ヒラリークリントンの涙はウソ泣きか

2008-01-10 11:58:03 | Weblog

 本命と言われながらアイオワ州の予備選で3位に終わった上に引き続いてのニューハンプシャー州予備選の事前の世論調査ではトップ41ポイントのオバマ上院議員に13ポイントの大差をつけられ28ポイントしか支持のなかったヒラリー・クリントンが予想を覆して勝利をモノにした。

 逆転の一因にニューハンプシャー州予備選の前日、劣勢著しい状況下でまだ態度を決めかねている有権者からの質問の最中に声を詰まらせ、涙を見せた姿がいつも自信たっぷりで強い女を演じていた姿に反して人間らしい一面を見せたと女性の同情票を誘ったとする見方を挙げている向きもあるが、しかし涙を「ウソ泣き」と突き放す批判もあった。

 昨日昼の日テレのワイド番組「ミヤネ屋」でもコメンテーターとして出演していたタケシ軍団の一人、ガダルカナル・タカ(間違えているかもしれない)とか言うお笑いタレントが言下に「あれはウソ泣きだよ」と言っていたが、立場によって見方が違うことを知らない人間の物言いだと本人は気づいていない。

 人間は支持する人間、好意を持っている人間に対しては常にいい方向に解釈しようとする。逆に悪意を持っている人間に対しては悪意ある解釈を施す。常に批判的な態度で向き合っている人間に対しては批判的な目でその人間を見る。

 ただそれだけのことでしかない。実際にヒラリーの涙が「ウソ泣き」だったとしても、ヒラリーの支持者は大統領候補本命でありながらアイオワで3位という惨憺たる結末、そして事前の世論調査で13ポイントもの大差をつけられ、周囲だけではなくヒラリー本人も敗北を予想し、そのことに気持を備えていた違いない中で思わず弱気な気持ちが出た、是非勝たせて選挙戦に居残らせてやりたいと逆に気持を奮い立たせたかもしれない。ウソ泣きだとは思わずに。

 逆にそれが「ウソ泣き」ではなく、抑えきれずに思わず出た弱気からの表情だったとしても、いわゆるヒラリー嫌い、あるいはオバマの熱狂的支持者にしたら、「ウソ泣き」と取るだろう。得点を稼ぐことになったなら困るからだ。人間は立場に応じて利害が異なってくる。利害が異なれば、当然解釈に違いが生じ、解釈に応じた「事実」がつくられることになる。

 どう解釈し、どのような「事実」をつくり上げようとも、結果として態度を決めかねていた女性票を多く取り込んだとマスコミは解説しているが、ヒラリーに1票を投じた多くの女性、そして男たちも「ウソ泣き」と見なかったわけである。

 態度を決めかねていたということはオバマに対してもヒラリーに対しても特に批判的でもなく、特に好意を持っているわけでもなかったということで、そういった中立的態度が仕向けた彼らなりの「解釈」がヒラリーに幸いした投票行動と見ることができる。

 「ミヤネ屋」に同じくコメンテーターとして出演していた何かの評論家かどうか知らないが、「女性に対する拒絶感の強さと黒人に対する拒絶感の強さのどちらが強いかにかかっている」とコメントしていたが、これはステレオタイプな解説に過ぎないのではないだろうか。

 確かに民主主義の進んだアメリカでも有色人種よりも白人の方が優秀だと考える人種的権威主義者もいれば、女よりも男の方が何かにつけて優秀だとみなす性差的権威主義者もいるだろうが、黒人やそれ以外の有色人種にしても男女の関係なく、また白人女性にしても性差に関係なく各分野に広く進出し広くアメリカ社会で活躍し、重要な地位にまで達している。

 またアメリカは世界各国から人種や肌の色の違いに関係なく、優秀な人材を受け入れている。日本のように日本民族は優秀だとしていることからの単一民族に拘らない。NASAにもシリコンバレーにも多くのインド人、多くの中国人が進出し、活躍している。アメリカ人障害者の社会参加にしても、日本と比較してその比ではないだろう。

 オバマ支持者の中には多くの白人がいるし、ヒラリー支持者には白人だけではなく、多くの黒人が集っている。候補者にしても黒人だ白人だと、あるいは男だ女だと区分けしていたなら、選挙を戦うこともできないだろう。

 黒人初の大統領が出てきてもいいし、女性初の大領領が出てきてもアメリカの歴史からしたら不思議はない現象であろう。中国系、インド系、韓国系、あるいはアラブ系大統領も将来的には決して否定できないカードとしてあるはずである。

 但し日系大統領は出てきて欲しくない。それはその人の個人的才能と努力にかかっている出来事だが、集団主義・権威主義に囚われている日本人は日本人が優秀だからと「解釈」して自らの民族性を誇ることになるだろうからである。優秀な民族性からではないことは周囲にいる優秀から程遠い日本の政治家自体の存在がそのことを逆説的に証明している。

 ここで思うのは、ヒラリーが今回大統領にならなければ、女性初のアメリカ大統領という歴史的に記念すべき足跡は遠のくことになるのではないかという予想である。オバマはまだ若いし、次の機会が望める。現在46歳のオバマの8年後はあっても、現在60歳のヒラリーの8年後は余程のことがない限り望めないのではないだろうか。

 参考までに。

 ≪ヒラリー氏の目に涙 支持率下落、「うそ泣き」の見方も≫(08.01.08/asahi.com)

 米大統領選の最初の予備選が翌日に迫ったニューハンプシャー州で7日、同州での支持率が下降している民主党のヒラリー・クリントン上院議員が目に涙を浮かべる一幕があった。米メディアが一斉に伝えた。
 米ニューハンプシャー州・ポーツマスで7日、まだ投票する人を決めていない有権者からの質問を受けるヒラリー・クリントン上院議員=ロイター。目がうるみ、何度か言葉を詰まらせた
 いつも強気のクリントン氏が人間的な一面をみせたという同情論の一方で、「疲れが出たのだろう」「(有権者を取り込む)うそ泣きでは」といった見方も出ている。
 3日のアイオワ州党員集会で3位に甘んじ、巻き返しをはかるクリントン氏は、州東部ポーツマスのカフェでの対話集会に出席。選挙戦の苦境を前提に、参加者の女性が「どうしたら、そんなに前向きでいられるのですか」と質問した。クリントン氏は「簡単ではありません」と苦しい思いを吐露。「自分が正しいと信じていなければ前向きではいられません。私は米国が後退するのを見たくないのです」と言いながら声を詰まらせ、目をうるませた。
 米ギャラップ社がニューハンプシャー州で実施した最新調査(4~6日)によると、オバマ上院議員が41%でトップとなり、クリントン氏は28%。13ポイントの大差をつけられている。
 クリントン氏の「涙」について、オバマ氏は「選挙戦は大変なものだ」と話した。

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