花夢

うたうつぶやく

017:医のうた

2006年10月20日 | 題詠2006感想

中庭の金魚の池がまず暮れて鈴木小児科医院しずまる
水須ゆき子

作者の身近なものを通し、日が暮れる様子が描かれて、とてもノスタルジックな雰囲気が漂っています。

その光景は、ありふれているけれど、ありきたりではないのですね。
身近なものに目をむけて、日の暮れ際を感じる作者の眼差し。
それはまるで残照のようで、あたたかくてやさしいのです。

こうやって、ひとつひとつを慈しみながら静かに暮れる夕暮れを、とても愛おしく、懐かしく思います。



家族以外馴れないウサギを獣医師に見せれば顔をそっと背ける
新野みどり

「顔をそっと背ける」というのがとても奥ゆかしいです。

主語が明記されていなかったので、少しためらったのですが、
「顔をそっと背ける」のは、内気なウサギ・・・なのですよね。
もしかしたら、ウサギの気持ちを察知した医師?とも思ったのですが。

そう迷ったのは、とても人間的な言い回しだったからです。
それは、見守っている家族の、そのウサギへの愛情でもあるのでしょう。
「顔をそっと背ける」という奥ゆかしい言い回しが、とても詩情溢れる空気にしている気がします。



樹木医の熱きてのひら千年ののち朴の花となりて匂はむ
飛鳥川いるか

こちらは、樹木医のてのひらへむけた作品です。

樹木医のてのひらが千年ののち朴の花となる・・・という、
来世を想った歌でしょうか。
木を愛する樹木医自身がやがて木となり花を咲かせるという、
詩的で美しい想像なのでしょう。

しかし、私が気になっているのは、「樹木医の熱きてのひら」を見つめる視線。のような気がします。

樹木医の熱きてのひらを見つめ、
そのてのひらが朴の花になって匂うことを想像する、
恋にも似た、愛情のような視線。

その視線こそが美しいような気がするのです。
その想像こそが愛しいような気がするのです。