三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

三人姉妹 火事の夜の三人姉妹の考察 マーシャ

2012-10-12 15:17:15 | チェーホフって?
チェーホフ作「三人姉妹」

三幕 火事の場面のあとに、三人姉妹が長女オーリガの部屋に集まってくる場面を演じてみましょう。

まずは、段落分け Uniting をします。
これは、場面が割とはっきりと展開する箇所を見つければいいだけのことですので、あまり厳密にしすぎず、がばっとやっておきます。
その後、登場人物の細かい変化を追うために、もう少し細かくユニット分け(段落分け)する必要が出てくると思いますが。

さて、火事でバタバタしてしばらくしてから、三人姉妹と交友関係の或る男たちが、オーリガの部屋に一時避難をしています。が、そこでガールズたちは寝なくてはなりませんので、男たちは去らねばなりません。
まず、ヴェルシーニンが、イリーナにちょっかいを出そうとしているソリョーヌイを連れて、出て行きます。
今日は、そこからの場面のマーシャを演じましょう。

マーシャは、クッションを抱えて部屋に入ってきて、ヴェルシーニンと、「とらん。たんたん」と歌い合うということをしました。
これは何の意味がありますか?

では、かのじょが次にいなくなるのはいつですか?

はい、ヴェルシーニンが階下から「とらん・たん」と言ったのをきいて、「トランタン」と応えてから、いそいそと、ですね。

どういう意味?

はい、浮気の準備ができたよ。おれんちは空だよ。初めて一緒に寝られるよ。
の合図だったんですね。
この場面の前から二人は「とらんたん」の歌を使って、「こんなに町中ごった返していたら、誰がどこにいるか誰もわかりゃしない、今夜しかない、今夜しかない」
まさに、Tonight! の歌のように、二人は、「今夜、二人きりで抱き合おう」の合図をずーーーーーーーーっと交わしていたのです。
もちろん、二人とも夫がいて妻がいる身です。正真正銘の不倫です。
これまでは目と目を見交わしたり、会話をしたりだけでしたが、とうとう抱き合える夜が来たのです!
まさか、二人のうちのどちらかが火をつけたとまでは申しませんが。

さて、ということは、ガールズたちが、部屋にいる場面では、マーシャのしたいことは一つだけ。

「ヴェルシーニンからの次の合図を待つ」

この「待つ」という行為 Action は、相手に向かって働き掛ける能動的 active な行動 action でしょうか?

あまりそうとも言えませんね。

マーシャがいま最も欲しくないのは、他人の目ですから、この部屋から男たちを追い出すという行動は起こします。
まずは、イリーナにかまう男爵を追い出します。
その次に、夫を(!!!)追い出します。
しかし、夫は、「私はお前を愛している、私は満足だ」を繰り返して、いっこうに帰ろうとしません。
その次のマーシャの台詞は
「たくさんたくさんたくさん! ああ、まだ頭について離れない。とても黙っちゃいられない。私、アンドレイ兄さんのことを言っているのよ」

本当?

わたしたちが、恋に落ちていて、これから初めてデートだって言うのに、ママやパパが邪魔して「あなたはいい子ねー。ママたちの言うことに背いたりしないわよねー」とか言われてたらどうします?
腹立ちますよね、ほっといてほしいですよね、きれちゃいますよね、頭の中にあるのは彼(ダーリン)の声だけですよね。でもそれをママたちに知られちゃいけないんだとしたら?

ね、マーシャと同じことをすると思いませんか?
頭について離れないのは、アンドレイの借金のことなんかじゃない、ヴェルシーニンの合図の声です。
とても黙っちゃいられないのは、アンドレイの借金のことなんかじゃない、自分のヴェルシーニンへの想い、ヴェルシーニンが本当に愛しているのは、妻や子供たちじゃ無くて私だよと声を大にして世界に叫びたい気持ちです。
でもそれを言えないから、「わたし、アンドレイ兄さんのことを言っているのよ」とごまかすしか無かった。
そして、ごまかしたなら、その話をさも重要なことのように話して、自分の秘密を覆い隠すしか無いわけです。

そうして夫を追い払った後は部屋にいるのはイリーナだけ。
イリーナは不倫のことなんかわかっちゃいない。(たいてい、下のきょうだいにはわかりっこない、という誤った認識を私たちは持っています。いずれにせよ、イリーナは全く気づいていませんが)
だから、かのじょがここにいても大丈夫。
だから、あとは、ヴェルシーニンの合図を待つだけ。

そうしてマーシャは「待つ」という受動的な行動に切り替えます。
だから、あとは、だれとも接点や働きかけを持つ必要がないので、ひたすら黙っているわけですね。

一方、イリーナの方は、そんなことはわかりませんから、なんとかマーシャ姉さんに、自分の言いたいことをわかってもらおうとしますが、マーシャの目的 ACTION は「ヴェルシーニンを待つ」ことですから、イリーナにかまっちゃいません。
よって、イリーナは、部屋に入ってきたオーリガ姉さんに、訴えかけることになるのです。

しかし、マーシャが口を開く箇所がありますね。

それはうっかりナターシャをバカにしたところから始まります。
オーリガがそれを聞いて「うちの中で一番バカなのはあんたよ」という台詞ですね。

もうお分かりかと思いますが、この台詞で、オーリガが、マーシャがヴェルシーニンと恋に落ちてしまったことを非難していることは明白です。
チェーホフはわざわざ、ト書きで「間」と入れているくらいですから、無言の圧力が二人の間に流れることがわかるからです。
そして、マーシャは姉さんにはばれていたことを知り、先ほど「とても黙っちゃいられない」と言いながら、隠したことを、つまり本当に言いたかったこと「世界の中心で愛を叫ぶ」をするのです。

言い終わったら黙って、また、「合図を待つ」モードに入り、すると合図がくるので、バイバイします。

これがこの場面のマーシャ。
はい、演じてみましょう。


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