みどりの船

絵本と絵本まわりのこと、日々の雑感を少し。

茶色の朝

2007-09-11 | ドキドキ/五感を刺激する絵本
  『茶色の朝

フランク・パヴロフ 文/ヴィセント・ギャロ 絵
高橋哲哉 メッセージ/藤本一勇 訳   大月書店


ある日、ペットの毛色を茶色に統一する法律が施行され、
友人のシャルリーが、自分の愛犬を安楽死させたと
告げる会話から、話ははじまります。

その理由は、テストによって、「茶色がもっとも都市生活に
適していて、子どもを産みすぎず、えさもはるかに少なくて
すむことが」証明された、ということらしい。

少し前に猫を処分していた俺は、まさか犬まで・・・と、
妙な感じを持ちながらも、さほどおおげさに反応することなく
ことは過ぎていきます。

そうしているうちに、シャルリーが愛読している新聞が、
その法律を批判していると発禁になり、
その系列出版社が、図書館や本屋から強制撤去・裁判となり、
会話にもわざわざ「茶色」をつけなければいけないほど、
気を遣うようになっていく。

何かおかしい・・・。

でも、お互い、すぐ「茶色」の犬と猫を飼い始め、
「茶色に守られた安心」を悪くないとも思っている。
状況に慣れ、流れに身をまかせたまま、考えることも放棄して。
そのうち身に迫ってくる危険のことなど、つゆも考えず・・・。

ほんの数十ページの薄い絵本なのに、読んでいる間中
うすら寒さを感じ、読み終わるといつも、
怖くてしかたなくなります。
たんたんと静かに語られるからなおさら、恐い。

「茶色」はフランス人にとって、ナチスのイメージ色であり、
極右、全体主義の象徴なのだと、この本で知りました。

ファシズムの台頭への警鐘とともに、ファシズムは
わたしたちのそういう無関心や守りが作り上げていくもの
なのだということを、ひしひしと感じさせます。

でも、これに似たようなことを、身近なことで、
わたしたちもしているかもしれない。
気付かないふり、忙しいふり、考えないふりをして・・・。

巻末の高橋哲哉さんのメッセージは、この絵本が生まれた
背景から、問題提起、なすべきことまで、とてもわかりやすく
書かれていて、わたしたちひとりひとりが立ち止まって
考える手だてを与えてくれています。

考えることをやめないこと。
流されないこと。やり過ごさないこと。
心していないと、わたしたちだって、いつ
シャルリーや俺になるかもしれない。

「茶色の朝」を迎えないために、つねに自分で考えて、
時には声に出していかないといけないんですよね。


9.11の日に想ういろいろなこととあわせて、
思わず引き出して読み直したくなった一冊です。



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16 コメント

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怖い絵本ですね (各務 史)
2007-09-12 00:51:57
最初は、それほど大げさなことじゃなくて、
(いや、この本はいきなり大事ですが!)
それが、少しずつ感覚を麻痺させながら、
気がつけば、とんでもないところまで状況が切迫している。
実際に良くあることですよね。
なんとなく、身に覚えのあることだからとても怖い。
紹介の記事だけで、もう十分背筋が寒いです…。
こういうテーマは、SFでは結構取り上げられているような気もします。
ちょっと違うけど星新一さんの「おかばさま」とか。
マンガだけど「地球へ・・・」とか。

周りの価値観に流されない感覚が必要かもしれませんね。
返信する
Unknown (jasumin)
2007-09-12 09:52:03
ほんとうにいろいろなことを思わせてくれます。
いろんな疑惑や謎や、たくさんの推測を知って、わからなくなることばかりですが
それはあくま憶測に過ぎず、知りうる真実は、やはりたくさんの命が無駄に失われたってことだけだと思います。

知ること、そして鵜呑みにしないこと、自分の考えを持つこと、見て見ぬフリをしないこと・・・
子どもたちの将来にも「茶色の朝」が来ることのないように
忘れずに過ごして行きたいですね。

以前読んだ本を思い出しました。
「アムネスティ・インターナショナル」という国際団体と谷川俊太郎さんが作られた「かさをささないシランさん」という絵本です。
雨の日に傘をささなかったという理由で捕らえられるのですが、
これは面白いお話でもなんでもなくって、「人と違うことをした」ということが原因なのです。
返信する
メールありがとうございました。 (kayo)
2007-09-12 11:10:42
フラニーさん、到着メールありがとうございました。

気に入っていただけたようでうれしいです!フラニーさんへのポストカード選びはいつもすご~く迷っちゃうんです(それがすごく楽しいんですけど)


もっと長~い手紙を添えて発送したかったんですけど、それだといつまでたっても発送できない気がしたので(笑)


フラニーさんの紹介される本は、いつもすご~く読んでみたくなります。この本もすごく気になります。大月書店が出しているってところが、より深そうで・・・

なかなかコメントいれることができないんですけど、フラニーさんのおかげで、自分ではきっと開くことのなかった本にたくさん出会わさせてもらっています。

これからもいろいろ教えてくださいね!
返信する
怖い (こもも)
2007-09-12 11:18:38
怖いですね。
先日読んだ小川洋子と激しく重なり、また、どんよりと考え込んでしまいました。
是非、読んでみたいと思います。

9.11
私たちは、ただ悲しむだけでなく、あの場所から、何かを学ばなくてはいけませんね。
返信する
Unknown (はらぺこ)
2007-09-12 17:36:15
フラニーさん、こんにちは。
実は9.1突然父が亡くなりました。
今はなんだか、無気力&脱力感で、何もしたくないし、何も考えたくないのですが、
もっと強くならなくちゃいけませんね。

>考えることをやめないこと。
流されないこと。やり過ごさないこと。
心していないと、わたしたちだって、いつ
シャルリーや俺になるかもしれない。

フラニーさんがおっしゃるとおりですね!
「茶色の朝」を迎えないために、考えて行動しなければ・・・

ご紹介の本、是非読んでみたいです。
みなさんのブログから元気をもらい、ボチボチとまた
ブログも再開したいと思っています。
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●各務 史さんへ (フラニー)
2007-09-12 22:49:23
薄っぺらい絵本なのに、なかなか考えさせられる絵本です。
自分も実際やっていることだから、なおさら怖さが募ってしまう。
NOはNO!と声を出していかないと、とんでもないことになってからひどく後悔しそうですもんね。

「おかばさま」読んだことがないので、ちらり検索してみたら、ありました!
ふふ、さっそく予約しました♪
マンガのほうは、アニメ化されてるんですね。
ずいぶん前からあるマンガなんだと、今はじめて知りましたよー。(^^;
なんだか、amazonのレビューを読むと、壮大なお話みたいですね。
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●jasuminさんへ (フラニー)
2007-09-12 23:05:13
>知ること、そして鵜呑みにしないこと、自分の考えを持つこと、見て見ぬフリをしないこと・・・

勇気いることもあるけれど、努力はしたいですね。
事実から憶測されることが、偏見にかわっていったり、
思いこみからとんでもない行動に出るようなことは、
思いとどまりたいですもん。

シランさんの絵本、以前読んだとき、わたしも茶色の朝と同じような寒々しさを感じました。
そんなことで?という理不尽さと、マジョリティーに従うべきという威圧感。
アムネスティという団体も、この本ではじめて知ったのでした!
わたしももっといろいろ感心枠を広げて、モノ考えられる人になりたいです。
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●kayoさんへ (フラニー)
2007-09-12 23:17:14
たくさんの制作と発送だったのではないですか?
わたしなど、ちょっと恐縮するほどで・・・
でも、ありがとうございました~♪
今は、しっかりシーズケース ビタフルーツのケースにかぶせてあります
コハが、あの目をすっかり気に入ってるんですよ!

この絵本、そうそう大月書店刊なんですよね。
絵本の出版があることにびっくりしました。

kayoさんにそんなふうに言ってもらうのも、恐縮ですよー。
最近思うように書く時間もなくなってきて、いつまで続けられるか??ですけど、またポチポチやっていきますね。
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●こももさんへ (フラニー)
2007-09-12 23:24:10
先日のこももさんの小川洋子作品も、ひたひた忍び寄る不気味さがありましたもんね!
知らないうちにそうなってるって、やっぱり恐ろしいです。
もともと安価な冊子として配られたものらしいので、本当に短いお話なんですよ。
時々見ては、自戒してるんです。忘れっぽいので・・・。
jasuminさんのコメント通りですよね!
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●はらぺこさんへ (フラニー)
2007-09-12 23:36:43
はらぺこさん、先日、こももさんのところでお父様のことを知り、あまりの急なことに驚いて言葉がなくて・・・
お父さんが倒れられたあと一緒に過ごされた時間は、お父さんにとっても幸せな時間だったはず。
今は、いろんな思いがうずまいているでしょうけど、
どうぞご自分を責めないでね。
そして、もっと強くなくちゃ・・・なんて思わないで、
できるだけ、気持ちのままにお過ごしくださいね。

気持ちがつらい時期に、コメントまでありがとうございます!

今のはらぺこさんの悲しみがゆっくり癒されていくことを、願っていますよ。
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