中庭の金魚の池がまず暮れて鈴木小児科医院しずまる 水須ゆき子 作者の身近なものを通し、日が暮れる様子が描かれて、とてもノスタルジックな雰囲気が漂っています。 その光景は、ありふれているけれど、ありきたりではないのですね。 身近なものに目をむけて、日の暮れ際を感じる作者の眼差し。 それはまるで残照のようで、あたたかくてやさしいのです。 こうやって、ひとつひとつを慈しみながら静かに暮れる夕暮れを、とても愛おしく、懐かしく思います。 |
家族以外馴れないウサギを獣医師に見せれば顔をそっと背ける 新野みどり 「顔をそっと背ける」というのがとても奥ゆかしいです。 主語が明記されていなかったので、少しためらったのですが、 「顔をそっと背ける」のは、内気なウサギ・・・なのですよね。 もしかしたら、ウサギの気持ちを察知した医師?とも思ったのですが。 そう迷ったのは、とても人間的な言い回しだったからです。 それは、見守っている家族の、そのウサギへの愛情でもあるのでしょう。 「顔をそっと背ける」という奥ゆかしい言い回しが、とても詩情溢れる空気にしている気がします。 |
樹木医の熱きてのひら千年ののち朴の花となりて匂はむ 飛鳥川いるか こちらは、樹木医のてのひらへむけた作品です。 樹木医のてのひらが千年ののち朴の花となる・・・という、 来世を想った歌でしょうか。 木を愛する樹木医自身がやがて木となり花を咲かせるという、 詩的で美しい想像なのでしょう。 しかし、私が気になっているのは、「樹木医の熱きてのひら」を見つめる視線。のような気がします。 樹木医の熱きてのひらを見つめ、 そのてのひらが朴の花になって匂うことを想像する、 恋にも似た、愛情のような視線。 その視線こそが美しいような気がするのです。 その想像こそが愛しいような気がするのです。 |