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西洋美術関連ブログ 思索の断片
―Thoughts, Chiefly Vague

「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」 (2008)

2014-08-31 21:53:45 | 映画

ようこそ、アムステルダム国立美術館へ
[英題: 'The New Rijksmuseum']
監督 ウケ・ホーヘンダイク
出演 ロナルド・デ・レーウ ほか
2008
(IMDb)

貿易業を中心とした経済活動の発展により空前の繁栄を現出した17世紀のオランダ。
未曾有の経済成長は市民の台頭を促し、彼らはそれまで王侯貴族による独占が続いていた絵画市場を席巻する。
結果的に質・量ともに絶頂を迎えた17世紀のオランダ絵画は、のちに「黄金期」と呼ばれることとなる。

オランダのアムステルダム国立美術館は、こうした「黄金期」の絵画の粋を集めた美の殿堂として、19世紀初頭に開館した。
そのコレクションのなかには、レンブラントの《夜警》やフェルメールの《牛乳を注ぐ女》、《青衣の女》なども含まれる。


レンブラント 《夜警


フェルメール 《牛乳を注ぐ女


フェルメール 《青衣の女

2004年に始まった美術館の大改装計画は、紛糾、妥協、衝突、責任者の辞任と、数々の紆余曲折があり、一向に埒が明かない。

踊れど進まぬ会議。
ようやく再び開館したのが昨年の4月。
着手から10年弱の月日が過ぎていた。

2008年に公開された映画「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」は、こうした紛乱の只中にある美術館改装現場の裏側を取材したドキュメンタリーである。
(映画公開時には美術館は閉館中だったため、「ようこそ」という邦題にはなかなか皮肉な響きがある)

こちらが予告編の映像。


アマゾンのレビューをみる限りは好意的な評価が多いようだが、個人的にはあまり面白さがよくわからなかった。
改装現場の裏側の映像はたしかに貴重だと思うものの、映されているのは実質的にグダグダな会議の模様だけであって、最後の方に至っては一線から退く館長の思い出ムービーのような趣さえある。
それが映画のなかで語られている「オランダ人らしさ」といわれればそれまでなのかもしれない。

ただ、エンディングに近いところの横たわる彫刻群の映像は、印象的でよかったと思う。
みようによってはコミカルにも映る。

ちなみにこの映画、今年の12月に日本で続編が公開される。
邦題は「みんなのアムステルダム国立美術館へ」。

2013年の再オープンまでの模様が収められているとのこと。
前作にあたる「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」よりは明るいトーンになっているのだろうか。
少し気になる。

*'Mr. Turner'と'Effie'、そして'Mr. Holmes'*

2014-08-30 21:03:38 | 番外編

Timothy Spall as Joseph Mallord William Turner

[T]he original make and frame of Turner's mind being not vulgar, but as nearly as possible a combination of the minds of Keats and Dante, joining capricious waywardness, and intense openness to every fine pleasure of sense, and hot defiance of formal precedent, with a quite infinite tenderness, generosity, and desire of justice and truth-this kind of mind did not become vulgar, but very tolerant of vulgarity, even fond of it in some forms; and on the outside, visibly infected by it, deeply enough; the curious result, in its combination of elements, being to most people wholly incomprehensible.
--- John Ruskin, Modern Painters

今年の秋に英国で公開予定となっている映画'Mr. Turner'。
英国を代表する稀代の画家の伝記映画は、ともすれば意外だが、本作が実質的に初めてである。

こちらが映画の予告編。


個人的には20代半ばに描かれた若き日の肖像画の引き締まった印象がどうしても強かったため、最初に予告編を観たときにはこのやや冴えない人物像に一瞬目を疑った。


Turner, 'Self-portrait'

参考までに、老齢のターナーを描いた作品を一点(こちらの方が映画のイメージに近いか)。


William Parrott, 'Turner on Varnishing Day'

ターナーのイメージというのは、日本においては印象派の先駆けという文脈で捉えられることが多く、なかなか画家人生の全体像まで目が行き届くことは少ない。

それはある意味本国イギリスでも同じである。
典型的なのがラスキンの「焼却事件」。

ターナーの死後、画家の遺品を整理していたラスキンは大量の裸婦像を見つけてしまう。
これが明るみに出たら「偉大なる風景画家」としてのターナー像が崩れてしまうと危惧したラスキンは、それらを焼却処分してしまったといわれる。

ラスキンは書簡でこう述べている。

I am satisfied that you [Ralph Nicholson Wornum] had no other course than to burn them, both for the sake of Turner's reputation (they having been assuredly drawn under a certain condition of insanity) and for your own peace. And I am glad to be able to bear witness to their destruction and I hereby declare that the parcel of them was undone by me, and all the obscene drawings it contained burnt in my presence in the month of December 1858.

ターナーの〈虚像〉を作り出したラスキンの悪名高い焼却事件は、しかし、近年の研究によると、起こっていなかったともいわれる。
(参考:"Bonfire of Turner's erotic vanities never took place" The Guardian、2004年12月29日)

ともかくも、これまで隠されてきた〈実像〉が、映画でどこまで明かされているのか。
気になるところではある。

美術関連の映画でいえば、もうひとつ気になるのが'Effie'。
ダコタ・ファニング主演のこの映画では、ラスキンとその妻エフィー、そして画家ミレイの三角関係が描かれる。


Emma Thompson as Lady Eastlake / Dakota Fanning as Effie Gray

エマ・トンプソンの脚本の著作権の問題でいろいろと揉めたこの映画の公開は遅れに遅れ、テレグラフの記事でも"long-delayed film"とあるが、一応、今年の10月に英国で上映予定となっている。
日本公開の報はいまのところないが、ぜひ観てみたい。

最後に、こちらも気になる映画。
ミッチ・カリンの小説A Slight Trick of the Mindを原作とした'Mr. Holmes'である。


Ian McKellen as Sherlock Holmes at the age of 93

隠居生活を送る93歳のシャーロック・ホームズを扱ったこの映画では、ホームズが終戦後の日本を訪れる場面も描かれているという。
昨今、「シャーロック・ブーム」の波が日本にも押し寄せていることと合わせて考えれば、'Mr. Holmes'が日本で公開される可能性は高いだろう。

'Mr. Turner'と'Effie'、そして'Mr. Holmes'。

高階秀爾 『ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か?-聖書の物語と美術』

2014-08-17 21:35:07 | 書籍(美術書)

ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か?-聖書の物語と美術
高階秀爾
小学館
2014

本書は今年はじめに刊行された『ミロのヴィーナスはなぜ傑作か?-ギリシャ・ローマの神話と美術』の姉妹編にあたる(同書のレビュー記事はこちら)。
ヘレニズム(ギリシア・ローマ)とヘブライズム(キリスト教)は西洋文明の基盤をなす二大源流にあたり、これら二冊ではそれぞれの一級河川から誕生した選りすぐりの絵画作品が紹介されている。

本書『ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か?-聖書の物語と美術』で扱われている主題は次の七つ(意図してかどうか、天地創造の日数)。

1 「天地創造」(ミケランジェロ)
2 「アダムとエヴァ」(マザッチョ)
3 「水浴のスザンナ」(ティントレット)
4 「バテシバの不倫」(レンブラント)
5 「『雅歌』とサロメの踊り」(モロー)
6 「受胎告知」(フラ・アンジェリコ)
7 「最後の晩餐」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)

名前を挙げた画家の作品以外にも、それぞれの主題に関わる名画を幅広く寄せ集めて配置しているあたりは、毎度のごとく見事である。

レンブラントの《バテシバの水浴》と古代ローマの石棺の浮彫(《花嫁の化粧》)との関連性はとくに興味深かった。

詳しくは本書70頁に書かれているが、レンブラントはたんに聖書のエピソードからのみ着想を得て絵画を描いたのではなく、古代ローマの石棺からも図像を「盗用」したことにより、作品解釈に奥行きを与えている。


Rembrandt 'Bathsheba at Her Bath' (1654)


(本書71頁)

ただ気になったのは、55-56頁で解説されている別のレンブラント絵画。
作品のキャプションおよび説明文には、絵画のタイトルが《ペルシャザルの祝宴》と表記されている。

しかし欽定英訳聖書(King James Bible)をみても新共同訳聖書をみても、作品の題材のもととなった「ダニエル書」には「ベルシャザル」(Belshazzar)とある。
おそらく誤植ではないかと思われるのだが、どうなのだろうか。


Rembrandt 'Belshazzar's Feast' (c.1635-38)

ともかくも、全体としては丁寧でやさしい解説書だったように思う。

"There's one thing," said I as we walked down to the station. "If the husband's name was James, and the other was Henry, what was this talk about David?"

"That one word, my dear Watson, should have told me the whole story had I been the ideal reasoner which you are so fond of depicting. It was evidently a term of reproach."

"Of reproach?''

"Yes; David strayed a little occasionally, you know, and on one occasion in the same direction as Sergeant James Barclay. You remember the small affair of Uriah and Bathsheba? My Biblical knowledge is a trifle rusty, I fear, but you will find the story in the first or second of Samuel."

---Conan Doyle, 'The Adventure of the Crooked Man'

ロイヤル・アカデミー展 華麗なる英国美術の殿堂

2014-08-16 23:56:06 | 美術展

ロイヤル・アカデミー展 華麗なる英国美術の殿堂
[英題:Genius and Ambition: The Royal Academy of Arts, London 1768-1918
石川県立美術館
2014年8月1日~31日
《巡回:東京富士美術館(2014年9月17日~11月24日)》

イギリスは長らくヨーロッパにおける「美術後進国」であった。
伝統的な肖像画の数々を措いては諸外国に誇れる美術品は決して多くなく(肖像画だけを集めた珍しい美術館「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」があるほど)、ルネサンスからバロック、ロココへと移行していった当時の大陸における美術のメインストリートからは取り残され、国内美術は一種のガラパゴス的様相を呈していた。

「後進国」としての危機感が日に日に募るイギリス。
ようやく美術アカデミーが誕生するのは1768年、イタリアに遅れること200年、フランスに遅れること100年のことであった。

創立当初のアカデミーはパル・マルに置かれていた。
しかし収蔵作品の増加とともに移転を余儀なくされ、1771年にはサマセット・ハウスに居を移し、1837年には当時トラファルガー広場に移されて間もなかったナショナル・ギャラリーに組み込まれる。
そして設立から100年後の1868年に現在のバーリントン・ハウスに移された。

時の国王ジョージ三世によって設立が認証されたこともあり、しばしば「王立美術院」と訳されるロイヤル・アカデミーであるが、運営はあくまで王室の財政支援からは独立した自治形態をとっている。

アカデミー設立の甲斐あって、18世紀後半から19世紀にかけては英国画家という緯糸が西洋美術史という経糸に織りあわされることが多くなってゆく。
ブレイクしかり、ターナーしかり、コンスタブルやゲインズバラしかり。
それまではヴァン・ダイクやホルバインなど、英国で活躍した画家といっても諸外国から招聘されたお抱え画家であった。

ほくそ笑む初代会長レノルズ
しかし行き過ぎた保守的傾向は、19世紀半ばにラファエル前派という反逆児を生む。

ロセッティ、ミレイ、ハントらの描き出した美の世界に耽溺する者は現在でも少なくなく、《オフィーリア》や《プロセルピナ》がもはや英国絵画一般のアイコン化している現状は、ロイヤル・アカデミー発展の歴史を考えると皮肉でもある。

ともかくも、英国美術界に限れば、ロイヤル・アカデミーが長らくメインストリームであったことは動かしようのない事実であり、現在もなおイギリス国内において影響力のある美術機関として機能していることは特筆すべきである。

そして、ロイヤル・アカデミーの設立から第一次大戦終結ごろまでの作品を結集させたのが、今回の展覧会「ロイヤル・アカデミー展 華麗なる英国美術の殿堂」である。
全体としては、質量ともにバランスのとれた内容だったように思う。

では、いくつかの出展作品をみていこう。


Charles Bestland [after Henry Singleton] 'The Royal Academicians in General Assembly' (1800)

会場内の説明にも図版にも、描かれている人物や作品群の詳細な解説はなされていなかったが、こちらのロイヤル・アカデミーのサイトでは多少詳しく解説されている。


Henry Singleton 'The Royal Academicians in General Assembly' (1795)

1番の人物がベンジャミン・ウェスト
レノルズに続くロイヤル・アカデミーの第二代会長である。

そして13番の《ラオコーン群像》を挟む形で対置されている《ベルヴェデーレのアポロン》(14番)と《ベルヴェデーレのトルソ》(12番)。
むろんどちらも複製だろうが、古典主義的な均整のとれた〈完全〉な美を体現する《ベルヴェデーレのアポロン》が、ロマン主義的な〈断片〉の意識を内に孕んだ《ベルヴェデーレのトルソ》と向かい合う配置は興味深い。


George Clausen 'View of a Lady in Pink standing in a Cornfield' (1881)

多分に印象派の影響を受けて描かれた一作。
モネの《印象-日の出》は1874年。
一方は〈夕方〉、他方は〈明け方〉の太陽がぽつんと描かれている。


Monet 'Impression, Sunrise' (1872)

クラウセンの女性像は、そうすると、のちにモネが描いた《日傘の女》と重なるようにも思える。


Monet 'Woman with a Parasol' (1886)

しかしこうした雑感はそれこそ「印象批評」であって、根拠もなければ話が広がっていきそうにもないのでこのあたりでやめにしておこう。

それよりも私が問題にしたいのは、この絵画のタイトルである。
展覧会場のキャプションには《とうもろこし畑に立つピンクのドレスの女》とあった。

たしかに原題には"Cornfield"とある。
しかしweblioの辞書にもあるように、イギリス英語で"cornfield"という場合には、たいてい「小麦畑」を指す。

絵をみても、「とうもろこし畑」というよりは「小麦畑」の方が自然なように思えるが、どうなのだろうか。


Thomas Stothard 'Reclining Female Nude with Red Backdrop' (c.1800)

この絵をみて真っ先に連想したのがベラスケスの名画《鏡のヴィーナス》。


Velazquez 'Rokeby Venus' (c.1647–51)

それこそベラスケスの裸婦を「鏡」で反転させると、ストザードの裸体像にかなり近づくように思われる。
背景の赤色がとくに直感に訴えかける。
(なお、このベラスケスの絵画は19世紀初頭に英国人が購入し、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されている。)

本展覧会の目玉のひとつミレイの《ベラスケスの想い出》もそうだが、18-19世紀のイギリスのアカデミーにおいては〈美の規範〉としてのベラスケスの影響力が少なくなかったように推察される。
それはフランスのアカデミーにおいても同じで、とくにマネはベラスケスからの影響が色濃い。


Millais 'A Souvenir of Velazquez' (1868)

では最後に、レノルズの絵画と引用をひとつ載せておこう。


Reynolds 'Theory' (1779-80)

"Nature is, and must be the fountain which alone is inexhaustible; and from which all excellencies must originally flow." (Discourse)


[追記]

ディプロマ・ワーク (Diploma Works):

Diploma Works are works of art presented by artists upon their election as Member of the Royal Academy. This significant collection of works dates from the 18th century to the present day and includes paintings by Fuseli, Turner, Constable, Raeburn, Millais, Sargent, Spencer and Hockney; sculptures by Flaxman, Gibson, Thorneycroft, Paolozzi, Frink and Flanagan; and architectural drawings by Soane, Barry, Scott, Waterhouse, Lutyens, Rogers and St. John Wilson. Highlights from the collection can be seen on free tours of the John Madejski Fine Rooms. (RA) [cf. Wikipedia "Reception piece"]

中野京子 『名画で読み解く ロマノフ家 12の物語』

2014-08-03 19:25:34 | 書籍(美術書)

名画で読み解く ロマノフ家 12の物語
中野京子
光文社
2014
[以下、括弧内の数字は本書のページ番号を指す]

ロシア絵画が西洋美術史の枠組みのなかで論じられることはきわめて限定的だ。

そもそも西洋史家のなかには「ロシアをヨーロッパとカウントしない」(225)者も少なくなく、加えて「文学も音楽も絵画も政治を主題とするロシア」(191)のお国柄を踏まえれば、伝統的な西洋美術と接続させて論じることが難しいというのも無理からぬことのように思う。

1054年に東西教会が分裂して以降、ギリシアやロシアら東方正教会(ギリシア正教会)の文化圏ではイコン画の伝統が着々と発展していった。
ギリシアで生まれたエル・グレコも若き日にイコン画を制作している。


エル・グレコ 《生神女就寝祭

こうして西方教会の文化圏とは趣を異にする文化遺産を積み上げていったロシアでは、結果的にその独自路線が裏目に出たとでもいおうか、先進的な西洋諸国の美術作品の完成度に大きく立ち遅れていることへの危機感がしだいに募りはじめる。

やがてこうした危機意識に促されたピョートル大帝は、西欧諸国の視察を行い、数多くの美術品を収集することに力を注いだ。
そして、のちの啓蒙専制君主エカチェリーナ二世は西洋名画の購入に資金をどんどんとつぎ込み、こうしてロシアの地に集められた傑作群の数々が、「今や世界三大美術館の一つに数えられる」(109)エルミタージュ美術館のコレクションの基礎を築くこととなる。


エリクセンエカチェリーナ二世


エルミタージュ美術館 (ロシア)

西洋美術史の文脈のなかで言及されるロシア関連の事項となると、こんなところだろうか。

ピョートル大帝やエカチェリーナ二世がとりわけ危機感を抱いていた「文化的後進国」ロシアの現状は、19世紀に急転する。
まさに、「まるで長い眠りからふいに目覚めたように、凍土を押し上げて芸術がいっせいに花開く」(161)のがこの時代。

文学でいえばツルゲーネフやドストエフスキー、トルストイ、音楽ではチャイコフスキー、そして絵画では「ロシア屈指の画家」(156)レーピンが活躍し、こうした〈巨大河川〉が一気に「ヨーロッパへ逆流しだす」(161)。

このような文化的発展の背後に存在したロマノフ王朝の陰惨な歴史を紐解いていくのが、本書『名画で読み解く ロマノフ家 12の物語』である。

怖い絵」シリーズで有名な著者の中野京子氏は、もともと美術畑の人というよりは、ドイツ文学や西洋史を専門とされている方である。
このブログでも何度か中野氏の著作を取り上げてきたが、やはり歴史に関する確かな知識と理解に裏づけられた名画の解説は唸らされるものがある。

中野氏の視点と語り口は、本書においても名画とその背後の歴史の「怖さ」を増幅させる。

ロシアと絵画。
これまでスポットライトがあてられることは決して多くなかったが、掘り下げてみるとなかなか興味深い。
中野氏自身もブログでこう述べている。

「ロシア絵画はあまり知られていませんが、それは長いソ連時代があったせいです。レーピンをはじめ、すばらしい画家が実はたくさんいるんですよ。これを機会に興味をもってもらえますよう!」

最後に、レーピンの名画を三点載せておこう。


イワン雷帝と息子イワン


皇女ソフィア


ヴォルガの舟曳き

ロマノフ王朝。
その恐ろしさ。

"There is a mystery about this which stimulates the imagination; where there is no imagination there is no horror."
---Sherlock Holmes (Conan Doyle, A Study in Scarlet, Ch.5)