木村 和美 Architect

建築家木村和美の日常活動とプロジェクトについてのブログ

●寡にして衆を制す

2009-08-15 17:07:58 | Weblog

 

ドイツの代表的な車のメーカー、フォルクスワーゲンとポルシェが2011年を目処にフォルクスワーゲンの主導で経営統合をするという。

今年の1月には、ポルシェによる、フォルクスワーゲンの小会社化が発表されたばかりだが、様々な経緯を経て落ち着くところに着地したようだ。

 

世界的なスポーツカーメーカーのポルシェも1980年代後半の米国不況の煽りで業績不振に陥った。

1991年新たに就任したヴェンデリン・ヴィーデリングCEOにより、低価格のボクスターや、流行となったSUVのカイエンの発売で窮地を脱出、その後は安定した経営で最近ポルシェ博物館も新設したばかりであった。

 

その後彼は何を思ったのか、関連大企業のフォルクスワーゲンを傘下に収めようと画策する。

どうもその背景には昨今の金融の肥大化があったようだ。

 

ポルシェは有名メーカーとは言え、年間販売台数は精々10万台、従業員は1万人である。

一方のフォルクスワーゲンは、年間600万台の販売台数で従業員35万人を抱える大企業。

もともとポルシェ博士の国民車構想を根元に持つ兄弟会社とは言え、一瞬これは最近ではまれな”小が大を飲む痛快事”ではないかと思った。

ヨーロッパの自動車業界で何か起こっているのかもしれないと思わせたが、金融危機が表面化しあっけない幕切れとなった。

 

信長の桶狭間の奇襲戦、義経の数々の戦略で明らかなように、日本的には”小よく大を制す”や、”柔により剛を破る”などの価値観が人気を集める。

判官びいきの国民性もあるが、世界的には衆寡争わずと言われるように、総じて大きいほうが有利に運ぶことが通例である。

 

そんな中で起きた欧州の車メーカーの再編劇。

これを期にプジョーとBMWなどの提携が表面化して再編に拍車がかかると言う。

 

 しかしわが身に置き換えると、建築業界の中で小規模にやってきたものにとって、簡単に”寡にして衆を制す”価値観を捨て去るわけにはいかない。

中国の兵書、六韜三略には”寡を持って衆に勝つは恩也。弱を持って強に勝つは民なり”と言う言葉がある。

 

恩とは平素の思慮の事で、いみじくも常日頃の行いや慮りを積み重ねれば、寡と言えども衆を打ち負かすことが可能だと言う格言である。

 

莫大な報酬を取るポルシェCEOも、金融に踊らされもう一つ詰めが甘かったのかも知れないと思う。