三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

ロシア美術≪虐げられたユダヤ少年≫

2007-06-11 21:02:25 | 音楽・美術・総合芸術?
東京都美術館で開催中のロシア美術館展にて
ことに心を深く動かされた3枚のうちの一枚。

Ivan Kramskoi による、The Offended Jewish Boy
@ 1874

毛嫌いされているユダヤ人の少年。
自分はちっとも悪くないのに、ユダヤだというだけで苛められる。
それでも、ユダヤのしるしである帽子を決して外そうとはしない。

同い年の少年たちの仲間にも入れてもらえず、罵倒され、石を投げられ、朽ち果てた家屋の裏に逃げ込んだ。

固くあわせた膝。

固く握った拳骨。

固く結んだ唇。

瞳に浮かぶ涙をこらえようと、ぎゅっと寄せた眉根。


ああ、小さいスクルージが、小さいシャイロックが、ここにいる。

後ろ指差されてどんな大人になるのだろう。

胸が痛む。
どんな涙をどんな想いで、こらえているのか。



*スクルージとは、チャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』の主人公。金の亡者のユダヤ人が、キリストの祭りであるクリスマスに三人の精霊に出会い、とうとう改心する話。

*シャイロックとは、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』の主人公の一人。金の亡者のユダヤ人が、自分をさげすむ白人に復讐しようとして、かえって破滅させられてしまう。



※画像は、購入したカタログをデジカメ撮影したものを取り込みました。

ロシア美術≪墓地の孤児≫

2007-06-11 20:51:11 | 音楽・美術・総合芸術?
東京都美術館で開催中のロシア美術館展にて
ことに心を深く動かされた3枚のうちの一枚。

Vasily Perov による、Orphan Children at Graveyard
@ 1864

この絵を私が解読すると、こうなります。


雪ばかり降る凍てついた北の大地ロシア。
捨てられた子供二人は、姉と弟。

誰にも相手にされない。
遊び相手もいない。
邪魔だと蹴飛ばされずに安心していられる場所は、墓地。

二人っきり。

弟は、やせ細り、涙に潤んだ大きな丸い瞳は落ち窪み、おそらくもう立つ力もない。

姉はそんな弟を慰め、暖めようと背中に乗せて揺すりながら、明るいメロディの歌を歌ってやっている。
力なく頭をぐったりと持たせかける弟を横目で気遣いながら。
決して疲れた自分や辛い自分を見せないように、お姉ちゃんは元気で頑張ってるからね、と励ますように。

弟の涙は漸く止まりかけ、しゃくりあげの痙攣だけがまだ残っている。
が、口をついて出る言葉は、

「お姉ちゃん、お腹がすいた。」




※画像は、購入したカタログをデジカメ撮影したものを取り込みました。

ロシア美術≪乞食の復活祭≫

2007-06-11 20:40:15 | 音楽・美術・総合芸術?
東京都美術館で開催中のロシア美術館展にて
ことに心を深く動かされた3枚のうちの一枚。

Valery Jacoby による、Beggar Man's Easter
@ 1860

この絵を私が解読すると、こうなります。

イースター。
復活祭。

古来からある春分の祭りを、キリスト教がむりやりキリストが蘇った日と重ね合わせた祭りの時期。
キリストが十字架にかけられたのは5月13日で、その3日後に復活したといわれているはずなのに、なぜか3月から4月にかけての春の祭りを、復活祭と呼ぶ。

由来はともかく、復活祭は、恵みの祭りだ。
冬の間死んでいた春が蘇り、卵が孵り、子ウサギが穴からぴょこんと出てくる日だから、ヨーロッパの広い地域で、色をつけて華やかにしたお祝いの卵を、贈り合う風習がある。

この寒いロシアでも、敬虔深いクリスチャン(ロシア正教)たちは、イースターを大切にする。

ある乞食(ごめんなさい、放送禁止用語。「物乞い」といわなくてはならないのだそうだ。私は放送禁止用語反対論者だから、あえて自分の使いたいイメージの単語を使わせていただきます。)、ある年老いた乞食が、イースターなら少しは上がりがあるだろうと、期待して出かけた。
家には年老いた妻と、夫を亡くした出戻りの娘と、遺された赤ん坊が待っている。

が、手に入ったのは、イースターエッグひとつ。

袋から出てきたイースターエッグを前に、無言で夫を見詰める老妻。

その視線を避けるように身体をねじる老いた乞食。
がっくりと落とした肩。
伸びきった白髪と顎鬚。
目の周りは、情けなさとやるせなさと申し訳なさの3種類の涙をこらえて真っ赤だ。

天使のような金髪の、やっと立てるようになったような赤ん坊は、この寒いのに裸同然の姿で、まだ目の見えない産まれたばかりの子犬を抱きかかえて、その子犬に餌をやりたいんだけど、おじいちゃん、なんかない?と聞いている。

奥には日陰の身になっている未亡人。
じっと黙って、見なかったふりをしている背中が震えている。

赤く色づけされたイースターエッグ。

食べることさえできないイースターエッグ。

施す側の傲慢と想像力の欠如。


なんという諧謔。

※画像は、購入したカタログをデジカメ撮影したものを取り込みました。

演劇に纏わる言葉 英語編

2007-05-06 20:33:41 | 音楽・美術・総合芸術?
欧米各国語に於て、演劇に纏わる言葉は、西欧演劇発祥の地、ギリシャの言葉から来ています。

ギリシャ演劇とは、紀元前5~4世紀に書かれて今もなお世界各地で上演されたり映画化されたり、オペラになったりしている一群の悲劇・喜劇を指します。

すごく古い言葉なんです。
つまり、概念がそれほど古い。
神様への儀式が始まりですからね。
売春より古いかも。
人類を類人猿から分けるのは埋葬と宗教的儀式だそうですが、ならば、宗教的儀式から生まれた演劇は人類の歴史と同じくらい古いわけ。

でも文字に残されないと消えてしまいます。

で、西欧演劇のルーツで且つ文字に残ってる一番古いのが、今から2500年前のギリシャ劇なのです。

では、私たちに馴染みの深い英語で、演劇に纏わる言葉をみていきましょう。


≪THEATRE≫
シアター
ギリシャ語読みでテアトル「劇場」
ギリシャ時代、劇場は屋根のない野外。
背景は建造された土地によって険しい岩山だったりオリーブの森だったり真っ青なエーゲ海だったり。

摺鉢型の客席のまんなかに真円の土間舞台。

客席自体はその土間舞台をぐるりと囲んでいて、ちょうどバウムクーヘンを一部カットしたみたいに開いた部分から背景の景色を望むようになっている。
その借景の手前に、舞台装置を兼ねた楽屋と、平土間の円形部分より一段高くなった、主役用の舞台があります。


≪ORCHESTRA≫
オーケストラ
ギリシャ語読みではオルケストラ。
今では楽団のことをさすけれど、これが、摺鉢型客席のまんなかにある真円の平土間舞台のことなんです。

このエリアでは主役以外の大勢さんが歌ったり踊ったり、楽器を演奏していました。

あ~だから現代語のオーケストラ。へぇ。でしょ。

でも現代の劇場やホールは、オケが入るオーケストラピットは真ん丸じゃなくて半円ですよね。
なんで?

実はギリシャ文明が衰退した頃、代わりに隆盛を誇ったローマが、真円だと主役が遠い、と言って半円にぶった斬ってしまったのじゃ。


≪CHORUS≫
コーラス
大勢さん、または合唱隊
ギリシャ語ではCOROSコロスと言いました。
当初のギリシャ劇は30~50人のコロスに主役は一人。
主役だけではドラマは進まないでしょ。
だからコロスは、オルケストラの部分で歌ったり踊ったり、主役の気持ちを代弁したり、舞台裏で起きた事件を説明したり、神さまたちへの祈りを捧げたりして、劇の進行や盛り上げに重要な役割を担っているのです。


≪SCENE≫
シーン
場面。
オーケストラを客席がぐるりと囲んでいますが、その開口部に、一段高く、ステージを設けます。
そのステージが屋根つきの一軒長屋みたいな横長の建造物を背負っています。
この二つを合わせて、スケーネと呼びました。
英語読みだとシーン。


≪AUDITORIUM≫
オーディトリアム
観客席
ギリシャ語読みではアウディトリウム。
このAUDIという言葉、ドイツ車の他に何かを連想しませんか?

AUDIO。オーディオ。

そう、このAUDIという語は「聴く」という意味なのね。
だからオーディトリアムは観る席じゃなくて聴く席。
観客席じゃなくて聴衆席なのです。

audienceオーディエンスも同様。
観る客=観客じゃなくて、聴く客=聴衆の意味なんですな。

ね。

お芝居、演劇が、欧米では本来、観るものではなく、聴くものだったことがわかります。

だからシェイクスピアやモリエールや、現代劇作家まで、すごい・面白いと言われている劇作家は、言葉が音楽的な点が高く評価されているのです。
客も、聴いて驚きながら楽しむ。

一方、観て楽しむものはスペクタクルspectacle。スポーツとか競技系や試合といった、ローマ時代の巨大競技場で行われたものがこちらに分類されるかな。
観客はspectatorスペクテイター。

因みにメガネglassesは正式名称をspectaclesというし、詳しく細部まで調べることをinspect、検察官をinspecterといいます。
全部、「よく見るspect」繋がり。


というわけで欧米型の演劇が聴いて楽しむというスタンスがわかりましたね。


しかし、いつまでもギリシャ語のままで使われているということは、西欧各国にとって、演劇は自国語の中にはなかったのでしょうか?

この件に関しては別トピックで考えてみます。



演劇にまつわる呼称 日本語篇

2007-04-18 14:31:38 | 音楽・美術・総合芸術?
演劇にまつわる言葉(演劇 戯曲 俳優 舞台 観客)を、漢字の意味から考えてみます。

1.演劇=劇を演じる。

「劇」という漢字は、漢和辞典でひくと「激」と同義で、激しい、つまり、日常・尋常ではないことを示します。
劇という字のつくりの部分は、獣が取っ組み合いをしている様子なんですって。
右側はもちろん、刀の意味。
獣が取っ組み合いをしているところへ刀を持って切り込んでいくとあっちゃ、こりゃドラマチックですよ。
そう、un-natural なのが、劇なの。

real に対して unnatural,surreal, non-real, ab-normal

現実に対して、非日常、超日常、似非、異常。
常ならざるもの。
それが劇。

2.戯曲
戯れの曲。
戯れという漢字をさらに細かくすると、虚しいという字に矛(ほこ)。
このブログじゃ漢字変換できなかったけど、つまりは中国の武器です。

「虚」は「実」に対しての「虚」だから、むなしい、という意味よりも、現実ではない、ありえない、夢の、という意味。
口偏がつくと、「嘘」。
ね?

「戯曲」の「戯」は「現実ではなく武器を交わす」という意味になるから、誰も死なない。たわむれ。遊び。

では「曲」は?

「曲」という言葉は、曲がりくねるという線の動きから来ているから、時間的経過を含む言葉だとおもう。
「絵」という時間の止まったものじゃなくて、時間と共に進む感覚っての?
必ずしも音楽の曲を表すものではないことは、「戯曲」が文を表すことからもわかる。

ということは、「戯曲」というのは、ある一定の時間戯れるルールを文にしたものじゃないかな。

もちろん、曲を音曲ととらえ、本来は音楽が主体であったものが文章主体になっていった、という解釈も成り立つ。

(もっと詳しいかた、ぜひご教授を)

3.俳優
日本書紀では、「俳優」という単語に「わざおぎ」と振り仮名を振る。
漢和辞典では「俳」の一語だけでも「わざおぎ」と読ませる。

「俳」の字を分解すると、人に非ず。

ここで言う「人」とは、「常人」を表すものでしょう。
だから、「俳」は人間じゃないものという意味ではなくて、常人じゃない状態の人、という意味が大きい。
神がかっている、とか、獣じみている、とか。
仮面を被ったり、人間の顔とは思えないような化粧を施したり、あるいは感情の度合いを極端に表現したり。
基本は人間だけど、でも、常人の幅を極度に超えた表現をするのが「俳」。

「優」という字も、分解すると悲しいな。
人を憂う。

「俳優」とは、人に非ざる状態で、人を憂う。

わー、すばらしい職業ですよ。泣けてくる。

しかし、「憂」という字には、「大きなかしらをつけて足踏みする」という意味もあります。
どっちかっていうと、こっちかな。
残念ながら。

4.舞台
舞う台です。
それ以上でも以下でもありません。

5.観客
観る客です。
それ以上でも以下でもありません。

しかし、この4と5が、日本の演劇と西欧の演劇とを分ける大きな違いとなるのです。
詳細は、別項。
演劇にまつわる言葉、英語篇で、お話します。

こうしてみてみると、日本語における演劇は、

ある時間内(曲)における現実ではない(戯)が、非日常の激しいもの(劇)を、常人ではない状態になった人(俳)が仮面をつけて足を踏み鳴らし(優)、台の上で舞う(舞台)ものを、観る。

ということに集約される、と思って間違いない。

漢字ってすごいっす。


演劇学 ってなあに?

2007-04-15 21:01:23 | 音楽・美術・総合芸術?
今年は実践女子大学で演劇学というのを担当します。
ところで、演劇学って?
と私自身、疑問に思うので、演劇学について簡単に私なりの考察してみます。

演劇、という言葉からまず連想するのは、おそらく「芝居」だろうと思います。
しかし、演劇学Theatre Studies では、もっと広い範囲の芸術をさします。

演劇という語の元になっている英語の Theatre には、劇場という意味が含まれます。
そのため、英語での演劇学Theatre Studies は、劇場において演じられる芸術・芸能すべてを包括するわけです。

以下に、Theatre Studies がカバーする範囲の芸術を列挙してみましょう。

芝居 PLAY: いわゆる台詞劇 Straight Play 
ギリシャ劇・イプセン・チェーホフ・シェイクスピア・井上ひさし・坂手洋二等々、台詞が主体でストーリーが紡がれていくもの。

ミュージカル Musical Theatre: 
歌とダンスが娯楽の最大のポイントになっている、ストーリーのある劇。歌では裏声やオペラ的な歌声は極力避け、地声がメイン。

オペラ Opera:
オペラ用の発声で歌う歌を聴く・聴かせることが娯楽の最大のポイントになっている、ストーリーのある劇。
19世紀のグランド・オペラが最高峰となっているが、18世紀のモーツァルトものは根強い人気。新作は現代音楽や実験的なものが多い。 

ダンス Dance, Ballet:
踊りだけで、言葉を挟まないのが普通。
クラシカル・バレエはストーリー性が重視されるが、現代舞踊にはストーリー性の無いものも多い。
三輪えり花と新国立劇場バレエ研修所では、台詞のあるバレエを作り、既存ジャンルが無いので、Theatrical Dance という新ジャンルを作った。

能・狂言・歌舞伎 Noh, Kyogen, Kabuki:
一緒くたにしては申し訳ないが、日本の伝統芸能。
ポイントは、歌と踊りとストーリー性があること。

各地の伝統芸能 Folk Theatre:
各国各地の伝統芸能。人形劇やダンスだけのものも含む場合がある。

サーカス Circus:
円形の劇場で動物やアクロバットと共に観客を楽しませるイベント性の高い娯楽。全体を通してのストーリーは重要ではなく、一つ一つのアトラクションを見せる形式。

シアトリカル・コラボレーションTheatrical Collaboration:
音楽家や立体芸術家の主導で、戯曲というストーリーを持たずに、新しい形の芸術の融合を求めて、人間の声と肉体とを音楽やアートと絡めてライブで表現するコラボレーション。

大道芸 Street Theatre:
街中の道路や広場で、演じるアクロバットやジャグリング。
ストーリー性は無い場合が多い。

*******

はい、混乱しますね。

劇場ではないところで見せる大道芸が入ってきています。
オペラも混乱します。
オペラが演劇学に入るのなら、他の歌のある音楽はどうなの?

ここで、引用:

I can take any empty space and call it a bare stage. A man walks across this empty space whilst someone else is watching him, and this is all that is needed for an act of theatre to be engaged.
------ from THE EMPTY SPACE, by Peter Brook

「なにもない空間をすべて私は、はだかの舞台と呼ぼう。誰かがそこを歩く、それを誰かが見ている、これこそが、演劇が演劇となるに唯一必要なものなのだ。」
(ピーター・ブルック著『なにもない空間』より)

舞台となる空間
何かを演じるために出てくる人間(俳優)
それを観るためにそこにいる人間(観客)

この3間があれば、そこに演劇は成り立つというわけです。
この名言を記したピーター・ブルックというおじさんは、イギリスの大演出家。
これが発刊になったのは1968年ですが、以来、「演劇」の言葉の意味は変わったのです。

彼の定義で考えると、ライブコンサートもやはり、演劇の中に含まれてきます。

いわゆる芝居でさえ、CDやDVDや記録されたものを楽しむことは既に演劇ではなく、映像鑑賞になります。

演劇学とは、すなわち、ライブパフォーマンス学であると言えましょう。

* 三輪えり花はイギリス系の教育を受けたので、英語標記はイギリス英語になります。
例:theatre, centre など。アメリカ英語標記はtheater, centerです。

* straight play と street theatre を混同しないように。
ストレートとストリートで、カタカナ一字違いですが、意味が違います。