昨11月21日(07年)の夕方7時のNHKニュース。大阪に本社がある鉄鋼メーカー栗本鉄工所が全国の高速道路の橋桁などに使われている金属製の型枠の強度データを改竄し納入していたと報じた。
社長以下の会社幹部たちが例の如くマイクを並べた長テーブルの向こう側から一斉に立ち上がって一斉に頭を深々と下げる企業不正報告記者会見時の決まりきった謝罪の儀式が行われるのを見て、思わず笑ってしまった。
よくもまあ不正があちこちで行われているものだと感心したからだ。そして性懲りもなく繰返される同じ謝罪の儀式。食品偽装や産地偽装どころではない。紳士の職業の見本たる金融機関にしたって、リスクを説明しないで、儲け一方のような勧誘で金融商品を売る。損保大手6社の火災保険・地震保険・自動車保険の取り過ぎ計220億円(07.11.21『朝日』朝刊)。
政治家・官僚の口利き・接待付け、仕事せず、高額給料・高額退職金だけを掠め取っていく殿様天下り等々にしても、社会的地位に伴う責任を果たしていないという点でサギ・不正に当たる行為だろう。
サギ・不正は人目の届かないウラで行われる。隠すべき行為であるにも関わらず、こうまでも次々と発覚・露見して世間の目に曝すことになるのも驚きである。
栗本工業所のサギ・不正の手口は、高速道路の橋桁の重量を軽くするためにコンクリートの内部に埋め込む鋼管型枠(鉄製円形型枠)の加重時変形1センチ以内と定められた基準を満たさない、最大2・3センチ変形製品の強度データを1センチ以内と改竄・納入、さらに基準厚さを最大で0・4ミリ下回る欠陥製品もデータを改竄して正規製品として納入していたというもの。それを昭和40年頃から40年以上も続けていた。見事なロングラン(=長期興行)である。
マンション販売のヒューザー等が販売したマンションの鉄筋が設計士の構造計算書偽装によって直径・本数とも基準以下であったことが発覚、大型地震に耐えないとした05年の耐震偽装と、偽装対象が橋桁とマンションの違いがあるのみで、同質のサギ・不正に当たる。
いや、全額政府出資の特殊法人・道路公団の民営化は05年の10月だから、ロングランの殆どは政府相手のサギ・不正と言える。より悪質な栗本工業の悪事ではないだろうか。
尤も政府やその他国家機関に所属する政治家・官僚のサギ・不正の横行・蔓延から比べたら、どうってことはない小さな問題なのかもしれない。
耐震偽装されたマンションその他は建替えや補強工事を余儀なくされたが(引越しや建替え費用・補強費用等の新たな負担といった余分な失費や精神的な疲労は大変なものがあったに違いない)、今回の栗本工業の強度データ改竄欠陥型枠は各高速道路会社が管理する全国の高速道路7300カ所あまりと国が管理する直轄部分の高速道路1700カ所に使われているということだが、各高速道路会社と国土交通省は、橋桁の内部に空間を確保するための型枠で、橋桁そのものの強度は保たれ、安全性に問題はないが、長期的にみて安全に支障が出る可能性もあるとして緊急点検を実施するとしている。
「安全性に問題はない」なら、規格は実質的に必要な耐性以上を基準としていたということになる。例えば食品の実質的な品質保持期限は賞味期限や消費期限以上の日数が求められているのと同じで、確実な安全を確保するために限度以上の強度を求めていたということなのだろう。
だが、日本の高架道路はどのような地震にも耐えられると「安全神話」を高々と標榜していたが、阪神大震災で高架道が倒壊したのは「限度以上の強度」が役に立たなかったことの証明であり、そのような過去の教訓(=「安全神話」の崩壊)を無視することにならないだろうか。「長期的にみて安全に支障が出る可能性もあるとして緊急点検を実施する」にしてもである。
安倍前内閣の経済政策は言ってみれば景気上昇を絶対判断とした「景気底上げ神話」で成り立っていたが、ここにきて原油高騰やサブプライムローン問題等で景気の雲行き自体が怪しくなってきたように絶対・完璧な「神話」は存在しない。
最近は殆ど使わなくなった稲藁で編んだ縄だが、それを刃物を使わずに手の力だけで切る場合、切る場所で縄を二本に折り、折った箇所を縄をなうときのように手のひらに挟んでこすって網目を緩めてから、力が入るようにそこから少し離れた場所を1本ずつ握っていきなり左右に引っ張ると、「キレる大人たち」ではないが、急激な正反対の張力が働いて具合よくプツンと切れる。
クレーンで重量に応じた規格のワイヤーを使って重量物を上げ下ろしするとき、静かに上げ下ろしすれば問題はないが、吊り上げているとき、滅多にないことだが、レバー操作を間違えていきなり下降操作すると、重量物は上に持ち上げられる慣性が働いているから、吊っていたワイヤーは緩むものの、一瞬宙に止まってからワイヤーが緩んだ長さだけ重力を伴って急激に落下し、そこで急激に止まるために手の力で藁を切るときのようにワイヤーに上下方向の強い張力が激しく働き、安全を図って規格以上に太いワイヤーを使用していても、簡単に切れてしまうことがある。悪くすると、荷の落下だけではなく、反動を受けて棹がクレーンの本体ごと前につんのめる形で転倒することもある。
阪神大震災の教訓から橋脚だけでなく、道路上の橋桁まで薄い鉄板を巻く補強工事を施しているが、直下型地震で高架道の橋桁が急激に上方向に突き上げられてから一瞬の間を置いて落下した場合の下の方向への衝撃が重力も加わってより強く働く予想外の事態を考慮に入れるなら、「長期的にみて」の視点は無効とならないだろうか。「長期的」経過を経てひび割れが生じた、では改修しようでは、そこに大型地震の突発に備える視点が入っていないことになるからだ。
「長期的」経過を経てひび割れが生じたとしても、阪神大震災級の地震に耐えられる耐震構造となっているとするなら、栗本工業は2005年に発覚した鋼鉄製橋梁の建設工事での橋梁メーカー談合事件で名誉ある一員に加わってもいるのである。鋼管型枠(鉄製円形型枠)の加重時変形が規格の1センチ以内を下回る2・3センチ以内でも強度は十分に保てると見て、安心・安全だからとデータを偽装し、安上がりの製品を納入、不当に利益を得ていた疑いが出てくる。食品会社が賞味期限の切れた製品を食べても健康に害はない、安心・安全だからと賞味期限を先に延ばした日付のレッテルに張り替えて再度売りに出すようにである。
だとしたら、規格として法律等で定められた各基準はタテマエに過ぎないことになる。タテマエでしかないから、大丈夫だ、大丈夫だとサギ・不正の要因となさしめているのだろうか。
安心・安全を目的とした規格上の余裕(=遊び)が「余裕」であることを無視して、不正利益獲得の「遊び」となっているとしたら、納入製品自体の検査を厳格にする以外に方法はない。検査体制にも責任があることになる。謝罪記者会見が儀式化しているように、検査自体も儀式化していないだろうか。とにかく怠慢な役人世界である。