「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

落ち込んだときにこそ読もう!―『放浪記』

2020年05月24日 | Arts
☆『放浪記』(林芙美子・著、新潮文庫)☆

  今年の1月2月頃、落ち込んでいたとき、何かのきっかけで林芙美子の『放浪記』を知った。とりあえずと思って青空文庫で読み始めたら止まらなくなった。時の経つのを忘れて読み耽った。全文は相当長い。そのうちに勤務先でも休憩時間に読んでいた。こんなとき青空文庫は便利だ。読み終えるのに1ヶ月以上かかった。それからあらためて新潮文庫版をマーケットプレイスで買った。
  『放浪記』は林芙美子の自伝的小説といわれている。日記のかたちを取っていて、その成り立ちについては文庫本の解説に詳しい。小説の舞台は大正末期頃で、昭和の初め頃に出版されたようだ。戦争(第二次世界大戦)中は絶版状態になっていたという。戦争で検閲が強化され発禁になる可能性があったからだ。『放浪記』の何が問題なのかは知るよしもないが、言いがかりをつけて取り締まるのが常だった時代である。
  社会に対する不平不満はもちろん出てくる。主人公の若い女性(林芙美子自身)は貧困と絶望の中で生きているのだから当然のことだ。幾度となく屈辱を味わい、自殺や身売りもほのめかす。ところが、それほど絶望的な状況に置かれているにもかかわらず、彼女は底抜けに明るい。もちろん落ち込むこともたびたびだ。しかし、落ち込むこと自体を楽しんでいるかのように明るい。
  自分が落ち込んでいる時にこの手の小説を読むと、主人公に同化して慰められるか、教訓めいたことを読み取って納得することが多い。確かに彼女の明るさには慰められるし、前向きな姿勢にも驚かされる。働きながら、当時の女性としては高学歴に当たる高等女学校を卒業し、数々のアルバイトをしながらも本を手放さず読書を忘れない。本は古本屋などで買い、本をまた古本屋に売ることを繰り返している。才能の開花に果たした読書の役割は大きいのかもしれない。知識も該博だ。彼女の図太さというか、逞しさというか、生命力のようなものに励まされたの確かだ。そして、社会の底辺のような境遇の中にあっても、本を読み、童話や誌などを綴り、文学への憧れを抱き続けた姿に感服し元気をもらった。

青空文庫版⇒『放浪記』

  


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