気になること

視点を変えて、近頃気になること

尊敬に値する市井の人

2018-11-04 14:50:57 | 日記
 机の上のフォトフレームに、一枚の写真がある。
 九十度近く腰の曲がった近所のお婆さんがしゃがんで、田の畦の草取りをしている。秋なので、お婆さんの背後は黄色い稲穂の海、前側はお婆さんの所有する田んぼだが、休耕しているため色は「茶」である。かつてのコメ生産調整政策の一過程で、国が各戸に減反面積を配分したときに休耕した田んぼであるが、生産調整が無くなった後も休耕を続けていた。

 休耕田は荒地化を防ぐため、田の草取りなどの自己保全を求められた。生産の無い休耕田を管理するインセンティブについて所得保障制度などもかつては存在したが、ハッキリ記述できないくらい政策が激しく変わって補償は無くなった。
 それでも休耕を続け、水を張っていても生えてくる田の草を大きくしないように長男が耕運機で耕し、四方の畦の草は腰の曲がったお婆さんが手で取っていた。

 昨年、そのお婆さんも亡くなって、田んぼは専門の耕作代行業者に委ねられた。大型機械で能率を上げるため畦は取り払われ、隣の田んぼと合わさって大きい一枚の田んぼになった。隣の田は別の所有者のものであるが、同じ耕作代行業者が耕作委託されていた。

 収穫の無い田の畦を、昔の通りに草取りしていたお婆さんの姿を忘れられない。貧しかった農村に育ち草取りの手伝いは当たり前の中で大人になったのであろうが、今も尊敬の念を覚える。その畦も今は無い。
コメント
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