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「ダ・ヴィンチ・コード」でXserve

2006-05-30 | シネシネアーカイブ
ネットの劇場予約で久々に見た満席表示と、教会が激怒したという過激な宗教的解釈と、原作本のベストセラーっぷりと、荒俣宏が出ていたフジの特番と、いつも以上にフサフサなトム・ハンクスの髪形が気になったので、映画「ダ・ヴィンチ・コード」を観にいった。

指定席に座ると、客席は最前列までいっぱい。しかも、ひと席も間が空いていない。こんな状態は、子どものころお母さんといっしょに観にいった「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」以来だ。否が応にも期待に胸はふくらみ、額には汗をかき、鼓動はジャングルビートを紡ぎだす。本編開始前のCMや予告を観ながら、

「あ~、ノドが乾いちまったゼ」。

俺は、前もって買っておいたアイスティー(ミルク付き)に――汗ばんだ手のひらが冷やせるという期待も若干しつつ――そっと手をのばした。

「おろ? なんかこれ、アイスティーっぽく……ねぇ」
「あれ。むしろこれ……ウーロン茶じゃね?

そう。なんと俺は、自分のアイスティーではなく、となりの席の人のウーロン茶に手をつけてしまったのである。ガーン。間接キッス……いやいや、そんなこたぁどーでもいい。うん。もうなんか、これから目の前のスクリーンでめくるめく展開されるであろう「ダ・ヴィンチ・コード」のどんな衝撃的なナゾよりも、ガーン。ガーン。ガーン。…………。

はたと我に返る。いや、むしろショックなのは、俺自身よりも、となりの人なんじゃないのか? という、まことしやかな疑惑が浮上する。横目でそっと様子を見ると……ほっ。となりの人は、反対側の連れっぽい人と話し込んでいた。こりゃぁたぶん気づいていないだろう。謝るのはカンタンだ。しかし、知らぬがホトケともいう。ここはちょっと様子を見よう。

約30分が経過した。映画は最初のツカミの展開がなんとなく終わり、起承転結でいうところの「承」っぽい、いかにもこれから盛り上がっていきそうな雰囲気である。トム・ハンクスの髪形も予想以上にフサフサだ。

しかし俺は、それでも映画に集中できずにいた。となりの人が、一向にウーロン茶を飲まないからだ。

「飲めー。飲ぉ~ めぇぇえええ!(←毒電波)」

――あ。飲んだ! 飲んだよ、オクレ兄さんっ。
しかし、となりの人が飲んだのは、俺との間のそれではなく、反対側の連れっぽい人との間のそれだった。

「気・づ・い・て・い・た・の・か・あ」

いや~、本当にごめんなさい。
心の底から申し訳ない。
今日というこの日、映画館にきてすみません。
そして、となりに座ってすみません。
むしろ、生まれてすみません。

懺悔の言葉はつきないが、結局、私は完璧にタイミングを逃してしまった。あなたに謝ったり、弁償したりという、人としてごくあたりまえのことができなかった。あまつさえあなたは、席に置いていってしかるべきそのウーロン茶を、エンドロールとともにお持ち帰りなされた……カッコイイ。カッコよすぎる。神々しくすらある。

その者、青き衣をまといて銀幕の席に降り立つべし。失われしウーロン茶との絆をむすび、ついに人びとを、青き清浄の地に導かん。

おお、ジーザスよ。マグダラのマリアよ。そして、聖杯よ。
あなたは、そんなところにおわしたのですね。