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浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】村瀬興雄『ナチズム』(中公新書)

2014-02-22 09:58:20 | 読書
 1968年に出版された本である。しかし、ナチズムに関する本は最近はあまり出版されず、出版されても新しい視点で書かれたものが多く、史実をきちんと追う本は数十年前にだされたものが多い。

 ナチスドイツがなぜ勃興したのかは、すでに1960年代の研究でほぼ結論が出ている。

 現在安倍政権の独走、独裁ぶりが指摘され、安倍首相とその周辺の「お友だち」に対する批判が行われている(ボクもその一人である)が、ナチズムを考えると、それだけではすまないと思う。

 というのも、なぜにヒトラーのナチズムがドイツで覇権を掌握できたのかを考えると、そこに支配層や被支配層の意思があったからだ。

 その具体的な内容が本書に記されている。

 ヒトラーの政策や行動は、ドイツに於いては突飛なものではなく、ドイツ支配層の思考と一致していたから、ヒトラーは政権を握ることができたのである。

 19世紀末に始まったドイツ膨張主義、20世紀に入ってから、ドイツの支配勢力は、ヨーロッパに広域経済圏をつくりあげることを企図した。もちろんそこではドイツが主導権を握るのだ。そして東ヨーロッパにはゲルマン民族を移住させ東方にドイツの勢力を扶植していくということを考えていた。第一次世界大戦はそうしたドイツ支配勢力の野望のために行われたのである。ドイツは第一次大戦に巻き込まれたのでは決してないのである。

 結果的に第一次大戦でドイツは敗戦国となり、逆に領土が減ってしまった。


 
※現在のヨーロッパは、期せずしてドイツ支配勢力の長年の夢が叶っている状態だと言える。ヨーロッパ経済圏で主導的な位置にあり、経済統合の利益を最も獲得し得ているのがドイツだ。第2次大戦後、ドイツは平和的な手段で19世紀末以降のドイツ膨張主義の野望を実現した、といえるのだろう。


 だがドイツ支配勢力は、前記の野望を失わなかった。ヒトラーの政策は、ドイツ支配勢力の思考と合致していたのである。もちろんだからドイツ支配勢力は、ナチスを支えた。

 1945年まで、ドイツ支配勢力はナチスを支持していたし、ドイツ人の多くもそれを支えた。ナチスドイツは政権を掌握してから、失業をなくし、農業生産を拡大し、国民の生活水準を上昇させた。大衆がナチスを支持する理由である。

 翻って現在の日本をみると、安倍政権を大衆が支持する理由は見当たらない。国民の生活水準は低下するし、TPPによって農業は断末魔にきているし、失業は増大し、非正規労働者は低賃金に泣き、正社員は過酷な労働で痛めつけられている。ところが、安倍首相に対する支持は高い。ここに日本人の特性が表れていると思えてくるが、それはいずれ検討したい。

 ドイツに戻そう。「あとがき」で村瀬氏は、「ナチズムはむしろドイツ帝国主義にそれなりに適した政治機構であった」と記す。そうだろうと思う。それは同時に、現在の安倍政権についても言える。

 ボクたちは、安倍首相のお友だちたちの妄言に批判を加えているが、それだけではなく、安倍首相を、声を出さずに支持している現在の日本の支配勢力のあり方に眼を向けなければならない。安倍政権の政治は、日本の支配勢力による統治に適合的なのだ。

 安倍首相は、日本の政治システムについての理解力を欠き、民主主義についても無知だ。そういう無知な首相は、「ボクって首相だから偉いんだ、ボクはやりたいことは何でもやるよ」というように行動しているが、今のうちにボクたちは批判を強めねばならない。

 村瀬氏は、こう書いている。

 ・・・とくに穏和自由派や指導的知識人の態度を重視せねばならない。この派の重要人物が帝国主義とナチズムに対して、きびしい批判の態度を貫き通していたならば、第三帝国の成立と発展は、はるかに困難となっていたに違いないのである。

 現在日本の指導的知識人は、「きびしい批判の態度」をもっていない。ナチズムならぬアビズムの支配を阻止する力は、残念ながら弱いと言わざるを得ない。

 村瀬氏の最後の文。

 ドイツ民衆の多くは、自分らの生活向上と幸福とを求めてナチスを支持したが、これまで既成政党によって裏切られてきたように、ナチスによっても裏切られたのである。
 
 民衆は裏切られ続ける。裏切られ、裏切られても、学ばない。