今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

アメリカの在宅診療

2010-01-15 09:02:52 | 家庭医療
仕事中にポケベルが鳴りました

指定された電話番号に電話すると、アテンディングのS先生

「Tさんが亡くなりました。安らかな最期だったそうです。御家族がチームのケアにすごく感謝していて、よろしくと言っていました。」

6日前、外来主治医のS先生、入院チームのレジデントである私とインターンの3人でTさんの家にお邪魔しました

退院2日後の、在宅診療です

患者さんは感染症で入院していたのですが、ベースに末期の心不全、認知症がある高齢女性

入院3日で感染症もメドがつき、退院となったのですが

退院にあたり、在宅ホスピスを選択されました

同じく高齢の夫と自宅で2人暮らし

何とか支えあって生きてきたので、どうしても家に帰りたい

近くに住む娘が、仕事の長期休暇をとって泊まり込み

在宅ホスピスサービスのサポートを受けるという形で退院となりました

リビングに病院用ベッドを持ち込み、横になっているTさんは

病院でみたよりも、和やかな顔をしていました

ベッドサイドに腰掛けたアテンディングのS先生はTさんに

「いつもはどのソファに座っているの?」などと話しかけながら、御本人の様子をアセスメント

同席した夫、娘、息子、ホスピスナースと現状の把握、困っていることなどを確認

処方箋を一つ一つチェックしながら、薬局からもらってきた薬を実際に一つ一つ手にとり

必要最低限に薬を削ります

結局、訪問は45分ほどに及びました

「How can I help you?」と最後は各自に問いかけて

「困ったことがあれば、いつでも連絡して下さい」とお別れをしました


S先生は基本、在宅をされません

必要に応じて年に数回だそうです

今回は、在宅ホスピス導入を円滑にすすめるための臨時訪問で

2回目以降の訪問は、基本的に予定せず

以降は、在宅ホスピスの看護婦さんが中心です

在宅ホスピスの看護婦さんとは、綿密に連絡を取りますが

「その看護婦さんと自分が綿密に連絡を取っており、いつでもサポートできますよ」ということを

患者さん、御家族にメッセージとして伝えることも今回の訪問の大きな目的です

以前書いたことがあるかもしれませんが

アメリカで医師が在宅をやることは稀で、殆どは訪問ナースが中心です

理由は単純明快、「診療報酬が安いのでペイしない(しにくい)」からです

それでも在宅専門クリニックはあるようで

日本の三つ葉クリニックのように、グループ診療を行い

今日はこちらの地域、明日はこちらの地域とかためて患者さん宅を回るそうです

アメリカは広すぎて、そうしないとかなりきついのです

ちなみにミシガン大の家庭医でも、老年科の専門医を持ったM先生がアクティブに在宅診療をされており

レジデントの研修要件として2件以上の在宅診療を課されている私たちレジデントは

M先生と在宅診療をすることがカリキュラムに組み込まれています

今回のS先生とのTさん宅訪問は

たまたま、退院後の訪問が計画されたので運良く同席させてもらったものです


やはり家に行くと、病院では全く見えなかったものがたくさん見えてきます

例えばTさん宅にはトイレが2階にしか無く、1階のリビングはポータブルトイレがおいてありました

トイレが無いということは、シャワーも2階で、Tさんはなかなか気軽にシャワーを浴びることも難しいでしょう

そういったことだけでなく、患者さんの表情がやはり違います

人間味あふれるというのでしょうか

例えばお孫さんと同居しているとか、御家族の様子も大事です

家庭医レジデンシーのアプリケーションに際し「田舎の町医者である祖父の訪問診療について行った幼少期の体験が、私の医師としての原点だ」と書いていたのですが

多少の受け狙いはあるとしても、それは本当の話で

自分は在宅が大好きなんだということを改めて再認識しました