いらだった日を持ったので
真実の休息はやってこなかった
まぶたに宿るはずの
静かな安らぎは
途方もなく遠くに休んでしまっていて
絶え間なくふりかかる
ねじ曲がった感情を
わたしは次から次へと
ふりはらっていかねばならないので
時間と時間の継ぎ目に
まばたきを忘れることさえ
できないのだ
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
どんなに騒いでみたところで
そのあとにやってくるのは
夜の沼に似た
一枚のむなしさだ
もぐりこむ深さもなく
暗さだけがくっきりとして
わたしをわたしから
まったく他人にして嘲笑っている
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
走り去る電車のなかから
あなたはそっと手をあげた
思い切り別れさえあらわせない愛に
あなたを閉じこめておく辛さに
わたしはこの愛を捨てたい思いに倒れかけた
だが思い出のなかに凍てつく自信も
思い出を燃やしつくす確信もなく
腕ぐみをしたもの想いが
わたしを遠く走り去った電車に
瞳を投げつづけるだけにとどめさせた
激しい哀しさが
ふりそそぐ光のなかに
暗い腹をみせて一回転した後に
わたしの心の . . . Read more
空がすき透って高いので
哀しみのかくし場所がない
樹々は紅葉して風にひるがえっているので
悲しみは静まることがない
あなたとの短い愛の時間のせいで
わたしは哀しみを
紅葉の色に染めながら
明るく微笑むくせをおぼえてしまった
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
長い長い手紙を書こう
読んでいくうちに
微笑みをましてゆくような
楽しい手紙を書こう
そしてさっぱりと忘れてしまおう
せめて
わたしの自尊心を保つために
塚原将『とざされた愛』より . . . Read more
「お見合いをしたの」
あなたがポツンと言う
本当に溜息のような言い方を
いままでどこにかくしていたのですか
「つとまるかしら」
その時だけ夢を浮かべて
「仕方ないもの」
にじんだ微笑が
楽しかったことの記憶よりも
あなたを涙ぐませた記憶ばかりを
わたしに想いおこさせて
撒き戻しのできないフィルムを握りしめて
色のない雨に濡れている心のなかに
目をとじたまま想い出を放りこむと
パチンと音をたて . . . Read more
本当はあなたと
海辺の小さな町に
ひっそりと生きてみたかったのです
でもわたしは
海の色彩や風の行方に魅かれて
あなたを哀しませることがありそうなのです
やはりあなたは
もっと暖かく大きな胸のなかに
眠らなくてはいけません
せめて今日
わたしのいちばん好きな
コスモスの群れ咲く路を
せいいっぱいあなたを愛しながら
歩きつづけられたことに
感謝しなくてはなりません
ひとつきりのくちづけを残し . . . Read more
想いを告げることもできずに別れた後
暗たんとした夕暮れを
飲みこんだ
錆色の哀しみが
かすかな傾斜を伴って
ゆらゆらと沈んでいって
心のいちばん深いところに
窓のない小さな家をつくった
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
あなたの声を聞きたいのに
本当に聞きたいのに
ダイヤルを回す指を
ためらわせているのはなんだろう
あなたからの電話がかかってくるのが
当然だというように
わたしの真実のものを
投げだすことが恥だというように
卑怯者と
自分にやさしくつぶやいて
わたしはやはり
あなたからの電話を
ぎりぎりに追いつめられて
待っている
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
何故こんな小さな言葉を
噛み砕いてしまうことが
できなかったのだろう
どうしようもない想いなのだから
暗い空にでもむかって吐きだしてしまえば
良かったのに
あなたが
わたしの遠い日の憧れを
抱きしめたようにたたずんだので
心だけが少年になって
好きだという言葉をこぼしてしまった
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more