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西洋美術関連ブログ 思索の断片
―Thoughts, Chiefly Vague

イタリア ミラノ 美をめぐるものがたり ~麗しの邸宅美術館×ルネサンスの“横顔美人”~

2014-04-27 19:29:49 | 番組(その他)

2014年4月18日放送
イタリア ミラノ 美をめぐるものがたり
~麗しの邸宅美術館×ルネサンスの“横顔美人”~
(TBS)
(出演者) 展覧会ナビゲーター:大島優子、旅人:田辺誠一

現在、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館―華麗なる貴族コレクション」展が開かれている。
「世界一美しい邸宅美術館」と呼ばれるポルディ・ペッツォーリ美術館のコレクションのうちの約80点が、日本で初めて公開される。

本展覧会の目玉は、同美術館のシンボルともいえるピエロ・デル・ポッライウォーロの《貴婦人の肖像》。


同画家による肖像画のひとつは、以前(2004年)に開催された「フィレンツェ―芸術都市の誕生」展で公開された。


いずれの絵をみてもわかるように、もともと個人の肖像画は横顔で描かれるのが普通だった。
その起源を辿れば、おそらく古代ローマのコインに刻まれた人物画に行き着くのだろう。


また、シルエットの根本的な考え方にも通ずると思われる。


"profile"には「横顔」の意味もあるが、横顔にこそ、その人の人となりが表れるという考え方であろうか。
テルマエ・ロマエでいうところの「平たい顔族」たる我々日本人にはそもそも向かない描き方だと指摘する人もいる。

そして、肖像画の描き方に明らかな変化が起こったのが、(盛期)ルネサンスの時代。
「4分の3正面」(three-quarter)という用語もあるが、その典型が《モナ・リザ》だろう。

詳しくはこちらのWikipediaページや今回の番組「イタリア ミラノ 美をめぐるものがたり ~麗しの邸宅美術館×ルネサンスの“横顔美人”~」のなかでも解説されている。

番組のなかでは、ポルディ・ペッツォーリの邸宅美術館だけでなく、現在のミラノにみられる様々な「美」の有り様も取り上げられていた。
突っ込んだ内容ではないが、イントロダクションとしては十分だろう。

会期の長い美術展ではないので、近いうちに行こうと思う。


ピエロ・デラ・フランチェスカ 《ウルビーノ公夫妻の肖像》 (1472-74年頃、ウフィツィ美術館)

ビートたけしの超訳ルーヴル (II)

2014-03-19 21:27:40 | 番組(その他)

2014年3月18日放送
開局60年特別番組(日本テレビ)
ビートたけしの超訳ルーヴル

――――――――

[続き]

昨日の記事に引き続き、日本テレビのルーヴル美術館特集について。
今回はビートたけし氏以外の出演者三名(大泉洋、井上真央、池上彰各氏)の担当された内容をまとめておきたい。

●大泉洋氏

取り上げられていたのは主に次の四点。

1. 《モナ・リザ》の購入録

もともとは王宮であったルーヴルが美術館として開館したのは1793年のこと。
しばらくの後、ナポレオンの命により、収蔵されている美術品がルーヴルへともたらされた経緯がまとめられた。

レオナルドをフランスに招いたのは時の王フランソワ一世
記録帳には《モナ・リザ》の購入者が彼であること、またそのときの購入金額などが書かれていた。

もっとも、番組内でも言われていたように、この購入録がつけられたのは《モナ・リザ》がフランスに渡ってきてから300年近くたっており、ゆえに金額の正確さについては鵜呑みできない。

2. 《死者の書》

2012年に森アーツセンターギャラリーで「大英博物館―古代エジプト展」が開かれた[下図参照]。
この展覧会の目玉が、《死者の書》であった。


古代エジプトの来世観が記されている《死者の書》。
死者と一緒に埋葬されたこの文書が書き上げられるまでには、非常に多くの労力と費用が要された。

3. 〈額縁〉コレクション

様々な専門家が働くルーヴル美術館。
〈額縁〉のエキスパートも存在する。

ルーヴルに限ったことではないのだろうが、美術館に持ち込まれる作品のなかには、異なる時代の額縁がつけられていることも少なくないという。
そこで、作品の描かれた時代に合った額縁を選び、カンヴァスを縁どるのが、〈額縁〉のエキスパートの仕事である。

番組内で扱われていたのは次の作品。
ゴシック期の画家チマブーエの《六人の天使に囲まれた荘厳な聖母》である[下図参照]。
専門家曰く、この絵が「額縁の歴史の始まり」であるという。


ちなみに、日本語で読める〈額縁〉に関する書籍には、たとえば以下の二点がある。

  
(画像をクリックするとそれぞれアマゾンへ)

4. 〈隠し扉〉

舞踏会で楽器を演奏する音楽家たちのための通路が紹介されていた。

華々しい回廊とは打って変わって地味な通り道。
まさに、〈ルーヴルの裏側〉である。

●井上真央氏

布施英利
氏とともに、作品に描かれている〈料理〉や〈動物〉などのモチーフに着目していくという内容。
彫刻をはじめとした立体作品も扱われていたが、ここでは絵画作品に絞ってまとめておく。

〈料理〉に関わる作品としては、ヴェロネーゼの《カナの婚礼》やローの《狩場の休息》が挙げられていた[下図参照]。
布施氏曰く、《カナの婚礼》に描かれている料理が意外にも質素なのは、「もともと修道院に飾る絵画だったため、贅沢は控えようという意図」とのこと。


(左:《カナの婚礼》/右:《狩場の休息》[画像はブリストル美術館(イギリス)に所蔵されている模写])

また〈動物〉関連の絵画としてはボワイの《ガブリエル・アルノーの肖像画》が紹介されていた[下図参照]。
当時、〈ネコ〉は貴族のステータスシンボルであった。


●池上彰氏

池上氏が紹介したのは二つの〈新たなルーヴル〉であった。

フランス北部の都市ランス
2012年、この地に開館したのが、ルーヴル美術館の分館にあたるルーヴル・ランスである。

設計したのは二人の日本人、妹島和世西沢立衛である。
SANAAというユニットを組む二人が建てたこの分館は、作品をジャンルごとにではなく時系列で並べて展示しているところにその特色がある。

〈時のギャラリー〉と呼ばれる、壁のない展示空間。
訪れた人たちは、芸術作品が時代ごとに移りゆくさまをまざまざと実感する。

ルーヴル・ランスという〈第二のルーヴル〉に引き続き、〈第三のルーヴル〉も建設中である。
場所はアブダビ(アラブ首長国連邦)、その名もルーヴル・アブダビである。

開館予定は2015年12月。
パリのルーヴルの直轄ではなく、あくまで〈ライセンス契約〉、つまりは名前貸しだ。
200~300点の美術品を10年ほどの周期で、ルーヴル美術館のみならず、オルセー美術館ポンピドゥー・センターからも借りることになるという。

この〈第三のルーヴル〉は、なんと海上に建設されるという。
景観はともかく、湿気の問題は大丈夫なのかという点が気になる。

―――――

まとめとしてはこんなところである。

《サモトラケのニケ》の修復や〈第三のルーヴル〉など、今後のルーヴル美術館の展開が非常に気になる。


ビートたけしの超訳ルーヴル (I)

2014-03-18 23:49:33 | 番組(その他)

2014年3月18日放送
開局60年特別番組(日本テレビ)
ビートたけしの超訳ルーヴル

日本テレビで放送されたルーヴル美術館特集。
昨年の特別番組第一弾に引き続き、今回はその第二弾となる。

出演者はビートたけし氏をはじめとして、池上彰、井上真央、大泉洋の各氏を合わせて四名。
それぞれ順に内容を振り返っていこう。

まずはビートたけし氏。

日本人の好きな〈ルーヴル作品〉について、日本テレビは街頭調査を行った。
その結果、上位10作品に選ばれたものについて、たけし氏がコメントを加えていくという内容。

最初にその10作品をすべて挙げておこう。





7 ラファエロ 《聖母子と幼き洗礼者聖ヨハネ
8 フェルメール 《レースを編む女
9 アングル 《グランド・オダリスク
10 レオナルド 《岩窟の聖母


(以下、各作品に対する個人的な感想。「」内はたけし氏の言葉)

1(モナ・リザ)...文句のないところだろう。
「美術界のお伊勢参り」という表現、言い得て妙ではないかと思う。

2(ミロのヴィーナス)...「省略の美」、「日本でいえば、すごい盆栽」。
断片の美学である。

3(民衆を導く自由の女神)...「絵じゃなきゃできない」、「写真では同じ構図にならない」。
写真技術の発達を受け、ドラローシュが1839年に「今日を限りに絵画は死んだ」と宣言した(フランク・ウイン 『フェルメールになれなかった男』 40頁)ように、実際にドラクロワ自身も写真技術のことが念頭にあったとしてもおかしくない。

写真の発明は、多くの画家たちにとって脅威であったと同時に、〈絵画にしかない表現可能性〉について考えをめぐらすきっかけともなった。

4(ナポレオン1世と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠式)...「宣伝写真」。
ナポレオンがいわゆる〈自己アピール能力〉に長けていたことの証左であると同時に、ダヴィッドという画家の追従的な態度も目に浮かぶ。

5(ハンムラビ法典)...この10作品のなかではやや異色。
目には目を。

6(サモトラケのニケ)...現在は修復中。
再び展示されるのは今年の夏ごろになるかということだ。

7(聖母子と幼き洗礼者聖ヨハネ)...「わかりやすい」「家族愛、母性愛」「よくあたるホームドラマ」。
〈聖母子の画家〉の面目躍如といった作品である。

8(レースを編む女)...〈この娘の持つ、目に見えない針を中心に、宇宙全体が回っていることを私は知っている〉とダリが絶賛した絵画(→参考、[何かの本のなかで言及されていたように思うが、出典が思い出せない・・・])。

9(グランド・オダリスク)...長い。

10(岩窟の聖母)...こちらがナショナル・ギャラリー(ロンドン)版の《岩窟の聖母》。
たけし氏の言うように、画家が〈本当に〉描きたかったのはルーヴル版の方なのだろう。

たけし氏は、聖母マリアの顔に画家本人の「弱ったな~・・・」という思いをみてとっていた。
面白い。


(左:ルーヴル版/右:ロンドン版)

――――

参考までに、たけし氏の美術書で大英博物館を扱ったものもある(『たけしの大英博物館見聞録』)。
氏独特のユーモアにあふれた一冊になっている。

長くなったので、たけし氏以外の三名の放送分に関してはまた改めて書くことにしよう。

超訳。

幻惑のフェルメール・ミステリー ~光を操る画家の真実~

2013-12-31 19:56:40 | 番組(その他)

http://www.bs-asahi.co.jp/binomeikyu/back_033.html

2013年12月31日(再)放送
世界の名画 ~美の迷宮への旅~ (BS朝日)
2時間スペシャル 幻惑のフェルメール・ミステリー ~光を操る画家の真実~

大晦日。
BS朝日で再放送されたフェルメールの特集をみる。

2時間のなかで、画家の足跡を多面的に捉えるという試み。

「光」をひとつのキーワードにして、レオナルドやカラバッジョ、ラ・トゥール、ベラスケス、レンブラントとの比較を行う。
そのなかで明らかとなったフェルメールの「光」の特質を、カメラ・オブスクーラとの関わりから探ってゆく。

昨日、岩井希久子氏による書籍を当ブログで紹介させていただいた。
同著のなかで岩井氏は何度かフェルメールに言及している。

一番印象的だったのは、中野京子氏もブログに綴っておられる、《真珠の耳飾りの少女》の唇の修復について。
(http://blog.goo.ne.jp/hanatumi2006/e/108c5016d49d951fb712d3ab029c6a18)

岩井氏曰く、この修復には違和感を覚える。
フェルメールの色遣いの本質は、例えばカラバッジョのような明暗くっきりのキアロスクーロにあるのではなく、むしろ、黄昏時のような、ぼやけた味わいにこそある。

一番わかりやすいのは《デルフト眺望》だろう。
しかしその他のフェルメール作品においても、同様のことがいえる。

フェルメールは「光」を表現するにあたり、白い「点」を用いた。
番組内で語られていたことによると、これはフェルメールの特質といってよい。

「光」を白い「点」として描く手法の由来をたどれば、彼が使用した先述のカメラ・オブスクーラに行き着く。

ピントのぼけた画像をみると、その「光」は、あたかも白い「点」のようにみえる。
この観察を、フェルメールは絵画に活かした。

先日このブログで紹介したフェルメールの「抽象絵画」的特質についてもそうだが、この画家は、図らずして時代を先取りしているところが少なからずある。
(http://blog.goo.ne.jp/efwhiu53/e/35f34e1e32dc46f6bf7caa83eceedd1b)

またこの番組で興味深かったのは、フェルメール絵画の歴史とは切っても切り離せない、盗難の数々である。
一番興味をそそられのは、ハン・ファン・メーヘレンという「贋作」画家の話である。

彼を扱った書籍があるということなので、ぜひ読んでみたい。
(→『私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件』)

あと、あくまで個人的な印象だが、どことなく、レオナルドとフェルメールには似通っているところがあるように感じた。
スフマートのレオナルドと、「ピンボケ」のフェルメール。

奇しくも《真珠の耳飾りの少女》は「北方のモナ・リザ」とも呼ばれる。

また二人とも寡作の画家だ。
二人は、どこまで画業を「本業」と捉えていたかという意識においても、ひょっとしたら似通っているのかもしれない。