『アメリカ・カナダ物語紀行』(松本侑子・著、幻冬舎文庫)
この本は、単行本の『ロマンティックな旅へ―アメリカ編』を再構成して文庫化されたものである。単行本は「アメリカ編」と銘打っているがヨーロッパの物語(『ハムレット』、『人魚姫』、『青い麦』)とベトナムを舞台とした『ラマン愛人』も入っていた。文庫化に伴ってそれらが割愛され、逆に『英語教育』などの雑誌に掲載されていた「赤毛のアン」関係の文章が加えられた。
アン関係のものが大幅に増えたことで、新しい写真も相当加えられている。プリンスエドワード島のアンをあしらった車のナンバープレートなど、意外と知られていない写真や、モンゴメリがダルハウジー大学に入学した折、入学名簿に記した直筆のサインなど、なかなか目にすることのできない写真も掲載されている。昨年秋に松本侑子さんとご一緒に旅させていただいた者としては、実際に自分の目で見たものなので、とてもなつかしく感じる。これから「赤毛のアン」シリーズを読もうと思っている人にとっては、簡略な予告編・入門編の役割を本書が果たしてくれそうだ。あるいは、アンの舞台やモンゴメリの生涯を訪ねる旅を短時間で疑似体験できるようにも思う。『若草物語』や「大草原の小さな家」シリーズについても同様だろう。『森の生活』については、個人的にエコロジーへの興味・関心と結びつけて読んだ。『森の生活』の「少し長い目次」を紹介することで著者ソローの暮らしぶりを要約している。単行本を読んだときにも感じたことだが、ソローの人となりが直観的によくわかり、おもしろい試みである。ただ、ソローの生活がわかる「目次」がついているのは本書で紹介されている宝島社版のものらしく、後日、講談社学術文庫版を買ったとき、その「目次」のそっけなさにがっかりした覚えがある。
松本侑子さんと文学紀行の旅とは切り離すことができない。「あとがきにかえて」で「これからも私は文学の旅をつづけていきたいと誓いのように思います」と書いている。一方、「けれど焦らずに、ふさわしい旅立ちの時をゆっくりと待つつもりです。非日常の旅の日々よりも、あたりまえの毎日を、きちんと生きるほうが大切だからです」とも書いている。どんなに素晴らしく楽しい旅であっても、日常あっての旅ということなのだろう。旅する作家は少なくない。旅に至上の喜びを見出す人もいる。けれど、多くの人は漂泊の人生を送るわけではない。異郷の地に立つことで、ささやかな日々の生活を見直し、新たな生きる力を得るのである。遠くに視線を馳せながらも、自らの足許をけっして疎んじることのない、松本侑子さんの人生に対する姿勢を見た思いがする。
この本は、単行本の『ロマンティックな旅へ―アメリカ編』を再構成して文庫化されたものである。単行本は「アメリカ編」と銘打っているがヨーロッパの物語(『ハムレット』、『人魚姫』、『青い麦』)とベトナムを舞台とした『ラマン愛人』も入っていた。文庫化に伴ってそれらが割愛され、逆に『英語教育』などの雑誌に掲載されていた「赤毛のアン」関係の文章が加えられた。
アン関係のものが大幅に増えたことで、新しい写真も相当加えられている。プリンスエドワード島のアンをあしらった車のナンバープレートなど、意外と知られていない写真や、モンゴメリがダルハウジー大学に入学した折、入学名簿に記した直筆のサインなど、なかなか目にすることのできない写真も掲載されている。昨年秋に松本侑子さんとご一緒に旅させていただいた者としては、実際に自分の目で見たものなので、とてもなつかしく感じる。これから「赤毛のアン」シリーズを読もうと思っている人にとっては、簡略な予告編・入門編の役割を本書が果たしてくれそうだ。あるいは、アンの舞台やモンゴメリの生涯を訪ねる旅を短時間で疑似体験できるようにも思う。『若草物語』や「大草原の小さな家」シリーズについても同様だろう。『森の生活』については、個人的にエコロジーへの興味・関心と結びつけて読んだ。『森の生活』の「少し長い目次」を紹介することで著者ソローの暮らしぶりを要約している。単行本を読んだときにも感じたことだが、ソローの人となりが直観的によくわかり、おもしろい試みである。ただ、ソローの生活がわかる「目次」がついているのは本書で紹介されている宝島社版のものらしく、後日、講談社学術文庫版を買ったとき、その「目次」のそっけなさにがっかりした覚えがある。
松本侑子さんと文学紀行の旅とは切り離すことができない。「あとがきにかえて」で「これからも私は文学の旅をつづけていきたいと誓いのように思います」と書いている。一方、「けれど焦らずに、ふさわしい旅立ちの時をゆっくりと待つつもりです。非日常の旅の日々よりも、あたりまえの毎日を、きちんと生きるほうが大切だからです」とも書いている。どんなに素晴らしく楽しい旅であっても、日常あっての旅ということなのだろう。旅する作家は少なくない。旅に至上の喜びを見出す人もいる。けれど、多くの人は漂泊の人生を送るわけではない。異郷の地に立つことで、ささやかな日々の生活を見直し、新たな生きる力を得るのである。遠くに視線を馳せながらも、自らの足許をけっして疎んじることのない、松本侑子さんの人生に対する姿勢を見た思いがする。