「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

『ロマンティックな旅へ―アメリカ編―』

2008年06月05日 | Yuko Matsumoto, Ms.
『ロマンティックな旅へ―アメリカ編―』(松本侑子・著、幻冬舎)
  自分の人生を振り返ってずいぶん損をしたなと思う。古今東西の名作といわれる小説や物語をほとんど読まずに大人になったからだ。この本に出てくる8つの名作のうち、まともに読んだことがあるのは『赤毛のアン』だけであり、それもつい最近というか中年になってからだ。あとは『森の生活』と『愛人ラマン』を斜め読みしたおぼえがあるだけだ。しかし、8つとも名前だけは知っていた。そんな自分にとって、本書は物語のサワリや背景を教えてくれるありがたい本である。もちろん邪道だが、それだけで何となく読んだような気がしてくるというものだ。
  しかし、本書の楽しみはそこにだけあるのではない。松本侑子さんが名作の舞台を訪ねて、そこで何を見て、何を感じたのかを追体験できることだ。たとえば本書の約半分のページ数を占める「大草原のローラ・シリーズ」(『大きな森の小さな家』でよく知られている)を読み進んでいくと、アメリカ中西部を旅する松本さんのワクワク・ドキドキした感じが、ページをめくる自分にも同時進行で伝わってくる。さらに、松本さんご自身が撮られた多くのカラー写真が、ページをめくる旅をより楽しいものにしてくれる。
  7つの物語がアメリカ大陸を含む西欧や北欧(デンマーク)を舞台にしているのに対して、『愛人ラマン』だけはベトナムを舞台にしていてやや趣が異なる。どこか猥雑な感じのするホーチミン市を旅する松本さんも、他の物語の舞台を旅するときとは少しちがう感じがしておもしろい。ベトナムの「コギャル」(すでに死語?)にお札を強奪されたときのことを、松本さんは「まったく、ベトナムの娘は、タクシーの運転手といい、強奪といい、どうなっているんだ! 思いだしたら、また頭にきたぞ」と書く。ふだんとはちがう言葉づかいとあいまって、ご本人には悪いが思わず笑ってしまった。このときは夫君とご一緒に旅されていたのだが、お二人の態度が対照的で、そこがまたおもしろかった。本書の何箇所かに夫君が登場され、そのなれそめのようなことも書かれている。主題とは離れるが、松本侑子ファンにとっては、そこがまたこの本の小さな楽しみであった。
  本書の姉妹編である『ロマンティックな旅へ―イギリス編―』は文庫化された『イギリス物語紀行』(大幅に加筆修正されているとのことだが)のほうをかなり前に読んだ。しかし「アメリカ編」のほうはいまだに文庫化されていないようで、単行本をアマゾンのマーケットプレイスで購入した。文庫化されないのは、「アメリカ編」に含まれる「赤毛のアン」が松本さんの出版された本のなかで独自の大きな領域を占めることになったからだろうか。

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