忘れえぬ体験-原体験を教育に生かす

原体験を道徳教育にどのように生かしていくかを探求する。

震災後の若者たちの意識変化

2012年05月03日 | 東日本大震災と道徳教育
東日本大震災は、日本人の心にもっとも深く刻まれた経験、民族の「原体験」を思い起こさせた。自然の猛威に打ちのめされながら、そのたびに助け合いつつ、いたわり合いつつ再生してきた経験が、日本人のもっとも日本人らしいところを形づくっている。この震災は、そういう日本人の根っこにある記憶を呼び覚まさせたと思う。

震災後一年を超え、震災が日本人の意識にもたらした変化についての調査がいくつも行われている。ここではその代表的なものを一つだけ挙げておこう。

社会の絆、8割が重視=大震災で意識変化-内閣府調査

内閣府が31日発表した「社会意識に関する世論調査」で、東日本大震災以後、社会との結び付きについて「前よりも大切だと思うようになった」と答えた人が79.6%で、「特に変わらない」19.7%を大きく上回った。被災者に対する支援活動の輪が広がり、助け合いの意識が高まったことの表れとみられる。

また、震災後、強く意識するようになったことについて複数回答で尋ねたところ、「家族や親戚とのつながりを大切に思う」が67.2%でトップ。以下、「地域でのつながり」59.6%、「社会全体として助け合うこと」46.6%、「友人や知人とのつながり」44.0%と続いた。(2012/03/31、時事通信社)
 (引用ここまで)

大災害で、みんなが協力し合わなければならない状況を経験したのだから、このような意識変化は当然だと思うかもしれない。しかし、そういう感覚は日本人にとっては当然かもしれないが、世界の常識は必ずしもそうではない。

たとえば、「マイケル・サンデル教授も称賛した日本の「助け合い」精神、共同体意識という強みと、その先にある課題(武田斉起:日経ビジネス20011/4/25)」という記事は、去年4月16日、NHKテレビで放送されたマイケル・サンデル米ハーバード大学教授による特別講義『大震災 私たちはどう生きるのか』に関してレポートしている。その中で武田氏は、震災時の日本人の行動を語った次のような二つの言葉を紹介している。

米ニューヨークタイムズ紙は、「日本の混乱の中 避難所に秩序と礼節」と題する記事(3月26日)の中で、「混乱の中での秩序と礼節、悲劇に直面しても冷静さと自己犠牲の気持ちを失わない、静かな勇敢さ、これらはまるで日本人の国民性に織り込まれている特性のようだ」と評した。

米国のある学生は「カトリーナの時は正反対の状況で、避難者が移った先でさえも便乗値上げが起こった。日本人は略奪をしない、間違ったことはしないという秩序立った精神、責任感といったものが人々の間で共有されている。日本という国全体がそう思っているように見えた。本当に感心し、驚いたし、何だか希望のようなものを感じた」と発言した。別の学生は「同じ人間として誇りに思った」と。


これに類する賞賛は当時かなり多く紹介されていたから、それらを通して日本人は、大災害時には略奪や暴動や無秩序が世界の常識なのだということを知ったはずだ。災害時に略奪や暴動が常態ならば、その経験を通して人々は何を学び、意識をどのように変化させるだろうか。略奪を受けて逆に「社会との結びつきや助け合い」こそ大切だと思う例も少しはあるかもしれないが、多くの場合は、「災害時には周囲の人々は信用できない。人を頼りにせず自分や家族を守ることが大切だ」と思うのが自然だろう。

日本で東日本大震災以後、社会との結び付きについて「前よりも大切だと思うようになった」と答えた人が圧倒的に多かったのは、実際に助け合いやつながりが大切な役割を果たしていたことを見たり、経験したりしたことが前提となってのことだろう。

だからこそ今度の大震災は、「助け合い」精神や共同体意識の大切さを思い起こさせた。つまり日本人の根っこの記憶、「原点」をよみがえらせた。忘れかけていた「国民性に織り込まれている特性」を復活させ、日本人の意識を変化させたのである。

東日本大震災は、まちがいなく日本人の「原体験」のひとつになっていくだろう。いやすでに日本人の、とくに若い世代の意識を少なからず変えつつある。教育の現場は、このような若者たちの意識変化をどのようにして自覚すべきなのだろうか。若者たちのこの変化をどのようにして、さらに育んでいくべきなのだろうか。

《参考図書》
ニッポンの底力 (講談社プラスアルファ新書)
日本の大転換 (集英社新書)
資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか
日本人て、なんですか?
日本復興(ジャパン・ルネッサンス)の鍵 受け身力
日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること (MURC BUSINESS SERIES 特別版)

(Noboru)