――性善説に立った評価にすぎない野田「決める政治」――
NHKの8月世論調査の政党支持率は第3党「国民の生活が第一」の0.6%に対して第4党公明0%、第5党みんな2.1%、第6党協賛2.4となっている。
他の世論調査を見てみると、読売新聞は1%。「MSN産経・FNN合同世論調査」は少しまし3.7%。共同通信は4.8%。
次に主として消費税増税を含む「社会保障と税の一体改革関連法」成立評価に関してみてみる。
「大いに評価する」――6%
「ある程度評価する」――42%
「あまり評価しない」――29%
「まったく評価しない」――19%(以下略)
消費税増税を含む「社会保障と税の一体改革関連法」成立評価は、「ある程度評価する」42%に対して「あまり評価しない」29%ではあるが、あくまでも「ある程度」の評価である。
この「ある程度」は「まったく評価しない」19%に対して3分の1に満たない「大いに評価する」6%の割合にそのまま反映されている。
ある程度しか評価していないにも関わらず、内閣支持率は先月比で1ポイント上げた。
野田内閣支持率
「支持する」――28%(先月比+1ポイント)
「支持しない」――56%(先月比±0ポイント)
消費税増税に限った他のマスコミの8月世論調査でも、同じ傾向を辿っている。
「共同通信社」 消費税増税法成立に基づく税率引き上げ
反対――56・1%
賛成――42・2%
「毎日新聞」 増税法成立評価
「評価しない」――53%
「評価する」――44%
「読売新聞」
消費税増税を含む「社会保障と税の一体改革関連法」成立評価
「評価する」――43%
「評価しない」――49%
世論全体を見ると、消費税増税の反対が賛成を上回って過半数を僅かに超えていながら、NHK世論調査は消費税増税を含む「社会保障と税の一体改革関連法」成立評価に関して、 「ある程度評価する」が42%も占め、「大いに評価する」6%と合わせると48%にもなって、「あまり評価しない」29%と「まったく評価しない」19%を合わせて同率の48%となっている。
このことを解くカギは3党合意と「社会保障と税の一体改革関連法」成立を「決められない政治」から「決める政治」への脱却だと評価する識者やマスコミの主張が国民に影響を与えている世論動向ではないだろうか。
いわば国民は今回の3党合意と「社会保障と税の一体改革関連法」成立を何も決めることができずに停滞していた政治を前に進める「決める政治」の象徴と見て、野田首相にではなく、成立自体にそれなりの評価を与えた結果値のように見える。
このことに対応した、各マスコミの内閣支持率微増と微減の現れではないだろうか。
「決める政治」の象徴と見ていることは毎日新聞8月世論調査が伝えていて、その評価に内閣支持率にも反映したのか、4ポイント上がっている。
《本社世論調査:消費増税「暮らしに影響」9割》(毎日jp/2012年08月12日 23時28分)
野田内閣支持率
「支持する」――27%(7月調査+4ポイント)
「支持しない」――52%(7月調査-1ポイント)
記事は解説している。〈7月の前回調査で、消費増税法の「今国会成立を望む」との回答は33%にとどまっていた。今回の調査で増税法成立を評価する回答が4割を超えたのは、「決められる政治」を体現した与野党への一定の評価があったとみられる。〉――
だが、3党合意を受けた消費税増税を含む「社会保障と税の一体改革関連法」成立を「決める政治」の象徴と見るこの手の評価は性善説立った無条件の受容と言えないだろうか。
なぜなら、中身がどうであれ、決めればいいというものではないからだ。
2009年の政権交代まで、戦後、ほぼ一党独裁状態で政権を独占してきた自民党は、のちに公明党も加わってのことだが、公共事業のみならず、各政策をムダなく事業化する「決める政治」を行い得てきたのだろうか。
ムダのない事業計画と計画した事業に対するムダのない予算付けの的確なノウハウを機能させてムダのない国家運営、「決める政治」を行なってきたと言えるのだろうか。
実態は一党独裁をいいことに票獲得のためのバラマキを恣(ほしいまま)にし、その結果、国の借金を増やすムダだらけの「決める政治」を行なってきたのではないだろうか。
国民生活上の必要性に則った適正な事業発案と適正な予算化、そして事業完成後の費用対効果の検証を行う「決める政治」を政治文化とし得たのだろうか。
誰が見ても、ノーである。決めればいいというものではない。
民主党が2009年マニフェストで国民契約とした最低保障年金と後期高齢者医療制度廃止は「国民会議」の議論に先送りする「決める政治」であった。
今回の「社会保障と税の一体改革関連法」の中には民間サラリーマンの厚生年金と公務員などの共済年金を統合する被用者年金一元化法の成立も含まれていて、「決める政治」を見せたが、2009年マニフェストでは、〈公平な新しい年金制度を創る〉と称して、〈(1)すべての人が同じ年金制度に加入し、職業を移動しても面倒な手続きが不要となるように、年金制度を例外なく一元化する。〉と“決めること”を謳いながら、国民年金を置き去りにした厚生年金と共済年金のみの統合の不平等な「決める政治」となっている。
だが、このような中身を問題にせず、表面的な成立の事実を以てして「決める政治」だと評価を与え、それが国民の印象にも影響を与える。
なぜこのような不合理な事態が生じるのかと言うと、消費税だけ増税してしまえば、税収が増えて財政運営に余裕が生じる、赤字国債発行も抑えることができると大方が期待しているからではないか。
だが、「決める政治」の中身を厳格に制度設計できないと、ムダな事業計画とムダな予算付けの政治文化を延々と引き継ぐことになり、消費税増税が財政再建に寄与せず、社会保障制度の持続可能性と財政再建の名の下、早晩、再度消費税増税を謳う「決める政治」へと向かう恐れが予想される。
既に民自公3党修正合意付則追加に「成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分する」と謳っているのである。
わざわざ付則に追加したということは些細な取り決めではなく、重点を置いた取り決めとする欲求あっての文言であるはずである。
いくら消費税増税の税収をすべて社会保障費に回すといっても、今まで回していたカネの浮いた分を厳格な制度設計をしないままに公共事業や他の政策に大盤振舞いの「決める政治」を行なっていたのでは、何も変わらないことになる。
そもそもからして自公とも何も変えることができなかった政治文化を自らの体質としてきたのである。そして現在の民主党は多分に自民党化している。
民主党は2009年マニフェストで、「官僚主導から政治主導へ」、「中央集権から地域主権へ」を謳っていた。これは統治機構の変革を謳ったはずである。
このような統治機構の変革なくして政治の変革はないと宣言したのである。
民主党が自民党化しているのは官僚主導から脱却できず、政治主導を有名無実としているからだろう。官僚主導に侵されていたなら、「中央集権から地域主権へ」も実現期待不可能となる。
真に官僚主導から離れて、政治主導に立つことができたとき初めて、統治機構の変革とその変革を受けた政治の変革が期待可能となる。
当然、どの政党を選択するかの基準は官僚主導を否定・排除し、政治主導を確立できる力量のある党首を抱えた政党ということになる。
官僚をコントロールできる豪腕を期待できる党首、代表は新党「国民の生活が第一」の小沢一郎代表を措いて他にいるだろうか。
野田首相か?谷垣か?他の誰かか?
官僚の走狗となっている連中ばかりではないか。
【走狗】(そうく)「他人の手先となって追い使われる者」(『大辞林』三省堂)
小沢代表の政治主導能力=官僚コントロール術を考えた場合、NHK世論調査の「国民の生活が第一」政党支持率0.6%はあまりにも不当な評価であって、国民の見る目がないと言わざるを得ない。
見る目がないのは目のつけどころが間違っているからに他ならない。日本の政治を変え、真に掛け値なしの「決める政治」に持って行くには一にも二にも官僚主導からの脱却、政治主導の確立から出発した統治機構の変革、中央集権の打破以外に方法はないと、その点を目のつけどころとして、その能力如何で判断すべきだが、表面的な出来事ばかりに目を奪われている。
もし次の総選挙で「国民の生活が第一」が世論調査の数字を反映した選挙結果で終わるようなことがあったなら、日本の政治は何も変わらないだろう。例え今後も自公民が3党合意で「決める政治」を体現したとしても、表面的な「決める政治」で終わり、中身は何も変わらない日本の政治が続くはずだ。