「ロイヤル・アカデミー展 華麗なる英国美術の殿堂」
[英題:Genius and Ambition: The Royal Academy of Arts, London 1768-1918]
石川県立美術館
2014年8月1日~31日
《巡回:東京富士美術館(2014年9月17日~11月24日)》
イギリスは長らくヨーロッパにおける「美術後進国」であった。
伝統的な肖像画の数々を措いては諸外国に誇れる美術品は決して多くなく(肖像画だけを集めた珍しい美術館「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」があるほど)、ルネサンスからバロック、ロココへと移行していった当時の大陸における美術のメインストリートからは取り残され、国内美術は一種のガラパゴス的様相を呈していた。
「後進国」としての危機感が日に日に募るイギリス。
ようやく美術アカデミーが誕生するのは1768年、イタリアに遅れること200年、フランスに遅れること100年のことであった。
創立当初のアカデミーはパル・マルに置かれていた。
しかし収蔵作品の増加とともに移転を余儀なくされ、1771年にはサマセット・ハウスに居を移し、1837年には当時トラファルガー広場に移されて間もなかったナショナル・ギャラリーに組み込まれる。
そして設立から100年後の1868年に現在のバーリントン・ハウスに移された。
時の国王ジョージ三世によって設立が認証されたこともあり、しばしば「王立美術院」と訳されるロイヤル・アカデミーであるが、運営はあくまで王室の財政支援からは独立した自治形態をとっている。
アカデミー設立の甲斐あって、18世紀後半から19世紀にかけては英国画家という緯糸が西洋美術史という経糸に織りあわされることが多くなってゆく。
ブレイクしかり、ターナーしかり、コンスタブルやゲインズバラしかり。
それまではヴァン・ダイクやホルバインなど、英国で活躍した画家といっても諸外国から招聘されたお抱え画家であった。
ほくそ笑む初代会長レノルズ。
しかし行き過ぎた保守的傾向は、19世紀半ばにラファエル前派という反逆児を生む。
ロセッティ、ミレイ、ハントらの描き出した美の世界に耽溺する者は現在でも少なくなく、《オフィーリア》や《プロセルピナ》がもはや英国絵画一般のアイコン化している現状は、ロイヤル・アカデミー発展の歴史を考えると皮肉でもある。
ともかくも、英国美術界に限れば、ロイヤル・アカデミーが長らくメインストリームであったことは動かしようのない事実であり、現在もなおイギリス国内において影響力のある美術機関として機能していることは特筆すべきである。
そして、ロイヤル・アカデミーの設立から第一次大戦終結ごろまでの作品を結集させたのが、今回の展覧会「ロイヤル・アカデミー展 華麗なる英国美術の殿堂」である。
全体としては、質量ともにバランスのとれた内容だったように思う。
では、いくつかの出展作品をみていこう。
会場内の説明にも図版にも、描かれている人物や作品群の詳細な解説はなされていなかったが、こちらのロイヤル・アカデミーのサイトでは多少詳しく解説されている。
1番の人物がベンジャミン・ウェスト。
レノルズに続くロイヤル・アカデミーの第二代会長である。
そして13番の《ラオコーン群像》を挟む形で対置されている《ベルヴェデーレのアポロン》(14番)と《ベルヴェデーレのトルソ》(12番)。
むろんどちらも複製だろうが、古典主義的な均整のとれた〈完全〉な美を体現する《ベルヴェデーレのアポロン》が、ロマン主義的な〈断片〉の意識を内に孕んだ《ベルヴェデーレのトルソ》と向かい合う配置は興味深い。
多分に印象派の影響を受けて描かれた一作。
モネの《印象-日の出》は1874年。
一方は〈夕方〉、他方は〈明け方〉の太陽がぽつんと描かれている。
クラウセンの女性像は、そうすると、のちにモネが描いた《日傘の女》と重なるようにも思える。
しかしこうした雑感はそれこそ「印象批評」であって、根拠もなければ話が広がっていきそうにもないのでこのあたりでやめにしておこう。
それよりも私が問題にしたいのは、この絵画のタイトルである。
展覧会場のキャプションには《とうもろこし畑に立つピンクのドレスの女》とあった。
たしかに原題には"Cornfield"とある。
しかしweblioの辞書にもあるように、イギリス英語で"cornfield"という場合には、たいてい「小麦畑」を指す。
絵をみても、「とうもろこし畑」というよりは「小麦畑」の方が自然なように思えるが、どうなのだろうか。
この絵をみて真っ先に連想したのがベラスケスの名画《鏡のヴィーナス》。
それこそベラスケスの裸婦を「鏡」で反転させると、ストザードの裸体像にかなり近づくように思われる。
背景の赤色がとくに直感に訴えかける。
(なお、このベラスケスの絵画は19世紀初頭に英国人が購入し、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されている。)
本展覧会の目玉のひとつミレイの《ベラスケスの想い出》もそうだが、18-19世紀のイギリスのアカデミーにおいては〈美の規範〉としてのベラスケスの影響力が少なくなかったように推察される。
それはフランスのアカデミーにおいても同じで、とくにマネはベラスケスからの影響が色濃い。
では最後に、レノルズの絵画と引用をひとつ載せておこう。
"Nature is, and must be the fountain which alone is inexhaustible; and from which all excellencies must originally flow." (Discourse)
[追記]
ディプロマ・ワーク (Diploma Works):
Diploma Works are works of art presented by artists upon their election as Member of the Royal Academy. This significant collection of works dates from the 18th century to the present day and includes paintings by Fuseli, Turner, Constable, Raeburn, Millais, Sargent, Spencer and Hockney; sculptures by Flaxman, Gibson, Thorneycroft, Paolozzi, Frink and Flanagan; and architectural drawings by Soane, Barry, Scott, Waterhouse, Lutyens, Rogers and St. John Wilson. Highlights from the collection can be seen on free tours of the John Madejski Fine Rooms. (RA) [cf. Wikipedia "Reception piece"]
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