ボディか?まさかアッパーか・・・』
直也の頭の中では試合の事しか考える事が出来なくなっていく。
しかし直也は左腕に軽いパンチを受けて続けていたが、あえて左腕を下げ、次のパンチはどんなものかを試す。
直也が左腕を下げると、相手は右フックを直也の頬に打ってきた。
まともに受けてしまった直也は、よろけるが『ロープ』に助けられ『ダウン』と見られる事はなかった。
一瞬の隙で、相手の右フックの強さを感じる直也であった。
『まともに受けるのは、まずいな、やば・・・』
直也は、ロープに助けられた時、相手のパンチ力の強さを知った。
『どうする? どうする? 俺・・・』

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特別版セイネンキゼロ/ポリシー(8)

2017-06-03 10:05:16 | 特別版セイネンキ・ゼロ/ポリシー
直也の胸の中で囁きながら、この2ラウンドは相手の『パンチ力』、ボクサーとしての『癖』を知る事と『体力』を奪う策略だった。
『ヤスシ』は『プロ』としての策略を、直也に話していたのだ。
中学生で初心者ができる策略ではなかったが、初心者でも直也なら出来ると『ヤスシ』は認め始めていた。
『直也!直也!直也!・・・』
『ジャブ、ジャブ、ボディ、ボディ、ボディだー』
『応援団のサポーター達』以外の応援する観客達は、打たれ続ける直也の応援を始めていた。
これも『ヤスシ』の『策略』の1つだった。
この声援を聞けば、相手の選手は焦る事もあり『ノックアウト』を狙いにくる。
しかし、そう簡単に策略にはまる選手ではなかった。
ずっと、打たれ続ける姿を見れば、何かがあると考えるだろう。
しかし、目的の為なら直也は冷静に打たれ続けた。
相手がパンチを出さなければ、隙を突きながら、軽いパンチを相手に当てる事の繰り返しだった。
相手の選手は、冷静にパンチを出す直也に、まんまと徐々に策略にはまっていく。
しかし、この策略は、直也にとっても『大きなリスク』があったのだ。
直也の体力は保持されるが、身体のどこかを痛める可能性があった。
中学生の直也には、そんな事はどうでも良かったのだ、ただ・・・。
『勝ちたい、優勝したい・・・』
直也は、この思いだけで『観客達』や『応援団のサポーター達』に、直也は打たれ強いタイプと見せる事こそ『最善の策』だった。
なぜか?それは、前回優勝者に勝ち『優勝ベルト』と『トロフィー』を由子に渡したい思いが強くあった。
直也が、この2ラウンドで何を求めていたのかと言えば、最終の4回戦、決勝戦での優勝であったのだ。
この思いが『闘争心』に変わり、直也に力を与えていたが、この思いは、直也の奥深くの心にある『怒り』を想い起してしまうとは直也自身は気づく事はなかった。
『直也!直也!直也!・・・』
『久美子』のような『由子の声援』が、直也を石に変え、いや岩となり、サンドバックのように殴られ続けていたのだ。
2ラウンド2分を過ぎると、直也の姿勢に変化が起きた。
初心者の直也にとって、リスクが大きかった。
耐えられると思っていたが、直也の姿勢は、『ガード』やや下に下がりぎみになり、『腕』と『グローブ』で『ガード』も下がりつつ甘くなっていった。
『まずいか!』
リンサイドにいる『コーチ』は、次の試合の決勝戦は無くなると思い始める。
『コーチ』は『会長』の顔を見ながら、『会長』も頷いていた。
2ラウンドは、もう数十秒で終わる為、直也の様子を静かに見守っていた。。
3ラウンドで、もし直也の姿勢が崩れる事あれば『コーチ』に『タオル』を投げる指示を『会長』は出していた。
あと十秒、九秒、八秒、七秒、六秒、五秒、四秒、三秒、二秒、一秒・・・。
『十、九、八、七、六、五・・・・・』と、『観客達』や『応援団のサポーター達』が『タイムカウント』を口ずさむ。
『観客達』や『応援団のサポーター達』は興奮した応援のあまり叫び始めたのだろう。
直也が、立っていられるかどうか?と、そして・・・
『カーン!』
2ラウンド終了のゴングが鳴った。

2ラウンドの『ゴング』が鳴り、直也はリングコーナーの椅子へ戻ろうとするが、直也の足運びと歩く『平衡感覚』に変化が見られた。
直也の身体は左に傾き、やや疲れた感じでリングの床を見ながらリングコーナーの椅子に座った。
『どうした、直也?』と『コーチ』が直也に声をかけをすると『会長』や『訓練生達』と『由子』は黙って見つめていた。
『え?なにが?』と、直也は何事もなかったように振舞っていた。
『お前まさか、左腕を見せてみろ』と『コーチ』が直也に声をかける。
『はい』と直也は答える。
『直也お前、左腕を痛めたな』と『コーチ』が再び直也に声をかける。
相手のパンチを打たれ続けた事で、腕は赤くなり、左腕はしびれ、直也は息を荒くしていた。
相手の選手は、直也と同じ右利き、それだけに左腕にパンチが集中していた。
ノックアウト、KO勝ちを相手の選手は狙っていたのは間違いない。
『勝利』の為の左腕を痛めた直也に『コーチ』は、次の3ラウンドで動きが止まれば『タオル』を投げると直也に告げていた。
しかし、直也は・・・。
『コーチ、タオルを投げるのは次の試合にしてください』と、直也はコーチに伝える。
『お前の身体の事、考えるのがトレーナーの仕事だぞ!』と、コーチは少し大きめの声で直也に声をかける。
『わかってますよ、でも俺は勝ちたいんです』と、直也は『コーチ』の眼を見ながら答える。
『このままだと、次のラウンドはもたないぞ、いいのか?』と、コーチは直也に問いかける。
『俺は、必ず勝ちます、大丈夫です』と、直也が言うと『コーチ』は黙ったままになった。
『コーチ』と直也の会話を聞いていた『ヤスシ』は直也の持つ『潜在的能力』を考えていた。
『潜在的能力』とは、ボクシングジムで『ヤスシ』とスパーリングをしている時、直也は痛みに耐え抜き倒れる事はなく、あえて『ヤスシ』は初心者の直也に『アッパーカット』で倒していた。
『ヤスシ』は『会長』から直也が『倒れるまで続けろ』と告げられていたのだ。
しかし直也は『意地』なのか、決して『クリンチ』する事や倒れそうになっても倒れようとはしなかった。
『痛み』に対して直也は『一時の間』に『痛み』を感じるような体ではなくなっていたというべきか。
それは、毎日の『減量』や『スパーリング』の『トレーニング』が徐々に厳しくなっていく『スケジュールプラン』が直也の筋肉質の体の変化に関わっていたのかもしれない。
『ヤスシ』と『ユウコ』は、直也の姿を見つめながら考えていた。
『まさか、会長とコーチは直也の潜在能力を知ってプランを作ったのか?』
由子の隣で『ヤスシ』は小さな声で呟やき、『コーチ』と直也との会話を聞いていた。
『直也、右腕はどうだ?』と、今度は『会長』が直也に声をかける。
『右腕は、全く問題ないです』と、直也は『会長』に言った。
『なら、相手は体力をかなり消耗してる、見てみろアイツを』と、会長は直也に相手を見るよう誘導する。
『苦しそうな感じですね』と、下向き加減の直也は相手選手の方を見ながら言った。
『そんな時は、左ストレートをフェイントして、ボディだけを狙え、いいか、ボディのみだぞ』と『会長』は『トレーナー』としてアドバイスをした。
『コーチ』の頭の中には『トレーナー』の1人として『タオル』を投げる姿が浮かんでいたようだった。
『コーチ』とは正反対に『会長』と『ヤスシ』は直也の気持ちを優先させた。
『コーチ、トレーナーとして3対1だ、これからは直也の思うようにして様子を見ようか』と『コーチ』に話す。
プロテスト前の『ヤスシ』は『勝利』と言うものを考えるのは当たり前の事だと思っていた。
『あの・・・会長、何で3対1なんですか?』と、直也は首を振りながら会長に聞いた。
『お前はアホか、ユーコの姿を良く見ろ、ユーコもトレーナーの1人だろ』と、『会長』は直也に言った。
直也の気持ちを良く理解していた由子は直也の傍に行き、眼を薄赤くして汗を流し笑う。
『直也なら勝てるよ、絶対に勝てるから』と、由子は汗を拭きながら直也に言った。
由子の言葉は、直也の心に強く響くものがあった。
会長やコーチは1分の間、3人の間での会話を聞いていて直也なら勝てるか?そんな思いを持つようになる。
『直也、勝ちたいのなら、ヤスシの言う通り、ボディだ』と、『会長』は直也にサポートする言葉をかける
『もう、勝ちに行くしかないぞ、判定では相手が有利だ』と『ヤスシ』もサポートする言葉をかける。
『そうですね、相手もその事を充分理解してるはずですから』と『コーチ』も考え方を変えサポートする言葉をかけた。
『わかりました、やってみます』と直也は声かけで何かが変わったようだった。
『よーし、いって来い!』と、『ヤスシ』が言った後だった。
いよいよ3ラウンドのゴングが鳴る。
『カーン!』

両者ともに勢い良く走り、リングの中央で両者のグローブとグローブが軽く当たり戦いは始まった。
両者ともに必死に戦いが始まり、負け劣らずパンチを出し合う。
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!
繰り返されるパンチの連打、10秒が過ぎた頃、直也の右ボディが偶然か必然かわからないが炸裂する。
相手の選手は、一瞬、嫌な顔をし後ろに下がり、足を動かし直也から離れるようになった。
『直也のボディが確実に効いたぞ!よし!』と『ヤスシ』が言った。
『直也!ボディ・ボディ・ボディ!』と、早口の『ヤスシ』の大きな声に合わせて『ボディ』の連打になる。
直也のリングサイド下からリングを叩く音と大きな声が聞こえる。
『応援団のサポーター達』や『観客達』は全く関係なく、皆立ち上がり、リング上の2人の選手を見つめていた。
この試合では誰もが直也と相手の選手を応援し始め、体育館の中一面が一体になったようだ。
しかし声援は一瞬だけ消え去り、しばらくすると、大きな声援が始まった。
直也は相手を追い詰めていく、どこまでも・・・。
『チャンス到来か?・・・』と、直也の脳裏に、この言葉がよぎった。
『いける、いける、いける!・・・』
直也が近づくと、相手はすぐに『クリンチ』をするようになった。
『ヤスシ』の思惑通りになり、そして、相手の『クリンチ』が多くなっていく。
直也は『クリンチ』をする相手を冷静に良く見ていた。
相手の選手の『クリンチ』の瞬間を、直也は見逃す事はなかった。
徐々に『クリンチ』をしてくる間隔があいてきた時だった。
直也は相手を追い詰めていく。
『足なら、大丈夫か』と、直也は思い描いていた。
リスクを負った直也だったが軽いフットワークで、どこまでも・・・。
このクリンチはムエタイではクリンチ状態から、頭、首を制して肘打ちや膝蹴りを放つ技術であるが、ボクシングでは相手に抱きつき動きを止める行為である。
相手が『クリンチ』する瞬間、直也のボディが炸裂する。
相手の選手は『ボディ』を打たれても『クリンチ』で逃れようとする。
直也はクリンチされる時、相手の息づかいを聞き、3ラウンド、2分が経過した後、直也は相手に対しクリンチをさせず、ボディボディボディ!の連打。
『ボディボディボディ!ボディボディボディ!』
リングサイドからも、ボディ・ボディ・ボディ!の声ばかりが聞こえる。
ボディボディボディ!の声援で、直也は右アッパーのように、必死に『ボディ』を狙い打つ。
直也のボディが炸裂すると相手の選手は、無防備状態になり、ボディ・ボディ・ボディの連打によって相手の選手はリング床に膝をついた。
『ダウン・ダウン・ダウン・ダウン・ダウンだ!』
直也はダウンを奪い、カウントダウンだ。
『ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス・・・』
相手の選手は首を振り、『マウスピース』を吐き出し、相手のリングコーナーからはタオルが投げられた。

この3回戦、3ラウンド、激戦の末、直也の腕が上げられた。
直也の3回戦目の『勝利』、手が上げられた時、直也の瞳には涙が浮かぶようだった。
リングサイドに戻ろうと向かう直也は、もうろうとしながら歩き何があったのか殆ど覚えてはいない状態。
『やばいかな俺、限界かな・・・』と、もうろうとして弱気になる直也だった。
こんな思いにかられながらリング下に降りる。
3回戦から4回戦目までの、休憩は10分だけのはずだった。
しかし、レフリーやリングしたの『ジャッチ』審判員達は、何かを話し合い、主催者側と協議を行っていた。
直也がリング下の椅子に座った時だった。
直也の前には少し離れて『ドクター』と『会長』『コーチ』『ヤスシ』が小さな声で話し合いをしている。
試合会場は静かになり『何?何?どうしたの?』とリングを見ながらの声があった。
そして・・・しばらくして・・・。
『=4回戦について、優勝決定戦は30分後に行います=4回戦について、優勝決定戦は30分後に行います=』
体育館のボクシング試合会場の中で2回の放送が流れた。
『どういうことだ?』と、誰もが思っただろう。

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特別版セイネンキゼロ/ポリシー(7)

2017-05-31 10:32:45 | 特別版セイネンキ・ゼロ/ポリシー
直也はボクシングトーナメント試合で、言葉では表せない何か見つけていた。
次は3回戦目、しかし直也には、『緊張感』は殆どなくなり『分析力』と『集中力』で深呼吸を繰り返しながら息を荒くしていた。
直也の頭の中にあるのは、もう『優勝』しか考える事はなかった。
それが直也の『緊張の元』になるが、しかし、この『緊張感』は『マイナス思考』ではなく『プラス思考』が体に働きながら直也を変えていく。
由子は、直也が『久美子』や『春樹』『真一』との別れから、『怒り』と『悲しみ』を抱き囚われた思いから『逃れたい』と思っている事も知っている。
由子は、そっと直也の傍に寄り添い水とタオルを渡した。
そんな由子の顔を見て、直也は頭をかきながら笑う。
由子も直也と同じように笑うと、まるで『恋人同士』のようだった。
直也の通うジムの会長やコーチ、他に通う『訓練生達』は、きっと周囲から見えば2人を見ていた人達は『彼氏と彼女』と恋人同士と思っていたに違いない。
近くで見ていた観客の中で、由子に声をかけてくる人達がいたが、
『話しかけないでください!』と、由子は、なぜか涙目で言葉を返した。
『お前、そんな事言うな』と、由子は直也に言われる。
『ごめんなさい、でもね、直也の為に言ったの』と、由子は答えた。
『どうして?』と、直也は静かな声で聞いた。
『優勝するんでしょ、邪魔な事は、私が許さない』と、由子は直也の本当の思いを感じていたのかもしれない。
直也は、保育園入園してから幼き頃からの『友』として、由子の思いや気持ちは知っていた。
『まるで、お前は久美子みたいだな』と、直也は由子を見ず下向き加減で小さな声で呟く。
『えっ?今なんて言った?』と、由子は直也に聞いた。
『なんでもないよ、お前は馬鹿だ、昔から大馬鹿だよ』と、直也は自分の裏顔の気持ちで答える。
『馬鹿でけっこう、直也の為になるなら、どんな事でもするから』と、直也に言う由子は強気だった。
2人の関係は、由子の片思いかもしれないが、直也の心は由子の思いに揺れ動いていた。
直也自身の心が動くとは思う事はなかった直也は、言葉では言い表せない思いから、リング上のボクシングに目を向ける。
3回戦目となると、更に強い優勝をした事のある選手との戦いだった。
『強いなーそれでも俺は勝つしかないんだよな由子!』
直也は由子に声をかけると・・・。

『絶対に勝ってよね、直也がどんな人間なのか思い知らせてよね』
由子は、まるで、自分がボクシングをしている気持ちで、直也に答えていた。
いよいよ、直也の3回戦目、準決勝が始まろうとしていた。
直也は軽く体を動かし、リング上の勝者を見つめている。
まだ、勝者が決まっていないというのに、直也は勝者を決めていた。
『前回優勝者はアイツだ、この3回戦、絶対に勝つ!』
直也は前回優勝者が勝つと言葉にはせず、自分に『渇』をいれてプラス思考になる新たな思いを胸の内で叫んでいた。
3回戦目の前回優勝者は、3ラウンドまで行われ、判定によって勝者になった。
『アイツはかなり体力を消耗しているはず・・・』
いよいよ直也の3回戦目だ。
この試合を勝ち抜けば、あとは前回優勝者との戦いになる。
直也は、前回優勝者との戦いばかりを考えるようになっていた。
優勝は目の前だ、直也には心の高鳴りによって再び『緊張感』がうまれていたが、その半面には賢い『冷静さ』があった。
直也は過去の事は成長していく過程の過去として考えられ『緊張感』と『冷静さ』の『バランス』を整えていたのだろう。
『さてと、どうするか?アイツには隙がなさすぎる、どうする俺・・・』
緊張感の中、直也は3回戦目で戦うに当たり、『最善の策』というものは無くなっていた。
ただ、前回優勝者は体力の消耗が激しく、椅子に座る姿を見て、直也は、この3回戦は体力を消耗させないようにと自身で考えていた。
その姿をコーチは気づいていたのか?わからないが・・・。
『直也、やれるだけやればいいからな、きっとお前なら勝てるよ、この3回戦もな・・・』
このコーチの一行の言葉で、ふと直也から不思議と緊張感が消える。
それは直也が『素の状態』で『素直』になり『目的』や『動機』を持つ事が出来たからかもしれない。

会長から言われた言葉で『重要なのは1試合ずつ全身全霊で向かい合い試合に勝って行く事』だった。
直也は、会長から常に言われていた言葉をトーナメント試合で忘れていた。
自分自身の状態がどういうものであるのか『緊張感』と『冷静さ』の『バランス』が取れている事に気づくと1回だけ深い深呼吸をする。
直也は体育館の天井を見て、スパーリング中の『ヤスシ』の『アッパー』で気を失った事を思い出していた。
前回優勝者の3回戦目リング上では、前回優勝者の手が上げられた時、3回戦目の相手の姿を見つめていると、相手も直也を見つめていた。
3回戦目の相手は、まるで『闘争心』というか何か『オーラ』というものを直也は感じていた。
直也にはない、何かを持っているかのような選手だった。
3回戦目の相手選手は、身長差はほとんどなく、パンチ力のある選手だった。
リング下に試合を終えた選手と交代で、直也は静かに観客達を見回しながらリングに上がっていく。
『直也!直也!直也!・・・』『大島!直也!大島!直也!・・・』
直也の声援が多くなっている、由子の大声援の声も聞こえないくらいになる。
リングコーナーでは、プロテスト前の『ヤスシ』と『コーチ』は、直也に声をかける事はない。
会長は腕を組み、ただ、直也の顔を見つめているだけだった。
直也にアドバイスをするトレーナー役は、この時は誰もいない、直也自身に任せる事にした。
由子の大声援の声も聞こえないくらいになると、由子は今度はタオルを振り回し始める。

そして『カーン!』
3回戦目1ラウンドのゴングが鳴った。
相手選手のフットワークの速さは、直也とほぼ同じ、今までの選手の眼つきとは違った。
直也は、とにかく勝つ事、自分を信じて相手の動きにあわせていくが、直也のフットワークよりも速くなっていく。
『なんだ!コイツ、コイツ強いぞ、それに素速い』
直也は相手の選手から、距離を測りながら心の中で思っていた。
『どうするか、どうする、俺、大島直也!』
直也は、そう焦る事はなく冷静さを保ちながら、身体を揺さぶっていく。
直也は相手の隙を伺いながら、相手よりも先に、ジャブ!
『入った!これならいける』と直也は、身体で感じるものがあった。
見た目ばかりを見ていた直也は、軽いジャブが入る事に、相手の懐へ入ると、ジャブ!そしてすぐに後ろに下がる。
この繰り返しが、1ラウンド続けられ、相手は嫌な顔を見せたが、直也はこのラウンドで鋭い集中力で体力を消耗していた。
『チャンスがきた!』と思った時だった。
『カーン!』
3回戦目、1ラウンドの終了のゴングが鳴った。
チャンスを逃してしまった直也は、息を荒くしていた。
手ごたえを感じた直也は、コーナーの椅子に座ると相手を見ながら笑っているが、体力の消耗に気づく事はなかった。
『勝てる』とそればかり直也は考えていた。
会長やコーチが教えていない事を、この試合で直也は自分自身で学んでいく。
同じジムに通う訓練生達は、直也の戦いに首を振りながら、信じられないと思っていた事だろう。
これが直也の持つ強さでもあり弱さでもあったのだ。
見た目は強く感じるが、落胆した時、直也のもろい刃の様な心は立ち直る事に時間がかかる。
人間はある程度に強さと弱さを持っているが、直也の場合は、完璧さを求める為に、ある程度では済ます事ができないのだ。
やり遂げる為には、どんな事を考え、どういう行動を起こせばいいのか。
直也は、自然と身についている産まれつきの素質の1つだった。

しかし『会長』と『コーチ』だけは、その素質は強いものでもあり、直也自身を壊してしまう事もある素質でもある事に気づいていた。
プライドを持つ事は良いが、そのプライドの使い方によっては、人を傷つけ、自分をも傷つけてしまう事もある。
直也にはプライドだけではなく、他の何かが必要だった。
直也が持つプライドを、コントロールできるのだろうか?
直也優先に動いているが、この3回戦は厳しい戦いになると、『会長やコーチ』は思っていた。
直也に、声をかけようか迷う『会長やコーチ』だった。
しかし、プロテスト前の『ヤスシ』は、リングサイドで直也に耳打ちしていた。
何を伝えているのか、それは『直也』と『ヤスシ』にしかわからない。
何を伝えたのか、それは2ラウンドの結果に出てくるのだ。
『直也!思い通りにやってこい!』
『はい、先輩!』
ジムでは敬遠の中であった『ヤスシ』は、直也の何かに気づいたようで、直也と顔を合わせ笑っていた。
『カーン!』
2ラウンド目のゴングが鳴ると直也がとった行動は『ヤスシ』に言われた通り、相手にパンチを出来る限り打たせるという行動だった。
あえて隙を見せ、ガードを深く、ガードによって、パンチ力を見ると同時に、相手のボクサーとしての癖を見つけていくのだ。
まさかここまでとは・・・。
中学生では恐怖を感じるところだが、直也は相手のパンチを『グローブ』と『腕』でガードをする中で、相手を見つめながら笑っていた。
『来い!来い!来い!来い!来い!・・・』

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特別版セイネンキゼロ/ポリシー(6)

2017-05-25 14:56:06 | 特別版セイネンキ・ゼロ/ポリシー
1回戦目と同じようにフードをかぶり試合会場に入ると、直也には最初に感じていたものとは違う感じがした。
2回戦目から、選手8名で控室に戻る事はない。
1回戦目は『極度の緊張感』がある事から控室で休憩をしたが、2回戦目からはリング下で自分の順番がくるまで、リング上を見つめる事になる。
極度の緊張は、思春期頃の選手であれば知らず知らずに誰もが持つものだった。
ボクシングトーナメント試合のルールでは『極度の緊張』に配慮したルールになっていた。
2回戦目から試合が終わったとしても、次の試合までリング下で椅子に座りリング上を見つめる事になる。
控え室にいては、思春期頃では控え室にいれば『不安感』『恐怖感』『緊張感』が増す可能性がある為、リング上の試合を見る事で減少されると思われていた。
選手達の『安心感』を与える思考や意識を変える事が考慮されていた。
『強い、強いな・・・』『次の相手になるのは誰だ・・・』と、選手達は考え次の試合の事を考え集中する。
2回戦目となると、それぞれが自分の体力を考え、1回戦目とは違うと思っていた直也や他の選手達は、次の相手の選手を見つめていた。
『あの野郎、笑ってやがる・・・くそっ!・・・』
直也は、前回3位の次の相手を見ながら思っていた。
次の相手の笑う姿によって再び『緊張』だけでなく『闘争心』に火がついた様に心の中で動き始まった直也の心である。
『相手の作戦に惑わされるな、いいな、今は心理戦だ』と、『会長やコーチ』は直也に声をかける。
『え?なんで?・・・』と、直也が不思議な笑みを浮かべると『ヤスシ』はリング上を見ながら笑っていた。
『この待ち時間は、心理戦だ、アイツラを気にしすぎるな』と、『会長やコーチ』は直也に声をかけ、緊張をほぐそうとしていた。
しかし、この時の『ヤスシ』の笑う姿を見る直也には、すでに『覚悟』という気持ちが抱かれていた。

2回戦目からは誰もが緊張がほぐれる、しかし、互いに戦うもの同士は、相手のファイティングタイプを気にする。
直也にとっては、初めてのボクシングトーナメント試合、自分1人で戦う事はできなかった。
コーチの声かけで『心理戦か』と気づき、直也の『緊張感』は消えていった。
『これがボクシングか、相手を思い心理的な作戦もあるのか・・・ならその心理戦に勝ってやる・・・』
『会長やコーチ』の声かけは、緊張をほぐすだけでなく、直也に初めて本当のボクシングを教えていた。
ジムでの練習では、教えられない事を試合の中で教えていくのだ。
1回戦目は、八組目、2回戦目は、四組目・・・。
前回1位の選手は一組目、という事は直也が勝ち進めば、最終的に前回優勝者との戦いになる。
由子は直也の隣に座り、直也の横顔を見つめている。
コーチは直也の肩や首をマッサージし、リング下にいる由子の一席を開けて隣には、同じジムに通うプロテスト前の『ヤスシ』が座っていた。
『ヤスシ』は椅子から立ち上がり、リング上の試合を見ながら直也に近づき声をかけた。
『直也、次の試合から俺もリングサイドにつくからな』
『トレーナーの会長とコーチだけじゃないの?』と、緊張感の全くない直也の姿を『ヤスシ』『ユウコ』『会長やコーチ』は笑う。
『お前が面白くなったよ、お前と一緒に戦いたくてな』と『ヤスシ』は言った。
『え?なんで・・・』と、また直也を見て笑みがある。
『3カ月ぐらいで、お前はプロテスト受けてるみたいだ』と『ヤスシ』は言った。
ジムのリングでスパーリングの時、たった一発のアッパーで倒された『ヤスシ』からの言葉は直也を勇気づけた。
『俺が面白いって?なんだよ!・・・』と、直也は思うが『ヤスシの気遣い』に感謝してたのだろう。
言葉にはしないが直也は胸の内で思った。

試合会場の観客達や応援団のサポーター達、次の相手の選手だけでなく他の選手も皆、プロテスト前の『ヤスシ』の事を知っている。
『まさか、プレッシャーが?消えた?・・・』と直也は思えた。
会長は、リング上だけでなく、周囲の観客や応援団のサポーター達、選手達の動きの流れを見ていた。
そして、直也が選手達にプレッシャーをかけるとすれば、プロテスト前の知られた『ヤスシ』をリングサイドに置く事こそ『最善の作戦』であったのだ。
プロテスト前の『ヤスシ』は、高校一年生、中学時代トーナメント3回の優勝した選手だった。
誰もが知る『ヤスシ』は、会長に自分がリングサイドにつく事を交渉していたのだ。
何故かと言えば『心理戦』にも勝つ為である。
それだけではない、『ヤスシ』は直也の天才的なものがどういうものか、知りたかったのだ。
直也にとっても、強い『ヤスシ』がリングサイドにつく事で『不安感』が取り除かれていく。
そろそろ四組目の試合だ。
『直也、気を付けてね、馬鹿な事考えないようにね』
由子が直也に声をかけると、直也は笑顔でうなずいてリング上へ向かう。
『ん、何だよ・・・馬鹿な事って・・・』と直也は思いつつ、ふと『ユウコ』の言葉で『迷い無き暴力?』と思い出した事である。
由子は直也の事を全て知っている存在でもあり、表現力にとんだ能力もあった。
リングの上に立つ直也は、何かを祈るかのように深呼吸をしている。
直也は孤独に戦っているのでなく、共に戦ってくれている『セコンド』がいる事に気づいていく。
プロテスト前の『ヤスシ』は、直也に言葉をかけずに直也の姿を見つめるだけで、これも心理戦の1つだった。
戦う相手は直也サイドの行動を気にしている。
会話もなく、あいづちだけで、あうんの呼吸で何かを伝えているとなれば、相手の不安材料の1つにもなるかもしれないのだ。
リングサイドのセコンドについた『会長とコーチ』と『ヤスシ』に、直也は首を縦に振り笑顔を見せるだけであった。
『え?直也が笑った?どうして・・・』
由子は『直也は誰にも心を開く事がなかったのに?』と胸の内で思っていた。
一時的なものだが、この日から直也の成長が始まったのだ。
そして、ゴングが『カーン!』と鐘が鳴ると、直也の眼つきは瞬時に変わった。
眼(ガンツケ)を飛ばす眼ではなく、冷静な覚めた目つきで、リングの中央に向かう。

ジム関係者によって『勝利』への策は作られ、あとは、直也がどう動いていくか、どう試合を進めていくかであった。
さすがに、2年目の選手は、軽く速いスピードのフットワークで直也の動きを崩そうとするが、直也は何かにとりつかれたように、相手の動きに冷静についていく。
相手の選手は、自分のフットワークについてこられる事に『イライラ』しているようだった。
直也のフットワークは、相手の選手には楽について行けるようだった。
直也は何かに気づいたようで、距離を測り始める。
相手の選手は、よほど直也に『イライラ』していたのだろう。
先に左ジャブを打ってきたのは相手の方だった。
『いける、いけるぞ!』
直也の中で、何かが動き始めていた。
直也のフットワークは、相手を上回り瞬時に相手のパンチに『腕』と『グローブ』で反応する。
直也は軽く手を伸ばすだけで、自分の体力を考えていたに違いない。
『カーン!』
1ラウンド終了のゴングが鳴る。

リングのコーナーの椅子に座り直也は相手になる選手を見ながら笑っていた。
『直也!いけるか?』
『当り前のこと、聞かないで下さいよ』
『ん・・・そうか?』
リングサイドからの声に直也が答えると、『会長とコーチ』や『ヤスシ』からは、もう何も声をかける事はなかった。
『カーン!』
2ラウンド目の『ゴング』が鳴ると、直也は一気に走り出し、身長差があるというのに自分にあえて不利な姿勢をとった。
強引に選手相手の懐に入り、腰を低くし突如『ボディ、ボディ、ボディ』の連打、直也のボディの連打に不意を突かれた相手は、苦しかったのか顔色を変え、ガードが下がったところで『ジャブ、ジャブ』の連打。
相手がガードを上げたところで、再び『ボディ、ボディ、ボディ』の3連打。
相手の選手は、膝をつき、ダウン、そしてカウントが始まると、直也は両手を挙げ、コーナーへ戻る。
『もう終わったよ、ふー』
『セコンド』の『会長やコーチ』にではなく、『由子』を見ながら言った。
その後に深い深呼吸をして、『会長とコーチ』と『ヤスシ』にも同じ言葉で声をかけた。
この2回戦目は、2ラウンド目、約1分で終わった。
この2回戦で、観客の応援の声の中には『由子』が『大島!直也!大島!直也!・・・』と叫ぶ。
『大島!直也!大島!直也!・・・』と『由子』の叫びに合わせる観客席だ。
直也への声援が増えてきていた。
直也は『観客達』や『応援団のサポーター達』に、直也自身の有能さを認めさせた時である。
直也はリングのコーナーの椅子に座った相手へ、握手を求め直也の表情には余裕すらみえるようだった。
リングから降りた直也が、見つめる先にいるのは、前回優勝した選手の姿があった。
『直也、お前、優勝を狙ってるんか?』と、会長は直也の速い変化に、しどろもどろしながら声をかけた。
『俺は、勝つ為に、リングに立ってるんでしょ、会長』
直也は会長の声かけに答える。
ボクシングを始めて、まだ3カ月、直也のボクサーとしての成長は、直也の心の成長となるよう会長は願っていた。
直也が、なぜボクシングジムに通う事になったのかを良く知っていたからだ。
『なら絶対に勝て、直也、優勝は目の前だからな』
『はい・・・』
直也の素直な一言に『会長やコーチ』は驚きを隠せず無言、『ヤスシ』と『由子』は驚く事無く直也を見つめ微笑むだけだった。

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