三輪えり花の脳みそ The BRAIN of ELICA MIWA

演出家、三輪えり花の脳みそを覗きます。

台詞は入って来る息で決まる

2013-08-09 23:46:26 | 演技って?
台詞を言う時,その台詞を言うために入ってくる息を意識していますか?
実は,演技にとって最も大事なのは,入ってくる息なのです。

一例を挙げましょう。

驚くべきニュースを聞いた時,息を飲みますね,それから,その驚くべきニュースを聞いた感想が言葉になって出てきます。

やってみてください。

驚くべきニュースへの感想は,単純な驚きでもいいし,嬉しい驚きでもいいし,悲しい驚きでもいいし,眉を顰めるようなものでもいいし,憤慨でもいいのです。
どうせですから,どれも練習してみましょう。

ね,驚き、喜び、悲しみ、嫌悪,憤慨,それぞれの「感情」によって,入ってくる息の質感,口元が変化し,瞳にもそれが反映されます。

さて,俳優が息を飲むと,観客はそこに引きつけられます。
観客も一緒に息を飲むからです。
これが,観客の感情とノリを舞台に引きつけ続けるコツです。
観客は俳優とともに息を飲み,その感情を一瞬にして理解します。
それから,その登場人物がその感情をどのような言葉にして消化し、整理していくのだろうか、ということに興味を持ち続けてくれるのです。

台詞以外で息を吐いてしまうと,観客の集中力はとたんに落ちます。
ですから,溜息や,悲しみ,無力感,脱力感などの感情や場面を演じなくてはいけないときは,極力注意しましょう。

スタニスラフスキイと英国の演技術では「登場人物には遂行したい目的がある。障害に負けてはいけない」と教えます。

溜息や悲しみ、無力感,脱力感等は「障害」であって,それらの障害を抱えつつも,登場人物には「遂行したい目的、望み」があることを忘れてはいけません。
障害になる感情を表現するために息があるのです。
そして目的を遂行するために台詞があるのです。

ネガティブな感情もまた,入って来る息で表せば,観客は必ず着いてきます。

言うべき台詞の内容を,抽象的に包括して理解したら,それを言おうとしてみましょう。
即座に,そのために必要な感情の息が入ってきます。
(感情に限らず,「これは説明しておかなくちゃ」の様な「止むに止まれぬ気持ち」でもいいのです。むしろ、その方が多い。)
それから,その「止むに止まれぬ気持ち」を「喋る」,つまり「声に出して言語化することで、自分の心のうちを整理し、言葉を選び、発見しながら相手を説得しようとする」ための「台詞」が始まるのです。

ちなみに,息が入って来る時,目も大きくなります。
俳優として,目の表現力をもっと使うことを本気で考えてください。

入って来る息が,言うべき台詞の感情や気持ちのベースを作り,それが瞳に反映され,その両者が,観客の集中を引きつけます。
そして,それが思いがけない台詞や見事な台詞になったとき,観客は演劇を見て良かった,と思うのです。


登場人物は誰に何を報告しにきたのか?

2013-07-09 01:45:01 | 演技って?
ハムレットの母,ガートルードが,オフィーリアの死をオフィーリアの兄レアティーズに告げるところがあります。

多くの俳優が,これをさめざめと悲しく、ほとんど泣きながら,あるいは半狂乱になって喋ります。

もっと身近な例で考えてみよう。
あなたは,自分より年下の男性が,父親を殺されて打ち拉がれているところに,その妹も溺れて死んだよ,と言わなくてはなりません。
もっと身近に考えたら,落ち込んでいる友達に,彼がかわいがっている猫が,あそこで交通事故にあったと,伝えるようなものです。

大急ぎで駆け込んできて伝える方法もあるでしょう。
でも,あなたが思いやりのある人なら,落ち込んでいる相手に,さらに悪いニュースをどうやって伝えますか?
相手の顔を見るまでは、「言わなくちゃ」と思っていても,顔を見たら言えなくなる。でも,言わなくちゃ,どうやって言おう,どこから始めよう?

もしもそうではなくて,ただ自分の悲しみばかりが先行する半狂乱状態で報告をするなら,その場合,

「小川のほとりに柳の木が白い葉裏を流れに写して斜めにひっそり立っている。」

なんて文章から始まるはずがありません。

実際,半狂乱での報告をする場面の例があります。
ロミオとジュリエットの乳母は,ティボルトの死を告げる時,「死んだ,死んだ、死んでしまった!」という台詞を使います。
これこそ,半狂乱の演技を要求する台詞。
ガートルードの台詞とは全く違う書き方であることがわかります。

オフィーリアの死を告げにきたのに,なぜこの台詞から始まるの?

ガートルードが,自分の感じる悲しみよりも,レアティーズになにをどう伝えようか,言葉を選んで話そうとしていることがわかります。
しかも,彼女はまず,自分の目で見たことを先に述べますね。(小川、柳、枝,花輪)
目で見たものの印象が強いからです。

そのあと,人づてに聞いたことを述べます。(枝に掛けようとして流れに落ちたそうだ,人魚みたいだったそうだ,祈りの歌を口ずさんでいたそうだ、そのあと,沈んだそうだ)

自分の目で見たことと,聞いたことを告げる調子は,異ならなくてはなりません。

また,ガートルードの頭の中は「なぜ,そんなことに?オフィーリアは自殺?なぜオフィーリアはそんなことをした?」という質問が,ぐるぐる廻っているはずです。
「オフィーリアはその細枝に,草花を巻き付け」という描写のときも,「なぜそんなことを?」と自分に問いかけながら,話してみましょう。

友達とのシリアスな会話で「なんであの子,あんなことしたんだろうね・・・」と言っているとき,その子がなぜそんなことをしたのか考えながら言っているはずです。それと全く同じ。

最後にもうひとつ・
オフィーリアが細枝にかけた草花は,きんぽうげ,いらくさ,ひなぎく,紫蘭です。
紫蘭は,「口さがない羊飼いたちの間ではいやらしい呼び名で呼ばれている」花,つまり,オフィーリアのような女性がそれを手に持って遊ぶ,というのは,相当「えっ?」なことなのです。
純潔を絵に書いたような女の子が,実は部屋にポルノ雑誌を溜め込んでいると,あなたが知ったときのような,「えっ?」です。

ガートルードは,紫蘭が混じっているのを発見して,やだ,なにこれ,と思ったわけ。
で,なんでこんな卑猥なものを,とそれをついオフィーリアのお兄さんにそのまま言っちゃったんですね。

お兄さんに,「あなたの妹は死んだ時,ポルノ写真を握りしめていたわよ、卑猥ね」と言うようなものです。

言った瞬間にガートルードは,やべ,と思い,言い直します。

「無垢な娘たち(=オフィーリア)の間では、死人の指と言い習わされている,あの紫蘭」と。

卑猥ね,あ,いえいえ,オフィーリアみたいな無垢なお嬢さんはきっと卑猥な思いでその花を摘んだんじゃないわ,あれって,死人の指とも言われていて,女の子は卑猥というよりは不気味がって,手に取らないものでしょう,オフィーリアはもしかしたら,それを摘んだからしんだのかもしれないわ,

みたいな,そんな感じの「言い直し」です。

シェイクスピア,面白いでしょう?
なぜ,こんなこと言うの,この人。。。← これがシェイクスピアを演じるときのカギの全てです。


登場人物は何をしようとしているのか?

2013-07-09 01:29:48 | 演技って?
マクベスの「やってしまって、それでことが済むものなら、早くやってしまった方が良い」の独白。

マクベスはどれくらい、王を殺したいんでしょう?

多くの人が,「すごく殺したい」と答えてくれます。
でも,本当?
もしもそうなら,なぜ彼の台詞は「やるとも,もしも,それで済むなら」と仮定法をとるのでしょう?
「それですむわけないじゃん,だからやだよー」が心の中にあるからです。

その「あの世で罰を受けようとも,この世で大丈夫 なら あの世のことなどかまってられるか!」と大見得を切った後,

「だけど、この世でもこういうことって,罰を受けるよな」と怯えて,
あとは,罰を受けるにふさわしい理由をいくつもいくつも際限なく並べていきます。
それくらい,罰を受ける理由が並べられるということは,それくらい,やりたくない,ということです。

親に等しい、立派な人を殺す。権力を手にするために。

迷って当然です。

迷わないで殺人をやるのは,シェイクスピアの戯曲の中でもリチャード三世だけです。(しかもリチャードは自分の手で人を刺してはいない)

マクベスは,迷いをどうやって表現するか,なのであって,どうやってかっこ良くやるか、ではありません。

「軍人らしく」がベースの演技もダメです。
そんなところから人物を作れば,シーザーをやろうが,アントニーをやろうが,キャシアスをやろうが,マクベスをやろうが,ハムレットをやろうが,皆同じになってしまいます。

果たしてこの演技は,この登場人物のためのものだけなのかどうか,このやり方なら誰をやっても同じ,になっていないかどうか,少し自分に厳しく演技を見つめ直そう。

登場人物はなぜ喋り、喋らない人はなぜ喋らないのか?その間、どうしているべきか?

2012-11-01 20:00:06 | 演技って?
登場人物はなぜ喋り、なぜ喋らないのか?
『ハムレット』1幕2場で考えてみよう。

ハムレットの母(デンマークの王妃)が、夫(デンマーク王)の死後わずか2ヶ月で夫の弟と結婚式を挙げた披露宴の晩。
ハムレットの親友ホレイショーが、城の見張り役の兵隊二人(マーセラスとバーナードー)を伴って、ハムレットのそばにやってきて、こともあろうに崩御したばかりの前王(つまりハムレットの母の夫で、ハムレットの実の父)の亡霊を見たと報告する場面。

一行ずつ分解して、演技を考えてみましょう。(行頭数字は、通例の行番号。日本語訳は三輪えり花。当然ながら、日本語と英語の文法構造の違い上、行ごとの逐語訳とは異なる。)
まず、翻訳でこの箇所を眺めてみます。

ホレイショー
221 この命に賭けて本当です、
222 だからこれは皆で殿下に
223 お伝えせねばと思ったのです。

ハムレット
224 そうか、そうだな、諸君、だが気になるな。
225 見たのか、今夜も?

三人(ホレイショー、マーセラス、バーナードー)
225 は、殿下。

ハムレット
226 武装して、だと?

三人
227 は、武装して。

ハムレット
228 上から下まで?

三人
228 は、頭から足先まで。

ハムレット
229 では、顔は見えなかったわけか?

ホレイショー
230 もちろん見ました、顎当てを上げていらして。

ハムレット
231 どんな顔だ、険しかったか?

ホレイショー
231 お見受けしたところ
232 お怒りよりはお悲しみかと。

ハムレット
232 血の気は?

ホレイショー
233 失せて、真っ青で。

ハムレット
233 お前を見つめて?

ホレイショー
234 ただもうじっと。

ハムレット
234 僕も居合わせたかった。

つづく。。。

では、まず、221 の台詞から、なぜ喋るのか、なぜ喋らないのか、を考えていきます。
これを考えると、「何を考えて喋るのか」もわかるようになります。

221 この命に賭けて本当です、

なぜホレイショーは「このいのちにかけて」と言わなくてはなりませんでしたか?

→ その前に言ったこと(ハムレットのお父さんの亡霊を見ましたよ)を信じてもらえなかったから。

当時は、男性が「命に賭けて」というのは大変な覚悟を伴うことでした。
理性の哲学者であるホレイショーが、想像の産物かもしれない亡霊を見たというのですから、ハムレットは「まさか」と思うわけです。
ホレイショーは、自分の見たものは本当にハムレットの父親の亡霊だったことを「命に賭けて」本当だと言ったので、ハムレットは漸く信じる気になるのです。

222 だからこれは皆で殿下に
223 お伝えせねばと思ったのです。

さらに、後の二人を連れてきているわけをホレイショーは伝えます。
それを聞いてハムレットはこう言います。

224 そうか、そうだな、諸君、だが気になるな。

一見、「そうか、そうだな」は彼らの言うことを真剣に信じたような台詞に見えます。
でも、それなら、なぜ次に「だが気になるな」とbut「だが」が続くのでしょう?
彼らの言うことに納得したのなら、「確かに気になるな」とかではありませんか?

では、現実世界で、私たちがどんなときにこういう反応をするか、やってみましょう。
三人くらいに取り囲まれて、「お化け、見たんだ、本当だってば、本当」と迫ってきてもらいましょう。

どうです、あなたは「わかった、わかったから」と言いませんでしたか?

もしもこれがあなたのお父さんが死んですぐの時期で、あなたの大親友が、「幽霊見たんだってば、本当に!」と青い顔で駆け込んできたとしたら?
最初は信じなくても、相手の興奮をまず「わかった、わかった」と一時収めて、そのあとで、自分も改めて考えてみると、「もしかしたら、まだそこら辺に魂がいるかもしれない」とか部屋の隅に亡きお父さんの存在を感じたりしているあなたは、「だけど、気になる」と言いませんか?

英語のハムレットも、同じことをしています。
というのは、Indeed, indeed, sirs, というのは、いかにも「わかった、わかったから」という感じなのです。

リズム的にも弱強五歩格で奇麗に意味がとれる行になっています。
Indeed, indeed, sirs, but this troubles me

下線部を強く発音すると、言いたい意味が聞こえてきます。

さて、皆を落ちつかせて改めて「気になるな」と思ったハムレットは、いよいよ、自ら質問を発します。興味がわいたからです。もっと情報を得たいと思ったからです。

225 見たのか、今夜も?

225          は、殿下。

上記225は、台詞の前に少し行頭が空白になっていますが、これは、直前の台詞のすぐ後に言う、という約束事になっています。
つまり、みんなはハムレットの質問に即答したんです。
なぜ全員が即答しましたか?

→全員が、はっきりと見たから。
そうです。自信をもって、我先に答えるはずです。
これは、一斉のせ、で声を合わせたのではありません。全員が、息せき切って、食いつくようにハムレットに即答したタイミングが合ったからです。

ハムレットは尋ねます。
226 武装して、だと?

いかにも、普通に尋ねていそうですが、ここでも立ち止まって考えましょう。
なぜ、「武装して、だと?」という確認が必要なのでしょう?
「武装して、だと?」の裏にある気持ちは何か?

もしもあなたの親友の男性が交通事故で死んで、その彼女がさっさと別の男性とつきあい始めたら?
「あいつ、化けて出るぞ」と思わずにはいられないですよね。
しかし、親友の死装束は武装ではない。(ハムレットの父王は戦死ではないので、きちんとした礼装で棺に納められ、棺の上に鎧が置かれ、という状態だったと考えられます)
とすると、あなたの親友は、なんでまた武装までして現れたんだろう?
→「そりゃそうだ、当然武装!戦え元カレ!」と思うか、「武装してまで、何かあんのか?」のどっちかですよね。

いずれにせよ、死んだこの人が亡霊になって出てきたその姿が武装というのは、あなたの想像通りの「化けて出る姿」なのか否か、ということが演技に繋がるのです。
想像通りなら「さもありなん」という気持ちが音になって言葉に現れるでしょう。顔の表情もどちらかというと「武装して、うむ、やはり。」になるでしょう。
想像と違うなら、「え?なんで?ほんと?」の音になって言葉に現れるでしょう。
ハムレットは「武装して、だと?」と、「、だと?」を付けて、武装を確認しているということは、武装していると聞いて驚いたのではないでしょうか。つまり、彼の描いていた父親の登場する姿とは、異なるのでしょう。

ところで、ハムレットは、「親父が死んだとたんに、親父の弟と結婚かよ、おふくろよ~。女って最低。親父、マジかわいそ。浮かばれん。」と思って嘆いております。
だから、「浮かばれん親父」が、この元妻の新しい夫との結婚披露宴に、化けて出るんじゃないか、くらいは言葉の綾として感じていたことでしょう。
しかし、いくらなんでも、ほんとに現れたとなると、話は突拍子もありません。
「化けて出るんじゃないか、という気がする」のと
「ほんとに化けて出た」は違います。
だから、ホレイショーは「この命に賭けて本当です」と言わなくてはならなかったのですね。

さて、「武装して、だと?」と問われた三人は、

227 は、武装して。

と答えます。
が、今回は、行頭に空白がないので、その答えを言うのに、時間はどれくらいかかっているのか、即答なのか、というのは演出で分かれます。

次にハムレットはこう訊きます。

228 上から下まで?

三人の答えはまたも即答。

228 は、頭から足先まで。

ハムレットも立て続けに訊きます。

229 では、顔は見えなかったわけか?

ハムレットは、亡霊が出たことは信じたけれども、顔が見えないなら俺の親父とは限らないじゃないか、と言ったのです。
がっかり感と、ちょっと、ほっとした感と。
「上から下まで?」と訊いたときには既に「顔が見えたかどうか」を確認し始めていると言って良いでしょう。

それに対してホレイショーが答えます。

230 もちろん見ました、顎当てを上げていらして。

なぜ、それまで即答していた他の二人は答えないのでしょう?

理由1 二人はより立場の高いホレイショーに答えを譲った。(つまり、答えられるのだけれど答えなかった)
理由2 ハムレットがほかの二人を無視してホレイショーだけに話しかけた質問だったから、答えるのを控えた。(つまり、答えられるのだけれど、答えなかった)
理由3 二人には答えられなかったから。

どれを選んでもいいでしょう。

私は理由3の「答えられなかったから」が好きです。
それまで即答していた兵士たちが、実は顔まではっきりと見るほど見つめていられるほどの根性がなかったことがわかるし、二人が答えられずに顔を見合わせようとするときに、ホレイショーが答えたとき、彼らもハムレットと同じようにホレイショーに集中して耳を傾けることができます。

ハムレット
231 どんな顔だ、険しかったか?

ここではハムレットは、「険しいはずだ」を前提に尋ねています。
なぜでしょう?

愛していた奥さんが、さっさと自分の弟と結婚したことに対する怒りで、顔を険しくさせているはずだとハムレットは思うからです。
そして、おそらく、ハムレットの顔も、「険しい」ものであるに違いありません。

だがホレイショーの答えは;
231 お見受けしたところ
232 お怒りよりはお悲しみかと。

さて、ここでもツルツルと喋ってしまう前に立ち止まって考えましょう。
それまで即答即答で来ていたのに、また、この後も即答即答で答えるのに対し、ここだけ「お見受けしたところ」が入っています。

もちろん、「お見受けしたところ」という答え自体は即答のタイミングで入ります。
けれど、答えの内容に至るまでに、この言葉で引き延ばしているようです。

つまり、ホレイショーは、「お見受けしたところ」と言いながら、自分の記憶を辿り、見たものにどんな言葉を与えようか、考えているのです。

そして、「お怒りよりはお悲しみかと」と言うということは、ホレイショーは、ハムレットの言うところの「険しい」を「妻や弟に対する怒り」と捉えるよりも、「裏切られた悲しみ」と捉えていいのではないか、と結論づけた、ということになります。

このような箇所は、俳優は、「お見受けしたところ」と即答のタイミングで入りつつも、台詞自体のテンポを速めすぎず、むしろ一音ずつをゆっくり目に考え深げに発語し、ハムレットの「険しい」という単語を「お怒り」に置き換え、それを「悲しみ」と結論づける、という構図をはっきり認識しながら演じましょう。

それに対し、ハムレットは引き下がりません。

232 血の気は?

血の気は、シェイクスピアのいたルネサンス時代、気質を表す最も手っ取り早く、そして信頼の置ける判断方法の一つでした。
父王はきっと怒っているはずだ。そして、怒っているからには、血の気が多く見えるはずだ。

ハムレット自身は、血の気の多い青年です。
冷静で落ちついたホレイショーをうらやみ、いつもホレイショーに「俺にもお前ほどの落ち着きと分別があれば」と嘆いています。
オフィーリアにも「俺はすぐカッとする性質だ」と打ち明けています。
そう、ハムレットは沈思黙考の青白い哲学青年などではなくて(それはむしろホレイショーの方)、血の気の多い、すぐに声を荒げてしまう「何をこのやろー」青年なのです。

そして、血の気の多い人には、他の人もやはり血の気が多いはずだ、つまり、怒るべきことには怒るはずだ、と思いがちです。
が、ホレイショーの答えはやはり;

233 失せて、真っ青で。

そう、悲しみに青ざめている絵をホレイショーは提示します。
英語でも、Nay, very pale. と、ハムレットにしっかりはっきり伝えようとしています。

また一方で、怒りにも二種類あって、血の気の多い赤い怒りは、その場で爆発する瞬間的な怒り。
青ざめた怒りは、腹の底に鬱憤していく、永続的な怒りです。

亡霊が青い顔をしていたことが、どちらの理由かは、亡霊を演じる人が決めることができます。
が、とにかく、目撃したホレイショーには、青白さは鬱屈した永続する怒りよりも、血の気の引いた悲しみに見えた、というわけです。

続けてハムレットはその質問を聞くが聞かないうちに質問をします。まさに、質問攻めという感じで、つまり、ハムレットは興奮を抑えられなくなってきています。

233 お前を見つめて?

そしてホレイショーが次のように答えると、

234 ただもうじっと。

ハムレットは即答します。

234 僕も居合わせたかった。

なぜ、青白かったのか、なぜホレイショーを見つめたままだったのか。
ハムレットは、もう一度親父と瞳を交わしたいという思いに駆られていますから、懐かしさと悔しさと無念さで、いっぱいになっての、崩れ落ちるような即答です。

さて、ハムレットに「亡霊が出た」と知らせにきた三人は、ハムレットにも一緒に来て、亡霊が何を言いたいのか探ってもらいたいと思っているわけですから、このハムレットの返答で、ひとまず、三人の目的は半分達成されたことになります。

亡霊の存在を信じてもらい、それが亡き父王だとわかってもらい、その父王に会ってもらいたい。

この答えを聞いて、三人は瞳を交わしているでしょう、「よし、では、今夜の見張り台に来ていただこう」と。


どうです?
面白いですね。
こうして一つずつ解釈していくだけで、とても面白い。
演技をするとっかかりが、次から次へと見えてきます。


最後に、英文と併せて翻訳を載せておきますので、もう一度見直してみてください。

  HORATIO  ホレイショー
221 As I do live, my honour'd lord, 'tis true;
   この命に賭けて本当です、

222 And we did think it writ down in our duty
   だからこれは皆で殿下に

223 To let you know of it.
   お伝えせねばと思ったのです。

HAMLET  ハムレット
224 Indeed, indeed, sirs, but this troubles me.
   そうか、そうだな、諸君、だが気になるな。

225 Hold you the watch tonight?
   見たのか、今夜も?

MARCELLUS and BARNARDO  マーセラスとバーナードー(版に依っては、ホレイショーが加わり全員が喋ることも)
225 We do, my lord.
                は、殿下。

HAMLET  ハムレット
226 Arm'd, say you?
   武装して、だと?

MARCELLUS and BARNARDO  マーセラスとバーナードー(同上)
227 Arm'd, my lord.
   は、武装して。

HAMLET  ハムレット
228 From top to toe?
   上から下まで?

MARCELLUS and BARNARDO  マーセラスとバーナードー(同上)
228 My lord, from head to foot.
             は、頭から足先まで。

HAMLET  ハムレット
229 Then saw you not his face?
   では、顔は見えなかったわけか?

HORATIO  ホレイショー
230 O, yes, my lord; he wore his beaver up.
   もちろん見ました、顎当てを上げていらして。

HAMLET  ハムレット
231 What, look'd he frowningly?
   どんな顔だ、険しかったか?

HORATIO ホレイショー
231 A countenance more
                お見受けしたところ

232 In sorrow than in anger.
   お怒りよりはお悲しみかと。


HAMLET ハムレット
232 Pale or red?
                血の気は?

HORATIO ホレイショー
233 Nay, very pale.
   失せて、真っ青で。

HAMLET  ハムレット
233 And fix'd his eyes upon you?
            お前を見つめて?

HORATIO  ホレイショー
234 Most constantly.
   ただもうじっと。

HAMLET  ハムレット
234 I would I had been there.
            僕も居合わせたかった。

三人姉妹 火事の夜の三人姉妹の考察 イリーナ

2012-10-12 16:05:30 | チェーホフって?
チェーホフ作「三人姉妹」

三幕 火事の場面のあと、三人姉妹がオーリガの部屋で一息つくところのイリーナを演じてみましょう。

マーシャの演技を解説したブログも参考にしてください。
http://blog.goo.ne.jp/elicamiwa/e/26875a653049382fcb2974632dc74024

さて、姉妹だけになったとき、イリーナは「アンドレイ兄さんが老けた」ことに憤ります。

本当?

マーシャの演技を考えたときのように、この場面が始まる前を見てみましょう。

イリーナに恋をしている世間知らずの青年男爵は、イリーナを見て「あなたは疲れているんですね、あなたの若々しさはどこへ行きました?あなたはあんなに明るかったのに。ボクは働きますよ。働くって素晴らしいことですよね」というたぐいのことを言っています。

この芝居の始まったときは、イリーナも働くことに夢と憧れを抱いていて、いまの男爵と同様、働くって素晴らしい!を連発していました。
いま、実際に郵便局で働き始めて、働くことに夢も憧れも持てず、打ち砕かれ、しかも、自分が夢を語った手前、誰にも弱音を吐けずにがんばってきました。

そこへこの男爵の台詞です。

働くことに夢なんか持ってた私が1年前にはいた。
その私はどこへ行っちゃったの?
私はそんなに疲れて見えるの?私には元気な若々しい明るさがもう無いの?
むかしの私はどこへ行っちゃったの?

男爵からの無邪気な言葉が、既にイリーナの脳裏に「むかしの私はどこへ?」という言葉を響き渡らせているのですね。

マーシャの頭の中がヴェルシーニンの「トランタン」でいっぱいなのと同様、イリーナの頭の中では「むかしのわたしはどこへ」の台詞が鳴り響いて止みません。

けれど、それを認めるのが怖いのか癪なのか、かのじょは怒りとフラストレーションをアンドレイに一旦、向けます。

アンドレイを非難する話の内容を吟味してみましょう。

「兄さんは老けた」
「むかしは高い地位をめざしていたのに、いまは低いところでさも自慢げだ」
「むかしの兄さんはどこへ行ってしまったのか?」

イリーナが、自分に大して抱えている恐怖がまさにアンドレイに投影されていると思いませんか?

けれど、言っているうちに、じょじょに投影しているだけでは済まなくなってきます。
実際に吐露してしまいたい、「むかしの私はどこへ?」という思いの勢いがエスカレートしてきて、とうとう、オーリガにまず、その台詞からぶちまけます。
「あたしはどこへ行ってしまったの?」

そして、その原因となった、「働く」ことへの不満を、これまで我慢してきた分も含めて、一気に吐露してしまいます。

これは一瞬のヒステリーな爆発のようなもので、エスカレートした感情から「死ねば良かった」なんて過激な台詞も飛び出します。
が、彼女は自殺なんてできないから、こういうヒステリー状態でそう言ってしまえるに過ぎません。

が、いずれにせよ、感情がの爆発する場面でもありますので、まず、感情の発露から練習しましょう。
一言、一文節ごとに、布でそこら中を叩いて、力と共に言葉を発散させます。
発散するのが苦手な人は、最初のうちは発散させる振りをしている自分が照れくさくて笑ってしまったりします。
そのうちに飽きてしまうかもしれません。が、イリーナがどれほど長く発散させ続けているか、なるほど、こんなにエネルギーが必要なのだと知ることにもなります。

次に、まったく正反対の、静かなエクササイズをしましょう。
相手の目を見て、言葉の意味を重要だと伝えていくレッスンです。

「あんな人」って誰?
ナターシャですね。

ナターシャのことは好き?嫌い?
嫌いですよね。諸悪の根源。

仮にもしも、私が「机」と言うとき、ただの発音として扱うのと、それが大事な机だという意味を伝えたくて、音に「大事です」という意味を載せて言うのと、それが大したこと無いことを意味したくて、音に「これはただの机に過ぎないんだけどね」という意味を載せて言うのと、少なくとも三種類は表現できると思います。
とすると、ナターシャのことを言うとき、音になんらかの意味が現れてきていいはずです。

しかもなぜ「あんな人」と言うの?
なぜ「ナターシャ」と言わないの?
名前も呼びたくないから。
そう、だから、この話をするときに、ナターシャの名前と顔が脳裏に浮かんだとき、イリーナはそこから、わざわざ距離を置くという明確な選択のあげくに、この言葉を選んでいる。

では、ナターシャへの気持ちをいろいろ表現しながらいくつもの「あんな人」という言い方を試してみましょう。

吐き出すように。
つまみ出すように。
汚いものを捨てるように。
蹴飛ばすように。
かかとでぐしゃぐしゃに踏みつぶすように。
叩くように。
追い払うように。

ナターシャという単語を表現するとき、実にいくつもの表現方法があるのがわかります。

言葉を発語するときに、あなたがナターシャをどう思っているのか、あなたにとってナターシャはどんな存在なのかを、聞いている相手にわかってほしいから、音にして表現していく。
これが、「言葉の意味を伝えろ」という意味です。

「あんな人」という単語ひとつでもこれだけエクササイズができるんですねー。

続く台詞も同様にとらえます。
一つ一つの単語を、選んでから発語する。一つ一つの単語と、あなたの関係を、あなたにとってその言葉が持つ意味を、表現しようとする。

教授と県会議員の位置はイリーナにとって?

プロトポーポフはあなたにとってどういう意味?
ネガティブ。
一方、「議長」はポジティブ。
すると、「プロトポーポフみたいなあんな奴が、よりによって、お偉い議長!」という落差がはっきりしますね。

オーリガ登場前の一連の台詞の最後に「いやだ」が三回繰り返されています。
勢いで台詞を言っているうちは、三回も繰り返すのは、多すぎるようにも感じられたりします。
が、具体的に何を嫌だと言っているのか、三つ指差してみましょう。

あんな人
老けた兄さん
県会議員で自慢している兄さん

おやおや、
あまりにも嫌なことがありすぎて、三つの「いやだ」じゃ網羅できないことが、わかります!

あとに「我慢できない」「耐えられない」も続くので、それらも利用して、対象物を具体的に選んでみましょう。

バイオリンを弾いている意気地なしの兄さん
プロとポーポフみたいな奴が議長
町の噂、これは自分まで後ろ指さされているようで「我慢できない」とか「耐えられない」にはぴったりですよね。

そして、最後の「耐えられない」を、いまの自分が老けてしまったことへの恐怖に持っていってみましょう。

すると、オーリガがきたときに、うまく「むかしの私はどこへ?」につなげることができます。

なにしろ、アンドレイへの不満の発端は「私は老けた。むかしの私はどこへ?」なのですから。

そして、爆発させた感情と、抑えていた気持ちは、発散することで治まり、イリーナは噴火が静まったあとのように徐々に落ちついていく自分を眺めながら「わたし、夢を持っていたの」と客観的に自分を描写できるようになるんですね。

では、演じてみましょう。

三人姉妹 火事の夜の三人姉妹の考察 マーシャ

2012-10-12 15:17:15 | チェーホフって?
チェーホフ作「三人姉妹」

三幕 火事の場面のあとに、三人姉妹が長女オーリガの部屋に集まってくる場面を演じてみましょう。

まずは、段落分け Uniting をします。
これは、場面が割とはっきりと展開する箇所を見つければいいだけのことですので、あまり厳密にしすぎず、がばっとやっておきます。
その後、登場人物の細かい変化を追うために、もう少し細かくユニット分け(段落分け)する必要が出てくると思いますが。

さて、火事でバタバタしてしばらくしてから、三人姉妹と交友関係の或る男たちが、オーリガの部屋に一時避難をしています。が、そこでガールズたちは寝なくてはなりませんので、男たちは去らねばなりません。
まず、ヴェルシーニンが、イリーナにちょっかいを出そうとしているソリョーヌイを連れて、出て行きます。
今日は、そこからの場面のマーシャを演じましょう。

マーシャは、クッションを抱えて部屋に入ってきて、ヴェルシーニンと、「とらん。たんたん」と歌い合うということをしました。
これは何の意味がありますか?

では、かのじょが次にいなくなるのはいつですか?

はい、ヴェルシーニンが階下から「とらん・たん」と言ったのをきいて、「トランタン」と応えてから、いそいそと、ですね。

どういう意味?

はい、浮気の準備ができたよ。おれんちは空だよ。初めて一緒に寝られるよ。
の合図だったんですね。
この場面の前から二人は「とらんたん」の歌を使って、「こんなに町中ごった返していたら、誰がどこにいるか誰もわかりゃしない、今夜しかない、今夜しかない」
まさに、Tonight! の歌のように、二人は、「今夜、二人きりで抱き合おう」の合図をずーーーーーーーーっと交わしていたのです。
もちろん、二人とも夫がいて妻がいる身です。正真正銘の不倫です。
これまでは目と目を見交わしたり、会話をしたりだけでしたが、とうとう抱き合える夜が来たのです!
まさか、二人のうちのどちらかが火をつけたとまでは申しませんが。

さて、ということは、ガールズたちが、部屋にいる場面では、マーシャのしたいことは一つだけ。

「ヴェルシーニンからの次の合図を待つ」

この「待つ」という行為 Action は、相手に向かって働き掛ける能動的 active な行動 action でしょうか?

あまりそうとも言えませんね。

マーシャがいま最も欲しくないのは、他人の目ですから、この部屋から男たちを追い出すという行動は起こします。
まずは、イリーナにかまう男爵を追い出します。
その次に、夫を(!!!)追い出します。
しかし、夫は、「私はお前を愛している、私は満足だ」を繰り返して、いっこうに帰ろうとしません。
その次のマーシャの台詞は
「たくさんたくさんたくさん! ああ、まだ頭について離れない。とても黙っちゃいられない。私、アンドレイ兄さんのことを言っているのよ」

本当?

わたしたちが、恋に落ちていて、これから初めてデートだって言うのに、ママやパパが邪魔して「あなたはいい子ねー。ママたちの言うことに背いたりしないわよねー」とか言われてたらどうします?
腹立ちますよね、ほっといてほしいですよね、きれちゃいますよね、頭の中にあるのは彼(ダーリン)の声だけですよね。でもそれをママたちに知られちゃいけないんだとしたら?

ね、マーシャと同じことをすると思いませんか?
頭について離れないのは、アンドレイの借金のことなんかじゃない、ヴェルシーニンの合図の声です。
とても黙っちゃいられないのは、アンドレイの借金のことなんかじゃない、自分のヴェルシーニンへの想い、ヴェルシーニンが本当に愛しているのは、妻や子供たちじゃ無くて私だよと声を大にして世界に叫びたい気持ちです。
でもそれを言えないから、「わたし、アンドレイ兄さんのことを言っているのよ」とごまかすしか無かった。
そして、ごまかしたなら、その話をさも重要なことのように話して、自分の秘密を覆い隠すしか無いわけです。

そうして夫を追い払った後は部屋にいるのはイリーナだけ。
イリーナは不倫のことなんかわかっちゃいない。(たいてい、下のきょうだいにはわかりっこない、という誤った認識を私たちは持っています。いずれにせよ、イリーナは全く気づいていませんが)
だから、かのじょがここにいても大丈夫。
だから、あとは、ヴェルシーニンの合図を待つだけ。

そうしてマーシャは「待つ」という受動的な行動に切り替えます。
だから、あとは、だれとも接点や働きかけを持つ必要がないので、ひたすら黙っているわけですね。

一方、イリーナの方は、そんなことはわかりませんから、なんとかマーシャ姉さんに、自分の言いたいことをわかってもらおうとしますが、マーシャの目的 ACTION は「ヴェルシーニンを待つ」ことですから、イリーナにかまっちゃいません。
よって、イリーナは、部屋に入ってきたオーリガ姉さんに、訴えかけることになるのです。

しかし、マーシャが口を開く箇所がありますね。

それはうっかりナターシャをバカにしたところから始まります。
オーリガがそれを聞いて「うちの中で一番バカなのはあんたよ」という台詞ですね。

もうお分かりかと思いますが、この台詞で、オーリガが、マーシャがヴェルシーニンと恋に落ちてしまったことを非難していることは明白です。
チェーホフはわざわざ、ト書きで「間」と入れているくらいですから、無言の圧力が二人の間に流れることがわかるからです。
そして、マーシャは姉さんにはばれていたことを知り、先ほど「とても黙っちゃいられない」と言いながら、隠したことを、つまり本当に言いたかったこと「世界の中心で愛を叫ぶ」をするのです。

言い終わったら黙って、また、「合図を待つ」モードに入り、すると合図がくるので、バイバイします。

これがこの場面のマーシャ。
はい、演じてみましょう。


薔薇の性質についての覚え書きPierre de Ronsard

2012-10-10 15:54:43 | 花を育てる
この美しさでとにかく丈夫。
虫一匹つかない。
葉っぱもつやつや。
ステキです。
まるっこい蕾から花になるまでの移行の美しさと愛らしさは完璧です。

薔薇の性質について覚え書きBuff Beauty

2012-10-10 15:51:33 | 花を育てる
日陰の東通路を飾る薔薇の中で、蔓を旺盛に伸ばすもう一種類がこちら、バフビューティー。

ただし、葉っぱはわりとさっさと散ります。
花は小ぶりで元気です。

バラの性質についての覚え書き City of York

2012-10-10 14:21:15 | 花を育てる
庭でバラを育て始めたのが、2011年11月。
東という良い方向へ向かう細通路が、南側の隣家の裏階段の下で、寂しく、暗いので、明るくしよう、とくに視線の高いところを緑と花で飾ろうと、蔓薔薇を植えることにしたのです。

既にカラタチとサルスベリのまあ大きめの(2メートル半くらい)の高さのものは1本ずつ植わっていました。
とにかく、薮を通り抜けるような通路で、この雑草を抜くところから始めました。

こんな日陰で薔薇が育つかどうか不安でしたので、まずは日陰に強い蔓薔薇というふれこみの或る種類を求めます。

City of York 白
Baff Beauty 淡いオレンジ
Angela 赤
Iceburg 白
Julia 銅
Paul's Himalayan Musk 淡いピンク
Pierre de Ronsard
Cocktail 赤
Mon Jardin Et Ma Maison 淡いピンク

彼らは皆、とても丈夫です。

一番成長が良いのは、City of York (写真)
日陰をものともせずに、長い蔓をぐんぐん伸ばします。

本当は、ポールズヒマラヤンムスクというやつが、一夏で5メートルも蔓を伸ばすというので、二階までの大きなアーチが作れると、それをふまえて場所を選んだのですが、ちょっとまだ伸びが悪いです。
尤も、秋になって新芽がどんどん根っこからも細い茎からも出始めたので、大丈夫そうです。

で、このシティオブヨーク(ヨーク家の白薔薇、リチャード三世の薔薇ですね。そういえば、ハウスオブランカスターという赤薔薇もあってもいいはずだけど)は、もう「はびこる」という動詞がふさわしいくらい蔓を何本も伸ばしています。
もうカラタチにも巻き付け、壁一面にくるくると模様を描いてくれています。
この蔓の性質は、本当に眠り姫のいばらのお城を連想させます。

春先同様、秋の花が楽しみです。

声を職業とする人たちへ 「息」について

2011-12-12 22:52:12 | 声の使いかたって?
声を職業にする人はたくさんいます。

俳優
歌手
弁護士
政治家
教師
経営者

私は皆さんに「呼吸法」について教えてください、とか、「声の出し方について教えてください」と乞われます。
私は歌は専門ではありませんので、この場合、「喋る」ときの息と声の使いかたを皆さんは知りたいのだと思います。

今日は、「声」よりもひとつ前の段階の「息」について考えてみましょう。

英語では名詞の「息」は breath、これに e がついて動詞の breathe になります。
そして、呼吸を考えるとき、彼らはつぎのように言います。

breathe in
breathe out

つまり、「息」が in か out か。
「息をする」という行動を内側へ入れるか、外側へ出すか、という単純なものとして捉えています。

一方、日本語では基本的に二つの言い方があります。いずれも名詞に「する」をつけて動詞として使います。
1「呼吸をする」
2「息をする」

1「呼吸をする」という動作において、これは息のアウト・インがワンセットに捉えられています。
アウトは「呼」。けれど動詞にすると、「呼ぶ」とい別の意味になってしまいますから、使えません。
インは「吸」。動詞にすると「吸う」。
この単語のすばらしいのは、アウトが先にあって、インは次だ、という点です。

2「息をする」という動作もアウト・インで捉え直してみましょう。
アウトは「息を吐く」
「吐く」は、漢字を見ると、「口の中に土がいっぱい詰まって、気持が悪くて吐く」という意味のようですね。あまり良い印象ではありません。
インは「息を吸う」

けれど、「吸う」という単語にまつわる身体の動きはなんでしょう?
「ストローで吸う」の様に、入り口がとても狭いところから、勢い良く吸い上げるという肉体の動きを示すのが「吸う」なのです。

なんと、息を入れるには、まったくもって最悪なことばなのです!
息は、声を職業とする人の場合、一気に大量に自然に流れ込むのが良いのです。
しかし、「息を吸って」という指示の元、発声と呼吸法の練習をすると、本能的に狭い細いところから吸い上げてしまっているのです。
これでは声に乗せる表現力は非常に限られた聞き苦しい物になる上に、あっという間に喉を壊してしまいます。

息を「吸って」いる人は、ひとめでわかります。
息継ぎのときに肩が上に引き上げられるからです。
これは首と肩と胸の筋肉を必要以上に用いているためで、おまけに肺の構造から考えてもまったく無駄な動きです。
納豆を食べるのに菜箸を使ってがんばっているようなものなのです!

私が好む言い回しは、
「息を使う」
「息が入る」
の組み合わせです。

これは腹筋と横隔膜の関係を良く表しています。
通常の呼吸と異なる、まさに「声を出す」ための、息の仕方です。

息は「使う」と、自然に「入って」きます。
もっと正確に言うと「戻って」くるのです。
そして、「戻って」くるときに、じつは相手の台詞や反応が一緒にあなたの中に、戻ってくる息とともに「入って」くるのです。

A「これでいいですか?」
B「あまりよくないです」
A「じゃあ、あれでどうでしょう?」

たとえば上記の台詞で考えてみましょう。
Aは「これでいいですか?」と、息を「使いながら」言います。
そして、その使った息が自然に「戻って」くるときに、Bの台詞が一緒に「入って」きて、あなたの思考回路を「息と共に、息でもって刺激する」と、あなたからは次のチョイス「じゃあ、あれでどうでしょう?」ということばが息を使いながら発せられる、と言うわけです。

もしも、「吸う」という行為をしていたらどうなるでしょう?
あなたは、息を「吸い上げる」ことに精一杯で、相手の台詞なんか聞いている暇はなくなってしまいます。
実際、へたなせりふ、聞いていて疲れる台詞、なんだか息が合っていない場面、とってつけたような演技、あらかじめ準備されていた物をちゃんちゃかやってみせているだけの場面、本人が一所懸命なこと以外、登場人物のことは何も伝わって来ない演技、などをする全員に、一人残らず、この「息を吸い上げる」癖があることに気がつくでしょう。

息は、使ったら、戻る。

それに素直に任せることです。
まずは、息を「吸って吐く」というひどい、そして役に立たないどころか悪影響しか及ぼさない言い回しを捨て、ご自分の脳内辞書を書きかえてみてくださいね。