玄文講

日記

酒は偉大なり

2006-02-18 23:18:51 | 個人的記録
こんばんはー。

どうも、どうも。
いえね、さっき研究室の冷蔵庫をあけたらバドワイザーと日本酒が入っていましてね、
それを今ありがたくいただいているところなわけです。

いえいえ、私は酔っていませんよ。

酔っていませんけれども、「酔っている」か「酔っていないか」のどちらかを二者択一で選べと言われれば、前者を選ばないといけない状態であることは認めざるをえないことも事実であります。

でも酔ってませんよ、今の私はh

ところで、父の実家は造り酒屋でしてね。

もっとも、正確に言えば実家ではなくて居候(いそうろう)なのですけど、

ああ、違うか。正確に言えば居候なのですけど、父の実家は造り酒屋なのです。
そういう細かい事情はさておきまして、父の縁で私も酒とは関わりが深いはずだったのですが、昔の私はまるでアルコールが飲めませんでした。

特に町内会で行ったキャンプ場でウイスキーを一口飲まされて、笑いながら夜の森の中に消えていった「軽井沢失踪事件」以来、うちの家族が私にお酒を飲ませてくれなくなりまして、友達のいない私は酒の席に出る機会もなく、長い間完全に酒との縁が切れることになったわけです。

それで22年間私は自分が下戸だとばかり思っていました。
ですが大学院に入ってから酒盛りに何度も参加しているうちに、意外と自分が酒を飲めることに気がつきまして、今ではすっかり昼間から酒を飲むクズ野郎に成り下がっているわけであります。


そうそう、その造り酒屋は、最近新しく職人を招いて吟醸酒を作り始めています。
たまに彼らが池袋とか新宿のデパートでやる物産展に出店するときには、私も売り子として手伝いをして、そのお礼にそのお酒がもらえるわけです。
「松竹梅」大安売りセールばかり飲んでいる身には吟醸酒はアリガタイことです。


ところで、今の私は一人で飲んでいます。
酒は一人で飲むに限ります。
単に友人がいないだけというのもありますが。

そう言えば中国の漢の時代には「群飲」が禁止されていたそうです。
つまり3人以上でお酒を飲むと罪になって罰金刑が下されたわけです。
だから宴は国家の慶事における民爵賜与のときや祭りや婚姻などの「礼」の席でのみ行うことが許されていたわけです。

この禁止令の裏には興味深い理由があります。

まず今から約2220年前、始皇帝を生んだ秦は戦国時代を勝ち上がり、各地を支配していた諸王に代わり官僚を派遣して各村々を直接統治するという群県制をしき、中央集権国家「秦帝国」を築いたわけです。

ですがその統治は各地の官僚による農民の圧迫をもたらし、ついには大規模な農民反乱を連鎖的に起こすはめになり、秦帝国はわずか2代目にして滅亡したのでした。

次の支那の支配者となった漢王朝は同じ轍をふまないように様々な工夫をしました。
特に農民の生活を安定させつつ、彼らを支配下に確実に組み込む必要がありました。

そんな漢王朝が農民たちを社会秩序に組み込むために実行したのが、国家の慶事の際に皇帝だけが人民男子に爵位を与えることができるという「民爵制度」でした。
これは農民にも貴族のように爵位が与えられるという世界でも、中国においてでも珍しい身分制度でした。

そしてこの「爵位」は貯蓄することが可能で、既に1度民爵賜与を受けていれば、次の民爵賜与のときには更に一つ上の階級に登ることができ、農民は8番目の階級まで昇ることが許されたのです。

つまり長生きすればするほど「民爵賜与」される機会が増えて年長者が年少者より偉くなり、「父老」が「子弟」を指導するという旧来の郷土的社会秩序が自然な形で皇帝の権威による「民爵制度」にすり替わっていったのです。

そして「民爵賜与」のときは、必ず同時に里ごとに牛肉と酒がふるまわれ、5日間の宴会を行うことが許されたのです。

群飲が禁止されていた当時、酒が飲める席は「礼」、つまり宗教祭礼的な意味を持った場でした。
実際、この宴会は里の神社などで行われました。
そして酒の席では爵位の序列によって座席が決められていました。
これにより「神聖な共同飲食儀礼において、新しい爵位の序列によって定められた席に着座するということは、爵位による里内の新しい身分秩序が相互に確認される機会になるのみならず、その身分が秩序が神前で確定したという誓約的性格をもつものとなり、それによって、その後の里内の生活秩序が規律されたことに」なったのです。
(西嶋定生「秦漢帝国」(講談社学術文庫)より引用)

つまりこれは酒と権威を通じて行われた人民統治であったのです。
漢の時代、酒とは人を結びつけ、支配するための道具でした。面白い話であります。

酒は素晴らしい。発酵万歳!微生物は偉大なり!

ちなみに冷蔵庫の中には他にもワインが入っていたのですけども、あの野郎は酢になっていやがりました。

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