麻生太郎・伊吹文明等の歴史観・日本観と同根・同質
航空自衛隊トップの田母神俊雄航空幕僚長の民間企業募集当選論文『日本は侵略国家であったか』が政府見解とは異なる中国・朝鮮への日本の侵略を否定した内容だとして更迭されることとなった。
田母神を侵略否定への衝動に駆り立てている美しいばかりに燦然と輝く信念は論文の最後の一説が説明尽くしている。
「>日本というのは古い歴史と優れた伝統を持つ素晴らしい国なのだ。私たちは日本人として我が国の歴史について誇りを持たなければならない。人は特別な思想を注入されない限りは自分の生まれた故郷や自分の生まれた国を自然に愛するものである。日本の場合は歴史的事実を丹念に見ていくだけでこの国が実施してきたことが素晴らしいことであることがわかる。嘘やねつ造は全く必要がない。個別事象に目を向ければ悪行と言われるものもあるだろう。それは現在の先進国の中でも暴行や殺人が起こるのと同じことである。私たちは輝かしい日本の歴史を取り戻さなければならない。歴史を抹殺された国家は衰退の一途を辿るのみである」――
これを読んだとき、05年頃インターネット上に出回っていたとされる(現在でも根強く密かに出回っているのだろうか)「アインシュタインの予言」なる文書がなぜか頭に思い浮かんだ。
≪アインシュタインの予言≫
<近代日本の発展ほど世界を驚かせたものはない。
一系の天皇を戴いていることが今日の日本をあらしめたのである。
私はこのような尊い国が世界に一ヶ所ぐらいなくてはならないと考えていた。
世界の未来は進むだけ進み、その間幾度か争いは繰り返されて、最後の戦いに疲れる時が来る。
その時人類は、まことの平和を求めて、世界的な盟主をあがなければならない。
この世界の盟主なるものは、武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜きこえた最も古くてまた尊い家柄でなくてはならぬ。
世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る。
それにはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。
われわれは神に感謝する。
われわれに日本という尊い国をつくっておいてくれたことを≫――
上記田母神の最後の一説と>≪アインシュタインの予言≫とでは表現の格調の高さで雲泥の差はあるが、基本の情動は双子を為している。日本民族優越意識に彩られた情動なのは断るまでもない。
この日本民族優越意識が歴史の間違いを許さない、日本国家の間違いを許さない日本民族の絶対性、あるいは日本民族の無誤謬性となって歴史の正しさ・戦争行為の正しさを彩ることとなっている。
その絶対性・無誤謬性の証明に日本国家の悪行と言われる歴史上の出来事は先進国の中でも起こっている暴行や殺人と同じ一般的な犯罪に過ぎないと、政治行為に於ける国家的犯罪、あるいは戦争犯罪を一社会の中での個人的な犯罪と相殺する子供騙しの情状酌量化を用いている。優秀絶対の日本民族性からしたら、無視してもいい瑕瑾、玉に瑕(キズ)に過ぎないと。
国家犯罪・戦争犯罪に対するこのような情状酌量化は見事なまでの合理的客観性なくし成立させ得ない論理であろう。いわば特別に頭のよい人間でなければできない。
『日本は侵略国家であったか』の論文全体がこのような子供騙しの非合理性・非客観性に覆われ、成り立っている。日本民族優越意識・日本民族絶対性に発した侵略と戦争犯罪の無誤謬化の衝動がこじつけさせることとなった「うちの子に限って」と同列の「優秀な日本民族・日本国家に限って」の自己正当化といったところなのだろう。
麻生首相はが田母神論文を「個人的に出したとしても、立場が立場だから、適切でない」(YOMIURI ONLINE)と記者団に述べたということだが、麻生首相に批判する資格はない。
麻生の「一文化、一文明、一民族、一言語の国は日本の他の国を探してもない」発言は内に日本民族優越性を隠した発言であるし、2003年に被差別出身の野中広務に対して「野中のような出身者を日本の総理にはできないわなあ」(「Wikipedia」/魚住昭著『野中広務 差別と権力』からの引用)と差別発言を行ったとされているが、個人的な政治的能力に限った野中広務との優劣性に言及したのなら、被差別出身は理由とはならない。
被差別出身を理由としたのは一般な日本人全体を優越的位置に置いていたからこそであって、そのような日本人全体の優越性は日本民族そのものを優越的と見ていることの裏返しとしてある意識なのは言を俟(ま)たない。
自民党の優秀な政治家伊吹文明の文部科学大臣在任中の発言「大和民族がずっと日本の国を統治してきたのは歴史的に間違いのない事実。極めて同質的な国」、「悠久の歴史の中で、日本は日本人がずっと治めてきた」も日本民族優越論を意識の底に置いた発言であろう。日本民族の優越性・絶対性から発した日本民族の無誤謬性が言わせている日本の素晴らしさ、日本の歴史・伝統・文化の他国に類を見ない素晴らしさ・優秀さというわけなのである。
いわば日本民族優越論者であるという点で麻生にしても(伊吹、その他の優越論者にしても)田母神と同じ穴のムジナなのだから、論文内容に肩をたたき合って、「あなたは正しいことを言った。勇気ある行為だ」と褒めこそすれ、「個人的に出したとしても、立場が立場だから、適切でない」と批判する資格はない。
単に日本国総理大臣という立場上、中国・韓国との関係を損なうわけにはいかない政治的利害からの体裁・取り繕いに過ぎない。いわば他国の手前、田母神を批判の俎上に乗せる生贄の羊とせざるを得なかった。
日本の歴史・伝統を如何に優れたものだとしたとしても、あるいは日本民族優越論を如何に鼓吹しようとも、それが直ちに個人個人の人格性に反映されるわけではない。利害の生きものであることから免れることができないために、反映しないことの方が多い。
マスコミも指摘しているように文民統制を無視して国家の防衛政策を自分が考えている方向にリードしようとしたのだろうが、自分が考える国際社会のあるべき姿から防衛政策を論じるならまだしも、日本民族優越論から発した日本民族の無誤謬性を背景に論ずるとは、その時代錯誤な感覚に驚かざるを得ない。現在の日本の防衛を論ずるに東京裁判は必要だろうか。そういう人間が航空自衛隊のトップに坐っていた。いや、坐っていられた。
このことだけを以てしても「日本というのは古い歴史と優れた伝統を持つ素晴らしい国なのだ」と断言できる。
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『椿事件』
1993年9月21日、民間放送連盟の「放送番組調査会」の会合の中で、
テレビ朝日報道局長の椿貞良が、選挙時の局の報道姿勢に関して
「小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。
今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、
なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる
手助けになるような報道をしようではないか」
との方針で局内をまとめた、という趣旨の発言を行う。
(ウィキペディア「椿事件」)