三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

TWELFTH NIGHT : CHARACTERS : FABIAN

2008-02-22 08:08:56 | シェイクスピアって?
シェイクスピア作『十二夜』考

せっかく演出している最中なので、この戯曲について様々な側面から、アプローチしてみたい。

今回は登場人物考
《フェイビアン》

この戯曲には、役割を見違えそうな登場人物がいる。

道化のフェステと、マルミドン伯爵家をクビになったフェイビアン。

飲兵衛仲間の悪ふざけのとき、侍女マライアが
「あの道化も仲間に入れて三人」というセリフがある。
この時点で、道化と言えばフェステしか登場していないのだが、現れるのはなんと、それまで一度も姿を現していないフェイビアンという男である。

シェイクスピアの劇団には売れっ子になった道化役俳優と、どうやらその弟子格の見習い道化がいたようだ。

『ロミオとジュリエット』で、乳母に付き従って何も言わない少年がそれに当たるのではないかと私は思っている。
それがやや時を経て、フェイビアンをやるようになったのではと。

フェイビアンはこうして途中で突然姿を現し、一方でフェステは忽然と行方をくらます。

フェステがいるときにはフェイビアンはいない。

おまけに二人とも「フェ」という音で始まる名前なので、ついうっかり二人を同一人物だと思い込む。

ところが最終場面になってフェイビアンがフェステを追い掛けて登場するので、あれ?と思ってしまうのだ。

この誤解を避ける方法は三つ。

1:二人の衣装を大きく変える

道化フェステはカラフルなツギハギ模様に鈴の着いた帽子、みたいにすぐわかる。簡単な方法だがわかりやすい。

着替えたのかしらと思われるかも。

2:二人の年齢を大きく変える。

3:二人を初めのうちから同時に舞台上に存在させる。

ルール違反かもしれないが、演出家ケネス・ブラナーがこの手を使っています。

さて、私がフェイビアンを道化見習いの俳優だったのではと考えるもう一つの理由は、最後にフェイビアンがフェステから、事件の核心となる手紙を奪い、まるでフェステの立場を奪ってしまったかに思われるほど、見事な道化ぶりで、悲劇を喜劇に逆転させようとするところ。
フェステも負けじと言い返し、二人の機知の見せ場になっています。
しかし、フェイビアンのそれが明るい笑いなのに対して、フェステのそれは人生を知り尽したようなシニカルなトゲを持っているのです。

ここに二人の職業上の相似性と、人生経験上の違いが示されている気がするのです。

しかもフェステはフェイビアンにお株を取られた格好。
物証となる手紙を正々堂々と読み上げ、自らの罪を、マルボリオを助けるために無償で潔く認めるフェイビアンの存在意義と大きさは、たいしたものなのです。

隠し玉。

どうやら彼はめでたくオリビアかオルシーノかのどちらかに召し抱えられることになりそうです。