京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
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よく出るシリーズ  『伊勢物語』筒井筒 その2 (改訂)

2023-02-03 08:03:33 | 俳句
よく出るシリーズ  『伊勢物語』筒井筒 その2 (改訂)
 さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、たよりなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内の国、高安の郡に、行き通ふ所いできにけり。さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
  風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
と詠みけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。

【口語訳】
 さて、長年たつうちに、女は、親が亡くなり、頼りに出来るものがなくなるうちに、(男は)「この女と一緒にふがいない状態でおれようか、いや、いやだ。」と思って、河内の国(今の大阪の東半分の場所)高安の郡に、行って通う所(新たな恋人)ができてしまった。そうではあるけれど、このもとの女は、いやだと思う様子もなくて、(男を高安に)送り出したので、男は、(この女に)浮気心があってこのようであるのだろうかと思い疑って、庭の植木の中に隠れて座って、河内へ行くような顔をして見ると、この女は、とても良く化粧して、もの思いに沈んで、
  風が吹くと沖に白い波がたつというその「たつ」の音から連想される竜田山をこんな真夜中にあなたがたった一人で越えて行っているのだろうか。(心配だわ)
と詠んだのを(男が)聞いて、限りなくいとしいと思って、河内の女の所へは行かないようになってしまった。

【語句の意味】
・年ごろ 「長年」
・ほど 「うち」「時」
・頼り 「頼りにできるもの」
・ままに 「うちに」 
この時代、結婚後は男が女の家に通う、あるいは同居して生活した。これを「招婿婚(しょうせいこん)」と呼ぶ。家計は女性側が負担したそうだ。だから、女性の側が、経済的に頼れるものがなくなったら大変。困窮に陥る。男はこの後、高安に新たな恋人ををつくるが、その原因は「経済的困窮」だった。
・もろともに 「一緒に」
「もろともに~やは」までが、男の心の中の声。
・いふかひなく 「ふがいない」「つまらない」 経済的に困窮したので、こういう言葉が出てくるようになった。
・あらむやは 「あら」ラ変動詞「あり」未然形 
「む」 推量助動詞「む」
「やは」反語係り助詞
・とて 「といって」「と思って」 この語があるので、男の心の中だとわかる。
・河内の国、高安の郡  今の大阪府八尾市あたりだという。新しい女は河内(大阪)。幼なじみの女性と住んでいる男は大和(奈良)にいるという設定。
・通ふ 「(男が恋人のところへ)通う」
・出で来(いでき) 「出現する」ってな感じかな。
・さりけれど 「そうではあるけれど」 
・悪し (あし)  「いやだ」
・思へる 四段動詞「思ふ」已然形+完了助動詞「り」連体形 「思っている」
完了助動詞「り」は、接続が サ変動詞未然形か四段動詞已然形
「り(完了の「り」)かちゃん さみ(サ変未然)しい(四段已然)」と覚えよう。
・けしき 「様子」
・出だしやり 「送り出す」
・異心 「ことごころ」と読む。「浮気心」 男は自分の事は棚に上げ・・ですが、こういう思いを抱くと言うことは、女に対する情は消えてないことも伝わる。
・かかる 「このような」 具体的に言うと、男が高安に新しい恋人ができたのに、いやだと思う様子もなく、男を送り出したこと。
・にやあらむ 「であるのだろうか」
 「に」下に「あら(ラ変動詞未然形)があることから、断定助動詞「なり」の連用形
 「や」疑問の意味の係り助詞
 「む」推量助動詞「む」の連体形 結びになっている 
・前裁 「せんざい」と読む。「庭の植木」。これがあるということは、女の家は中流以上であったことがうかがわれるそうだ。つまり、幼なじみの二人は、庶民ではなかったということらしい。
・ゐ 上一段動詞「ゐる」連用形 座っている
・うちながめ 「もの思いに沈んで」 美しく化粧をしているのに、もの思いに沈んだ表情をしているのはなぜか。この後の和歌で、その理由が明らかになる。
・風吹けば~の和歌の修辞(表現テクニック)
序詞 「風吹けば沖つ白波」が「たつ」の序詞
 序詞はあだ名みたいに、特定の語の前につくことば。6文字以上の長いものが序詞。5字以内の短いものが枕詞。
掛詞 「たつ」が「立つ」と「竜田山」の「竜」の意味を持つ掛詞
 掛詞は一つの語で二つの意味を持つことば。
「竜田山」は、河内と大和の境にそびえる山。男は大和に居て、竜田山を越えて高安の女の所へ通っているわけ。
・夜半 「やは」と読む。「真夜中」。
・や 疑問の意味を持つ係り助詞
 この女の和歌は、男が他の女の所へ行っているにもかかわらず、男を心配している。ということは、女の化粧は「この男への愛情表現」なわけ。
・らむ 現在推量助動詞「らむ」の連体形 結びになっている。
・かなし いとしい  漢字をあてると「愛し」ですかね。


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