
歴史的名作「In The Court Of The Crimson King」でセンセーショナルなデビューを飾ったKing Crimsonの2作目。1作目の陰に隠れて評価が低くあまり取り沙汰されない作品であるが、バンドの歴史を理解する上でも音楽的にも実に興味深い作品である。
まず作品タイトルから1作目の作風を踏襲した姉妹作であることがわかる。そしてA面は1作目の焼き直しとも思える同系統の曲が曲順も同じくして並んでいる。「Pictures of a City」と「21st Century Schizoid Man」、「Cadence and Cascade」と「I Talk To The Wind」、「In The Wake of Poseidon」と「Epitaph」という具合である。これは2匹目のドジョウを狙った結果なのだろうか?
バンドは1作目大成功の陰で既に大きな危機を迎えていた。先ず第一にバンドの要であり「宮殿」成功の最大の功労者Ian McDonaldの脱退である。King Crimsonは一般的にRobert Frippを総帥としたFripp主動のバンドと言われるが、それは初期の作品には当てはまらない。この頃Frippはミュージシャンとしてまだまだ発展途上であり、音楽的立場はRobert FrippよりIan McDonaldの方が上であったのだ。「宮殿」の曲作り、アレンジ、プロデュース面でIan McDonaldの貢献度は多大であった。
第二にMichael GilesとGreg Lakeの去就問題である。本作品制作時に彼等は既にバンド脱退を決意していたものと思われる。Michael Gilesは元々スタジオ系ミュージシャンであり、「宮殿」成功後のハードなツアーに耐えられなかったこともありIan McDonaldとMcDonald & Giles結成を計画、Greg Lakeはアメリカツアー中に接触したと思われるKieth EmersonとのEL&P結成を計画していた。
バンドが危機的状態で存続に手一杯のRobert Frippは、本作を必然的に大成功を収めた1作目を踏襲した形にせざるをえなかったというのが正直なところであろう。ゲスト参加的にGiles兄弟をリズムセクションに迎え、Greg Lakeはヴォーカルのみ、新ヴォーカリストのGordon Haskellが既に1曲「Cadence and Cascade」で参加している。
このような状況下での本作品であるが、音楽的内容は決して悪くなく「宮殿」に勝るとも劣らないクオリティーを持っている。楽曲はKing Crimson前夜のGiles, Giles and Fripp時代の素材など各メンバーの資産を効果的に発展させクオリティーを保っている。リズムセクションに関しては「宮殿」以上である。Giles兄弟を起用したことでリズム隊の一体感は素晴らしい。King Crimsonと言えばWetton & Brufordによる攻撃的なリズムセクションが最強とよく取り沙汰されるが、Giles兄弟のリズムセクションはそれに劣らないクオリティを持っている。Wetton & Brufordが動のリズム隊ならGiles兄弟は静と言おうか、調和を重視した素晴らしいリズム隊である。このリズム隊を堪能するだけでも聴く価値があるだろう。例えば「Pictures of a City」のリズム・アンサンブルや、ヴォーカルと同等に歌っている「In The Wake of Poseidon」のベースラインとドラムの絡みは絶品である。
新戦力Mel CollinsとKeith Tippetの存在も効果的である。ジャジーな音楽性を大きく取り入れた次作「Lizard」に繋がる器用で、彼らが新たな色を加え作品をより魅力的にしている。アヴァンギャルドなピアノとヴォーカルが特異な「Cat Food」は、後のラインナップでもアレンジを変えて演奏されバンド代表曲の一つとなった。
「宮殿」成功の大きな陰とバンドの危機的状況下で必然的に生まれた唯一無比の名作と言えよう。
・Track Listing
1. Peace - A beginning
2. Pictures of a city (including 42nd at Treadmill)
3. Cadence and cascade
4. In the wake of Poseidon (incl. Libra's theme)
5. Peace - A theme
6. Cat food
7. The devil's triangle
a) Mesday morn
b) Hand of Sceiron
c) garden of worm
8. Peace - An end
・Personnel
Robert Fripp : guitar, mellotron, devices
Greg Lake : vocal
Michael Giles : drums
Peter Giles : bass
Keith Tippet : piano
Mel Collins : sax, flute
Gordon Haskell : vocal on 'Cadence And Cascade'
Peter Sinfield : words
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確かにジャケットといいアルバム名といい曲の構成といい、明確に一作目を意識していますが、音楽性は大きく変化させて前進しているところが凄いと思いました。もあさんのおっしゃるように一作目は(イアンの嗜好なのでしょう)クラシックの手法を引用してきているだけ一般受けを狙えましたが,イアン抜きで独自の音楽を構築できるところを示したのがこのアルバムだったと思います。やっぱり、キース・ティペットの起用が大きいですね。
Giles&Gilesのコンビは21st Century Schizoid Bandのライブを観る事が出来ましたが、御指摘の如くかっちりとしたテクニックを披露していて驚きました。
惜しむらくは良いボーカリストを探し出せなかったことで、レイクの力を借りざるをえませんでしたね。
私もポセイドン大好きです。
クリムゾンは宮殿とポセイドンが好きでそれ以外は正直、、?、、なんですが、、。
ピースが特に気に入ってます。
クリムゾンも手をつけていないのをちゃんと聞かなきゃ、、。
「In The Wake of Poseidon」冒頭の歌いだしの部分が以前(十数年前)ANAのコマーシャルで使われました。覚えている方いらっしゃいますか?
宮殿に比べると通好みな作品に思われがちですが、宮殿の影にとらわれないで聴くと案外分かりやすい作品のように感じます。
今まで敬遠していた方は是非聴いてほしいと思います。