金融市場の乱調が続く中、米国の利上げ時期をめぐり不透明要因の解消につながるとの見立てから、外為市場の一部では9月の可能性を依然として探る声がくすぶっている。来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)まで1週間余り。ポイントとなる市場のリスクセンチメントがどこまで改善するのか、神経戦が続く。
「片方を立てれば、片方が立たない。多少の手傷を負うことは覚悟の上で、早めに利上げし、ひとつでも不透明要因をなくした方がいいのではないか」──。一部の国内金融機関の外為ディーラーたちから、こうした言葉が聞かれる。
足元の市場変調の背景には、主に2つのリスク要因が潜んでいる。中国経済の先行きに対する警戒感と、米国の利上げが世界経済に与える影響だ。
米国が利上げすれば、金融引き締め効果によって、成長の鈍化が懸念されている中国をはじめ新興国へと注ぎ込んでいた緩和マネーが巻き戻され、こうした国々の経済を揺さぶりかねないと警戒されている。
一方、米経済指標を見る限り、米国内の利上げに向けた環境は整いつつあるというのが大方の見方だ。米8月雇用統計では、非農業部門の雇用者数が市場予想を下回ったが「8月はもともと市場予想比でブレやすい」(国内証券)との受け止めもある。失業率は7年半ぶりの水準まで改善し、賃金上昇も加速しており「利上げに向けた労働市場の環境は整った」(国内金融機関)との見方は多い。
7月のFOMCでは、労働市場がさらに幾分改善し、中期的にインフレ率の2%目標に回帰すると合理的な自信が得られる場合、FF金利誘導目標の引き上げが妥当との利上げ開始の「条件」を掲げた。SMBC日興証券の米欧担当シニアエコノミスト、丸山義正氏は、これが「概ね充足された可能性が高い」と指摘している。
ハト派で知られるコチャラコタ米ミネアポリス地区連銀総裁ですら、超低金利は借り入れを増やし、バブルとその崩壊という金融不安を招く恐れがあると8日に発言。利上げタイミングを逸すれば、新たなリスクを招く恐れもある。
野村証券のチーフFXストラテジスト、池田雄之輔氏によれば、先物市場での利上げ時期の織り込みの割合は、9月が28%、10月が13%、12月が18%、年内見送りが41%。先週末に比べて年内見送りとの見方がやや低下した一方、9月も2%減っており、「状況は改善しているものの9月17日の会合には間に合わないという反応だろう」(池田氏)という。
<リスクセンチメント、見極め段階>
16─17日のFOMCに向けて市場では「市場のリスク回避ムードの落ち着き具合がひとつのポイント」(国内金融機関)との受け止めが出ている。
9日は株価が大幅反発したが、むしろボラティリティの高さの反映でもあり、いずれ反動が大きく出る恐れもある。金融市場が不安定なまま9月利上げ開始の決定となれば、直後の激震は免れないとの市場の警戒感は強い。
利上げを受けて米短期金利が急上昇するようなら、短期的にリスク回避ムードが高まりやすいとの見方はやはり、有力だ。2004年以降の前回利上げ時には、一時的にリスク回避が強まり、円高が進行した場面があった。
もっとも、FOMCが、米金融政策の正常化プロセスのスタートと、金融市場の安定との一挙両得を目指すとの見方もある。
SMBC日興証券の丸山氏は「9月の利上げ開始は、利上げ先送りの場合に金融市場に残存し続ける不透明要素をひとつ減らすことに寄与する」と指摘する。その上で、FOMCが追加利上げを極めて慎重に判断し緩やかなペースにする意向を、従来よりも明確に示すとみている。
今週末13日には、中国で8月小売売上高や鉱工業生産、都市部固定資産投資などの経済指標の発表を控えている。こうしたイベントを経て、市場のセンチメントはどちらに傾くのか。
足元で、投資家の不安心理を示すVIX指数は24.9となっており、直近のピーク8月24日の53.29からは低下したとはいえ依然、高水準だ。野村証券の池田氏は「9月利上げの目安は、VIX指数で20。これを下回るには、もう一段のセンチメント改善が必要だ」と指摘している
(平田紀之 編集:橋本浩)
「片方を立てれば、片方が立たない。多少の手傷を負うことは覚悟の上で、早めに利上げし、ひとつでも不透明要因をなくした方がいいのではないか」──。一部の国内金融機関の外為ディーラーたちから、こうした言葉が聞かれる。
足元の市場変調の背景には、主に2つのリスク要因が潜んでいる。中国経済の先行きに対する警戒感と、米国の利上げが世界経済に与える影響だ。
米国が利上げすれば、金融引き締め効果によって、成長の鈍化が懸念されている中国をはじめ新興国へと注ぎ込んでいた緩和マネーが巻き戻され、こうした国々の経済を揺さぶりかねないと警戒されている。
一方、米経済指標を見る限り、米国内の利上げに向けた環境は整いつつあるというのが大方の見方だ。米8月雇用統計では、非農業部門の雇用者数が市場予想を下回ったが「8月はもともと市場予想比でブレやすい」(国内証券)との受け止めもある。失業率は7年半ぶりの水準まで改善し、賃金上昇も加速しており「利上げに向けた労働市場の環境は整った」(国内金融機関)との見方は多い。
7月のFOMCでは、労働市場がさらに幾分改善し、中期的にインフレ率の2%目標に回帰すると合理的な自信が得られる場合、FF金利誘導目標の引き上げが妥当との利上げ開始の「条件」を掲げた。SMBC日興証券の米欧担当シニアエコノミスト、丸山義正氏は、これが「概ね充足された可能性が高い」と指摘している。
ハト派で知られるコチャラコタ米ミネアポリス地区連銀総裁ですら、超低金利は借り入れを増やし、バブルとその崩壊という金融不安を招く恐れがあると8日に発言。利上げタイミングを逸すれば、新たなリスクを招く恐れもある。
野村証券のチーフFXストラテジスト、池田雄之輔氏によれば、先物市場での利上げ時期の織り込みの割合は、9月が28%、10月が13%、12月が18%、年内見送りが41%。先週末に比べて年内見送りとの見方がやや低下した一方、9月も2%減っており、「状況は改善しているものの9月17日の会合には間に合わないという反応だろう」(池田氏)という。
<リスクセンチメント、見極め段階>
16─17日のFOMCに向けて市場では「市場のリスク回避ムードの落ち着き具合がひとつのポイント」(国内金融機関)との受け止めが出ている。
9日は株価が大幅反発したが、むしろボラティリティの高さの反映でもあり、いずれ反動が大きく出る恐れもある。金融市場が不安定なまま9月利上げ開始の決定となれば、直後の激震は免れないとの市場の警戒感は強い。
利上げを受けて米短期金利が急上昇するようなら、短期的にリスク回避ムードが高まりやすいとの見方はやはり、有力だ。2004年以降の前回利上げ時には、一時的にリスク回避が強まり、円高が進行した場面があった。
もっとも、FOMCが、米金融政策の正常化プロセスのスタートと、金融市場の安定との一挙両得を目指すとの見方もある。
SMBC日興証券の丸山氏は「9月の利上げ開始は、利上げ先送りの場合に金融市場に残存し続ける不透明要素をひとつ減らすことに寄与する」と指摘する。その上で、FOMCが追加利上げを極めて慎重に判断し緩やかなペースにする意向を、従来よりも明確に示すとみている。
今週末13日には、中国で8月小売売上高や鉱工業生産、都市部固定資産投資などの経済指標の発表を控えている。こうしたイベントを経て、市場のセンチメントはどちらに傾くのか。
足元で、投資家の不安心理を示すVIX指数は24.9となっており、直近のピーク8月24日の53.29からは低下したとはいえ依然、高水準だ。野村証券の池田氏は「9月利上げの目安は、VIX指数で20。これを下回るには、もう一段のセンチメント改善が必要だ」と指摘している
(平田紀之 編集:橋本浩)