三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

台詞は入って来る息で決まる

2013-08-09 23:46:26 | 演技って?
台詞を言う時,その台詞を言うために入ってくる息を意識していますか?
実は,演技にとって最も大事なのは,入ってくる息なのです。

一例を挙げましょう。

驚くべきニュースを聞いた時,息を飲みますね,それから,その驚くべきニュースを聞いた感想が言葉になって出てきます。

やってみてください。

驚くべきニュースへの感想は,単純な驚きでもいいし,嬉しい驚きでもいいし,悲しい驚きでもいいし,眉を顰めるようなものでもいいし,憤慨でもいいのです。
どうせですから,どれも練習してみましょう。

ね,驚き、喜び、悲しみ、嫌悪,憤慨,それぞれの「感情」によって,入ってくる息の質感,口元が変化し,瞳にもそれが反映されます。

さて,俳優が息を飲むと,観客はそこに引きつけられます。
観客も一緒に息を飲むからです。
これが,観客の感情とノリを舞台に引きつけ続けるコツです。
観客は俳優とともに息を飲み,その感情を一瞬にして理解します。
それから,その登場人物がその感情をどのような言葉にして消化し、整理していくのだろうか、ということに興味を持ち続けてくれるのです。

台詞以外で息を吐いてしまうと,観客の集中力はとたんに落ちます。
ですから,溜息や,悲しみ,無力感,脱力感などの感情や場面を演じなくてはいけないときは,極力注意しましょう。

スタニスラフスキイと英国の演技術では「登場人物には遂行したい目的がある。障害に負けてはいけない」と教えます。

溜息や悲しみ、無力感,脱力感等は「障害」であって,それらの障害を抱えつつも,登場人物には「遂行したい目的、望み」があることを忘れてはいけません。
障害になる感情を表現するために息があるのです。
そして目的を遂行するために台詞があるのです。

ネガティブな感情もまた,入って来る息で表せば,観客は必ず着いてきます。

言うべき台詞の内容を,抽象的に包括して理解したら,それを言おうとしてみましょう。
即座に,そのために必要な感情の息が入ってきます。
(感情に限らず,「これは説明しておかなくちゃ」の様な「止むに止まれぬ気持ち」でもいいのです。むしろ、その方が多い。)
それから,その「止むに止まれぬ気持ち」を「喋る」,つまり「声に出して言語化することで、自分の心のうちを整理し、言葉を選び、発見しながら相手を説得しようとする」ための「台詞」が始まるのです。

ちなみに,息が入って来る時,目も大きくなります。
俳優として,目の表現力をもっと使うことを本気で考えてください。

入って来る息が,言うべき台詞の感情や気持ちのベースを作り,それが瞳に反映され,その両者が,観客の集中を引きつけます。
そして,それが思いがけない台詞や見事な台詞になったとき,観客は演劇を見て良かった,と思うのです。