老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

藤沢周平 静かな木 新潮文庫

2022-02-16 21:25:09 | 文学からみた介護
1809 静かな木

古びれた寺の境内は、森閑と人の気配もなか薄暗い
大きな欅に夕映えが射しかけていた

五年前に妻を急病で喪った孫左衛門は、いま隠居の身であり老いを迎えた。
妻を失ってから、孫左衛門は殊更、老いを感じた。

目の前に立ちはだかる欅は老木であった。
幹は根本の近くで大人が三人も手をつなぐほどの大木であった。

大木の樹皮は無数の鱗(うろこ)のように
半ば剥がれて垂れ下がっていた
そして、太い枝の一本は、枯死している。

老いた欅は、自分の姿のようでもある、と彼は深く感じた。
老いた欅は、桜咲く春を迎え
桜散る頃には老木の欅は 青葉となり風が通り抜けていった。

※ 一部 藤沢周平 静かな木 から文章を引用しました