幸せに生きる(笑顔のレシピ) & ロゴセラピー 

幸せに生きるには幸せな考え方をすること 笑顔のレシピは自分が創ることだと思います。笑顔が周りを幸せにし自分も幸せに!

「町工場の娘」諏訪貴子著 ”小さな勇気を、後悔しないために”

2021-10-05 08:50:25 | 本の紹介
・「お父さまは急逝白血病を発症しました。余命はあと4日ほどと思います」
2004年4月、冷たい雨の降る夜。私は東京都新宿区の慶応義塾大学病院にいた。

・預金通帳がない。金庫が開かない。社印が見つからない。権利書もない・・・。
その都度、会社と病院を行ったり来たりしながら「あれはどこにあるの?」「この件は誰に聞けばいい?」と父に確認した。

・「会社は大丈夫だから!」
思わず、そう叫んだ。
父は私の目を見つめたままの姿勢で息を引き取った。64歳だった。
病院に緊急入院してわずか4日。

・ダイヤ精機は兄・秀樹の存在なしには誕生しなかった。
61年生まれの兄はわずか3歳で白血病を発症した。
高い治療費を捻出するため、サラリーマンだった父は、ゲージ工場を営む叔父から機械2台と職人3人を無償で提供してもらい、ダイヤ精機を創業した。つくれば売れる高度経済成長期のまっただ中、ものづくりはお金を稼ぐ手っ取り早い手段だった。

・発症当初「余命半年」と言われていた兄は、そこから3年生きることができた。だが、やはり病魔に打ち勝つことはできず、67年、6歳で他界する。

・その中で、父には次の目標となる思いが芽生えた。
「ダイヤ精機の後継者が欲しい」
兄は両親にとって第2子で、1歳上に第1子がいた。ただし、それは女の子。父は兄の生まれ変わりで、会社を継ぐ2代目となる男の子が欲しくなったのである。
そんな期待の中、71年に生まれたのが私だ。
「女か・・・」
電話口でがっかりして、そうつぶやいた父に、母はかける言葉が見つからなかったという。
落胆のあまり、母子の入院中、一度も顔を見に来ることもなく、退院の日も迎えにすら来なったという。それから、一風変わった「兄の生まれ変わり」として私の人生が始まった。
そのせいか、私は子供の頃から男の子が興味を持つようなおもちゃや遊びにばかり熱中した。
私には何も言わなかったが、父は次第に私をダイヤ精機の後継者として見るようになっていったようだ。

・高校でも理系に進む女子はクラスに数人、とりわけ工学部に進む女子は少なかった。
成蹊大学の工学部工業化学科を進学先に選んだ。
2代目には理系の「論理」を備えてほしいと考えたのではないかと思う。
結果論だが、工学部で身につけた論理的な思考法は、私の大きな財産であり、武器になっている。父の選択は間違っていなかった。

・見るに見かねた上司が「まじめで優秀な人間だよ」と1人の男性エンジニアを紹介してくれた。それが今の主人だ。すぐに付き合い始め、結婚が決まり、願い通り、入社2年後の97年に寿退社した。わずか2年間であったが、ユシアジェックスで本当に学ぶことが多かった。機械加工、生産管理、品質管理、設計など、製造業のイロハを広く学べるしごとぉ担当させてもらった。

・社会人になる時、もう1つ、父から言い渡されたことがあった。
「お客様からの誘いは絶対に断るな」
この掟も必死で守った。
飲み会、カラオケ、ゴルフ・・・。工機部唯一の女性ということで、私にはしばしば声がかかった。

・97年に結婚退職し、専業主婦になった。翌年、生まれた子どもは男の子。一番喜んだのが父だ。私が生まれた時には、退院するまで一度も顔を出さなかったという父が、真っ先に病院に駆けつけ、息子を抱っこした。
私の顔を見るなり一言。
「でかした!」
その時の父のうれしそうだったこと。
兄の代わりの男の子がどれほど欲しかったのかがうかがえた。

・多くの関係者の「意中の人」であった夫は後継者にはならなかった。では、誰か、この時点でも、私は自分が2代目社長になることは考えもしなかった。
次に、私は幹部社員3人を集めた。
夫が予定通り米国に赴任すると決めたことを伝え、「今いるダイヤ精機社員の中から、話し合って新社長を選んで欲しい」とお願いした。・・・
ところが、数日後、幹部社員たちが出した結論は驚くべきものだった。
「貴子さん、社長をやってください」
「全力で支えるからお願いします」
「本当に頼む、この通り」
幹部社員たちは私の前で頭を下げた。
「えっ? 私が社長」
全く想定していない事態に言葉も失ってしまった。

・背中を押してくれた弁護士
「社長になるのが怖い」と告げる私に、佐藤さんはこう尋ねた。
「失敗した時に摂られて困るような財産はあるの?」
「アルバイトで結婚披露宴の司会をやっていた時に貯めた貯金50万円ぐらいですかね」
「それなら怖いものなんてないじゃない。うまくいけばそれでいいし、失敗しても命まで取られることはないから、やるだけやってみたら? ダメだったら自己破産すればいいのよ」
「そうか・・・」
単純な私はシンプルで力強い言葉に結城づけられた。

・5人のリストラで月に200万円ほどの人件費を削減。それに加え、経費もとことん削減した。その結果、当面の経営難に対処することはできた、

・そのためには、何を置いても教育が必要だと考えた。最初に訴えたのが挨拶の徹底。

・製造業の基本である「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」も教え込んだ。
1か月後、会社に4トントラックを呼び、テープが張ってある不用なものを積み込んだ。荷台は不用品でみるみるいっぱいになった。
こうして不用品を処分してみると、雑然としていた階段、廊下、工場がとてもすっきりした。

・ホウレンソウ(報告・連絡・相談)のあり方
・品質・コスト管理

・PDCAの考え方
 ・「QC(品質管理)サークル」を設けた。
 ・「若手の会」(10~20代)、「中堅の会」(30~40代)、「職人の会」(50代以上)
  「若手の会」から「何を話したらいいかわからない」という声が出てきた。
  そこで「『ちょっとここがやりにくい』とか、『これが使いにくい』とか、会社に対する悪口でも何でも言っていいよ
」と伝えた。ただし、悪口を言う相手は私と会社のみ、人間関係にヒビが入りかねない同僚への悪口はNGだ。

・「かがむので腰が痛い」という意見に、製品を研磨する時、立って腰をかがめながら磨くスタイルだったことから出てきたもの。
早速、私は「なぜ立ったまま研磨しているの?」とベテラン社員に理由を聞いてみた、答えは「昔からそうだったから」。
特別な理由はなく、単なる慣習だったのだ。
そこでベテラン社員にいすを用意し、座って研磨してもらったところ、「これは楽でいい」と非常に評判が良かった。
こうして「悪口」から1つの舵縁が生まれた。
私は社員から提案が出て、それを実現するのがとてもうれしかった。
重要なのは社員が積極的に提案すること。
自分が提案した改善案が実現すれば、モチベーションが上がり、さらなる改善のタネを探し、気付き、実行するようになる。
こうした活動を繰り返す中で、社員の「ムダをなくそう」「効率を上げよう」という意識は日に日に高まり、一体感を持って改善を勧められようになった。小さな改善が一つひとつの積み重なるたびに「会社が良くなっていく」ことを実感できた。

・社長に就任してからの2~3年は、できるだけ作業着を着て工場に入り、社員と一緒の時間を過ごすことを心がけた。
「社長との会話」が日常的になってくると、みんな構えることなく接してくれるようになった。

・社長に就任したのが2004年5月。断腸の思いで5人のリストラを決行したのが6月。そして、ありがたいことに、その直後に“神風”が吹いた。2004年7月から、急激にゲージや治工具の需要が膨らみ始めたのである。

・心が折れそうだった私を救ったのは、その頃、読んだ本の中で出合ったシェークスピアの言葉だ。
「世の中には幸も不幸もない。考え方次第だ」
この1節を見た瞬間、霧が晴れたような気分になった。
何事も考えようで、世の中には「絶対に悪いこと」もなければ、「絶対に良いこと」もないと気付いたのである。

・社長就任から1年ぐらい経った時のことだろうか、何かの拍子に社員に謝ったことがある。
「社長が女でごめんね。頼りないよね」
すると、その社員は笑って言った。
「いや、社長はたまたま女だっただけですよね。社長は社長。男より男っぽいじゃないですか」
その一言に救われた。私1人が性別にとらわれすぎていたのだと感じた。

・1年目に意識改革で会社の土台を整えることができた。2年目のテーマは「チャレンジ」とした。まず手をつけたのは生産設備の購入。バブル崩壊後、業績が悪化したダイヤ精機は長年、機械の更新ができていなかった。

・機械を買いたいのに買えない。想定外の事態に困り果てた。
機械メーカーが出展する展示会にも足を運んでみた。会場を歩き回り、片っ端からブースをのぞいていったが、私が客とは思えなかったのだろう。誰も相手にしてくれなかった。
「この会場で最初に声をかけてくれたメーカーから買う」
そう心に決め、歩き続けていると、とあるブースで、待ちに待った一声がかかった。
「ご説明しましょうか?」
森精機製作所の営業マンだった。
実は、ダイヤ精機がNC研磨機を導入したのはその時が初めてだった。
簡単な研磨なら熟練工の手を煩わせるまでもなく、機械に任せてしまえばいい。
そう考えて思い切って導入してみると、当初は渋い顔をしていたベテラン社員が「正解でしたね」と言ってきた。単純作業に煩わされることがなくなり、より難しい仕事に集中できるようになって、作業効率が向上したのあ。

・私は汎用機の使い方を覚えてからNC機を扱うという従来の教育方法は、慣習と前例以外、合理的な理由はないと思った。
そこで、私はルールを変えた。若手社員にはNC研磨機を先に扱わせて、並行して汎用機の使い方を教えることにしたのだ。
固定観念にとらわれずに「なぜ」を追求し、合理的に物事を判断することで、より良い道を切り開くことができたと思う。

・機械導入に続いて取り組んだのが生産管理システムの構築だった。

・SWOT分析を始めた。
Strength Weakness Opportunities Threats
時間をかけて分析した結果、私は大と精機の強みは技術力にあると導き出した。
このSWOT分析を取引先で監査役を務めていた方に見ていただく機会があった。
「これはダイヤ精機の社長であるあなたの目線でしょう。お客様の目線で分析していないのではないですか」
取引先のメーカーに行き、担当者に尋ねた。
「どうして、うちの会社に注文を出してくれるのですか?」
「品質が高く、コストが適正というのは、もう当たり前の時代です。では、どうしてうちの会社がダイヤ精機に注文を出しているか、対応力ですよ。急な依頼にも応えてくれる。欲しいとと思った時に持ってきてくれる。足繫く通って課題を一緒に解決しようとしてくれる。だから、頼んでいるのです」
私にはとても意外な言葉だった。「えっ、そこなの?」と思った。
では、どうすれば対応力をたかめることができるのだろうか。
対応力を高めるために必要なのは、この多品種少量生産を徹底管理することだと考えて。
選んだのがテクノ社の「THCHS-BK」だ。

・IT武装で収益力もアップ
特級対応件数は月10件から20件に増えた。

・私が実践してきたのは、「物事には原理に基づいた原則があり、そして基本がある。基本があるからこそ応用ができる」という考え方だ。

・向こう傷は問わない
1)「失敗を恐れず、新しいことに挑戦しなさい」
2)「これだけは絶対に誰にも負けないというものを持ちなさい」

・新人社員との交換日記、チャレンジシート、QC発表会といった育成プログラム

・ただの倉庫だった矢口工場の2階は、今や月井20~30万円を売り上げる収益源となっている。
苦しい時に社員と一緒に壁を塗り替えたのも、今となってはいい思い出だ。

・良い仕事をするには、素直さ、コミュニケーション能力、向上心などの「ヒューマンスキル」こそが大切だということだ。

・今、ゲージ事業は売上高全体の6割を占めるまでに成長している。
(ゲージ部門はミスがあるとそれで生産された不良品も負担するので、リスクが高く、かって撤退するかどうか迷ったがゲージは残すことにした)

・「やる」か「やらない」かを迫れた時の答えは、すべて「やる」と決めているからだ。
悩まないが、代わりに「迷う」。どれをやるかで「迷う」のだ。

・麻生首相が退室しようとドアの方に向かっていく。
「このまま何も言わずに帰ったら絶対後悔する」
そう思った私は勇気を振り絞って立ち上がった。
「麻生首相、直訴させてください!」
叫んだ瞬間、自分が取った行動に自分で驚いた。
もっと驚いたのは麻生首相のSPだ。何事かと慌てて私の方に駆け寄り、後ろから腕をつかんで制止した。
部屋を退出しかかっていた麻生首相は、呼びかけに気づいて足を止め、私の方に近づいてきてくれた。
SPに腕を抑えられながら、私は伝えたいと思っていたことを口にした。
「雇用調整助成金のことでお願いしたいことがあります。対象企業の要件ですが・・・売上高や生産量の減少の基準年が前年同期で・・・そのままでは対象にならない企業がおおいのです」
しどろもどろになりながら必死で説明した。
首相に随行していた経済産業省の官僚が私の訴えの意図をくみ取り、「彼女が言っているのはこういうこどです」と“通訳”してくれた。
すぐに内容を理解してくれた麻生首相は「よし、わかった、わかった、それはかならず見直しさせるから。約束する」と言って帰って行った。・・・
経産省の担当者からは「諏訪さんの直訴が通りました」と連絡があった。「勇気を出して言って良かった」と心から思った。
私の人生はこれを機に大きく変わった。
「首相に臆さずものを言う女性」
霞が関ではそんな評判が広まったらしい。2011年、経済産業書から声がかかり、産業構造審議会の委員になった。(それもあり)2012年「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞のきっかけにもなった。
2013年からは政府税制調査会の特別委員も務めている。
講演会の質疑応答の時間、質問者がなく静まり返っているとき、このエピソードを話すと、手を挙げる人が何人も出てくる。
そう、大事なのは、どんな場においても、悔いのないよう「小さな結城」を持って行動することだ、自分を変え、人生を変えるチャンスは至る所に転がっている。

感想
突然の災難というか、過酷な選択が人生の方から問いかけてきました。
そして逃げることをせず、それに真摯に一つひとつ対応されたようです。
そこには、一人ですべてをやらなければならないというのではなく、皆の力を活用されたようです。
5人リストラしたら、職場の雰囲気が変わったそうです。
でもそうしないと乗り切れなかったそうです。
仕事がなくなったとき、社員を他の会社に出向させて人件費削減も取り組みました。
その出向にも社員は協力してくれたそうです。
そしてその出向の体験がプラスにもなったそうです。

人生から過酷な問いかけが来ます。
それにどう応えていくか。
過酷であればあるほど、それに応えた結果は大きいものなのでしょう。
でも大変ですが。

NHKでドラマ化されていました。
https://www6.nhk.or.jp/drama/pastprog/detail.html?i=4588

コロナ「冬の第6波」は確実:「飛沫」より遥かに危険な「空気感染」を無視する厚労省 "岸田首相は厚労省を指導できるか?”

2021-10-05 08:24:24 | 新型コロナウイルス
https://www.fsight.jp/articles/-/48302 執筆者:上昌広 2021年10月1日

換気を妨げる飲食店のパーティションはむしろ危険という指摘も
新型コロナ対策として、人流抑制や「三密回避」の効果が限定的であることは、もはや明白になっている。その事実を受け入れず、頑なに方向転換を拒んでいる政府・専門家の罪は余りにも重いと言うべきだ。「空気感染」に無策のまま、病床確保と経済活動の再開という喫緊の課題も放置して、日本は「第6波」を迎えるのか。
 新型コロナウイルス(以下、コロナ)の第5波が収束した。9月28日、政府は緊急事態宣言とまん延防止等重点措置を9月末で解除することを決めた。では、コロナの流行は、これで終わりだろうか。そんなことはない。私は第6波の襲来は確実と考えている。本稿では、来るべき第6波対策について論じたい。

 まずは、第6波がやってくると、私が主張する理由だ。それは、コロナの流行には季節性があるからだ。図1は2020年と21年の感染者数の推移を示したものだ。2020年の感染者数は10倍している。いずれの年も春は3月末、夏は6月末から感染が拡大している。春のピークは4週間、夏のピークは2週間、2021年の方が遅いが、これは感染力が強いアルファ株、デルタ株が流行したためだろう。

図1
 実は、この状況は日本に限った話ではない。日本と韓国の状況を図2に示す。ピークの感染者数こそ違うが、流行状況は酷似する。本稿では詳述しないが、主要先進7カ国(G7)でも流行状況は似ている。コロナの流行は世界で同期している。世界各国の人流、ワクチン接種率、規制の強度には違いがあり、共通するのは季節の変化だけだ。日本ではあまり議論されることはないが、世界中の研究者がコロナ流行の季節性に関心を寄せている。米国立医学図書館データベース(PubMed)で、「seasonality」という単語をタイトルに含むコロナ関連の論文を検索すると、34報がヒットする。今年に入り、増加している。

図2
 コロナの流行に季節性があるのなら、次の流行を予想することも可能だ。昨年は10月末から感染者が増加し、ピークの1月11日まで増え続けた。そして、ピークの感染者の数は、昨夏の約5倍だ。今冬、デルタ株の大型の流行が起こると考えて準備を進めた方がいい。10月末から感染が拡大するなら、残された時間は長くない。

「コロナ補助金」貯め込んだだけのJCHO
 では、まずは何をすべきか。第5波の経験に基づき、具体的に対応すべきだ。第5波で問題となったのは、入院病床の不足だ。ワクチン接種が進み、重症患者は減ったものの、中等症患者を収容できる病院が準備できなかった。

 世間では野戦病院の設置を求める声が強いが、その前にできることがある。それは、公衆衛生危機への対応が法的に義務付けられている厚生労働省傘下の地域医療機能推進機構(JCHO)や国立病院機構(国病)の患者受入を増やすことだ。このような施設の機能不全は、『コロナ「入院待機患者」が見捨てられる本当の理由』(フォーサイト、9月2日)でもご紹介した。

 例えば、JCHOの場合、第5波真っ最中の8月6日現在、東京で運営する5病院の総病床数1532床のうち、コロナ患者用に確保されていたのは158床(10.3%)で、実際の受入数は111人だった。確保病床の70%、総病床の7.2%に過ぎない。

 JCHOにカネがない訳ではない。JCHOが公開する財務諸表によれば、2020年度、JCHOが受け取った補助金の総額は324億円で、前年度から311億円増だ。このうち、コロナ名目は235億円である。

 JCHOの問題は、このカネが診療に活用されていないことだ。都内にはJCHOが経営する病院が5つある。この5つの病院は、2019年度と比較し、20年度には当期純利益を18.1億円増やした。これは本部から補助金が投じられた訳ではない。診療業務収益が4.8億円増え、残りはコストカットによるものだ。経常費用は11.1億円、このうち人件費(診療給与)も1.1億円減少している。コロナ診療は手間がかかる。より多くの医師・看護師が必要となるが、JCHO傘下の病院は、人件費を減らしてまで黒字化することに懸命だったようだ。

 では、補助金はどうなったのだろうか。収益として内部留保されている。2020年度のJCHO全体での純利益は201億円で、前年度の32億円から169億円も増加している。前年度から有価証券を130億円買い増している。

 多くの国民は、自らが負担した税金が、このような使われ方をしているとは夢にも思っていないだろう。これはJCHOのガバナンスの問題だ。JCHOの理事長は、コロナ感染症対策分科会の会長を務める、元医系技官の尾身茂氏だし、常勤の理事4名中2人は厚労省のキャリア官僚の現役出向だ。次期政権で厚労大臣に就任する人物は、JCHOなど独法のガバナンスを改革しなければならない。それが、第6波での病床確保の特効薬だ。

「入院病床確保」を前提に「経済再開」へ繋げ
 病床確保に次いでやるべきは、不要な規制の撤廃だ。世界中でコロナ研究が進み、コロナへの対応の仕方も大きく変わった。8月12日、コロナ感染症対策分科会は、第5波を抑制するため、2週間限定で人流を5割減らす強硬な措置を政府に対して求めたが、第5波でこんなことを言っている先進国はない。そもそも、日本以外のG7諸国は緊急事態宣言のような強硬な措置を発していない。8月12日の時点でのコロナによる死者(7日間平均)が、G7でもっとも少ない(図3)ことを考慮すれば、日本の対応は異様だ。

図3
 なぜ、こんなことになるのだろうか。それは、海外は、感染者でなく、死者数を減らすことを優先しているからだ。日本の感染者数は、確かに多い。8月12日時点でG7で4番目だ(図4)。日本は感染者数を減らすことを最優先するため、強硬な手段が必要になる。

図4
 なぜ、世界は感染者数を重視しなくなったのか。それは、ワクチン接種が進み、コロナに罹っても、多くが治癒するようになったからだ。日本では、ワクチン接種者の「ブレイクスルー感染」が強調される。確かに、7月22日、イスラエル政府は、デルタ株流行下でのワクチンの感染予防効果は39%まで低下することを発表し、世界に衝撃を与えた。その後、シンガポールからも同様の報告が発表され、8月16日には、米『サイエンス』誌が、イスラエルの夏場の流行では感染者の半数以上がワクチン接種者であることを紹介した。

 ただ、ワクチン接種者のブレイクスルー感染は、多くの場合、無症状か軽症で済む。イスラエル政府の報告によれば、重症化の予防効果は91%だ。9月10日、米疾病対策センター(CDC)も、ワクチン接種により死亡率は11分の1まで低下するという研究結果を発表しているし、日本でも感染者の死亡率(Case Fatality Rate)は、第4波のピークの2.46%から第5波では0.58%まで低下している。

 7月28日、イスラエルの医師たちが、米『ニューイングランド医学誌』に発表した研究によれば、ワクチン接種後は、コロナ後遺症の頻度は19%とされている。8月28日には、中国の武漢の医師たちが、コロナ感染者の68%が発症後6カ月の時点で、何らかの症状を有していると英『ランセット』誌に報告しているから、ワクチンにより後遺症のリスクも大幅に減ることになる。

 ワクチンを打てば、コロナに罹ることがあっても、重症化しない。これが、現在の世界のコンセンサスだ。それなら、柔軟に対応を変えねばならない。

 まずは、ワクチンを打っても感染するなら、集団免疫に過大な期待はできない。ワクチン接種の目的は、あくまでも個人の感染防御となる。だからこそ、世界各地でワクチンの義務化の議論が進んでいる。米国では政府機関や企業だけでなく、600以上の大学が、対面授業への参加条件としてワクチン接種を義務付けており、米『サイエンス』誌は、7月23日に「大学再開にはワクチン接種の義務化が必須」という社説を掲載している。

 ワクチンを打っておけば、コロナに罹っても助かるなら、経済活動は再開しやすくなる。求められる判断は、「命か経済活動か」の選択でなく、「感染か経済活動か」になるからだ。判断は社会の価値観次第だ。

 フランスは、6月から外国人観光客の受入を再開し、7月中旬には、参加者のワクチン接種か検査陰性の証明を条件に、イベントや集会の定員規制などが撤廃された。エッフェル塔も運営を再開した。この時のワクチン接種完了者は全体の約4割だ。フランスでは高齢者から接種を始めているから、感染した際に重症化しやすい高齢者への接種を終えた時点で、経済活動を再開したことになる。

 米国も同様だ。米国は州ごとに状況は違うが、ニューヨーク州の場合、6月15日に集会や人数制限、社会的距離の確保、清掃・消毒などの規制が緩和された。8月3日、ニューヨーク市は、レストランやバーなど屋内施設を利用する場合、顧客や従業員に対してワクチン接種証明を義務付けると発表したが、これは、ワクチンさえ打っていれば、飲食店は営業できることを意味する。米国のワクチン接種完了率は5月30日に40%を突破している。ワクチン接種の優先順位は州により異なるが、ニューヨーク州は高齢者を優先している。高齢者への接種が進んだ段階で、経済活動を再開したことになる。

 では、日本はどうか。9月26日現在のワクチン接種完了率は58%で、既に米国を超えている。高齢者への接種は完了しており、欧米の価値観なら、既に経済活動を再開している。ところが、日本は9月末まで緊急事態宣言を続けた。なぜ、日本だけが、異なった判断をしたのか。果たして、十分な情報を国民と共有した上で、経済を犠牲にして、規制を続けることを選択したのだろうか。私は疑問である。

 私は、入院病床を確保した上で、できる限り早期に経済を完全に再開すべきと考えている。季節性変動を考えれば、9~10月には、多少人流が増えようが、感染が拡大する可能性は低い。図5は、お正月・お盆・ゴールデンウィーク・夏休み明けなどの人流増加の時期に、東京都内の感染者がどう推移したかを示した図だ。人流増は感染拡大とは関係なさそうだ。

図5
 8月12日、コロナ感染症対策分科会は、第5波を抑制するため、2週間限定で人流を5割減らす強硬な措置を政府に対して求め、さらに、政府は8月25日に8道県に緊急事態宣言を発令した。ところが、この日は第5波の流行のピークで、その後、急速に収束している。政府や専門家の予想は外れた。彼らは、次の提言をする前に、自分たちの議論が誤った原因について議論し、人流抑制のあり方を抜本的に見直すべきだ。

過小評価されてきた「空気感染」のリスク
 現在、世界の先進国で、人流抑制という、経済的なダメージが強い「劇薬」でコロナを抑制しようとしている国はない。科学的に合理的な対応をしている。

 第6波対策で重視すべきは空気感染対策だ。実は、最近の研究では、コロナ感染の大部分は空気感染によるもので、唾液などを介した飛沫感染の役割は小さいことが分かっている。有効な対策は換気であり、我が国で推奨されている「三密回避」の効果は高くなく、飲食店のパーティションに至っては、換気を妨げるため、危険という指摘すら存在する。このあたりに興味のある方は、米『サイエンス』誌が8月27日号に掲載した「呼吸器ウイルスの空気感染」という総説をお奨めする。権威ある『サイエンス』が「総説」で主張することは、米科学界のコンセンサスと言っていい。

 この総説によれば、エアロゾルの大きさは5マイクロメートル以下(多くは1マイクロメートル以下/1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)で、咳や会話だけでなく、普通の呼吸を通じて排出される。このような小さなエアロゾルは、一旦、放出されると空中を長時間にわたり浮遊し、閉鎖空間であれば、徐々に室内に蓄積する。

 一方、唾液や咳を介して放出される飛沫の大きさは数百マイクロメートルもあり、放出されても、20センチ程度以内で地面に落下する。こうなると、もはや感染しない。これまで、コロナは飛沫により感染すると考えられており、6フィート(約1.8 メートル)の社会的距離を保つことが推奨された。ところが、エアロゾルによる空気感染は、社会的な距離をとっても抑制できない。

 さらに、サイズが大きい飛沫は上気道に沈着するのに対し、エアロゾルは肺胞の奥まで到達する。コロナは肺胞で増殖するため、肺炎を生じやすくなる。逆に、肺胞から放出されるエアロゾルは、口腔内や上気道から放出される飛沫と比べ、多くのウイルス粒子を含有する。飛沫よりエアロゾルの方が遙かに感染力が強い。その対策は喫緊の課題である。

 このような事実は、今回のコロナ流行で明らかになったことだ。この総説では「空気感染はこれまで過小評価されてきた」と断じている。8月18日、38人の日本の研究者が「最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明」を発表し、空気感染対策を重視するように訴えたのは、このような背景があるからだ。

 このような事実を知れば、飲食店の営業を規制することは、ほとんど意味がないことがわかる。屋内空間であれば、飲食店も会社・学校・交通機関も感染リスクは変わらない。日本政府が飲食店を特別視したのは、大声で話し、飛沫が飛ぶからだが、そのリスクは既に科学的に否定されている。「三密」対策の是非も含め、最新の研究をベースにコロナ対策を見直さねばならない。

 ところが、厚労省や専門家は、いまだに方向転換していない。緊急事態宣言解除後も、飲食店の時短継続を1カ月を目途に求め続けるという。これは科学的に非合理的な対応だ。こんなことを続けていれば、今冬も日本は大混乱に陥る。

 次期政権では、厚労大臣以下、人事を一新し、ゼロベースで合理的にコロナ対策を見直すべきである。

[お詫びと訂正]本記事配信時に単位換算の誤りがありました。「1マイクロメートルは1ミリメートルの100万分の1」を「1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1」に訂正致します。当該箇所は編集部が補足として挿入しました。不正確な情報となりましたことをお詫び申し上げます。(10月2日 8:40a.m. フォーサイト編集部)

感想
ほとんど何も対策を打たなかった、打てなかった菅前首相と違って、岸田首相は適切な対策を打つことができるでしょうか?
感染者が減っている今がちゃんすなのですが。