三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

演劇にまつわる呼称 日本語篇

2007-04-18 14:31:38 | 音楽・美術・総合芸術?
演劇にまつわる言葉(演劇 戯曲 俳優 舞台 観客)を、漢字の意味から考えてみます。

1.演劇=劇を演じる。

「劇」という漢字は、漢和辞典でひくと「激」と同義で、激しい、つまり、日常・尋常ではないことを示します。
劇という字のつくりの部分は、獣が取っ組み合いをしている様子なんですって。
右側はもちろん、刀の意味。
獣が取っ組み合いをしているところへ刀を持って切り込んでいくとあっちゃ、こりゃドラマチックですよ。
そう、un-natural なのが、劇なの。

real に対して unnatural,surreal, non-real, ab-normal

現実に対して、非日常、超日常、似非、異常。
常ならざるもの。
それが劇。

2.戯曲
戯れの曲。
戯れという漢字をさらに細かくすると、虚しいという字に矛(ほこ)。
このブログじゃ漢字変換できなかったけど、つまりは中国の武器です。

「虚」は「実」に対しての「虚」だから、むなしい、という意味よりも、現実ではない、ありえない、夢の、という意味。
口偏がつくと、「嘘」。
ね?

「戯曲」の「戯」は「現実ではなく武器を交わす」という意味になるから、誰も死なない。たわむれ。遊び。

では「曲」は?

「曲」という言葉は、曲がりくねるという線の動きから来ているから、時間的経過を含む言葉だとおもう。
「絵」という時間の止まったものじゃなくて、時間と共に進む感覚っての?
必ずしも音楽の曲を表すものではないことは、「戯曲」が文を表すことからもわかる。

ということは、「戯曲」というのは、ある一定の時間戯れるルールを文にしたものじゃないかな。

もちろん、曲を音曲ととらえ、本来は音楽が主体であったものが文章主体になっていった、という解釈も成り立つ。

(もっと詳しいかた、ぜひご教授を)

3.俳優
日本書紀では、「俳優」という単語に「わざおぎ」と振り仮名を振る。
漢和辞典では「俳」の一語だけでも「わざおぎ」と読ませる。

「俳」の字を分解すると、人に非ず。

ここで言う「人」とは、「常人」を表すものでしょう。
だから、「俳」は人間じゃないものという意味ではなくて、常人じゃない状態の人、という意味が大きい。
神がかっている、とか、獣じみている、とか。
仮面を被ったり、人間の顔とは思えないような化粧を施したり、あるいは感情の度合いを極端に表現したり。
基本は人間だけど、でも、常人の幅を極度に超えた表現をするのが「俳」。

「優」という字も、分解すると悲しいな。
人を憂う。

「俳優」とは、人に非ざる状態で、人を憂う。

わー、すばらしい職業ですよ。泣けてくる。

しかし、「憂」という字には、「大きなかしらをつけて足踏みする」という意味もあります。
どっちかっていうと、こっちかな。
残念ながら。

4.舞台
舞う台です。
それ以上でも以下でもありません。

5.観客
観る客です。
それ以上でも以下でもありません。

しかし、この4と5が、日本の演劇と西欧の演劇とを分ける大きな違いとなるのです。
詳細は、別項。
演劇にまつわる言葉、英語篇で、お話します。

こうしてみてみると、日本語における演劇は、

ある時間内(曲)における現実ではない(戯)が、非日常の激しいもの(劇)を、常人ではない状態になった人(俳)が仮面をつけて足を踏み鳴らし(優)、台の上で舞う(舞台)ものを、観る。

ということに集約される、と思って間違いない。

漢字ってすごいっす。


演劇学 ってなあに?

2007-04-15 21:01:23 | 音楽・美術・総合芸術?
今年は実践女子大学で演劇学というのを担当します。
ところで、演劇学って?
と私自身、疑問に思うので、演劇学について簡単に私なりの考察してみます。

演劇、という言葉からまず連想するのは、おそらく「芝居」だろうと思います。
しかし、演劇学Theatre Studies では、もっと広い範囲の芸術をさします。

演劇という語の元になっている英語の Theatre には、劇場という意味が含まれます。
そのため、英語での演劇学Theatre Studies は、劇場において演じられる芸術・芸能すべてを包括するわけです。

以下に、Theatre Studies がカバーする範囲の芸術を列挙してみましょう。

芝居 PLAY: いわゆる台詞劇 Straight Play 
ギリシャ劇・イプセン・チェーホフ・シェイクスピア・井上ひさし・坂手洋二等々、台詞が主体でストーリーが紡がれていくもの。

ミュージカル Musical Theatre: 
歌とダンスが娯楽の最大のポイントになっている、ストーリーのある劇。歌では裏声やオペラ的な歌声は極力避け、地声がメイン。

オペラ Opera:
オペラ用の発声で歌う歌を聴く・聴かせることが娯楽の最大のポイントになっている、ストーリーのある劇。
19世紀のグランド・オペラが最高峰となっているが、18世紀のモーツァルトものは根強い人気。新作は現代音楽や実験的なものが多い。 

ダンス Dance, Ballet:
踊りだけで、言葉を挟まないのが普通。
クラシカル・バレエはストーリー性が重視されるが、現代舞踊にはストーリー性の無いものも多い。
三輪えり花と新国立劇場バレエ研修所では、台詞のあるバレエを作り、既存ジャンルが無いので、Theatrical Dance という新ジャンルを作った。

能・狂言・歌舞伎 Noh, Kyogen, Kabuki:
一緒くたにしては申し訳ないが、日本の伝統芸能。
ポイントは、歌と踊りとストーリー性があること。

各地の伝統芸能 Folk Theatre:
各国各地の伝統芸能。人形劇やダンスだけのものも含む場合がある。

サーカス Circus:
円形の劇場で動物やアクロバットと共に観客を楽しませるイベント性の高い娯楽。全体を通してのストーリーは重要ではなく、一つ一つのアトラクションを見せる形式。

シアトリカル・コラボレーションTheatrical Collaboration:
音楽家や立体芸術家の主導で、戯曲というストーリーを持たずに、新しい形の芸術の融合を求めて、人間の声と肉体とを音楽やアートと絡めてライブで表現するコラボレーション。

大道芸 Street Theatre:
街中の道路や広場で、演じるアクロバットやジャグリング。
ストーリー性は無い場合が多い。

*******

はい、混乱しますね。

劇場ではないところで見せる大道芸が入ってきています。
オペラも混乱します。
オペラが演劇学に入るのなら、他の歌のある音楽はどうなの?

ここで、引用:

I can take any empty space and call it a bare stage. A man walks across this empty space whilst someone else is watching him, and this is all that is needed for an act of theatre to be engaged.
------ from THE EMPTY SPACE, by Peter Brook

「なにもない空間をすべて私は、はだかの舞台と呼ぼう。誰かがそこを歩く、それを誰かが見ている、これこそが、演劇が演劇となるに唯一必要なものなのだ。」
(ピーター・ブルック著『なにもない空間』より)

舞台となる空間
何かを演じるために出てくる人間(俳優)
それを観るためにそこにいる人間(観客)

この3間があれば、そこに演劇は成り立つというわけです。
この名言を記したピーター・ブルックというおじさんは、イギリスの大演出家。
これが発刊になったのは1968年ですが、以来、「演劇」の言葉の意味は変わったのです。

彼の定義で考えると、ライブコンサートもやはり、演劇の中に含まれてきます。

いわゆる芝居でさえ、CDやDVDや記録されたものを楽しむことは既に演劇ではなく、映像鑑賞になります。

演劇学とは、すなわち、ライブパフォーマンス学であると言えましょう。

* 三輪えり花はイギリス系の教育を受けたので、英語標記はイギリス英語になります。
例:theatre, centre など。アメリカ英語標記はtheater, centerです。

* straight play と street theatre を混同しないように。
ストレートとストリートで、カタカナ一字違いですが、意味が違います。