空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの感想 15 (憧れの惑星)

2018-10-14 10:14:16 | 文化

  惑星から惑星へとペンを進めるたびに、新しい町を発見する。書いている僕自身、町に余程興味があるんですね。旅は以前はよく行きました。今はあまり行きませんね。どこの街がいいかと聞かれると、

外国では、イタリアのヴェニス、フローレンス、フランスのリヨン、スペインとメキシコの地方都市、日本では函館とか倉敷でしょうかね。京都もいいけれど、混みますからね。

日本も奥に行けばいい所があるのでしょうけど、そしてその奥に行ったこともありますけど、私は車は使いませんから、電車とバスと足で行くのです。

この間なんか、向日葵の写真を撮りたいために、ある所に行くために、駅におりたら、閑散としている。やはり一緒に降りたおばさんに聞いたら、「歩いて、ひまわり畑なんか行くの、無理ですよ」と言われた。そこで「バスは?」と聞いたら、「前はあったけれど、今はなくなりました。タクシーしかありません」と言われて、周りを見渡してもタクシーはない。おばさんは見かねたのか、そばにタクシー会社があるから、私が頼んであげるというのでついて行ったら、六十才くらいの人が出できて、タクシーを出してくれた、帰りは歩いて帰ったが、暑さとその距離でまいるし、道はこれでいいのかと思っても、聞く店も人もいない。おまけに、歩いている道路の横を物凄いスピードの車が走り、のどかな散歩道というわけでない。駅に着くのにはぎりぎりの体力を消耗して、二度と来ないと思ったものだ。

それでは、一般的に良いと言われている所はどうだろうか。十年以上前に、日光の中禅寺湖に行ったけれど、確かに湖は美しく良いけれど、座っている後ろを車がかなりのスピードで走っているのだ。観光シーズンだったので、車が多かったのだろう。これはせっかくの雄大な風景を見て、いい気持ちになっている人の気分を壊すと思ったものだ。

またこれは、京都の御所前でも感じた。御所の前方にあるホテルに入るために、御所に沿った道を歩かねばならないけれども、ここは中禅寺湖のところとは、比較にならない量の車が猛スピードで走りぬけていく。解決策は簡単なことだ、湖の場合も車のスピードを制限すればいいことだ。どこに、責任があるのでしょうかね。お役人さんのセンスに問題があるのかと疑っていたら、車とは関係がないけれど、官僚の不祥事が最近、相次いだ。

そのずうっと前にも官僚の不祥事があったことがある。

話は飛ぶが、中国に何故あのような優れた漢詩の伝統があるのかいうと、官僚の試験の中に、漢詩を作る試験があったそうだ。それで、全国から、詩をつくる天才が集まり、試験を受けた。受かった中からも、落ちた中からも、後世に名を残した大詩人が多いのである。科挙の制度という世界的にも風変りな役人になる試験と聞いている。

日本も法律に強い人ばかり集めると、こんな道路ができるのかなと、ぼやきたくなる。これは一介の素浪人の独り言である。

(ここの場面に適当な漢詩が見つからない。ふと見た詩 )

十六才くらいの美しい娘が春の山遊びから、花を折って帰って来る。帰って見れば日はもう夕暮れで、まばらな春風が、べにをぬった頬を濡らしている。

娘は振り向いて誰かを待つ様子で、着物の裾をつまみ、ゆっくりと歩いている。通りがかりの人はみな、それとなく窺いながら、どこの娘だろうとささやいている。【良寛―谷川敏朗氏訳 】

 

 

 

 

15  憧れの惑星

 

  貴族制度が廃止された。三十五年前に革命が起き、色々な制度は近代的なものになってはいたが、伯爵だのという貴族は廃止されず、生き残っていたが、ついに廃止された。

と同時に、異星人の鉱毒問題が良い方向に向かった。鉱毒をそのまま川に流さず、処理して土の中に埋めるということになった。

驚くことに、異星人は彼らの宇宙船に装備された特殊爆弾も処理し、分解し、使えないようにする、と約束した。

 この劇的な変化を我々はカルナから聞いたのだが、原因はカルナの口から聞くことはできなかった。

しかし、ある時、ハルリラがこんなことを言った。

「長老はアリサをあきらめた。アリサさんは山岡友彦さんと婚約した。わしもアリサをあきらめる。わしは長老に敬意を表現し、サイの金の彫刻を返したのだ。

長老は感動していたね。その結果が鉱毒の解決。特殊爆弾の廃棄、ノーマルなビジネスに舵を切ったのだと思う。

本当に、特殊爆弾を廃棄したのか、ということは俺には確かめようがないが、その確認は新政府と異星人の話し合いで進められるだろう。

 

ともかく、吾輩の仕事は終えたわけだ。もうこの惑星を去って、よその惑星に仕官を探しに行く時が来たように思う」

そんなに、良い国にこのテラヤサ国がなったのなら、この伯爵領にハルリラは残って仕官しても良いのではないかと思ったが、よくよく考えてみれば、ハルリラは失恋したのだ。彼の見事な長老との話し合いと交渉術には敬服したが、彼の心は失恋の悲しみで、この惑星から離れたいのかもしれないと思った。

吟遊詩人にも同じことが言えるかもしれないと吾輩は思った。なぜなら、カルナを伯爵の息子トミーにゆずったということでは、詩人も傷心を持っていたに違いないことが想像されるからだ。しかし、詩人はそういうことはハルリラのようには喋らない。ただ、向日葵惑星を離れることに同意しただけだ。

吾輩と吟遊詩人は阿吽の呼吸で、意見が一致し、そろそろ、アンドロメダの次の旅に出る日が近づいたのだと思ったのだ。

 

 カルナの主張した貴族制度の廃止、異星人との正常なビジネスの開始ということで、伯爵は祝賀会を開いた。たいていの貴族は特権がなくなることを心配し、内心は不安と反対の気持ちがあり、それを表明するものがあったにもかかわらず、廃止を喜びとしたのは この伯爵だけだった。

 

伯爵の言葉のあとに、素早い猫のように黄色のエレガントな服装をしたカルナは目を輝かせ、立って発言した。

「貴族社会は廃止されて、人と人の間を区別する境界線は見えなくなりますが、逆に目に見えない境界線を復活させようとする動きが高まることを我々は警戒しなければ、なりません。アリサのユーカリ国の研修の話を聞いても、ユーカリ国は大統領制になって、四民平等に我々より二十年早く、平等になったはずですが、金持ちと貧乏の差が激しく、学歴による差別が激しく、新しい身分制というようなものが感じられるということです」

「しかし、それは身分による差別ではないですよ。我々は前進したのです」と誰かが言った。

「その通りです。前進はしています。どうも、人は前進すればするほど、形を変え、複雑な形で、区別を作りたがる習性があるようです」とカルナはほほえみを唇にたたえて、そう言った。

「それは区別であって、差別ではないです」

「いや、見かけは区別で、中身は差別ということがあるのです」とカルナが答えた。

「学歴による差別、人種による差別はなくせんよな。わが国では、キリン族は優秀で、鹿族とウサギ族の間にも微妙な差別があると主張するものがある」とカルナとアリサの父親ロス氏が四角い顔を厳しく引き締めて、重々しく言った。

「ユーカリ国では、象族、虎族、キリン族は優秀で鹿族、ウサギ族は劣等と言葉で表現する者がかなりいますよ。実務面での差別がなくなっても、そういう嫌らしい心理的な差別があると言われます」とアリサが言った。

彼女はつぼみが朝、ぽっと咲いた青い薔薇の趣とでもいうような神秘な猫の目をしていた。

 

「異星人の長老がアリサを妻にしたいなどと言ったのも、昔の殿様が気に入った下女を側室にするようなものがあるのではないか。」とハルリラが声を上げるように言って、深呼吸してさらに話し続けた。

「彼らの視線から見れば、鹿族、ウサギ族の多い文明段階の低いと彼らが思っているテラヤサ国の市民なんて、異星人という高い身分からすれば、低い身分に感じたのかも。高度の文明を持つ彼らは、市民を低レベルの身分の者と口には出して言わないけれど、心の底でそういう風に感じている、だからこそ、長老は自国に妻がいるのに、アリサを嫁にもらいたいなどと言ったのだ」

 

吟遊詩人は微笑して、ハルリラを見詰めて言った。

「しかし、彼はテラヤサ国の高い文化を知り、文化こそヒト族の誇りであることを認識し文明を誇ったことを反省している。

許してやろう。利口な人間も時には愚かになることがある。それが人間なのかもしれない」

 

「その差別をなくす運動が今、始まり、少しずつ広がりつつあるというのだから、わがテラヤサ国も人は法の下の平等、そうしたことを徹底する必要がある。

カント九条を入れた基本的人権の確立をもった憲法が早期に締結されることを望むばかりだ。」

伯爵はそう言って、カント九条の設立を約束した。

 

吟遊詩人、川霧も応援演説をした。そして、さらに詩人は言いました。

「カント九条のメインは恐ろしい武力のない平和です。いのちを守る平和です。日常生活では、基本的人権が守られることにより、言論の自由が保障され、そしていのちが守られるのです。経済的にいのちを守る生存権と生活権も大切です。

環境権だの教育の無償化も大切ですが、これは法律でやれますし、憲法によっていのちが守られ、人間らしく生きていけるようになれば、防衛費は少なくてすみますし、そうすれば、そういう金銭は環境問題の解決、教育、福祉にまわせるのです。その意味において、カント九条はこの憲法の大黒柱と言って良い程、大切なもので今後のアンドロメダの世界平和にも貢献していくのではないかと思っています 」

「ただ、問題は残っているぞ。特殊爆弾の廃棄が本当に行われたのかだな。あれがある限りは、我が国は背後で脅迫されているようなものだ」とロス氏が不安そうな表情で言いました。カルナとアリサは父親の顔を見て、うなずいているようでした。

「それはそうだ。わしが新政府の交渉団の中に入って厳しく監視しよう」と伯爵が言いました。

 

  吟遊詩人、川霧はヴァイオリンをかきならした。そして、彼のテノールが響いたのです。

 

愛と慈悲の春がやってきた

花は澄んだ湖面に映り

さわやかな風は呼吸の喜びを誘い

永遠のいのちは光となって我らをおおう

歓喜は叫ぶ、友よ

 

詩人はヴァイオリンを終えて、吾輩の差し出した紅茶を数滴飲んだ。

 そういうことで、この祝賀会が終わると、吾輩、寅坊と吟遊詩人川霧と、ハルリラはアンドロメダ銀河鉄道に乗って、次の惑星に向かって出発した。

  

吾輩がはっと気が付いた時は、アンドロメダ銀河鉄道は ゆるやかに美しい音をたてて、桔梗色の天空を走っていたのです。吾輩は目を見張りました。

不思議です、アンドロメダ銀河の先の方で花火のようなものが上がったのです。天空に花咲いた赤・青・黄色と様々な色の薔薇の花のようなひろがり、ランのような花の広がり、向日葵のような花の広がりとピアノの音のような美しい音を空全体に響かせて、それから散っていくのはちょうど、歌川広重の両国花火を思い出させるような不思議なものを持っていました。吾輩は、京都の銀行員の主人の蔵書の中で、その絵を確か何度も見ました。

彼はよく言ってました「江戸時代の隅田川も綺麗だし、花火も良かったと思う」

 

やがて、美しい宇宙の景色が見えてきました。

天空からたくさんの紫色の藤の花がこぼれ落ちるように咲いている空間が続くかと思えば、梅の花が咲いていたりする野原が見えたり、牧場が見えたり、森はあらゆる生き物の宝庫といういのちの光に輝いているのです。

細長い銀色の帯のようなアンドロメダ銀河の川の水は水晶よりも美しく透明で、なにやら、ピアノ・ソナタのような美しい響きをたてて、どんどんと流れているのです。

 

そして、あちこちにカワセミが飛んでいるではありませんか。

カワセミを見て、ふと、吾輩は銀閣寺の懐かしい「哲学の道」を思い出したのです。

そして、同時に、そこの川に垂れ下った桜の小枝にいたカワセミを思い出しました。全体にブルーで、腹の方はみかん色の美しい鳥です。

すると、不思議なことに、アンドロメダ銀河鉄道の窓から見える景色の向こうの方に、銀閣寺が見えたのです。

 

 

 吾輩は最初、何かの錯覚かと思ったのですが、いえ、そうではありません。

向日葵の畑の向こうに銀閣寺がまるで幻のように光りながら、それも何と一つの銀閣寺だけでなく、いくつも銀閣寺がある間隔を置きながら、信州の盆地に広がる華麗な住宅のように、銀色にきらきら輝いているのです。

 

そしてカワセミが飛んでいます。中には吾輩の乗っている列車に並行して、しばらく飛んで、さっと向こうに飛び去るのもありますが、その美しいこと、生命力に畏敬の念をおこさざるを得ない、神秘な力を感じるのでした。

「アンドロメダ銀河で、銀閣寺を見るとは。夢のような感じがする。不思議だ」と吾輩はぼんやり考えました。

やはり、吾輩としては、銀閣寺は故郷だったのかもしれない。故郷は懐かしい。懐かしい。しかし、吾輩は向日葵惑星の旅を終えて、アンドロメダの旅に出ているのだ。何か胸が苦しいような思いが湧くのだった。

 

 

 薄い桔梗色の大空にこの世のものとは思えぬ美しい鐘が鳴り響いてきました。

「綺麗ですな」とハルリラが言いました。

「素晴らしいね」と言う吟遊詩人の声には感動がこもっていました。

「列車の中にまで響いてくるね。どこで鳴らしているのだろう」と吾輩は言いました。自分の心に響いてくる神秘な音色に、耳を傾けたのです。

「うん、人の住む惑星が近いということを銀河鉄道が知らせているのだと思うな。ところで、君、君は地球から来たそうだね」とハルリラは吾輩の顔を見て、微笑しました。

「そう、京都という文化の都市から来た猫だよ」

「猫?  君は猫なの」

「僕かい。うん。この列車に乗る前は猫だったけれど、今は猫族のヒトだ。君はチーター族なんだろう。」

 

「そうさ。君の名前は寅坊だったよね」

「そう、僕が京都で猫だった時に、主人の銀行員がつけてくれた名前さ」

「本当の君は誰なの」という奇妙な質問をハルリラはしたのでした。吾輩はぎょっとしました。それで仕方なく返事をしました。

「自分が誰かなんてことは考えたことがないから、分からない。外には、色々な風景が流れ、色々考えることはあるが、自分が誰かなんて考えたこともない。誰でもないと思う」

 

「誰でもない、もしかしたら、僕もそうかもしれない」と詩人、川霧は言って、何故か遠くを見るような不思議な目をしました。

 

「ふうん。誰でもない人か。猫の顔をしている変人ということか」とハルリラは言いました。詩人には遠慮したのか何も言いません。

「ま、俺も猫族の一種、チーター族だが、俺も自分のことがよく分からない。気がついた時は魔法学校で勉強していた。その前のことは記憶がない。先生がハルリラ、ハルリラっていうものだから、なんとなく、自分をハルリラだと思っている」

 

 

 「しかし、誰でもない人って、仏さまということに通じるという話を聞いたことがある。名前を取り去り、どこの組織に入っているというわけでもなく、全てを人からはぎとられた裸の人になった人つまり無我になった人って、それは仏さまだとね」と詩人が言いました。

吾輩は向日葵惑星の画家、山岡友彦が白隠の言葉〔人は仏である〕を知っていたことを思い出した。

 

「俺も仏さまという意味が分からないが、ハルリラの前は記憶がない。もしかしたら、俺も誰でもない人なんだ。詩人、川霧さんも誰でもない人。

我々は兄弟以上の親友ということになるのかな」

「そうかな」と吾輩はなんとなくしっくりしない気持ちで答えた。

 

吾輩はそう言いながら、京都での沢山の記憶があるから、ハルリラの言う「誰でもない人」とは少し違うような気がする。

だからと言って、「自分が誰であるのか」が分かっているのか、大いに疑問がある。吾輩は学生でもない。勤めている会社もない。金もあまりない。ないないずくしの吾輩はつくづく不思議な生き物であると思った。天から与えられた「いのち」だけをたよりに、旅を続けているのだから。

 

アンドロメダ銀河鉄道の行く手の大空の中に、不思議な惑星が見えて来ました。満月のように丸く美しい光を四方に放っているのですけれど、半分は金色で、半分は緑色なのです。

 

背の高いほっそりした吟遊詩人、川霧がヴァイオリンを持って、すくと立ちました。我々に声をかけ、ここで「一曲、ひいて皆に挨拶する。アンドロメダの雄大な旅を一緒にするのだから、山に登る時に皆が声をかけるように、わたしもこの列車の人にヴァイオリンで挨拶する」と言って微笑しました。それから、列車の中で、彼のテノールの美しい声が響き渡るのです。

  「私は知りたい、憧れの惑星が

アンドロメダ銀河にあることを

そこには美しい花と果物が道を飾り

カント九条と人権は全ての国で確立され

歩くことが楽しい街並みが至る所にあり

緑の柳がおおう清流は美しい響きをたてて流れ

人々の美しい微笑は澄んだ空気のように至る所に見られ

緑の葉の光にほほえむようにあちらこちらで歓喜の歌が聞こえる

このアンドロメダの旅で

そういう町を発見することこそ

我らの夢

我らは期待に胸を震わせて

我らは次の惑星に

足を踏み入れる

 

 

 それから、詩人はヴァイオリンが歌をなぞるようにひかれる。

乗客から拍手がわきおこる。

 

詩人は席に座りました。

「次の惑星が今の詩に歌われたような憧れの国だといいですね」とハルリラが川霧に声をかけました。

「(アンドロメダ銀河案内)にはどう書いてある? 」と吾輩は聞きました。

ハルリラは 細長い銀色のタブレットのようなものに現われた星の地図を指を使って、少しずつ動かし、見とれるように見ていました。

まったくその中に、青白く表現されたアンドロメダ銀河の川の岸に沿って、一本の鉄道線路が南の方に伸びているのでした。

そして宝石のように美しい水晶のような板の上に、絵画のような地図が広がっていました。見ると、いくつもの駅や寺院、教会、それから、地下水から湧き出る泉や森が散在しているのです。そうした場所からは宝石のような青や緑や黄色や素晴らしい金色の光が輝いています。地図には、いりくんだ網のようにあちこちの道がつながっているのですが、街角にかかる多くの小さな鏡には、そうした建物が映り反射して、不思議な美の世界をつくり、吾輩を驚かしたのです。

吾輩はなんだかその魅力ある地図をアンドロメダのどこかの駅で見たように思いました。

アンドロメダ銀河鉄道は金色の方に入って行きました。上空から見ると、美しい金色の家が並び、大地も金色なのです。吾輩は京都に住む猫ですから、当然、あの金閣寺の金色の美しさを思い出しました。

 

吾輩と吟遊詩人とハルリラが金色の立派な駅を出ると、さわやかな空気があふれていました。柔らかい日差しにあふれ、まるで小春日和の夕暮れのようです。駅前広場には、大きなテレビがあって、戦争の様子が実況放送されています。金色の国ゴールド国と草原の国グリーン国では、今、戦争が起きて、若者はみな戦いに出ているというのです。そのせいか、広場には人がまばらです。

 

吾輩とハルリラと吟遊詩人は駅の前の、金の彫刻のように見えるプラタナスの木に囲まれた、長い金色の道に出ました。周囲は色々なお店が並んでいました。金色の街灯には、ハンギングバスケットにりんどうの花が紫色に輝いて咲き、それがずうっと続くのです。空には、いつの間にかアンドロメダ銀河の星がいくつか輝いていました。

 

 

 奈良駅から春日大社に至る長い散策ストリートのような美しい金色の通りでした。真ん中の道に、時たま自転車のようなものが静かに、ゆっくり通るばかり、両側にある広い歩道にはさきに降りた人たちが、町の人たちとまじって、ゆったりと歩き、どこかの店に消えていきました。

そのようにして、我々はその金色の道を、肩をならべて行きますと、とあるカフェーが目につきました。

吾輩とハルリラがそのカフェーに入ると、あるテーブルで金色の服を着た女達と年寄りの男が大きな声で話していました。

「なんていったって、水は大切だ。あそこの岩場の近くの水は先祖伝来、我々が使っていた。それをグリーン国の連中が急に俺たちにも使わせろだって。本当の目的はあの近くに最近発見された金鉱が目的なのさ。グリーン国はこちらから見ると、うらやましいくらい緑に恵まれた自然豊かな国なのに、やはり、金鉱が欲しいと見える」

「話し合えば、どうなんですか」とハルリラが言いました。

彼らはぎょっとしたようにこちらを向いて、「お前たちは誰だ? 」というような顔をしたのです。

「最初はな、ちょつとした小競り合いだったのよ。最初は警察官が出て、それから、ついに軍隊の衝突になった、それも直ぐに終わると思っていたら、あの小さな場面の衝突から全部の川の奪い合いに広がってしまった。」

「若者はみんな軍隊にとられ、陣をかまえ、にらみ合いになっている」

「陣じやない。塹壕だよ」

「塹壕って、」

「穴だよ。両国とも、細長い穴を川に沿って、えんえんと五十キロもつくっているという話だ。まだ伸ばすみたいだぞ。」

「ところで、お前さん達はここの者ではないな。旅の者かい」

我々が銀河鉄道の客だと知ると、彼らは目を輝かし、言葉づかいも丁寧に、態度も凄く親切になった。

「今夜の泊まる所を探しているのです。なるべく安い所がいいのです」

「そこの『憩いの森林館』がよかろう。あそこは金色の建物ではないけれども安いし、そこへ行けば、この国の様子が手にとるように分かる」

                   〔つづく〕

  久里山不識

    

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