8月8日、宮崎県沖の日向灘を震源とする、最大震度6弱の地震が発生。直後に気象庁は、2019年の運用開始以降、初めてとなる「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表して、国民に注意を呼びかけた。結局、13日から14日正午までに、想定震源域で震度1以上の地震が観測されなかったこともあり、15日17時で、呼びかけは終了した。
国は、南海トラフの巨大地震が発生すると、東日本から西日本の広範囲で最大震度7の激しい揺れ、太平洋沿岸は10mを超える大津波に襲われ、死者は最大で32万人以上、経済被害も220兆円以上にのぼると想定している。
この臨時情報発表に「いよいよか」と身構えた国民も多かったのではないだろうか。
しかし、地震研究者の間では、今回の地震と南海トラフの関連は極めて低いとみられているのだという。 京都大学防災研究所の伊藤喜宏准教授はこう語る。 「臨時情報が出てから1週間、日向灘周辺ではスロー地震の活動が活発化したという情報はありましたが、これは大きい地震が起きたときによくあることです。そのほかは、とくに目立つ変化はありませんでした。じつは当初から、この地震と南海トラフ地震の関連は極めて低いか、あるいは限定的と考えていました」 さらに詳しい理由をこう続ける。 「地震研究者がまず注意しなければいけないのは、震源地が、南海トラフ大地震の想定震源域に含まれているかどうかです。今回の地震の震源地は、2013年に政府の中央防災会議で想定震源域が見直され、従来の想定地域が南西方向に広げられたことで、入った地域だったのです。 さらに、地震の規模もマグニチュード7.1ということで、日向灘沖で発生した地震としては大きいのですが、南海トラフ大地震として考えると、規模はそれほどでもありません。そのため、関連は極めて小さく、限定的と考えました」 大地震につながる可能性が低いとのことでひと安心だが、一方で国民生活には大きな影響があった。ホームセンターで、水や簡易トイレなど防災グッズの買い占めが起こったり、SNSなどでは旅行やイベントが相次いで中止になる「キャンセルラッシュ」というワードが拡散したりした。
和歌山県白浜町の旅館「むさし」の女将、沼田弘美さんは「宮崎地震があった8日の19時以降、お客様からの問い合わせが多くありました。9日だけで2000万円のマイナス、お盆だけでも5000万円のマイナスになりました」と嘆く。
10日には、白浜町で「2024南紀白浜花火フェスタ」が開催される予定だったが、観客の安心・安全を守るという観点から観光協会が中止の判断をした。しかし、白浜町の海水浴場は15日から再開されている。旅行者への安全対策も進んでいるようだ。 「南海トラフ地震の想定震源域に含まれている観光地の多くは、SNSなどを活用して、避難経路や避難場所の案内をしています。とくに高知市は、浸水予想地区、浸水予想時刻などの情報をペーパーやグーグルマップと連動したLINEなどで知らせています」(災害担当記者)
こうした観点を踏まえ、今回の「臨時情報発出」に意義はあったのだろうか。 「地震発生前に内閣府が決めた、事前のルール(プロトコル)に従い、その範囲内で出したものだと思います。つまり、2013年の見直し後の想定震源域内でマグニチュード7以上の地震が発生したと判断したため、発出したのです。この点については、とくに問題となる部分はありません。
しかし、それ以外で疑問点が2つあります。
ひとつは、臨時情報の内容の意味を、受け手(国民)に正確に伝えられていないということ。
もうひとつは、想定震源域を広げた際の科学的根拠が不明確なままで、その想定震源域を臨時情報の発出基準に含めていることです。つまり、今回は南海トラフ大地震にはつながらず、情報発出の必要がない地震だった可能性が高いのです」(伊藤准教授) そして気になるのは、「発生確率」。政府は「30年以内に70~80%」と発表しているが、名古屋大学地震火山研究センターの鷺谷威(たけし)教授は、そもそもこの「70~80%」について疑問を呈する。 「南海トラフ地震の予測に際し、国は過去の地震の発生履歴に基づいた『大きい地震が起きた後、次の地震までにやや時間がかかる一方、比較的小さい地震は次の地震まで短くなる』という考え方の『時間予測モデル』を採用しています。それ基づいて推計すると、70~80%という数字が導かれるのです。もしほかの地震と同様に、『単純平均モデル』という方法で計算すると、20~30%という試算もあります。 被災予想地域の住民の意識を高めたいという目的で、70~80%が選択されているのだと思います。ただ、別の試算もあるということを抜きにして『起きたらたいへんだから数字が大きいほうをとりあえず示そう』ということであれば、数字だけが独り歩きしてしまいます。そうすると、いたずらにパニックを引き起こしたり、南海トラフ以外の地震のリスクが見落とされたりする危険があります」 議論百出だが、南海トラフ地震が「起きるであろう」ことは衆目の一致するところだ。予知は可能なのだろうか。 「20年以内の発生確率はかなり高いと思います。今後、南海トラフ大地震の想定震源域内で前駆的と思われる地震が起こった場合、それがどのポイントで起きたかに注目すべきです。海底観測網などで、場所は確認できるはずですが、我々が持っている知見は、1944年の東南海地震と1946年の昭和南海地震のデータ、2例のみですから、地震による海底のひずみが確認されても、それが通常のひずみなのか、それとも南海トラフ大地震につながるひずみなのかどうかを判断するのは、とても難しいのです」(伊藤准教授) いまは南海トラフに注目が集まっているが、巨大地震は日本全国、どこでも起こり得ることを肝に銘じ、国民はその「いつか」に備えておくことが大切だ。
感想;
「2013年の見直し後の想定震源域内でマグニチュード7以上の地震が発生したと判断したため、発出したのです。この点については、とくに問題となる部分はありません。
情報とは、受け取った側がどう判断して動くかを考えて発出するものです。
もし、それが分からなければ発出しないことです。
また、リスクを過剰に煽らないことです。
過剰反応した側が悪いと言っているようでは、気象庁の責任者、政治家の責任者に問題があると思います。
かつ、これまでの基準と違う物差しを使って、従来だと20~30%の発生確率を70%~80%に高めているのです。
政府は過剰反応での被害総額をぜひ計算していただきたいです。