A Moveable Feast

移動祝祭日。写真とムービーのたのしみ。

夢の破片2

2008年01月10日 | その日その日
夏目漱石はよく夢を見る人だったようで、「こんな夢を見た」で始まる「夢十夜」という連作小説がある。漱石の低音部と言われることがあって、存在の根源に降りて行くような暗い話が多い。
漱石は幼児期に養子に出されていたことがあり、成人してから実家に戻った。中年になってからも、養家から再び結びつきを要求されるという苦い出来事も経験した。一種の取り替えっ子(Changeling)であったわけで、自分を、恣意的で、取り替え可能な不安定な存在として感じながら、そしてそれを抑圧しながら成長したに違いない。それが彼のカンシャクの爆発や神経症の発作の核であり、また彼の小説に、きわめて現代的、普遍的な要素を与えるものとなった。
「夢十夜」で、自分の深い闇を覗き込もうとしたわけで、夢が重要な糸口であった。
一方、森鴎外は若い頃から、ちっとも寝ない人で、事務的な仕事もせっせとこなした。きっと夢を見ない人であったにちがいない。自分の内から湧きだしてくるものを信じない、こういう人は、有能な、傍観者になる。