いまは銭湯でもホームページを持っているが、ここはそういう気はまったくないらしい。「手稲区 あけぼの湯」でGoogle検索すると地図が見られるので、まぁそれでいいのだ。
手稲区のいまの家に引っ越したころはまだ銭湯ブームにはなっておらず、しかし嫁さんの風呂好きに引きずられて転居先でも銭湯を探した。自宅に帰ってもパソコンと格闘している亭主なので、外に連れ出さない限りコミュニケーションの取りようがない。夫婦の会話を最小限でも確保しようという嫁さんの苦肉の策でもあったわけだ。すいませんね、こんな亭主で。
探して見つけたのが琴似に一軒と、小樽寄りの曙(あけぼの)と呼ばれる地域に二軒。琴似の方はわからないが、曙の二軒のうち一軒はこないだ店を畳んだACB(これで「あしべ」と読ませる)。もう一軒がこの「あけぼの湯」。
あけぼの湯は「家族風呂」と呼ばれる少人数で入浴できる施設と、普通の銭湯の施設が併設されている。最近はやりの大型銭湯はドデカい浴槽が自慢だが、一時期は銭湯に家族風呂を併設するのがはやりだった。家庭の浴室よりはずっと大きめの部屋割り(?)で、気兼ねなく家族でゆったりと入れるだけ銭湯よりは料金が少し高い。家族風呂に入りに行くというのは庶民のささやかな贅沢であったわけだ。
そのささやかな贅沢を楽しんでいるうちに銭湯ブームがやってきた。家族風呂のあずましさ[*1]はないが大きな湯船にたっぷりと浸かる楽しみもまた格別。設備はきれいだし食事もできるということで、夫婦の会話の場は浴槽から食堂へ移り、いつしかあけぼの湯の家族風呂には足が向かなくなっていった。
*
最近になって思いだして行ってみたのだが、改装中ということで銭湯の方が閉まっていた。家族風呂は営業しているのだが、とうとう入らずじまいだった銭湯の方に入りたいと思って改装が終わるのを待っていた。
噂で改装が終わったらしいと聞いたので昨日、買い物のついでに立ち寄った。少なくとも外装は「改装」の範囲外だったようで、昔ながらのボロ…いや、雰囲気のある店構えだ。入ってみると番台と休憩所が新しい。これは改装の範囲内か。
脱衣所に入ってみるが、以前の姿を知らないまでも改装の跡を感じさせるものはない。ガラス越しに覗いてみた浴室も昔ながらの、いまとなっては狭くて古びた感じの浴槽があるのみ。もしかしたら以前はなかったのかも知れない、サウナ室が改装の成果なのだろうか。
ともあれ浴室に入ってみると、正面に仁王立ちになっているお兄さんが昔ながらのモンモンだ。それも全身だ。しばらくこういう見事な彫り物を見た記憶がないので、少し引いた。身体を洗って湯船に浸かると、その辺で世間話に興じている五十代から六十代くらいの叔父さんたちの話題から、彼らもまたそのスジに近い人たちであることがうかがえる。
別に驚くことはない。最近は当局のご指導があるのか「ボディアートの方お断り」が当たり前になってしまったが、アタシのガキのころはこういう風景は当たり前だった。だいたい公衆浴場に来るお兄さんや叔父さんたちは風呂に入りに来ているのであって、喧嘩をしに来ているわけでも凄みに来ているわけでもない。怖いといえばこのごろは、「そんなことをする人には見えなかった」普通の人の方がよほど怖い。
まぁそりゃいいが、もうひとつ昔ながらがあった。いまは混合栓が当たり前になっているが、ここのカランは湯と水が別々だ。湯桶の中で自分で混ぜて温度調整をするのだ。しばらくやっていなかったので最初はうまく調節ができなかったが、慣れてみればなんのことはない。知らず知らずのうちに人間はずいぶん手抜きをするようになり、その分だけ頭を使わなくなってアホになってきたのだろう。
浴槽の温度はこれまた昔ながらで、少し熱めだ。そうそう、風呂ってのはこれくらい熱い湯に浸かるものだった。近ごろは熱湯(「ねっとう」ではなく「あつゆ」だ。念のため)とぬるめの湯があるのが普通になっているから慣れるのに少し時間がかかったが、そのうち体が慣れてくれる。肌がつるつるになる天然温泉の湯にしっかりと浸かって上がると、全身から汗が噴き出してくる。これはなかなかいい気分だ。
忘れるところだった。またまた昔ながらだが、女湯から「ちょっとー、五時? 五時半?」という声が飛んでくる。めんどそうに「五時半ーっ」と答えている親父さんがいる。夫婦で来ていて、男湯と女湯の仕切り越しに上がる時刻を確認しているのだ。
そうそう、こんなふうにしていたよなぁ。
このごろの大型銭湯ではこんな確認ができるような構造ではないし、早く上がった方は広々とした休憩施設や食堂で待っていられるのだから困らない。昔は男女共用の休憩所などという洒落たものはなかったから、時刻合わせをしくじると湯冷めするまで脱衣所で待つ羽目になるのだ。なお、大声を出したくない女の人は男女浴室の間仕切りを開けて子供を伝令に走らせるというワザを使っていた。
サウナに入らないアタシには、露天風呂がないので時間のつぶしようがない。嫁さんとの時刻合わせの1時間半は暇をもてあまして少しつらかったが、何度も湯船に浸かったり、また汗を流しながら冷ましたりを楽しんでいた。昔はこんなに長くは入っていなかったかなぁ、などと思い出しながら。
--- 手稲区 あけぼの湯 ---
むかしを思い出したい人は、どうぞ。
[*1] 「あずましい」とは落ち着くとか、気分がゆったりするという意味の北海道弁。
手稲区のいまの家に引っ越したころはまだ銭湯ブームにはなっておらず、しかし嫁さんの風呂好きに引きずられて転居先でも銭湯を探した。自宅に帰ってもパソコンと格闘している亭主なので、外に連れ出さない限りコミュニケーションの取りようがない。夫婦の会話を最小限でも確保しようという嫁さんの苦肉の策でもあったわけだ。すいませんね、こんな亭主で。
探して見つけたのが琴似に一軒と、小樽寄りの曙(あけぼの)と呼ばれる地域に二軒。琴似の方はわからないが、曙の二軒のうち一軒はこないだ店を畳んだACB(これで「あしべ」と読ませる)。もう一軒がこの「あけぼの湯」。
あけぼの湯は「家族風呂」と呼ばれる少人数で入浴できる施設と、普通の銭湯の施設が併設されている。最近はやりの大型銭湯はドデカい浴槽が自慢だが、一時期は銭湯に家族風呂を併設するのがはやりだった。家庭の浴室よりはずっと大きめの部屋割り(?)で、気兼ねなく家族でゆったりと入れるだけ銭湯よりは料金が少し高い。家族風呂に入りに行くというのは庶民のささやかな贅沢であったわけだ。
そのささやかな贅沢を楽しんでいるうちに銭湯ブームがやってきた。家族風呂のあずましさ[*1]はないが大きな湯船にたっぷりと浸かる楽しみもまた格別。設備はきれいだし食事もできるということで、夫婦の会話の場は浴槽から食堂へ移り、いつしかあけぼの湯の家族風呂には足が向かなくなっていった。
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最近になって思いだして行ってみたのだが、改装中ということで銭湯の方が閉まっていた。家族風呂は営業しているのだが、とうとう入らずじまいだった銭湯の方に入りたいと思って改装が終わるのを待っていた。
噂で改装が終わったらしいと聞いたので昨日、買い物のついでに立ち寄った。少なくとも外装は「改装」の範囲外だったようで、昔ながらのボロ…いや、雰囲気のある店構えだ。入ってみると番台と休憩所が新しい。これは改装の範囲内か。
脱衣所に入ってみるが、以前の姿を知らないまでも改装の跡を感じさせるものはない。ガラス越しに覗いてみた浴室も昔ながらの、いまとなっては狭くて古びた感じの浴槽があるのみ。もしかしたら以前はなかったのかも知れない、サウナ室が改装の成果なのだろうか。
ともあれ浴室に入ってみると、正面に仁王立ちになっているお兄さんが昔ながらのモンモンだ。それも全身だ。しばらくこういう見事な彫り物を見た記憶がないので、少し引いた。身体を洗って湯船に浸かると、その辺で世間話に興じている五十代から六十代くらいの叔父さんたちの話題から、彼らもまたそのスジに近い人たちであることがうかがえる。
別に驚くことはない。最近は当局のご指導があるのか「ボディアートの方お断り」が当たり前になってしまったが、アタシのガキのころはこういう風景は当たり前だった。だいたい公衆浴場に来るお兄さんや叔父さんたちは風呂に入りに来ているのであって、喧嘩をしに来ているわけでも凄みに来ているわけでもない。怖いといえばこのごろは、「そんなことをする人には見えなかった」普通の人の方がよほど怖い。
まぁそりゃいいが、もうひとつ昔ながらがあった。いまは混合栓が当たり前になっているが、ここのカランは湯と水が別々だ。湯桶の中で自分で混ぜて温度調整をするのだ。しばらくやっていなかったので最初はうまく調節ができなかったが、慣れてみればなんのことはない。知らず知らずのうちに人間はずいぶん手抜きをするようになり、その分だけ頭を使わなくなってアホになってきたのだろう。
浴槽の温度はこれまた昔ながらで、少し熱めだ。そうそう、風呂ってのはこれくらい熱い湯に浸かるものだった。近ごろは熱湯(「ねっとう」ではなく「あつゆ」だ。念のため)とぬるめの湯があるのが普通になっているから慣れるのに少し時間がかかったが、そのうち体が慣れてくれる。肌がつるつるになる天然温泉の湯にしっかりと浸かって上がると、全身から汗が噴き出してくる。これはなかなかいい気分だ。
忘れるところだった。またまた昔ながらだが、女湯から「ちょっとー、五時? 五時半?」という声が飛んでくる。めんどそうに「五時半ーっ」と答えている親父さんがいる。夫婦で来ていて、男湯と女湯の仕切り越しに上がる時刻を確認しているのだ。
そうそう、こんなふうにしていたよなぁ。
このごろの大型銭湯ではこんな確認ができるような構造ではないし、早く上がった方は広々とした休憩施設や食堂で待っていられるのだから困らない。昔は男女共用の休憩所などという洒落たものはなかったから、時刻合わせをしくじると湯冷めするまで脱衣所で待つ羽目になるのだ。なお、大声を出したくない女の人は男女浴室の間仕切りを開けて子供を伝令に走らせるというワザを使っていた。
サウナに入らないアタシには、露天風呂がないので時間のつぶしようがない。嫁さんとの時刻合わせの1時間半は暇をもてあまして少しつらかったが、何度も湯船に浸かったり、また汗を流しながら冷ましたりを楽しんでいた。昔はこんなに長くは入っていなかったかなぁ、などと思い出しながら。
--- 手稲区 あけぼの湯 ---
むかしを思い出したい人は、どうぞ。
[*1] 「あずましい」とは落ち着くとか、気分がゆったりするという意味の北海道弁。
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