安倍晋三の「美しい国」の成果
朝日新聞8月最終日近くと9月始めにかけて日本の自衛隊のイラク・サマワでの活動内容を検証する記事がいくつか載っている。その一つの『サマワからの報告 下』 (06.9.1.『朝日』朝刊)と題した、安全をカネで買ったとする内容の記事がある
部族有力者のために自宅前の道路から幹線道路までの1.5キロを舗装する特別利益供与の便宜を図ったとか、自衛隊宿営地を引き継ぐ役目のイラク軍のサマワ駐留司令官が土地の有力部族であるザイヤード族の地主に「自衛隊と合意したとする年額約3千万円の土地謝礼の協定書を見せられ」、「『自衛隊と同じ処遇をしろ』と詰め寄られた」とか伝え、司令官の話として「自衛隊は金を使って部族長に様々な事業契約を与えた。ザイヤード族から運転手、護衛、清掃作業員を雇っていた。その代わりに安全を得ていた」とサマワ駐留の実態を暴露している。
そして「今回、ムサンナ洲で実施した世論調査で、陸上自衛隊の活動について、『役立たなかった』との回答が31%あった。理由は『成果が特定の部族や個人に偏っていた』が25%と最も多く、『成果が特定の地域に偏っていた』が24%で続いた」と報じている。そして最後に「イラク国民のための復興支援事業が、自衛隊がイラクに踏みとどまるための道具になってしまった」と記者(編集委員・川上泰徳)は解説している。
安全をカネで買うのはある面、止むを得ないだろう。それがその土地での安全を図る有力な手段であるなら、利用しない手はない。但し、それが金額的にも方法としても適正な範囲にとどまっていたかは別問題である。安全を図るを口実に相手の言いなりに必要以上にカネを与えていいわけのものではないし、また特定の個人を利するだけの便宜を供与しても許されるわけのものではないだろうからだ。取引して、浅く広く利益を与える方向へ持っていくぐらいの頭は使わなければ、日本人をしている意味を失う。
国内の例で言えば、株主総会を平穏無事に取り仕切るためにカネで片付くことならと、暴力団や総会屋に多額のカネを払って口を閉じていてもらうとか、何か厄介な問題が起きたときの事件処理に睨みをきかせてもらうために月々現金を渡して備えておくとか、法律的にも社会的にも許されることではない違法行為を社会的責任を負っている大企業が時折犯していることが露見して問題になることがある。
それとも民族的な権威主義性からして、強い立場にある相手の要求に言いなりになるのは当然の行動様式というわけなのだろうか。とするなら、サマワですっかり日本人を見せてきたわけである。美しくも麗しい日本人の姿を。
特定の部族と特定の有力者のみに偏った利益を言いなりに与えていたとしたら、いくら安全を買うためであるとはいえ、公正・公平であるべきルールを逸脱した阿諛追従の部類に入る。カネで安全を買うは形式で、実際は土地の有力者にカネを使って取り入ったことになりはしないか。取り入りつつ、復興支援に当たった。
まあ、かつてアジアでもカネの力に任せて、相手国の高官にワイロを送りご機嫌取りをしてきた。高官の私腹を肥やすご機嫌取りのウラでしたたかにカネ儲けをして、戦後の日本の発展に大いに寄与はした。
小泉内閣が吹っ飛ぶからと、死者を一人も出さないを絶対前提としたことがそもそもの間違いだったのではないか。いくら戦闘地域ではないからとこじつけたとしても、死者を一人も出さないは自らの行動の幅を窮屈に狭める制約事項を自作自演するようなもので、そのことが勢い元々日本人の性格としてあるカネで解決の姿勢に拍車をかけたといったことではなかっただろうか。
「戦闘地域ではないとはいえ、どのような危険が待ち構えているかも分からない。国のため、天皇陛下のために命を捧げる覚悟で任務に当たってほしい。万が一にも名誉の戦死を遂げ、お国に殉じることがあるようだったら、靖国神社に英霊として祀り、神として祀り、とこしえに顕彰の栄誉にあずかることになるだろう。夢々生きて俘虜の辱めを受くることなかれ」と訓示して送り出していたなら、カネで算段することばかりに頭を使わずに、少しは命は張ったのではないだろうか。
最初から「安全」に関わる無理な厳しい制約を自らに課し、行動の選択、あるいは政策の選択に制限を加えたのだろう。そのために当然の結果のように相手の無理難題に言いなりになることを自らに強いなければならなかった。日本の官僚が各業者に談合や随意契約で不当に余分な利益を与えたりするのと似たようなことをサマワで演じたのである。同じ日本人だから、同じ行動になるのは止むを得ないを当然とするなら、自我同一性の確認には役に立ち、こっそりとプールした裏金を使ってちょっと一杯し合うときのように乾杯する価値はある。
復興支援よりも、一人の死者も出さないこと=小泉内閣を吹っ飛ばさないことがイラク・サマワの優先的な駐留目的となった。有力者宅から幹線道路までの舗装の便宜を図るといった内容の復興支援となった。有力部族の有力者の近縁の者を法外な給与で雇うといった縁故主義に手を貸す復興支援となった。
逆に小泉内閣が吹っ飛んでもいい、懸命に役目を果たす上で死者が出たとしたら、止むを得ない、その覚悟で公平・公正を基準とした復興支援事業を行うことを目標にサマワ住民の全体的な利益につながるサマワ社会の発展的再建を図って貰いたいと指示を出していたなら、行動の自由度を確保できて、特定の人間との取引を必要としなかったのではないだろうか。
世の中は奇麗事では片付かないと言うなら、次期総理となるであろう安倍晋三の「日本を美しい国にする」という公約は奇麗事そのものに堕す。奇麗事では片付かない美しい国ということになって、論理矛盾を侵すことになるからだ。
仔細に眺めてみれば、様々な矛盾が噴き出てくる。アメリカ人だろうが日本人だろうが、あるいは中国人だろうが韓国人だろうが、他の如何なる国の人間だろうが、人間のやることすべてに於いて矛盾はついてまわる。往々にして不正もついてまわる。だから政治家・官僚の不正、犯罪、乞食行為はなくならない。
しかし、表向きの評価としては矛盾や不都合な部分は除外されて、自衛隊の駐留はイラクの復興支援・人道支援に役立ったと位置づけられて美しい姿を纏うことになる。靖国の戦没者がそれぞれの戦争行為を問われることなく、またどのような戦争を戦ったかは問題とせず、「国のために戦った」、「国に殉じた」と評価されて、美しさだけを残すようにである。
安倍新総理が「日本を美しい国にする」ことができたとしても、美しさだけを残した「美しい国にする」ことしかできないだろう。そのことは既に靖国神社参拝で証明済みとなっている。
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