アボルダージュ!!

文芸及び歴史同好会「碧い馬同人会」主宰で歴史作家・エッセイストの萩尾農が日々の思いや出来事を語ります。

百年の後(のち)を計画する

2015-01-13 | その他
昨年の6月頃の新聞のコラム『時代を読む』―に、「現在の状況を理念のない状態だ」といったことが書かれていた。(タイトル「理念なき劣化した社会」)
書いたのは、立教大学大学院教授で哲学者の内山節氏。

新年になって、それをふいと思い出した。
そうして、もっともだ―と思った。
五年ごとに全国の都道府県は「新総合計画」なるものを作成するそうだ。
ところが、

《先端産業の育成とか、高速交通網、高速通信網の整備、子どもたちの生きる力を育むなどとともに、自然と共生する県づくり、弱者に優しい県づくりなどが並んでいる。》

と、その基本計画はどこの都道府県も同じような内容だということだ。
どうして同じような内容になるのか、内山氏は「五年計画であるところに理由がある」と気がついたそうだ。

《どの都道府県でも当面の課題をもっている。五年計画だとその当面の課題を列挙することになり、同じようなものになっていく。》

内山氏は、その時、関わった群馬の「新総合計画」で、五年計画をやめて、百年計画に変更したという。
この百年の後を考える事が、特に、今のこの国に必要なのだーと、そのコラムを読んだ時に思っていた。
以下である。

《百年後というと、いま生まれた子や孫が最晩年を迎えているころである。だから子や孫が年をとっても困らない群馬をつくるにはどうすればよいのか、それを考え方の柱に据えたのである。
 五年から百年に計画期間を延長してみると、「つくる」計画が意味をもたなくなってしまった。たとえば百年後にどんな交通手段や通信手段が用いられているのかがわからないのだから、高速道路をつくるなどといっても意味がない。百年後の社会の姿がわからない以上、「つくる計画」は立てようもないのである。逆に重要になったのが「残す計画」だった。社会がどんなに変わっていても、これだけは残しておかないといけない、そういうものをしっかり残す計画に変わった。》

「残す計画」―素晴らしいと思った。

《どんな社会になっていたとしても、自然は残しておかないといけない。二次、三次産業は変わっていくだろうけれど、農業などの一次産業はしっかり残しておかないとうまくない。
たとえどんな社会になっていたとしても、コミュニティーや本物の地域自治のかたちも残さなければいけないし、そして何よりも、さまざまな課題に対して考えつづける風土を残さなければならない。もちろん残すためには、都市のコミュニティーのように「つくって残す」ものもあるが、それは公共事業のようなものではないのである。》

《百年計画の理念を提起し、それに基づいて県が事業計画を策定したものが、このときの「新総合計画」だったが、重要なのは、どんな時間幅で物事を考えていくのかだった。それによって、みえる世界が変わる。》

そう、本当は、今こそ、「みえる世界」―目線、視線の先を変えなければいけないのだ、もう遅いくらいかもしれないのだ。

《 ところが今日の政治や経済は、きわめて短期間の、いわば目先の利益ばかりを追っている。百年後にも人々が平和を享受できるようにするにはどうしたらよいのか、というような発想はどこにもないままに集団的自衛権を強行しようとする。百年後にも通用する憲法の役割を考えるのではなく、解釈の変更だけで事実上の憲法改定をもたらそうとする。経済と社会の関係を考えることもなく、「成長戦略」と称して、原発の再稼働と輸出、武器輸出、観光客を呼び込むためのカジノの建設、法人税減税などをすすめようとする。
 おこなおうとしていることは、当面の政策でしかないのである。これからの社会に対する理念がなくなっている。》

そして、コラムは
《もっと長い時開幅で考えなければ、理念は生まれないのだから。私はそれは劣化した社会の姿だと思う。》

という、もっともな指摘である一文で終っていた。 


新しい年になって、もう十日以上が過ぎた。
この年も、また、ものすごい速さで過ぎていくのだろうーと思うと、その早さに目をくらまされて、「これも秘密、あれも秘密」と特定秘密保護法に隠されて、この年が終る頃に、
「エ~ッ!何で、こんな世の中になった~!」
という言葉を吐かずに済むように、やっぱり、目を凝らしていないとだめなんだろうなぁ。
百年の後を思ってもくれない、考えてもくれない、だから、計画してくれるはずもない政府(おかみ)のつくる世情の中では…。

そうだ!地球上のあらゆる国が、あらゆる為政者たち、あるいは、権力者たちが、そうして、何より、庶民たちが、「百年後まで残すこと」を考えたら、全世界の問題の殆どは、解決するだろうに…。








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