浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】柳美里『国家への道順』(河出書房新社)

2022-02-19 21:54:31 | 

 柳美里さんの本をはじめて読んだ。すばらしい本だった。今日、研究会がzoomであったので、最後にこの本をみなさんに薦めた。

 柳美里さん、コロナに感染して苦しい日々を送っていたようだが、自転車に乗れるほどに回復してきたという。よかった、よかった。

 私はこの本を読んで、柳さんのことばにいたく感激した。小学校の時からイジメを受け、「バイキン」といわれていたそうだが、その苦しみのなかから希望のことばを生み出していた。

 末尾に記されたことばに感動した。彼女がことばを信頼していることがよくわかる。

わたしたちは時間を与えられています。/わたしたちの時間には限りがあります。過去の痛苦を孕んだ現在の重みを軽くできるのは、現在の努力だけです。/対話の道筋の中でしか、共通の言葉は見つけられません。/わたしは、対話を、求めます。

 そしてことばは、人と人とをつなぐものとして存在し、それは未来へとつないでいく、そういうものとして捉えられている。

人間は、どんなに頼りなく、疑わしいとしても、言葉を使って人と人との間に築かれている障壁に穴を穿つしかありません。それが、人間が言葉を発した理由であり、言葉の本質だと、わたしは思います。

 それは人間への信頼であると同時に希望でもある。

人生とは自分自身を体験することに他ならないというのに、他者を羨んだり妬んだり蔑んだりすることで自分の人生を費やしている人は、憐れとしか言いようがありません。

 柳さんはみずからが在日コリアンであることを堂々と記す。当たり前のことだが、日本のような差別が横行する社会ではそれがなかなか難しい。私の友人の在日コリアンは、今でも通名をつかっているが、通名を使用しなければならない日本社会に、問題があるのだ。

 柳さんの主張は、私が同意できるものばかりであった。「慰安婦」のこと、朝鮮の分断のこと、オバマの広島でのスピーチ・・・・・

 昨今の私は、政治や日本社会、そして日本人に絶望することが多くなった。しかし、柳さんのことばを読み、何か明るいものを感じとることができた。柳さんはことばを信頼し、人間を信頼し、未来を信じている。それに学びたいと思った。

 

 

 

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