暫定規制値上限の食品だけを食べた場合の内部被ばく

*このページは放射性物質について素人が書いています。誤り等ありましたらご連絡下さい。*

放射性セシウムの暫定規制値と、その元の計算データ(単位はBq/kg)

基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケースより


前々回前回と暫定規制値の計算方法を見てきました。では、暫定規制値上限の食品だけを食べた場合、どのくらいの内部被曝になるのでしょうか?




 
預託実効線量(Sv)= 線量換算係数(mSv/Bq)× 放射性物質濃度(Bq/kg)x 1日あたり摂取量(kg)×実質摂取期間]
実質摂取期間={1-exp(-崩壊定数×摂取期間)}/崩壊定数 

セシウムの規制値にはストロンチウムも含まれているので、それぞれの核種について計算して足し合わせます。

結果はこちら。


(半減期を考慮、ストロンチウムの寄与込み)

成人 6.44mSv 幼児(5歳児) 2.53mSv 乳児 4.54mSv となり、成人が最も高い内部被曝量になります。また、規制値と同じように希釈率を0.5(半分の食品が汚染されている)とすると、

成人 3.22mSv 幼児 1.26mSv 乳児 2.27mSv

と、規制値の根拠になっている5mSvよりも低い値になります。これは、最も被ばく量が大きくなる年代の数値を規制値として採用し、きりのよい数字にした結果です。(穀類の場合、成人が最も低く1100Bqで1mSvになるが、500Bqを規制値にしている。このページ1番上の表参照)

乳児では、幼児(5歳児)よりも被ばく量が多くなっていますが、種類別に見ると、飲料水と牛乳・乳製品の割合が非常に大きくなっています。この飲料水、牛乳を除くと、

 成人 4.21mSv 幼児1.10mSv 乳児 1.30mSv
 (希釈率1・全て汚染されている場合)

となり、乳児、幼児では1mSvに近くなります。子供の内部被曝を少なくするためには、飲料水と牛乳の対策が重要だと言えます。

核種別の内部被曝量は下記の通り。


(Cs137:Sr90=10:1で計算。半減期考慮、希釈率1)

乳児でSr90の寄与が大きくなっています。現在分かっている範囲では、陸上ではストロンチウムとセシウムの比率は暫定規制値の比率よりも大幅に低くなっており、この点では安心材料だと言えます。ただ、食品によりストロンチウム、セシウム比率は異なり、特に牛乳中のストロンチウム量は重点的に検査すべきだと思います。


まとめると、

子供と大人は同じ基準値であるが、内部被曝量は子供の方が小さい。
乳児、幼児では飲料水、牛乳から受ける線量が多い。
乳児ではSr90から受ける影響が大きい。
(牛乳でのストロンチウム検査が必要)
希釈率(どの位の食品が汚染されているか)を考慮する。

希釈率では、スーパーなど小売店でいろんな産地、生産者の食品を購入する場合、汚染された食品の比率は非常に低くなると思う。ただ、福島での農家の自家消費、家庭菜園など、ある特定の地点で取れた食品だけを食べる場合、基準値以上の食品をとり続けることになる可能性もあるので要注意。



関連ページ
<放射性セシウム>食品規制値、年間1ミリシーベルトに
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111028-00000040-mai-soci
食品衛生審議会・放射性物質対策部会資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tmph.html
食品の規制値を年間1mSvに引き下げられる見込み。

福島県 農林水産物モニタリング情報
http://www.new-fukushima.jp/monitoring.php
農水省 農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_chosa/index.html

Bq Sv 換算ツール
http://testpage.jp/m/tool/bq_sv.php?guid=ON
Bq値を入力すると預託実効線量を計算できます。(成人の値)

当ブログ内
食品の放射性物質の暫定基準値について
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/6e1693277c8d28bd630340b948229efb
食品の放射性物質の暫定基準値について 必要なデータ
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/57e90a3ba83316a8a1b7521ddbbb4a3f

2011/11/7 更新 
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食品の放射性物質の暫定基準値について 必要なデータ

*このページは放射性物質について素人が書いています。誤り等ありましたらご連絡下さい。*


前回の続き。食品の暫定基準値の計算方法が分かったところで、実際の計算です。これは、下記サイトなどですでに詳しく計算されていますので、ここでは解説程度に。

基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケース 
http://www.aist-riss.jp/main/modules/column/atsuo-kishimoto010.html
食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか
http://katukawa.com/?p=4467


計算に必要なデータとして、まずは、核種毎の構成比(初期存在量)と実効線量換算係数。実効線量換算係数で、BqをSvに換算します。

 放射能の量(Bq) x 実効線量換算係数(Sv/bq)= 預託実効線量(Sv)

となります。預託実効線量とは、摂取してから成人は50年間、子供や乳幼児に対しては摂取から70歳までの期間に受ける内部被ばく量となっています。この値は、核種や摂取時の年齢によって異なります。

預託実効線量とは
http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food2/Yougo/yotaku_jikkou_syousai.html


基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケースより


実際の値では、成人のCs-137の実効線量換算係数(mSv/Bq)は1.40E-05。 「E-05」というのは10のマイナス5乗です。1.40x10-5。これに対し、幼児(5才)は9.70x10-6。ここで、Cs137が500Bq/kg含まれる食品を1kg食べたとすると、それぞれの内部被曝量は下記の通り。

 成人 500(Bq) x 1.40x10-5(mSv/Bq) = 0.007(mSv) = 7.0(μSv)
 幼児 500(Bq) x 9.70x10-6(mSv/Bq) = 0.00485(mSv) = 4.85(μSv)

同じ量の放射性物質を食べたのに、成人は7.0μSvで幼児は4.85μSv。成人よりも幼児の内部被曝量が約30%少なくなります。これは幼児の方が代謝が大きく、一旦体に入ったセシウムを外に出す能力が高いためのようです。


放医研 内部被ばく線量算定支援グラフデータベースより
(クリックで大きく見られます)

このグラフは、体内に入ったCs137が時間が経つごとにどの位減るかを表したものです。(両対数のグラフということに注意)一番減るスピードが速いのは1歳児で約10日で体内のCs137は半分になります。最も遅いのが成人で半分になるまでに約90日かかります。この半分になる期間を「生物学的半減期」といいます。要はセシウムに関しては子供の方が体の中にある期間が短く、それだけ被ばくする量も少ないということのようです。

もう一つ必要な情報が、どの位の量の食品を食べているか。


基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケースより

野菜、穀類、肉・魚・その他に関しては、成人の方が子供よりも食べる量は多い(乳児はほとんど食べない)。しかし、牛乳・乳製品は子供の方が摂取量が多く、乳児は成人の三倍になっています。飲料水も乳児で成人の約1/2とその他の食品よりも割合は大きい。

暫定規制値を決めるに当たっては、放射性セシウム+ストロンチウムによる年間の内部被曝量を5mSvにするよう決定。これを飲料水、牛乳・乳製品、野菜、穀類、その他(肉、魚、卵など)の5種類にそれぞれ1mSvずつ等分しています。摂取量、実効線量係数などから、この線量になるように食品に含まれる放射性物質の限度量(濃度)を計算した結果がこちら。


基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケースより
(計算方法は前回の記事をご参照下さい)

野菜を見ると、成人は554(Bq/kg)、幼児は1688(Bq/kg)でそれぞれ年間1mSvになるということです。基準値500Bq/kgでは、成人は約0.9mSv、幼児では0.3mSVでの規制ということになります(暫定基準値ではそれぞれのカテゴリーで最も厳しい値を採用)。このため、牛乳以外では成人が最も受ける内部被曝量は多くなっています。大人と子供で基準値が同じというのはおかしいという意見も聞かれますが、実際には子供(幼児)の内部被曝量は大人よりも小さいということになります。

ただし、前回も書きましたがここでは、希釈率を0.5(食品の半分が汚染されている)としています。さらに、食品内の放射能濃度も物理的半減期に従って減っていくという前提で計算されています。このため、全て基準値の食品を1年間取った場合の預託線量ではありません。この計算はまた次回。


関連ページ
食品の放射性物質の暫定基準値について
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/6e1693277c8d28bd630340b948229efb
放医研 内部被ばく線量算定支援グラフデータベース(体内残留率・排泄率のモデル予測値)
http://www.nirs.go.jp/db/anzendb/RPD/gpmdj.php
ニコニコ生放送「緊急報告!アナタの食べ物は大丈夫?~放射線による食品汚染の実態に迫る~」
http://live.nicovideo.jp/gate/lv67862769
野尻美保子先生、早野龍五先生、勝川俊雄先生による食品の放射線測定の実演、解説。非常に分かりやすく、お勧めです。

2011/10/22更新
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食品の放射性物質の暫定基準値について

*このページは放射性物質について素人が書いています。誤り等ありましたらご連絡下さい。*


福島第1原発から約7ヶ月経ちましたが未だに混乱が続いています。放射能(あえて”放射能”と書いています)、放射性物質に関して、最も分かりにくいのが「食品の暫定基準」ではないでしょうか?これは、3月17日に厚生労働省から発表されました。

放射能汚染された食品の取り扱いについて
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf

上記pdfファイルには、規制値とともに『検査に当たっては、平成14年5月9日付け「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」を参照』と書かれています。

緊急時における食品の放射能測定マニュアル(H14年3月)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf#page="36"

マニュアル35ページには、「飲食物摂取制限に関する指標」があります。

放射性ヨウ素 
飲料水・牛乳・乳製品 300Bq/kg 以上 
野菜類 2000Bq/kg 以上

放射性セシウム
飲料水・牛乳・乳製品 200Bq/kg 以上
野菜・穀類・肉、卵、魚 500Bq/kg 以上

となっており、現在の基準はこの指標の最も低い値を取ったようです。(100Bq/kgを越えるものは、乳児用には使用しないよう指導すること、と追加)暫定基準値は突然決まったような印象がありますが、少なくとも平成14年には指標値があったということです。

さて、ではこの基準値はどうやって導き出されたものか?下記資料にその計算方法が記載されています。

飲食物摂取制限に関する指標について(平成10年3月6日)
http://trustrad.sixcore.jp/wp-content/uploads/2011/03/7221186cfa36d490b84f398707fcf5e2.pdf

ここでは、まず、摂取制限の介入レベルの指標を1年間の預託実効線量を5mSv。さらに、放射性ヨウ素では甲状腺等価線量で年間50mSvとした。ここで放射性ヨウ素は「甲状腺等価線量」であることに注意。これは甲状腺だけの影響を見る指標で、通常言われる実効線量のSvとは違う単位。これを全身の影響を見る実効線量に直すと、

甲状腺等価線量 50mSv x 組織荷重係数 0.05 = 実効線量 2mSv

となります。詳しくは下記リンクをご覧下さい。

等価線量と実効線量の違いについて(六号通り診療所所長のブログ)
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26


次に対象核種について。
希ガス類は外部被ばくのみに寄与するとして除外し、ヨウ素群(I131~135)を選定し、I131を指標核種とした。(Te132はI132の親核種としてヨウ素群に含めた)それぞれの初期存在比率は原子炉内の主な核分裂生成物の存在量を元に下記のように定めた。

ヨウ素群の核種の存在比率(I131の1とした時)
I131 1(指標核種)
Te132  1.3191
I132  1.3617
I133  1.4255
I134  0.0006
I135  0.5532

ストロンチウム、セシウムでは、Sr90/Cs137の比を0.1と仮定。その上で、Cs134+Cs137の放射能の和を1として指標を決定。比率は下記の通り。

Cs134  0.54455
Cs137  0.45545
Sr89  0.28732
Sr90  0.04555

ここで分かるのは、放射性ストロンチウムはセシウムを指標として基準値に含まれているということ。その比率はSr90:Cs137=1:10とされているということ。(現在判明しているストロンチウムの比率はこれよりも格段に小さい)

いよいよ基準値の計算。計算式は下記で表されています。




単一核種の場合として書き直すと、

基準値(Bq/kg)= 1年間の線量限度(mSv)/ [希釈係数x 線量換算係数(mSv/Bq)×1日あたり摂取量(kg)×実質摂取期間]

実質摂取期間={1-exp(-崩壊定数×摂取期間)}/崩壊定数

となります。
ここでポイントとなるのが希釈係数と崩壊常数の項です。

希釈係数は、どの位の食品が汚染されたとするか?という割合。ヨウ素の場合は、希釈係数は1。セシウムに関しては0.5となっています。つまり、ヨウ素では全ての食品が、セシウムの場合は、食品の半分が汚染されたと仮定して計算されています。(EUでは希釈率0.1で基準値を策定)

崩壊常数の項 {1-exp(-崩壊定数×摂取期間)}/崩壊定数 は、[実質摂取期間]としました。放射性物質はそれぞれ崩壊と共に減っていくため、食品内の放射能濃度も物理的半減期に従って減っていく。との考えからこの項があるようです。

よって摂取期間は1年間(365日)ですが、実際は、

I131 11.5日
Cs134 310日
Cs137 360日

で計算していることになります。これは、放射性物質の放出が一度だけであり、継続した放出はないという仮定されているということでしょう。これが妥当なのかどうかは私には分かりませんが、少なくとも半減期が長く指標となる放射性セシウムにも適用することには疑問が残ります。


ここまでまとめると下記の通り。

暫定基準値の基となる指標値は平成14年には決まっていた。
摂取期間は1年間(365日)で計算されており、「長期間に渡る防護措置」としている。
食品の線量限度は放射性ヨウ素の甲状腺等価線量で50mSv/年、放射性セシウムは実効線量で5mSv/年(等価線量と実効線量の違いに注意)
放射性ストロンチウムの基準値はセシウムに含まれており、その初期存在比はSr134:Cs137=1:10で計算。
ヨウ素群では全ての食品(希釈係数1)、セシウムでは半分(希釈係数0.5)が汚染されていると仮定。
放射性物質の放出は1度だけであり、食品の放射能濃度は物理的半減期に従って下がると仮定。


実際の計算はまた次回。


関連ページ
第372回 食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110323sfc
第373回 食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110325sfc
食品の暫定基準値についての資料、議事録など

食品安全委員会 東北地方太平洋沖地震の原子力発電所への影響と食品の安全性について
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_genshiro_20110316.pdf
放射性物質と食品に関するQ&A
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_QA.pdf
問3:暫定基準値の根拠として、1年間で摂取し続けた場合に、食品の放射能濃度が半減期に従って減っていくことを前提に、基準に達する放射能濃度として求めたものと回答。

基準値の根拠を追う:放射性ヨウ素の暫定規制値のケース
http://www.aist-riss.jp/main/modules/column//atsuo-kishimoto009.html
基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケース 
http://www.aist-riss.jp/main/modules/column/atsuo-kishimoto010.html
産業総合研究所・岸本 充生氏による解説

食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか(勝川俊雄氏)
http://katukawa.com/?p=4467


2011/10/10 更新 
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