トランクルームの市場規模は現在700億-800億円、遠からず1000億円規模になるのは確実のようだ。米国ではかなり普及しており、時折映画でも見かけます。使わないものを処分するのは自分の生きた軌跡を消し去るようで寂しいものです。合理主義も時として、人間性を失います。人間所詮、生まれるときは裸、死ぬときも何もない。生きた証として、トランクルームに「人生の楽しみ残せた」と思えることは幸せです。
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派手な看板を掲げたトランクルームビルをよく見る。トランクルームの市場規模は700億-800億円で、遠からず1000億円規模になるのは確実のようだ。活用されていないビルをリニューアルしたケースが多いが、新築トランクルームビルも目立つ。
私は書庫として利用しようと、自宅兼仕事場からクルマで5分の場所にオープンしたトランクルームを契約した。遠くなれば間違いなく利用率は下がるので、クルマで5分の距離は限界だろう。
大型ロッカータイプなら月4000円前後からだが、私は3・1×2・65メートル(約5畳)のタイプを選んだ。半年間は30%引きとはいうものの月額料金は約5万5000円と安くはない。地価が高い立地ゆえだろう。東京で暮らすのはカネがかかるのだ。
5畳はかなり広い選択だが、それでも蔵書が入りきるかという不安はある。しかし蔵書の多くは昨年の仕事場引っ越しの際に手放しており、残してあるのは今後のノンフィクションテーマに欠かせない貴重資料本と「生涯の伴侶」と思う本が中心だ。
手放したのは文学系など既読でもう読むことはない本、貴重本だが将来誰かに有効活用してほしい本などだ。高齢時代ゆえ蔵書処分が増えており、古書店に売ってもクルマ1台分で1万円だったという話も聞く。貴重本でも粗大ゴミ扱いされる時代なのだ。
そこで私は、群馬県・甘楽町(かんらまち)在住で地域図書館の創設が夢という無類の本好きの29歳の弟子に数千冊を寄贈した。こういう弟子がいることは幸運だった。一方、手元に残した蔵書のうち、執筆予定の作品のために必要な貴重資料本(1テーマで数百冊)数セットは自宅書斎兼仕事場に残し、それ以外の本をトランクルームに運ぶことにしたのだ。
もっとも、本を段ボール箱に詰めてトランクルームに積み上げたのでは、生涯箱を開けることがなくなるのは自明だ。クルマで5分で行けるトランクルームを選んだのは頻繁に書庫を利用するためなので、書棚としてラックを7台入れ(1台月額1000円のレンタル)、本の背表紙が見えるよう並べた。二重に並べた場合は、背後の本の背表紙はデジカメで撮影し求める本を楽に探せる画像データを作成。当初は運び込んだ順に無造作に並べるしかなかったが、優秀なスタッフの尽力でジャンル別に整理し直すことができた。
連日、午前中だけをその作業時間にあてたが、温度と湿度が一定の環境をうたうこのトランクルームでも猛暑による蒸し暑さで大いに苦労。照明が15分で自動消灯するのにもまいった(通路を少し歩くと人感センサーで点灯)。
しかし、この汗かき作業の甲斐あって、バラバラだった本がきれいにジャンル分けできた気持ちよさは筆舌に尽くしがたい。整理途中、久々に昭和初期の貴重資料本を開き、当時の思いがけない価値観に目を見開かれる楽しさも味わっている。「断捨離」が喧伝されているが、残りの人生の楽しみを残せて満足だ。
■山根一眞(やまね・かずま)氏 ノンフィクション作家