京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

2023年3月 京都童心の会 通信句会結果選評

2023-03-28 09:36:01 | 俳句
2023年3月 京都童心の会 通信句会結果
【選評】
○中野硯石特選
65 一年生ランドセル人生の始まり 蔭山辰子
 今の世の中、真にその通り。ランドセルは高学年になっても背負われている。形態に多少の変化があってもリュックサックを含めて大学生も大人も背負っている。
 込み合う電車の中で、背負うリュックに顔あてられたことはしばしば。せめて朝夕の通勤ラッシュ位は降りて欲しい気もする。
○金澤ひろあき選
特選 天 13 百年後はいない海の声を聴く 野谷真治
 この句を読んで、三月十一日以後の海のことを思いました。大震災の後、嘘のように静かになった海を。
 私にとっても、故郷は海に近く、癒しを与えてくれる存在でもあり、同時に恐ろしい存在でもありました。海を見て詩人になる人もいます。この句の作者のように、自分の存在の短かさを思う人もいます。その折々、海から何を聴くのでしょうか。
地 23 浅い夢手元に残るオルゴール 青島巡紅
 夢とオルゴールが響きあい、新たな別の世界を創り出しています。言葉の組み合わせで、新たな別の世界が現れる。短い詩の魅力です。
人 31 梅の真見立てる師匠の背筋かな 三村須美子
 技量、見る目を持つ人の独特の雰囲気。深み、高みを感じさせてくれます。その気を描き切っています。
 他、印象に残る句です。
7 北北東は映画南南西は恵方巻 中野硯池
「北北東に進路を取れ」という古い名画があります。主演はゲーリークーパー。その引っかけで節分を詠む、楽しいですね。
16 手に石にぎり 池に ぽちゃん 水花火 ほうらいえりこ
 池に石を投げている一人遊びの雰囲気があります。結句「水花火」という捉え方が鮮やかです。
42 ネコ達よ障子破りし外眺め 野原加代子
 いたずらっ子の猫達の、のどかな表情が思い浮かびます。同時に、この猫達を見ている人の表情も思い浮かびます。怒ってないところがいいですね。
67 春の日差し地球全体をつつんでと 蔭山辰子
「地球全体」がいいですね。本当にコロナも戦争も地球から無くなって、春の明るい日差しに包まれて欲しいです。 
○野原加代子特選
26 樹々の間に見え隠れする春の雪 青島巡紅
 ガラス越しに外を見ることが習慣になると、もう少しで春が来そうだと思ったりします。そんな時にある日ちらほら雪が降っているのが見えました。春がそこまで来ているのにと思ったことがあります。この情景いいですね。
○蔭山辰子特選
22 啓蟄や人の出も増え繁華街 青島巡紅
 3年もマスクにとじ込められた日々でしたが、ここへ来て、ようやくコロナも下火になった様です。人も虫も木々の芽も待ちにまった季節。普通の季節が来てくれますように。
○三村須美子特選
49 丸くなる平和な猫の日が良かろ 金澤ひろあき
 先の見えないウクライナ侵攻、その他の紛争など世界の政治の状況は国々に多かれ少なかれ影響をおよぼしている。和平について人はけんけんがくがく、猫はあっけらかん。我構わずと穏やかな顔して体を丸め、昼寝する猫のように出来たらいいなあ。「猫の日が良かろ」と人間の性と猫の性の違いを軽やかに句にしているところが面白いと思いました。猫の日は2月22日だそうです。
○青島巡紅選
特選
55 何かを求め待っている鼓動やまない 金澤ひろあき
 興福寺の修羅像を想起した。合掌する本の手前の瞬間を表す一組の腕と正面の顔。過去の悪行を振り返る左右の顔。過去の所業を悔いて愚かだったくの字に上げる上段の腕2本、中段のこれから何かを受け止めようと動かす腕、そして合掌の手前の腕に続く。一連の腕の所作は仏教に帰依する感情の推移を表している。これまでの自分になかったものに気付き受け入れる直前の色んな感情が渦巻いているが、一条の光の下に総合される刹那、正にこの句の通りだろう。或いは若い男女がお互いを一つにする直前の感情の揺らぎに呼応する心臓の描写かもしれない。以前と以後では相互への視線や世界観は大きく変わる。次の世界への期待感が現実のものとなる瞬間が絶頂で、またなだらかになっていく。
並選
2 二階より桶に竿差す寒造り    中野硯池
 冬季に作る酒は美味しい。その酒を作る人たちの臨場感が良い。彼らに感謝したくなる。酒が飲みたくなる。そんな句です。
4 ウクライナの和平を祈り寒卵   中野硯池
 冬季は産卵数が少なくその分滋養があり日持ちも良い。平和の象徴に「寒卵」が使われているところが良い。大声になっておらず、日常の何気ない品なところがまた良い。日本では平和は当たり前だが、彼の地ではそうではない。再び平和を取り戻すには厳しい月日を乗り越えなければならない、そんな状況も伝えている。
5 藁草履すり切れている寒念仏   中野硯池
 冬の最中に念仏を唱え家々に報謝を請い歩く藁草履の僧侶。「すり切れている」ものを履く僧侶。修行に対する情熱と真摯な姿が目に浮かぶ。立ち止まって布施をしたくなる。
13 百年後はいない海の声を聴く  野谷真治
 臨海工業地帯の近隣のまだ砂浜と自然が残っている場所で体感している全てが時が来れば無くなることは確定だろうと諦観しているところに無情を感じる。人間の都合だけで埋められコンクリートで固められ工場或いはビル或いは湾岸施設が造られる。そこにいた筈の生き物たちの生息地を無断で蹂躙し破壊の限りを尽くし占有するのは人間のエゴというか傲慢でしかない。そんなことを警告しているような句である。
16 手に石にぎり 池に ぽちゃん 水花火 ほうらいえりこ
 区切り四つが四コマ漫画のように読める。「水花火」が、落下した水面に広がる波紋や水飛沫の様を巧く言い表している。カヤツリグサ科の一年草の名前でもあるけれど。
31 梅の真見立てる師匠の背筋かな 三村須美子
 師匠の動へ移る前の静を描いている句。ピンと伸びた背筋、肩にも力みもなく、飄々と佇んでいるようで、武士ではないが、同じような境地で生と死の間を見据えている。どう切りどう活けるかで見栄え良くも悪くもなる。その見極めは長年の修練と経験に裏打ちされた技で、その花或いは枝の姿をいかに理想の姿にし、留めおくのである。現実はイデアの投影である、という言葉があるが、言わば、その逆をするのである。
34 折り紙の雛を飾りて客を待つ   三村須美子
 「折り紙の雛を飾りて」とあることから外国からの旅行者を受け入れる宿泊施設だと思われる。作者のおもてなしの心がうかがえる。
37 盆梅展切り絵兎の飛び跳ねて   三村須美子
 今年の干支の切り絵が盆梅を引き立てている様子が窺えます。
42 ネコ達よ障子破りし外眺め    野原加代子
 元気な猫たちの悪戯も猫好きな人には無条件ではなくとも愛らしく見えるのでしょう。廊下の向こうのガラス越しにじっと何かを見ている猫たちの様子が可愛いという気持ちがまさって。
48 ある気配 すでに戦前来ている  金澤ひろあき
 表向き平和に見える国内ですが、何処に戦争に突き進もうとする影もしくは芽があるか分かりません。しっかり目を見張り聞き耳を立てていないと時代が変わってそちらの方向に向かい出すとも限らない。そんな空気があると啓発するのは勇気のいることです。「Gate自衛隊彼の地で斯く戦えり」というラノベ、アニメは、まるで自衛隊を一般大衆(特に若い人たち)に喧伝するような作品でした。「ある気配」は見え隠れしていると言えるのです。
50 問一を解く頃梅が散り初める 金澤ひろあき
 「問一を」という上句が良い働きをしている。何かの試験のそれとも取れるし、所属する場所から去ることをそう捉えているのかもしれない。読み手の判断に任されている。後者と解釈しても、それは問一でしかない。続く問二問三を解いていかないといけない。梅が散れば桜が咲くのを待っている。
53 愛描く映画の果てて冴え返る 金澤ひろあき
 コロナ禍が大いく取り上げられた頃、映画「復活の日」を久しぶりに見た。映画の前半は細菌兵器として開発されたウイルスが南極以外の場所で暮らす人類を滅亡させる展開で、コロナの感染能力や治療法のなさに共通項があり、ゾッとした。後半では超大国が相互に核ミサイルを撃ち合い国家すら消滅する。ミサイル発射阻止に向かった一人の男が合衆国から南を目指し南アメリカ大陸を横断し、やがて南極から生き延びた人々と合流して、南極で心を通わせた女性と再会し二人の愛を確かめて合うというところで終演となる。二人に、いや、彼らに未来があるとしても、何処にも約束の地はない。僕にとっては季節的にも映画の内容にしても「冴え返る」だった。
60 日の丸を背負ったサムライ応援 蔭山辰子
 野球でもサッカーでも外国勢と試合は、応援にも不思議に力が入りますね。普段意識しませんが、日本の一人なんだと自覚させられますね。
66 たいせつに生きようみんな米寿(88)までも 蔭山辰子
「たいせつに」という言葉が切ない。本当、無病息災でその年まで生きられたらいいのですが、色んなことが起こり、肉体的精神的にも難しいものですが、それでも、自分も生きられた、だから頑張って下さいというエールを送っている句。読んで有難いと思った人には御利益があるかもしれません。
67 春の日差し地球全体をつつんでと 蔭山辰子
 地球は地軸が23.4度傾いているから無理と言ったら野暮だろう。これは地球に住む人間の思いというか願いではないだとうか。貧富の格差、戦争と平和、平等と不平等、他にもあるだろうが、これら冬のイメージ、言い換えれば負のイメージの脅威がなくなって欲しい、雪が溶けて温かな世界の幕が開いて欲しいという大きなメッセージ含んだ句である。
○野谷真治特選
50 問一を解く頃梅が散り初める 金澤ひろあき
「問一」としたところに、発見があると思う。梅が散る頃との組合わせも良いと感じた。
○白松いちろう
特選
65 一年生ランドセル人生の始まり 蔭山辰子
 春と言えば新一年生、桜と共に人生の始まりのランドセル姿が初々しい。
並選
48 ある気配 すでに戦前来ているか 金澤ひろあき
 中国とロシアのトップが会談する同じ頃に、日本の首相がウクライナ、ゼレンスキー大統領と直接会うチャンスが到来した。今、地球の何処かで「戦」が始まっている。世界戦争に傾かないことを切に祈る。

【お知らせ】
 第五回山頭火ふるさと館自由律俳句大会(山口県防府市)にて
風の中の忘れ物そっと教える風鈴 金澤ひろあき
佳作入賞しました。
※会員の皆様も近況等お知らせ下さい。ご紹介します。

4月句会は、16日(日)午後2時 
場所は阪急長岡天神駅東口 喫茶アーバンにて
句作品を第2日曜日までにお送りいただけると嬉しいです。
投句のみの方は84円切手2枚同封下さい。

【フリー句】
フリー句(自由連句)「夜明け前」の巻
夜明け前缶珈琲飲む冴返る    青島巡紅
始発電車を待って春曙      金澤ひろあき
仲春の乙女ら駆ける河川敷    巡紅
憧れのひとに視線が集まって   ひろあき
樹々の間に見え隠れする春の虹  巡紅
遠足の先頭歓声上げている    ひろあき
班ごとにカレーを作る春暑し   巡紅
鼻唄に調子合わせて鍋踊る    ひろあき
春二度目まだ回す気かルーレット 巡紅
運試し宝くじでも買っておく   ひろあき
別れ霜追う足音もない夜明け   巡紅
何かを求め待っている鼓動やまない ひろあき 
群青の刹那の直線雉駆ける    巡紅
悲話遺す滋賀の古城の花吹雪   ひろあき
京の春何処から来てもおこしやす 巡紅
いないいないばあの街だったコロナ期間 ひろあき
あるがまま生き死ねば良い酒の席 巡紅
言葉不要の気の合う友と     ひろあき
固形燃料で湯を沸かす和みとも気長とも 巡紅
*料亭で使われる小さいサイズのもの
早起きの反動休日朝寝して    ひろあき
数年ぶりの一人家の長風呂    巡紅
返事の代わりこだまが返る    ひろあき

※私の異動で、月末締め切りを早くしてしまいました。その後、評を頂きましたら、追加で公表します。私の都合で、すみません。




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