三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

RADA 英国王立演劇学校の発声の授業

2007-07-05 23:42:21 | 声の使いかたって?
ラダの授業その一 発声訓練

発声とは、「アー」という音を出す訓練ではなく、書かれた言葉を声にして発することだ。
日本語で、「発声」というと、どうしても、歌の訓練のように、持続音を長く保たせたり、滑舌(カツゼツ)という、発音訓練が想定される。
が、喋るときに我々は持続音はほとんど使わない。
それよりも、音の高低を、言葉のイメージや文脈に合わせて自在に行き来できるセンスが必要になる。
長い台詞を扱うときも、音の高低・リズム・ペース・息の量等を、その場で組み立てながら、息継ぎをできるだけしないか、あるいはするタイミングを体に入れる訓練、などを行う。

滑舌はもちろん、大変重要なので、しっかりやる。

イギリスの演劇学校では発声の講師を養成し免許を出しているところがあり、ラダではそれら免許取得者を講師として使っている。
私はこの点がまさに演技のスタンダード作りに一役買っているように思う。
彼らはその他の演劇学校で教えているばかりでなく、国立劇場やロイヤル・シェイクスピア劇場、映画の発声指導までも受け持っているからだ。

先生は発声の仕組みを骨格や筋肉の動きなどの面から生物学的に理解させ、その上で、呼吸法と自然な声の出し方とは何かを俳優に理解させる。

ラダではこれを一年生のうちから行って、自分の原点になる声を見つけさせるのだ。
授業は、笑ったり、歩いたり、絵を書いたり、想像したり・・・子供に帰ったように、自然に出る声が心地良いと思わせてくれる。
勿論、それらを自分で技術的にコントロールできるようになるために、響きや共鳴などの仕組みも学ぶが、とにかく声を出すことが楽しい、声を出すことで自分がプラスに変化していく、そんな風に信じさせてくれる授業なのだ。

こうして、声と心理と身体が実に密接に関わっていることを知って、俳優はそのうちに等身大の台詞から詩的な台詞まで、喜怒哀楽を自由に感情に乗せて喋れるようになるわけだ。

その他に独唱・合唱、各種方言の授業もある。 

原点になる音、自分だけの基音(こんな言葉はないが、敢えて、造語させていただくとすれば)を、見つけたら、そこから音の高低・ボリューム・呼吸量による情感作り等をメカニカルに訓練する。
だが、メカニカルはあくまでも技術。
技術は、表現のために必要なものであるから、表現したい心がなくては、技術はフェイク(偽者)を作るだけになってしまう。

そこで、言葉に心を載せるための、様々なエクササイズを行って、イマジネーションの喚起と、言葉を発する瞬間に常に新しい発見を行えるような、柔軟で繊細で前向きな感性を養っていく。
映画の演技では、ほら、たとえば、一番いいショットをフィルムに「とっておく、キープしておく」ことができるでしょ。まとめるときにそれを使えばいい。
ところが、舞台では、一番いいのがいつでも出なくてはダメ。
そこが、そここそが、最も難しく、最もエキサイティングな、演劇のアートたるところ。
だから、「いつでも、そのときに」をできるようにする。

良い役者は、技術的にそれを行うことができる。
が、さっきも言ったように技術で人はだませても、自分はだませない。
最高の役者は、心で言葉を紡ぎ、それを表現するために技術のバックアップを使う。
フェイクじゃなく、ホンモノをいつでも。

こんな訓練をしていると、シェイクスピアを喋るのが、本当に楽しくなってくるんだなあ。
オスカー・ワイルドも楽しい。
優れた戯曲って、日本語の、朗誦する文学と同じで、言葉のイメージとリズムが、本当にすばらしい。

私ね、こうしてRADAで、イギリス人が、400年前のシェイクスピアを現代人に通用するように喋ろうとしている姿を見ると、現代の日本人俳優は古典文学(芸能作品)を、なぜ、古典芸能役者任せにしてしまうのかと、疑問に思う。

実は、僕の夢というか、使命のひとつに、古典芸能曲を、現代人が、現代人のために喋る舞台を作る、というのがあるんだな。

話が脱線しました。
次回講座は、RADAの授業その2です。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ワークショップ (こーさかちあき)
2007-07-11 03:11:55
お久しぶりでつ!!
ワークショップ、すっごく参加したい。
でも仕事で全日参加出来ないのでつ。
うぅぅぅ〜……残念。(/_;)
またえり花さんの作品参加したいな〜。
……頑張りまつ。
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Unknown (きんだいちおうき)
2007-11-08 21:56:36
ひさしぶりです!
古典芸能の本を文字面は変えずに、
現代人が現代人の感覚で話すっていうのは、
僕も考えていたんです!

やってみたいです!
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