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浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

ふたつのこころ

2020-07-04 12:07:58 | 芥川
 「袈裟と盛遠」。動きのない小説である。二人だけが登場する。そして記されているのは、ふたりのこころ、その独白である。

 今どきのことばでいえば、「不倫小説」である。時代設定はいつなのだろうか。平安末期?

 袈裟には夫がある。その袈裟が、盛遠と不倫関係に入る。何故に不倫関係となったのか。愛の存在?いや存在しているとは思えない。ならば情欲?あまりはっきりとしない。双方共に、である。
 男女関係は、第三者には理解しがたいものがある。第三者だけではなく、当事者にもわかっていない。なぜ結びついたのか。結びつかせたものは一体何であるのか。わからないまま、男女は契りを結ぶのだ。

 盛遠は、袈裟の夫を殺害することを袈裟に耳打ちする。しかしその理由は不明だ。判然としない暗黒の衝動?いや衝動ということばの強さはない。もっと軽いものだ。思いつき?思いつきかも知れない。いずれにしても、袈裟を完全にじぶんのものとするというような強い意志ではない。

 袈裟は、夫を殺すことに承認を与える。しかし夫ではなく、自分が殺されようとする。

 盛遠はなぜ袈裟の夫を殺すのか、そこに強い意志はない。だが袈裟は、盛遠に殺されたいという願望はある。なぜか。「昔から私にはたった一人の男しか愛せなかった。そうしてその一人の男が、今夜私を殺しに来るのだ。」という独白から、袈裟は盛遠を愛していたのかも知れない。だが盛遠は、袈裟を愛しているわけではない。袈裟はそれに気付いている。

 盛遠の独白に、今様が引用されている。

 げに人間の心こそ、無明の闇も異らね、
 ただ煩悩の火と燃えて、消ゆるばかりぞ命なる。


 この小説は、まさにこの今様をたどる短編であった。

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