leonardo24

西洋美術関連ブログ 思索の断片
―Thoughts, Chiefly Vague

ルーヴル美術館展 日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄 (II)

2015-02-27 09:24:39 | 美術展

ルーヴル美術館展 日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄
[仏題:Musée du Louvre. Peinture de genre. Scènes de la vie quotidienne
国立新美術館
2015年2月21日~6月1日

以前に投稿したルーヴル展の感想の続き。
気になった作品についてのコメント。

● ピーテル・ブリューゲル1世 《物乞いたち》 【26】


画面中央の5人の人物の着ている服装から、それぞれが、王や司教、農民らをあらわすものと捉える「解説」。
それはそれで面白い。

ただ、ルーヴル美術館の公式HPの解説にもあるように、「この作品に対する解釈は数々の仮定を引き起こして」いるが、「実際のところ、これらの納得のいく仮定のどれもが未だに証明されていない」のが現状である。

ブリューゲルの作品というのは、いっけん、諷刺的な読みを促すようでありながら、同時に、そうした一面的な読みを「かわす」ものが多いように思う。
なかなか、断定的なことが言えない画家なのだ。

なにを言っても、画面右奥の物乞いの女性のように、するするっと逃げていく感じがある。
しかし、そこが、この画家の魅力でもある。

● ニコラ・レニエ 《女占い師》 【34】


あきらかなカラヴァッジェスキ(カラヴァッジョ派)。
画面の左から2人目、こちらを向いているのはおそらく画家本人だろう。

この「占い師」という主題、バロックの時代には比較的、人気があったようだ。
カラヴァッジョも描いているし(参考)、ラ・トゥールも描いている(参考)。
おそらく、明暗の入り混じる主題が、バロック的な感性とよく調合したのだと思われる。

● ヨハネス・フェルメール 《天文学者》 【38】


今回の展覧会の目玉のひとつ。
よく来たもんだ。
(ちなみに、数年前には《地理学者》が来た。)

《地理学者》とは異なり、《天文学者》の顔は、完全に「あちら側」を向いている
「こちら側」にはまったく意識が向いていない。

地球儀に触れるその指先。

一瞬の緊張感。

息をのんで、知の探究に没頭している。

会場で配布されていた名探偵コナンによる「ジュニアガイド」では、「モデルが少しぼんやり描かれている」ことが指摘されている。
おそらく、画家が使っていた(とされる)カメラ・オブスクーラと何か関係があるのだろう。

● ルーベンス 《満月、鳥刺しのいる夜の風景》 【55】

(展覧会に来ていたのは、たしか、これだったと思う。なにせ行ってから少し日が経っているので、記憶がややあいまい)。

最初にみたとき、「ターナー・・・?」と勘違いした。
漱石だったら「ターナーの画にありそうですね」と言いそうな木が生えているが、これはじつはルーベンスの作品。

で、ここからはまだあまり調べられていないのだが、どうやら、ルーベンスとターナーというのは、(むろん、生きた時代こそ違えど、)少し関わりがあるらしい。
昨年にブリュッセルで行われたルーベンス展では、当初ルーベンスを非難していたターナーが、しだいに"Rubenist"になっていったことが検証されたようだ(参考)。

なかなか面白い。

● ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 《鏡の前の女》 【63】


解説が面白かった。

当時、詩や彫刻、絵画などの芸術活動のなかで、どの分野がもっとも優れているのかという論争があったらしい。
(そういえばダ・ヴィンチも手記のなかで絵画と彫刻の違いについて書いていたな・・・。もっとも、彼のばあいはミケランジェロが頭にあったのだろうが。)

彫刻と比べ、絵画は、基本的には、「一方向」からの眺めしか描けない(異時同図という手法はあるが)。
その固定観念を打ち破る意識で描かれたのが、ティツィアーノのこの作品、という見解。
―鏡を使えば、問題は解決するではないか!

この文脈を念頭においてふたたび絵をみてみると、なんとも女性の表情がふてぶてしく見えてくる。
奥の男が女性の後ろ姿を見せびらかしているのは、もしかしたら、当時の彫刻家に対してなのかもしれない。

余談だが、こうした論争は17世紀(もっといえば18世紀のレッシング[『ラオコーン』])の時代にもあり、彫刻は物語の「流れ」をあらわせないという批判に対して、ベルニーニが立ち上がった。
彼の制作した《アポロンとダフネ》は、観る方向によって「物語」が変わってゆくという斬新なものであった。

こうして、それぞれの分野がしのぎを削ることで、芸術としての完成度も高まっていったのですなぁ。

―――――

全体的に、会場内の解説がよかったように思う。
基本は踏まえたうえで、多少、突っ込むところもある感じ。

「風俗画」というとあまりパッとイメージしにくい来場客も多いかもしれないが、フェルメールしかり、ムリーリョ(《物乞いの少年(蚤をとる少年)》)しかり、グルーズ(《割れた水瓶》)しかり、有名どころもたくさん来ていたので、ひとりひとり、いろんな楽しみ方ができるのではないだろうか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿