「生活の党と山本太郎となかまたち」
《2月25日「生活」機関紙第31号(電子版)発行の案内》
【今号の主な内容】
◆小沢一郎代表 巻頭提言
「ベストでなくてもベターな選択をするのが民主主義。
そして野党は、民主主義を機能させるために何としても、その受け皿を作るべき。」
◆2016年の抱負 山本太郎代表
◆第190回国会に向けて 主濱了副代表、谷亮子副代表、玉城デニー幹事長
◆連合・逢見事務局長の訪問を受ける
◆中国広州市の中山大学を訪問し特別講義を実施
フリージャーナリストの安田純平氏が今年6月、取材でシリア国内に入ったあと行方が分からなくなっていることについてジャーナリストの国際団体がシリアの武装組織が安田さんを拘束し身代金を要求しているという情報があるとして、日本政府に解放のため努力するよう求めたと12月24日付のマスコミ各紙が伝えている。
このことについて外相の岸田文雄が12月24日午前、外務省で記者団から質問を受けている。
岸田文雄「報道は承知している。事案の性質から詳細についての答えは控えたいが、政府としては『邦人の安全確保は政府の重要な責務である』という認識の下、さまざまな情報網を駆使して全力で対応している。政府の具体的な体制は、今後の対応に支障を及ぼすおそれがあるので答えは控えたい」
記者「身代金の要求は把握しているか」
岸田文雄「事案の性質上、答えは控える」(NHK NEWS WEB)
安倍政権は湯川遥菜氏と後藤健二氏の2邦人が2014年8月と2014年11月に「イスラム国」に拘束され、「イスラム国」が2015年1月20日に人質1人につき1億ドル、計2億ドル要求の映像をインターネット上に流すまで身代金のことは明らかにしなかったし、それ以降も身代金要求に対して政府としてどう対応しているかを明らかにせず、「人命第一」言い、政府対応を「イスラム国」と直接交渉せず、関係国やその情報機関、宗教関係者、部族長等々のルートを活用して救出に当たると決めて、その通りの説明を記者会見や国会答弁を通じて繰返した。
要するにどのように解放へと持っていくのかは身代金の扱いを含めて関係国やその情報機関、宗教関係者、部族長等と「イスラム国」の交渉に任せたと言うことになる。
当然、2邦人救出に関わる安倍政権の対応を検証した《邦人殺害テロ事件対応委員会 検証報告書》(2015年5月21日)にしても、政府が決めた対応策を記すことになる。
〈外務省、特に現地対策本部及びトルコへの出張者は、邦人の安全のために何が最も効果的であるかという観点から、湯川氏・後藤氏と関係があったと見られる人物や現地の事情に通じた人物、部族長や宗教関係者を含め、あらゆるチャンネルを活用して、情報収集及び働きかけを行った。〉
そしてそのような対応が有効に機能したかどうかという点に関して、〈関係省庁は、在外公館を通じて、あるいは出張等により平素から構築した緊密な関係を活かし、関係国政府(治安・情報機関を含む。)、部族長等への働きかけを行い、情報収集体制を構築し、積極的な協力を得ることができた。〉と検証している。
だが、報告書は身代金については一言も触れていない。安倍政権が「イスラム国」の身代金要求に対してどう対応したのか、対応しなかったのか、検証の対象としていない。
岸田文雄も「政府としては『邦人の安全確保は政府の重要な責務である』」と人命第一を宣言しているものの、身代金の要求に関しては明らかにしていない。
「イスラム国」の身代金要求の日から4日後の2015年1月24日に湯川遥菜氏の遺体の映像がインターネット上に流され、それから8日後の2015年2月1日に後藤健二氏殺害の映像が流された。
同じ日(2015年2月1日)の官房長官の午前の記者会見。
菅義偉「この事案発生以来、これまで『人命第一』で、可能な限り、ありとあらゆる手段を行使しながら、全力で取り組んできた。そういう中で、湯川さんに続いて後藤さんが殺害されたとみられる映像が配信された。ご親族のご心痛を思えば、言葉もない。誠に残念で、無念だ」
解放に向けて「『人命第一』で、可能な限り、ありとあらゆる手段を行使」したと言っている。
記者「日本政府からイスラム国への接触は。試みていないとすれば、なぜか」
菅義偉「今度の事案について、何が最も効果的であるか、そういう観点から対応してきた。関係諸国、あるいは部族長とか、宗教の指導者とか、ありとあらゆる方の中で、日本としては協力を要請してきた」
記者「日本から接触していないという理解でいいか」
菅義偉「接触もなかったし、接触することはどうかということも含め、一番効果的なことを政府としては考えて対応してきた」(産経ニュース)
全体の趣旨は人質解放に向けて「人命第一」で当たったが、「イスラム国」に対してはこういった場合の対応として安倍政権が決めたとおりに日本政府が直接接触するといった形で対応はせず、解放のための一番効果的な方法として関係諸国、あるいは部族長とか、宗教の指導者への協力要請に任せたと言うことになる。
しかしこの協力要請への任せ方にしても、身代金の支払い抜きであることが同じ日の午後の記者会見を伝える2015年2月2日付マスコミ報道によって明らかになる。
首相官邸サイトの官房長官の記者会見動画に直接アクセスしてみたが、音量を最大に上げても、記者の質問が聞き取れない。仕方なく、記事を利用することにする。
記者「身代金を用意していたのか」
菅義偉「それは全くない。100%ない」(動画では、「それは全くありません、100%ありません。明快に否定します」)
記者「『イスラム国』と交渉する気はあったのか」
菅義偉「全くなかった」(ロイター)
「イスラム国」と直接交渉しないことは最初から安倍政権が決めていた対応だから当然としても、身代金を最初から支払う意思を持たず、関係諸国や部族長、宗教の指導者等への人質解放への協力要請にしても、身代金についての交渉は抜きにした要請だったことになる。
身代金目的の誘拐事件の誘拐犯に身代金の話には応じることはできない、人質だけを解放するよう要求して欲しいと解放交渉を警察任せにした場合の構図と同じになる。
これでは「人命第一」の姿勢とはなっていない。「人命第一」は国民向けのポーズに過ぎなかったことになる。
菅義偉が身代金に関する安倍政権の対応を明らかにしたのは「イスラム国」によって日本政府が身代金を払おうとしなかったから、湯川遥菜氏を殺し、後藤健二氏に関してはヨルダンに拘束されているサジダ・リシャウィ死刑囚との人質交換に変えたが、ヨルダン政府が応じなかったから殺害するに至ったといつかは曝露される可能性を前以て判断したからなのかもしれない。
だが、「邦人殺害テロ事件対応委員会」は安倍政権が「人命第一」を掲げていながら、身代金を支払わない対応が果たして妥当であったかどうかの検証は一切していない。
但し検証報告書の次の記述が身代金に対する安倍政権の姿勢を示唆している。
〈1月22日、中田考氏(日本のイスラム法学者のこと)が、日本外国特派員協会において、日本政府がISIL支配地域に2億ドルの人道支援を行うという具体的提案を示し、日本政府が受け入れれば同提案をISIL側につなぐ用意がある旨述べた。しかしながら、中田氏の提案はISIL支援にもつながりかねないものであったほか、一般論として、こうした事案については様々な協力の申し出が寄せられる中で、当然取捨選択をしなければならず、また、他のチャンネルにおける信頼関係への影響という要素も考える必要もあった。こうした観点から、政府としては、中田氏の提案については受け入れなかったものである。〉――
〈中田氏の提案はISIL支援にもつながりかねない〉。当然、2億ドルの身代金支払いはそれがISIL支援の資金になりかねないから支払うことはできないという安倍政権の姿勢だのだろう。
それなら、それでいい。「人命第一」を掲げないことだ。身代金要求に応じなかった場合、人質の人命を犠牲にすることもあり得るし、犠牲にする確率は決して低くはないだろうからである。
身代金を支払わないことは「人命第一」と相矛盾する命題だということである。
「イスラム国」に人質にされたと判明した段階から、あるいはテロ集団に誘拐された場合の取り決めとして身代金要求に応じる意思がない姿勢でいたことを、「人命第一」を掲げながら国民に隠し続けた。
いわば相矛盾する命題でありながら、相矛盾しないかのように装い続けた。
国民を騙す遣り方である。
アメリカはテロ集団のアメリカ人の人質に対する身代金要求に対して政府として応じない姿勢を決めていて、人質とされたアメリカ人の家族が身代金を支払うことも禁じ、支払った場合、罪に問うた。
だが、2015年6月、オバマ大統領は国民から批判を受けてテロ集団に対する身代金の支払いや人質の交換に応じない方針は堅持するものの、家族による身代金の支払いを今後は容認すると発表した。
今回再び邦人がテロ集団に拘束され、人質となって身代金を要求されているとの情報をマスコミは伝えている。安倍政権はテロ集団に拘束されて人質となった邦人に対して身代金を要求された場合の解放交渉の原則を国民の前に明らかにすべきだろう。
それとも明らかにせず、湯川遥菜氏や後藤健二氏のケースのように身代金要求に応じるつもりもなく、掲げた「人命第一」に添った解放に最大限努力しているかのような、国民を騙すポーズを取り続けるのだろうか。