燃料電池の可能性

エネファームは省エネなのか?」シリーズで、家庭用燃料電池「エネファーム」では、統一した性能表示がないこと、また、お湯・電気使用量が少ない家庭ではかえってエネルギー消費量が増加するという恐れがあり、現状での国策としての普及促進は行うべきではないと書きました。

ただし、これは家庭用燃料電池「エネファーム」を各家庭に一台設置する場合の話であり、燃料電池自体を否定しているわけではありません。というわけで、今回は燃料電池の実施例です。

toyota 家庭用燃料電池コージェネレーションを用いたマイクログリッド実証試験について
http://www.toyota.co.jp/jp/news/05/Aug/nt05_0807.html

2005年に行われた実証実験。一家に一台ではなく、2台の家庭用燃料電池で4戸の住戸への電気と熱の供給。家庭の熱・電気使用量は限られているため、一家に一台では定格運転できる時間は限られてしまいます。

「4戸に対し2台の家庭用燃料電池で電気・熱を供給することで住戸毎の負荷の変動に対する平準化ができ、集合住宅への家庭用燃料電池導入の更なる効果が得られることが分かってきました」

と結論付けられています。

JX日興日石エネルギー:集合住宅における「創エネ+リノベーション」の実証試験
http://www.noe.jx-group.co.jp/newsrelease/2012/20120517_01_0794529.html
集合住宅で使う電気と熱をHEMSで最適管理
http://jscp.nepc.or.jp/article/jscp/20120924/324287/index3.shtml

こちらも16戸の住宅に対しエネファームを6台設置。熱とお湯を分配。エネファームは24時間定格運転による高効率運用。

アップルの再生可能エネルギー100%
http://www.apple.com/jp/environment/renewable-energy/
NTT America、データセンターをバイオガスで稼働へ
http://japan.cnet.com/news/service/35005693/?ref=rss

アメリカの事例。データセンターの電力用として燃料電池を設置。バイオガスを用いることで、再生可能エネルギーとして燃料電池を利用しています。

山形市浄化センター
http://www.nega.or.jp/publication/press/2011/pdf/2011_07_9.pdf
熊本北部浄化センター
http://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/14376.pdf

日本のバイオガス利用の燃料電池。どちらも下水処理場で下水汚泥からバイオガスを生成し、これを燃料として燃料電池を稼動。電力は所内で消費、発生した熱も消化ガスの加熱用に利用しています。

栃木県下水道浄化センタ
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1301/17/news014.html

こちらも下水由来のバイオガスで燃料電池を稼動させる計画。発電した電力は自家消費するのではなく、再生可能エネルギー固定価格買取制度を利用して売電。同様の計画は今後増えそう。

マイクロソフト、バイオガスで稼動するデータセンター「データプラント」を開発
http://japanese.engadget.com/2012/11/24/ms-data-plant/

こちらはコンテナ型のデータセンターを下水処理場などに設置。バイオガスの発生地に電気を消費する設備を併設しようというプロジェクト。地域のエネルギーを地域で使うという地産地消から一歩進んで、需要も呼び込むということも出来そう。個人的に最も期待しています。

日本での燃料電池の話題では家庭用のエネファーム偏っているようですが、燃料電池の特性から考えると、効率が高い定格運転ができる商業用、または集合住宅での熱・電気の一括供給の方が向いていると思います。また、バイオガス使用での燃料電池発電は出力が安定している点から再生可能エネルギーとしての価値も高い。

燃料電池はすばらしい技術です。家庭用にこだわっるのではなく、特性に合った用途での活用が広がることをを期待しています。


関連ページ
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html
富士電機 下水汚泥消化ガスを利用した燃料電池
http://www.fujielectric.co.jp/about/company/jihou_2010/pdf/83-03/FEJ-83-03-228-2010.pdf
再生可能エネルギーの固定価格買取制度と下水道のバイオマス利活用
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130403-00010000-biz_it_sj-nb
燃料電池よ、お前もか -- 「エネファーム」好調の先に潜むワナ
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20120618/223433/?ST=energytech&P=1


2013年6月27日更新
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エネファームは省エネなのか?その6 まとめ

エネファームは省エネなのか?」シリーズその6。まとめです。


一般社団法人 燃料電池普及促進協会より

現在のエネファームは「熱主電従」。熱の必要量に合わせて発電を行います。つまり、一日に必要なお湯が貯まれば発電もストップ。このため、熱需要が低くなる夏場はエネファームの発電量も少なくなります。お湯の使用量が小さい家庭も同様。また、電気の使用状況に応じて出力の調整を行います。定格出力1kwのエネファームでは、最大出力が1kw(1000w)。そのときの家庭の電気使用量が500wであれば、50%の出力で運転するということになります。


東京ガスエネファームスペシャルサイトより

エネファームの販売では、定格出力時の高効率のみが宣伝されており、低負荷運転時の効率は公表されていません。また、実際の使用状況での効率も分かりません。省エネ、光熱費削減効果の試算では同じメーカーでさえ、機種ごとに試算内容が異なっています。「家庭用燃料電池」としての統一した性能表示もありません。

NEDOでは平成17年度~21年度の5年間に渡り、大規模実証実験を行っています。

NEDO 定置用燃料電池大規模実証研究事業
http://www.nedo.go.jp/activities/ZZ_00347.html
平成21年度定置用燃料電池大規模実証事業報告書
http://www.nef.or.jp/happyfc/pdf/h21b_report.pdf

上記報告書(ブログでの紹介記事はこちら)を見ると、実際の使用状況では効率に大きなバラつきがあることが分かります。お湯、電気ともに多く消費する世帯ではエネファームの効率が高くなっており、もともとエネルギー消費量が少ない世帯では逆にエネルギー増加という結果になっています。

これらの点から、家庭用の燃料電池「エネファーム」に無条件に補助金を出し、普及を促進するということは、省エネには繋がらず、かえってエネルギー消費量が増加するという恐れがあります。

まずやるべきことは「家庭用燃料電池」として統一した性能表示制度を作ること。エコキュートでは普及に伴い、JIS規格として性能表示ができました。エネファームにおいても、最高効率だけではなく実際の使用状況に即した試験方法を導入し、機種別に性能を比較できるよう業界で統一した基準を作るべきです。

また、熱と電力の供給の比率、エネルギー削減になる条件とはどのようなものなのか。家庭のガス・電力使用量による効率の差など、エネファームの特徴をきちんと説明し、データを公開することが重要。これができていない現状での国策としての普及促進は行うべきではないと私は考えています。

ただし、燃料電池そのものを否定しているわけではありません。あくまで家庭用燃料電池「エネファーム」についてです。燃料電池の導入で高い効果が期待できる用途はたくさんあります。これについてはまた今度。


関連ページ
東京ガス エネファームスペシャルサイト
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/index.html
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html

シリーズ エネファームは省エネなのか?
その1 実際の効率は?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/216ba997f601b8057017756e92d1b576
その2 試算内容、モデルケースとは?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/738a677952de926aa5c84b4795b7fea7
その3 大規模実証実験の結果
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/0d4fc5ecb18490a02e1b637c7d79bb2c
その4 CO2排出原単位、エネルギー換算係数
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/d9bb86310783c5522be7c665f90e8aee
その5 エネルギー削減量の試算
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/f8ea691237775a1754e7ba8ccd355270


2013/5/9 更新

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エネファームは省エネなのか?その5 エネルギー削減量の試算

エネファームは省エネなのか?その5です。

前回も書いたとおり、大規模実証実験の報告書では排出原単位、エネルギー換算係数など実際の係数を使った計算になっていません。

では、これらの係数を用いて計算すると一次エネルギー、CO2削減率はどのくらいになるでしょうか?
ここではまず燃料電池への燃料供給量を求めます。

平成20年度の平均値では

 電気利用効率 28.9%
 熱利用効率 33.0%
 電力供給量 258kwh/月
 熱供給量 1057MJ/月

 電気利用効率=電力供給量[kwh]x3.6[MJ/kwh]x100 / 燃料供給量[MJ]
 熱利用効率 =熱供給量[MJ]x100 / 燃料供給量[MJ]

なので、これから逆算すると燃料供給量は約3200MJ。都市ガスの発熱量(HHV)は45MJ/m3なので約70m3/月のガス使用量になります。つまりは45m3(3200MJ)のガスを使用して、1057MJの熱と258kwhの電気を作ったということです。この場合、効率は

 電気利用効率 28.9% + 熱利用効率 33.0% = 総合効率 61.9%

エネファームの宣伝で言われている利用効率85%と比べると小さな値です。

ここでは次の係数を用います。

燃料供給量 3200MJ/月
電力供給量 258kwh/月
熱供給量 1057MJ/月

*平成20年度 燃料電池運転平均値

ガス給湯器効率 95%(高効率ガス給湯器として計算)
電力のCO2排出原単位 0.510kg-co2/kwh(2011年度の電気事業の平均値)
都市ガスのCO2排出原単位 0.05125kg-co2/MJ
電力の一次エネルギー換算値 7.07MJ/kwh(2011年度エネルギーバランス表より)

諸指標の定義


上記の表から、

  一次エネルギー削減量 = 湯供給量(MJ)/ガス給湯器効率 + 電力供給量(kwh)x電力換算係数(MJ/kwh)-燃料供給量(MJ HHV)
   =1057[MJ]/0.95 + 258[kwh]*7.07[MJ/kwh] - 3200[MJ] = 約 -263.4MJ
 
報告書では一次エネルギー削減量は平均621MJでしたが、こちらの計算では削減量マイナス、つまりエネルギー消費量が増加となります。

同様に計算すると、

 CO2削減率 約13%
 一次エネルギー削減率 -9%

となります。(計算過程は省略)
CO2削減率は13%と報告書の28%よりも大幅に低下、一次エネルギー削減率は-9%となり9%の増加となります。

一次エネルギー削減量とエネルギー需要量の関係


報告書では、「エネルギー使用量と一次エネルギー削減量の間には強い相関関係がある」とされています。つまり、エネルギー使用量が大きいほど一次エネルギー削減量が大きくなる。この図では少なくとも水色ひし形(0~500MJの一次エネルギー削減量)の部分は、今回の計算では一次エネルギーの増加になりそうです。この結果を見ると、熱・電力需要共に大きい一部の世帯を除いて、エネファームでは省エネには繋がらないと思います。


2013/4/30 更新

関連ページ
NEDO 定置用燃料電池大規模実証研究事業
http://www.nedo.go.jp/activities/ZZ_00347.html
事業結果、報告書(新エネルギー財団)
http://www.nef.or.jp/happyfc/progress.html

東京ガス エネファームスペシャルサイト
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/index.html
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html


菅直人元首相のブログ:エコカンハウス報告
http://ameblo.jp/n-kan-blog/entry-11505180482.html
エネファームを設置し、1ヶ月のガス代は27,718円とのこと。東京ガスの料金から推計すると、ガス使用量は約230~270m3/月。熱需要がかなり大きいと思われ、これならば一次エネルギー削減になりそうです。

我が家のエネファーム、1年間の実績は?
http://ameblo.jp/beecord1973/entry-11447665960.html
実際にエネファームを導入された方のブログ。1年間の発電量は1,150kwhととても小さくなっています。エネルギー使用量(特にお湯の使用量)が少ない家庭にはエネファームは不向きです。
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エネファームは省エネなのか?その4 CO2排出原単位、エネルギー換算係数

エネファームは省エネなのか?の続きです。

大規模実証実験の報告書では平成20年度で一次エネルギー削減率が平均17.1%、CO2削減率は28.9%となっています。ただ、前回も書いたとおり、これらは排出原単位、エネルギー換算係数など実際の係数を使った計算になっていません。

平成21年度定置用燃料電池大規模実証事業報告書
http://www.nef.or.jp/happyfc/pdf/h21b_report.pdf

設置機の性能


諸指標の定義

(画像クリックで大きく見られます)


エネルギー、CO2削減率の計算の定義を見ると、これらの計算は従来型のシステムを使っている家庭のエネルギー使用量の実測値と比べているわけではなく、従来型のガス給湯器、電気の効率を仮定して計算していることが分かります。

さて、従来型のガス給湯器の効率ですが、報告書では78%として計算されています。東京ガスのHPではエコジョーズ等の排熱・潜熱回収型給湯器では給湯効率は95%とされていますがこの値は使用されていません。

http://home.tokyo-gas.co.jp/living/bathroom/onsui/ecojozu/index.html

つまり、高効率給湯器ではなく、「従来型」の給湯器の効率と比べているということです。

また、電力のCO2原単位を火力発電所のCO2原単位として0.69co2-kg/kwhを用いて計算されています。実際のH21年度(2009年度)の電力全体での排出原単位は0.413co2-kg/kwhでした。

電気事業連合会:排出原単位
http://www.fepc.or.jp/environment/warming/environment/pdf/2012.pdf#page=6

2011年度は原発事故以降、火力発電の増加により排出原単位は0.510co2-kg/kwhと大幅に増えましたが、この報告書で用いられた0.69co2-kg/kwhよりも小さな値です。

さらに、電気のエネルギー換算もここでは改正省エネ法の換算係数9.76MJ/kwhが使われています。通常、エネルギーの単位としては、

 1kwh=3.6MJ

なのですが、ここでは発電時に投入した燃料のエネルギー量(一次エネルギー量)を考慮しています。この場合、9.76MJのエネルギーを投入して、1kwh(3.6MJ)の電力ができたということになります。

ただし、電力会社の発電効率が変わればこの値は変わってきます。改正省エネ法では計算を簡単にするために9.76MJ/kwhを使用していますが、電力の標準発熱量は2005年に改定され、8.81MJ/kwhとなっています。

経済産業省:2005年度以降適用する標準発熱量の検討結果と改定値について
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/pdf/070601.pdf

最新(2011年度)のエネルギーバランス表から計算すると7.07MJ/kwhとさらに発電効率が上がっています。

2011年度エネルギーバランス表(xls)
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/xls/2011fysokuhou.xls

さて、これらの係数を使ってエネファームのCO2、一次エネルギー削減率を計算するとどうなるか?長くなってきたのでまた次回。。。



関連ページ
エネファームは省エネなのか?その1 実際の効率は?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/216ba997f601b8057017756e92d1b576
エネファームは省エネなのか?その2 試算内容、モデルケースとは?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/738a677952de926aa5c84b4795b7fea7
エネファームは省エネなのか?その3 大規模実証実験の結果
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/0d4fc5ecb18490a02e1b637c7d79bb2c

NEDO 定置用燃料電池大規模実証研究事業
http://www.nedo.go.jp/activities/ZZ_00347.html
事業結果、報告書(新エネルギー財団)
http://www.nef.or.jp/happyfc/progress.html

東京ガス エネファームスペシャルサイト
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/index.html
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html


菅直人元首相のブログ:エコカンハウス報告
http://ameblo.jp/n-kan-blog/entry-11505180482.html
エネファームと太陽光発電を備えた住宅に引越しした菅元首相。1ヶ月のガス代は27,718円とのこと。光熱費ゼロは達成とされていますが、エネルギー消費量で見るとどうでしょう?
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エネファームは省エネなのか?その3 大規模実証実験の結果

エネファームは省エネなのか?その3です。前回書いたとおり、家庭用燃料電池「エネファーム」では、統一した性能表示がなく、省エネ効果の試算はバラバラ。同じメーカー製でも機種によって試算内容が異なるという状況です。効率も最大効率のみの表示で実際に家庭に設置し使用した際の効率などは分かりません。

NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では平成17年度~21年度の5年間に渡り、一般家庭に3307台の家庭用燃料電池を設置する大規模実証実験を行いました。

NEDO 定置用燃料電池大規模実証研究事業
http://www.nedo.go.jp/activities/ZZ_00347.html
事業結果、報告書(新エネルギー財団)
http://www.nef.or.jp/happyfc/progress.html

平成21年度定置用燃料電池大規模実証事業報告書
http://www.nef.or.jp/happyfc/pdf/h21b_report.pdf

上記、平成21年度報告書から実証実験の結果から実測性能データを見てみます。

設置機の性能


諸指標の定義

(画像クリックで大きく見られます)

平成20年度設置で、電気利用効率28.9%、熱利用効率33%。総合利用効率は性能表には書いていませんが、定義表より

電気利用効率 28.9% + 熱利用効率 33% = 総合利用効率62.2%(HHV)

になります。定格時の発電効率は76~85%(HHV)なので、実際の使用条件では効率が落ちていることが分かります。

一次エネルギー削減率を見ると平成20年度で17.1%。ただし、この計算は従来システム(ガス給湯器+電力会社からの電気)のエネルギー消費量を仮定しての比較。実際に従来システムの家庭とエネルギー消費量を比較したわけではありません。また、電力のエネルギー換算係数、CO2排出原単位は改正省エネ法の値をそのまま使用しており、実際とは異なります。

電力供給量と湯供給量の分布

(画像クリックで大きく見られます)

エネファームによる電力とお湯の供給量では、電力は平均258kwh/月、お湯は1057MJ/月となっています。ただし、電力では100kwh以下から600kwh弱、お湯では500MJ以下から2500MJと分布は非常に広くなっています。それぞれの家庭の給湯需要と電力消費量、それにこれらのバランスでエネファームによる供給量は大きく異なるようです。

電力・熱供給率

(画像クリックで大きく見られます)

電力供給率(右上)では、約半数(56%)の家庭で40%以上の電力供給。エネファームの宣伝では家庭で使う電力の約7割をまかなえるとしているものがありますが、電力供給率が70%以上の家庭は5%しかありません。

熱供給率(右下)では約2/3(64%)の家庭で70%以上。エネファームでは熱需要にあわせて機器を動作させ、発電をする「熱主電従」ですが、それでも熱需要の100%とはいきません。熱供給率90%以上の家庭は10%のみ。

電気利用効率と熱利用効率の分布


電気利用効率の平均は28.9%、熱利用効率は33%ですが、これも分布が広くなっています。総合利用効率は最高約75%、最低約40%と大きな差に。一次エネルギー削減率の目安では一次エネルギー増加となるマイナスになっている家庭もあります。実際の係数を用いて計算するとさらに多くの家庭でエネルギー増加になりそうです(詳しくは次回)。

このように、家庭のエネルギー使用状況により、エネファームによる供給量には大きな差があります。これにより各家庭で効率、省エネ、CO2削減効果も大きく変わってきます。また、報告書では実際の電力やCO2換算係数を使用しておらず、エネルギー、CO2削減率などの効果が高くなるように見えるようになっています。実際の係数を用いるとどうなるかはまた次回。


関連ページ
エネファームは省エネなのか?その1 実際の効率は?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/216ba997f601b8057017756e92d1b576
エネファームは省エネなのか?その2 試算内容、モデルケースとは?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/738a677952de926aa5c84b4795b7fea7

東京ガス エネファームスペシャルサイト
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/index.html
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html
JX日鉱日石 家庭用燃料電池 エネファーム
http://www.noe.jx-group.co.jp/lande/product/fuelcell/index.html
パナソニック 家庭用燃料電池(エネファーム)
http://panasonic.co.jp/ap/FC/index.htm

管直人元首相のブログ:エネルギー自給住宅へ引っ越し
http://ameblo.jp/n-kan-blog/entry-11477268232.html
エネファームと太陽光発電を備えた住宅に引越し。エネルギーは107%自給とのことですが、エネファームのガス使用量は入っているのでしょうか?



2013/2/28 更新
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エネファームは省エネなのか?その2 試算内容、モデルケースとは?

省エネで注目 自宅でガス発電、熱で給湯 光熱費も削減

東京電力福島第1原発事故を機に、ガスを使って自宅で発電する家庭用燃料電池(エネファーム)の利用者が増えている。電気と同時にお湯も沸かせることが、エコにつながるとして注目されているようだ。
2013/2/6 毎日新聞
http://mainichi.jp/feature/news/20130206ddm013100033000c.html


エネファームは省エネなのか?その2です。

前回、エネファームでは定格発電時の最大効率でのみ宣伝されていて、実際の家庭での使用時の効率、エネルギー消費量等が分からないと書きました。先日(2月6日)、毎日新聞に上記記事が掲載されていましたが、これも光熱費が○○円削減になったとあるだけで、実際にどの程度の省エネ効果があるのかについては触れられていません。

また、この記事中には、エネファームを導入されたお宅の光熱費が11万円安くなったとありますが、これは太陽光発電での売電費用も含んでいるようです。このためエネファーム単体での光熱費削減効果も分かりませんし、元の光熱費がいくらだったのかも分かりません。

太陽光と家庭用燃料電池の“ダブル発電”で年間電気代が6000円になった「エコハウス」
http://housing.nikkansports.com/news/f-hs-tp0-20121126-2012112633002.html

↑こちらの記事での紹介事例では、住宅立て替えの際に太陽光とエネファームを導入し、光熱費は約47万5000円から約25万6000円(11万9千円の削減)になったとしています。

内訳は、電気代が約30万円から約7万7000円に、ガス代は約17万5000円から約27万円に。以前の光熱費は年間47万円5千円(平均約4万円/月)というのはかなり多く、一般的な家庭とは言えないと思います。また、立て替え後は断熱等、住宅としての省エネ性能が上がっているはずで、この分の光熱費削減効果もあるはずです。

また、最初に記載した毎日新聞の記事では、モデルケースとして、

4人家族のモデルケース(一戸建て、延べ床面積120平方メートル)で、ガス代が2万6000円上がる一方、電気代が8万6000円下がり、年間で約6万円の削減


とされています。これは東京ガス新型機種プレスリリース内の「エネファームについて」欄にあるものだと思います。

ここでは、

年間負荷 
給湯:14.7GJ
風呂保温:1.6GJ
調理:2.2GJ
冷房:8.3GJ
床暖房:9.0GJ
エアコン暖房:4.6GJ
照明他:17.9GJ

とありますが、ガス、電気使用量については記載がありません。従来の機種については、同じく東京ガスのホームページに試算内容がありました。

戸建 延床面積 150m2 4人家族のモデル一例 
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/purpose/estimation.html

従来システム
使用機器:ガス給湯暖房機、ガス温水床暖房(居間)、ガスコンロ、居間以外の暖房および冷房は電気エアコン
年間負荷
給湯15.4GJ
風呂保温 1.7GJ
調理 2.2GJ
冷房 3.1GJ
床暖房 12.6GJ
エアコン暖房 8.8GJ
照明他 16.8GJ

年間ガス使用量988m3
年間購入電力量5,736kWh


年間ガス使用量は988m3/年(82.3m3/月)。東京ガスの場合、平均約12000円/月になります。ガス給湯、コンロはもちろん、床暖房、ガス給湯暖房機も使っていて熱需要(ガス使用量)が多いという設定のようです。新型機種とは前提となる家庭の床面積が150m2→120m2と変わっており、年間負荷も床暖房・エアコン暖房の需要は低く、冷房需要は増加と試算内容も異なっています。

このように、同じ会社(東京ガス)が公表している試算内容でも、機種によって前提となる条件が異なっている。これでは、どのような家庭でメリットがあるのか、省エネ効果はどのくらいなのか判断することができません。現状では最も節約効果が高くなるような試算内容を公表しているようです。

家庭用ヒートポンプ給湯機の性能表示について
http://www.jraia.or.jp/product/heatpump/p_performance.html

ヒートポンプ給湯器エコキュートではJIS規格として統一した性能表示ができました。また、最高効率ではなく、年間の給湯・保温効率で表示するようになっています。エネファームではこのような統一した性能表示がなく、各メーカー・ガス会社が最高効率にて宣伝を行い、独自にモデルケースを設定している状況です。

国として普及を進めるというエネファームですが、実際に設置した家庭での使用状況・省エネ効果を検証し、早急に性能表示制度を整える必要があると思います。


関連ページ
環境省:排出削減ポテンシャルを最大限引き出すための方策検討について[PDF]
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=21405&hou_id=16240#page=6
3年以内で回収できる省エネ対策がまだ多く残されているにも関わらず、なぜこのような対策が進まないのか。アンケート結果では、「カタログ値は参考にならない」とする声が多く聞かれ、第三者による中立な評価値を知りたいという要望があることが分かった。と。

エネファームは省エネなのか?その1 実際の効率は?
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/216ba997f601b8057017756e92d1b576

東京ガス エネファームスペシャルサイト
http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/index.html
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html
JX日鉱日石 家庭用燃料電池 エネファーム
http://www.noe.jx-group.co.jp/lande/product/fuelcell/index.html
パナソニック 家庭用燃料電池(エネファーム)
http://panasonic.co.jp/ap/FC/index.htm

燃料電池よ、お前もか 「エネファーム」好調の先に潜むワナ(日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0101L_R00C12A6000000/

2013/2/8 更新

追伸:エコキュートの性能表示について書きましたが、これも業界団体での基準で疑問点もあります(全く基準がないエネファームよりはマシですが)。エアコン、暖房、給湯などさまざまな機器において、第三者による性能評価、実績値公開制度を希望します。
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エネファームは省エネなのか?その1 実際の効率は?

家庭用燃料電池「エネファーム」について。
日本政府は家庭用燃料電池と蓄電池を成長分野と位置づけ、補助金等で普及拡大を進めています。

平成24年度 民生用燃料電池導入支援事業 補助金制度のご案内
http://www.fca-enefarm.org/subsidy24/subsidy.html
-----------
環境にやさしい燃料電池システム導入支援のための国の補助金制度について

快適で豊かなくらしを維持しながら省エネ・CO2削減を実現する。
それが「エネファーム」でスタートする新しいエコライフです。
環境にやさしくありたい、というあなたのために 家庭用燃料電池「エネファーム」のあるライフスタイルを国も応援しています。
-----------

環境にやさしく、省エネ・CO2削減を実現するという「エネファーム」。では実際どのくらい省エネ・CO2削減になるのでしょうか?

まずは、仕様です。

家庭用燃料電池「エネファーム」の新製品発売について
http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20130117-02.html

発電出力 200W~750W
定格発電効率 39.0% (LHV)35.2% (HHV)
定格熱回収効率 56.0% (LHV)50.6% (HHV)
総合効率 95.0% (LHV)85.8% (HHV)
*熱出力についてはここでは記載がありませんが、約1kwのようです。
*ガス消費量は記載なし。

参考:現行製品仕様 http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/enefarm/specific.html

LHVは低位発熱量,HHVは高位発熱量。「総合効率世界最高となる95.0%(LHV)」というのは、定格発電(750W)時に

 発電効率 39% + 熱回収効率 56% = 95%

ということになります(HHVでは85.8%)。これを見るとエネファームでは定格発電時が最も効率が高いようです。効率95%というのは確かにすばらしいのですが、家庭では750Wの電気需要が常にあるわけではなく、また熱(給湯)の需要も限られています。最低出力の200Wの場合にはどの程度の効率なのかは分かりません。

また、ページ下の「エネファームについて」では、こんな記載も。

火力発電所からの電気と都市ガス給湯器からの給湯を行なう方式と比べ、定格発電時にCO2排出量を約49%削減、一次エネルギー消費量を約37%削減できます。また、年間の光熱費を約6万円節約、年間のCO2排出量を約1.3トン削減できます。

このCO2、一次エネルギー消費量削減というのも定格発電時。実際に家庭で使用した場合にどの程度の省エネ、CO2削減になるのか分かりません。

従来システムとエネファームの一次エネルギー利用効率比較

http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/merit/energy.html

東京ガス エネファームスペシャルサイトより。従来システムでは、発電時に63%が失われ家に届くのは最初にあったエネルギーのたったの37%。それに対し、エネファームならなんと81%も利用できます。と。

こちらも定格出力時の効率(現行商品、HHV)で実際の使用状況でのエネルギー削減はありません。また、電力会社での発電時の一次エネルギーとの比較なのですが、石炭・石油・天然ガスなどの火力発電での効率を示しているようです。エネファームでの一次エネルギーは天然ガスなので、ここでは天然ガスでの発電(+熱回収)での効率で比較する方が公平かと思います。

CO2排出量

http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/merit/co2.html

CO2排出量ですが、こちらも「定格出力時」に火力発電と比べて48%減。また、発電時の排出量原単位は火力発電平均の0.69kg-co2/kwhで計算されています。

電事連:2012年・電気事業における環境行動計画 2011年度のCO2排出実績

http://www.fepc.or.jp/environment/warming/environment/pdf/2012.pdf#page=6

上記資料によると、平成23年度の電気事業全体での使用端排出原単位は0.510kg-co2/kwhなので、電気使用時のCO2排出量は平成23年度の約1.35倍で計算されていることになります。

また、年間1.5tのCO2削減とあり、これには試算条件もあります。これについてはまた次回。

ここまで見て、エネファームでは定格発電時の最大効率でのみ宣伝されていて、実際の家庭での使用時の効率、エネルギー消費量等が分かりません。家庭は750Wの電力需要が常にあるわけではなく、低出力時の効率が重要。また、熱出力(給湯)と発電のバランスも考慮する必要があります。理論値の最大効率だけでの宣伝では、実態とかけ離れたものになりかねません。


続く


関連ページ
一般社団法人 燃料電池普及促進協会
http://www.fca-enefarm.org/about.html
JX日鉱日石 家庭用燃料電池 エネファーム
http://www.noe.jx-group.co.jp/lande/product/fuelcell/index.html
パナソニック 家庭用燃料電池(エネファーム)
http://panasonic.co.jp/ap/FC/index.htm

燃料電池よ、お前もか 「エネファーム」好調の先に潜むワナ(日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0101L_R00C12A6000000/

2013/1/29 更新

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